王女エルザ
辺りには血と獣の臭いが充満していた。
「王女様!お逃げをこの数は流石に対処しきれません。」
「ならん!この近くの村がどれだけ被害を被ったかお前もしっておろう。王家のものとしてここを引くわけはいかない。」
それ以上はなにもいってこなかった。一度言い出したら聞かないことを普段から知っているからかもしれない。
輝くような金髪と魔法オーラを発している鎧に返り血をつけながら前方に集中する。
こちらを睨むように前屈みで助走をつけようとしていた大型猪に対抗して強化魔法を複数起動させながら剣を構え直した。
エルザは人間としては常人離れした筋力を持つがそれでもモンスターとは基本スペックが違うのだ。
大型猪などはかなり強い部類に入り圧倒的な突進力と生半可な剣では弾き返してしまう毛皮となかなか尽きない生命力をもっており、肉は喰わないが、畑を襲うことがありその過程で家ごと潰されることさえあるが本来こんな町に近い道にいるモンスターではなくもっと北方の山地にいるはずだ。
さらに数が尋常ではない、普通あまり群れで行動しないジャイアントボアだったがそれが今回は30を軽く越している。
「くっ、騎士団がいれば。見習いと演習中にこんな大群と出会うとは。」
10匹前後ならエルゼの勝利は確実だろう。
20匹以上でも勝てるだろう。
しかしこの数は絶望的だ。広範囲に攻撃できる魔法詠唱者ならともかくエルザが持つ武技では精々射程は3メートルだ。
突進してきたジャイアントボアをかわしながら一閃、しかしさらに別のジャイアントボアが突進してくる。
「迅雷加速!」
武技の発動とともに加速しもう一匹を切りながら体勢を立て直す。
「風刄」
風のオーラによる射程延長をしてからバックステップをして距離をとる。
想像以上に消耗が激しい、見習いを守りながらなので複数の武技を発動させながら戦っているからか。
「キース、左の方を頼む。ファルナ、お前は負傷したものの回復を!」
「了解しました。」
唯一騎士団員である二人に命令しながら打開策を考える。
あと20数匹、たいしてこちらは呼吸も荒く、かなりきつい。勝率は五分五分といったところか、王家の鎧やマジックアイテムをつけてこなかったのが痛い。
その時、群れの中から一際大きい体の猪が出てきた。
「あれは大型猪王!?」
体は対して変わらないが白い毛並みをもち、片目に傷が入っている。さらに魔法のオーラが滲み出しており、強さはジャイアントボアの比ではない。
魔法耐性も体力も筋力も段違いに強い、正直今の体力ではその一匹だけでも勝てるか不安だ。
「それでもいくしかない。」
猛然とダッシュしてくるジャイアントボアロードに対して剣をふるが疲弊して握力が弱くなっているせいか弾かれてしまう。
「!!」
反転して戻ってきた猪の影がエルザの顔にかかった。
「なるほどー斬りたい物だけ狙って斬るときはこうするのか!」
「そうそう、そうすればいいのよ。射程は見えてるところならどこでもいけるからね。」
具体的な言葉無しで会話が進んでいるがそこは本人の感覚でしかわからない感覚なので許してほしい。
「斬りたい物に意識を向けて体中の力を集約する感じで降りきる。結構なれてきたなー」
刀を弄びながら見ているとかなり遠くに銀色の凄い大きい物が疾走しているのがみえた。
今は視力も恐しいほど上がっているがそれでようやく見える位なのでエルザを発見していなかった。
「なんだあれ、猪?」
「多分そうだと思うわ。」
あんな大きいのは始めてみたが
「ちょうどいいや、あれかなり大きいから遠距離からでも狙いやすい。『次元斬』」
ゆっくり降り被ってから斬るとまた空間がずれるような現象が起きた。
「おー当たった。そう言えばこっちの世界の猪ってうまいのかな?一度調理してみるか。」
かなり遠そうなので少しスピードをだして走りながら翔太は猪を回収しに向かった。