ラスト悪ガキ 爆破の章
今を去ること数十年前、仲間内では禁断の遊びが流行していました。
その遊びと言うのが「爆竹遊び」
どんな遊びかと言うと20連発の爆竹をバラバラにほぐし、様々な物に仕込んで点火させ爆発させる。
――危険きわまり無い、禁じられた遊びです。
地面に仕込んで爆破は序の口、蛙の口に突っ込んで「メガンテ」と言って点火したり、果ては犬の糞にまで突っ込んで爆破したりします。
偶に導火線が一気に燃える物が混じっているとまさに運のツキ、ISも真っ青な自爆テロになりますが……。
さすがの中国製品です。
そんな危険な遊びの中でも特に人気が高かった爆破標的がくみ取り式便器の便槽でした。
人気の秘密は爆破したときの音、『ボボボ~~ン』と腹に響くような重低音を響かせます。
地上や空中での軽快な『パーン』と言う音や、水中での屁のような『ぽふん……』と言う間抜けな音とは比べ物になりません。
――その素晴らしい音色のためには、爆竹20連発を費やしても惜しくない。
そんな思いで、小遣いを叩いて買った爆竹を惜しげもなく1束便所に飲み込ませた物です。
さて、同じボットンとは言え様々なタイプがあるのがこの便器。
当然ながら形も違えば爆破音も違ってきます。
自分たちは最上の音色を求め、町内にあるトイレというトイレに爆竹を様々な方法で投入し実験を重ねること多数。
そして我々はある一つの答えに辿り付いたのでした。
――「コンクリート制の便槽でくみ取り口から爆竹を投下するのが最上だ」と。
増えつつあったプラスチック性の物は響きすぎて音に品が無くてダメ。
物には限度と言うものがあるのです。
尚、野壷は響かないので論外。
消去法の結果コンクリート製の物が重低音で響き余韻と共に申し分なし、爆破音では便槽界のスタンウェイと言うことになりました。
そこで、爆破対象は町内でも数少ない代物に決定。
私たち3人が町内を探し回り、標的を見つけるや否や蓋を開け便槽を爆破して音色を楽しんでいました。 そんなのを暫く繰り返して居ると、ある時悲劇が起きたのです。
なんと、事もあろうか同じ家をターゲットにすると言う致命的なミスを犯していたのです。
数が少ないのを探して爆破して行けば何れは重なる物ですが、警戒されている所に警戒せずにのこのこ行くのは正に自爆行為に他なりません。
しかもこんな時には不運も続くものです。
便槽の蓋を開け投入時いやな視線を感じ、「ん?」と、ふと視線を上げると……。
な、何とそこには何とクソババアの顔が!!
「げっ ヤバい!」
「待ちんさい! あんたどこの子ねぇ!!」
ババアの声を合図にマッハの速度で一目散ににげる自分たち。
悪鬼の形相で逃げる犯人を追いかける家主。
捕まればタダで済むはずはありません、この世の生き地獄と呼ばれた学校の相談室送りで親が呼ばれる事は確実。
――此れだけは避けねば……。
その一念で死ぬ気でにげる。
まさに必死とはこの事です、陸上のメダリスト真っ青な速度で全力疾走。
――もっとも蜂の巣叩きで鍛えた脚力はババア相手ならマズ追いつかれる事は無いのですが、どんな相手にも全力を尽くすのが我がポリシー。
何せ学校の標語が全力だったから……。
ドノくらい逃げたでしょうか?
近くの公園まで来る頃にはババアも追ってきません、友人らと共に逃げきったようでした。
全速力で逃げてからからの喉を公園の蛇口で潤し、まず一服。
タダの水とは言え甘露の味わいです。
そして友人等とベンチに座ると、どちらからともなく話し出しました。
「くろねこ、さっきのヤバくね?」
「あれなら平気っしょ?」
友人の問いに平然と答える自分。
「何故に?」
「『あんたどこの子ねぇ!!』って言ってたから、向こうが自分らの事を把握して無いって事でしょ?」
「判れば名前言うよな……」
「うちからが遠征して来るとはババアも計算外じゃない。 どうせこの辺りの悪ガキだとバアアは思ってるんじゃ?」
CIAのような分析結果を話すと安堵する友人二人。
さすが修羅場をくぐった数が違うので悪知恵だけは働きます。
見られても追及を振りきり、逃げきれた事に安堵する自分たち。
「クロネコ、このままズラかるのか?」
「う~ん」
しかし標的を爆破せずにこのまま逃走とは情けない話です。
――これでは悪ガキのプライドがずたずたです。
このままでは腹の虫が治まらぬ。
さて、ど~したものか…。
その時、友人がとんでもない報復作戦を思いたのです。
それは友人のとある一言がきっかけでした。
「あそこの蓋珍しい形だったよな」
そうです、通常は円形であるくみ取り口の蓋がその家はトイレを自作したのでしょう、蓋は木製で長方形をしていたのでした。
「ふつう丸だけど、四角って滅多にみないよねぇ」
自分が何気なく返事を返すと友人が
「どうして丸なんだ?」
