料理
「翔太君、先に失礼するね。」
「お疲れ様です。」
主任が厨房から立ち去るのを見てから冷蔵庫を開ける。
微かな冷気が漏れだし、中からの光が暗い室内にある疲れた顔の翔太を写し出した。
翔太は明日使う食材を確認しながらも小さくため息をついた。
「やっぱ違うんだよな。」
小さい頃から料理が好きで、必死に料理の腕を磨いて有名料理店に就職したのだが、
「もっと自由に美味しい料理を作りたいんだよなぁ。こんなことなら最初から店を出しとけばよかったか。」
しかしそんなに現実は甘くない。
客の望むものをいかに美しく、速く、美味しく低コストで作るかというのが料理人の仕事だ。
試行錯誤なんてしている暇はないし自作の料理なんてそうそう店で出してもらえる物ではない。
やはりこういう店で下積みを重ねて個人の店を開くというのが一番いいのだろうか。
なんて考えているうちに確認が終わった。
「まぁ、うだうだ言ってても仕方がないか。
早く帰ろう。」
なんだか最近独り言が増えた気がする翔太だった。
外はもうかなり暗く見飽きたネオンがちかちかと瞬いていた。
クーラーの聞いた室内からでるとむしむしした暑さを感じた。
「もう七月か・・・・」
去年の七月はこんなに暑くなかったような気がする。
やはり地球温暖化が急速に進んでいるのか?
高校を卒業したのがついこの前のように感じる。
「まぁまだ二年もたってないか。」
と苦笑するが、たった二年で有名料理店に就職できたのが翔太の料理の才能を物語っているのだが本人はあまり自覚がない。
交差点に差し掛かると遅い時間にも関わらず小さな女の子を連れた母親が前を歩いていた。
「みーちゃん。もう遅いんだから早く帰らないと、」
「うん!」
なんかほほえましいな。なんて思ってしまう。俺も早くか帰・・・
そう思った瞬間に猛スピードで突っ込んでくる大型トラックが見えた。どうみても交差点で止まれるとは思えない。
とっさの判断で前にいた母親と女の子を突き飛ばすとバスはもう目の前にきていた。
ヤバイ!急がないといけ
ガラスの割れる音と湿った肉の音と共に翔太の意識は途切れた。
昨夜、××区の交差点で工藤翔太さん19才がバスで跳ねられる事故が起こりました。被害者は即死、犯人は伊藤真三34才で検査の結果薬物を使用していたことが発覚しました。