死の図書館
「おめでとー」
派手なクラッカーの音と緩急のない平坦な口調で翔太はゆっくりと目を開けた。
かなり広い空間のようだ。見上げるほど高い天井まで届く本棚が見えなくなりそうなほど続いていた。
異様なのは本棚に納められている本は厚さは色々だが全て黒く、読めない銀色の文字でタイトルが書かれている点だ。
「あなたは今回転生する人間に選ばれましたー」
転生?ファンタジー小説か?
思わずつっこみそうになってしまう。
「ここ、どこなんだ?」
「ここは図書館だよ。様々な世界の人間の一生を記録するね。」
銀色の髪の少女は悠然と歩みを進めていくと本棚の空いてあった最後のスペースに本をさしこんだ。
「貴方は死んでしまったの。親子を守ってね。」
その言葉の瞬間死の直前の記憶がよみがえってきた。
激しい痛みと真っ赤に染まる視界、あれが夢ではないとするとここがあの世なのか。
「普通はここには来ずに『最期の審判』にかけられるはずだけど貴方は転生することになったの。」
やっぱり異世界転生の定番のやつだろうか?
「さっきもそういってたけど、それってやっぱり親子を守ったから?」
少女は始めてこちらをまともに見た気がする。けど視線はこちらをバカにしているように見えた。
少しため息をつく。
「勘違いしないでね。あなたはちょうどこの本棚の最後の本だったから記念に転生するだけよ。」
なんかツンデレ臭い台詞だが言葉が悲しいほど無感情である。
と言うかこの手のファンタジー小説だったら命を助けたから転生がよくあるパターンなんだけど違うのかよ。
「では」
といって少女が指を鳴らすとダーツと円盤が出現した。
「これで転生先と特典を決めてね。」
ダーツをこちらに手渡してきたので受け取ったが思わず聞いてしまう。
「そんな重要なことこれで決めるのか?」
「何いってるの?これで決めるから面白いんでしょ。」
また小バカにされた。
さっきからずっとこの空気に流されている気がする。
「ルーレットスタート」
高速で円盤が回転し始めた。
思わずダーツを握る手が汗ばんでしまう。
やっぱり自分の好きなことといったら料理だ。
料理ができる環境があるところを当てなくては!
「何してるの?おそーい10.9.8.7.・・・・」
「時間制限あるのかよ!もうどうにでもなれ!」
翔太がなげたダーツはかなり細いところに当たったらしい。
字は読めないが
「結構運がいいわね。エテール界で特典はLv99か。」
Lv99ってなんだよ。ゲームのLvか?
「まーいいわそろそろ転生させちゃうから。」
「適当だな。おい!」
質問には答えずずっとマイペースだ。
「まー向こうでわからないことがあったらこれを見なさい」
少女はそういって「ステータス」と唱えた。
すると目の前に半透明の画面のようなものが出てきた。
「貴方もやってみなさい。」
「俺魔法使えないんだけど。」
「いーから」
しぶしぶ「ステータス」と唱えると半透明の画面が出てくる。
わぁー、こんな簡単に魔法使えちゃっていいのか
「そこに『ヘルプ』を追加しておいたわ。ふふっ感謝して崇め奉ってもいいのよ。」
そんな台詞まで棒読みか。
「じゃあそろそろ転送するわよ。」
少女がもう一度指を鳴らすと巨大な魔法陣のようなものが現れた。
「あーそうそう、とても大事なこといってなかったわ」
「どうした?」
「私の名前はアズリエル、覚えておいて損は無いわね。」
とても大事なことってそれかよ!
という暇もなく意識が途切れた。