「丸だと、どうやっても蓋が穴に落ちないからじゃない? 前に先生がホザいてた」
自分の答えに友人二人は沈黙。
そして目が怪しく輝きます。
良く見ると悪友の口角が邪悪に歪んでいました。
「じゃ あそこのは落ちるのか?」
「たぶん落ちる筈だけど落とすの?」
「落とそう」
三人から是以外の返事は出る筈も無く作戦決定です。
蓋がなくなれば、悪臭は漂うわ、通りすがりに爆竹を投入することも可能となります。
報復としては一石二鳥の素晴らしい作戦です。
「じゃ、明日の帰り道やるか?」
「賛成~!」
「おう」
その日は明日に期待して其のまま帰宅。
かくして翌日の放課後、賽は投げられたのでした。
”
次の日の放課後、平日の昼下がり。
大人達は仕事タイムですが子供達は自由時間。
塾に行かないガキ達には金と品格は無いけど、時間だけは存分にありました。
自分たち3人は前回の教訓を踏まえて、辺りを伺いつつターゲットに接近。
そして家から電柱一本分の距離から標的の確認…。
脳内にミッションインポ〇シブルの音楽が流れます、気分は工作員。
――辺りに敵なし。
目撃者もなし。
……家に気配なし…。
(ニヤリっ)
今回はババアはいませんでした。
しかし念には念を入れるのが悪ガキ達です。
慎重に標的に近寄ると慎重にくみ取り口の蓋を外しました。
湧き上がる悪臭を我慢し――そして、蓋には入水自殺していただきます。
……成る程。
長方形の蓋は斜めにしたら簡単に穴の中に吸い込まれてゆきました。
『四角形の物は穴に落ちる』まさに授業で聞いたとおりの結果です。
なるほど……と、感心する3人。
そして次の瞬間『ぼっとん……』と言う鈍い音と共に木製の蓋が内容物に突き刺さります。
蓋の見事な投身自殺(他殺?)姿に否応無く高まる3人のテンション。
……だが家主が気づく様子はまだありません。
静かなままです。
此処までは作戦通りの大成功でした……――もう一人の友人の声を聞くまでは。
「じゃ~ 逃げるか」
その声にもう一人の親友の方を向くと嬉々とした笑顔を浮かべたその手には凶悪な物が…。
なんと彼の手には爆竹、しかも20連。
さらにはターボライターに点火して落とす気満々です。
「阿呆!!」
「ちょいまって!」
自分と親友の声むなしく、点火され投入される爆発物。
こうなれば、後はやることは決まっています。
…36計逃げるにしかず……。
風のようにジョジョ走りで逃走する3人組。
そして暫く後に鳴り響く『どどどどどど~~~ん!!』と言う勝利の号砲(20連発で)
言うまでも無く、後はどうなったか恐ろしくてみる余裕もありません。
生きた心地もせずに振り返らずただ全力で路地を走り抜けます。
そして近くの公園まで逃げきった後、3人顔を見合わせてほっと一息。
「お前なぁ、ヤるときはちゃんと言えよ」
親友がいきなり爆竹を落としたことにボヤいていると
「わりぃ。 でも言うと辞めろというだろ? だからこっそり落とした」
反省もせず平然と言い放つもう一人の友人。
爆竹を落とす時点でこっそりじゃ無いでしょうに…。
この男には反省の2文字はないのです。
「しね!」「こっそりじゃない」
その直後、爆竹を投入したA級戦犯は親友と私の手で鉄拳制裁されたことは言うまでもありません。
そして数日後あった全校朝礼の際に『蓋を落とすいたずらをする……』と言う話が出たのも言わずともですが……。
”
それから数日後ターゲットに行くと真新しい蓋がくみ取り口に閉めてありました。
『落として下さい』と言わないばかりの四角形のままでした、対策を取らないと同じ結果が待ち受けているのは言わずともなのですが。
そうなれば、当然自分達は好意に甘えて再投入。
――先生の話を聞かないから悪ガキなのです。
そして数日後。
懲りずにまた向かうと、今度は真新しい蓋がビニールひも付きで落ちないように固定してありました。
対策を取るとは敵もさるものです。
だが甘い!
対策ならコチラも負けては居ません。
手持ちのカッターを袋から取り出し紐をごりごり切断すると、哀れ蓋には入水して頂きました。
今回もコチラの作戦勝ちです。
この勝利に酔いしれ爆竹を落とすのも忘れる自分達。
こうなれば蓋を落とすのが目的となっています。
――本来は爆竹を落とすのが目的の筈でしたが、これでは本末転倒です。
しかし問題はありません、自分らにとって重要なのは面白ければそれで良いのです。
そしてまた数日後。
またしても意気揚々と蓋を落とすため現地へ向かうと…。
今度は蓋が……――ありませんでした!!
くみ取り口がフルオープンで新聞紙すらかけてありません。
漆黒の口を開け、我々をせせら笑うくみ取り穴。
家主も涅槃の境地に達したのでしょう、くみ取り口がフルオープン。
新聞紙すらかけてありません。
……負けた。
無い蓋は落とせない……。
これには気落ちする悪ガキ三人組。
今回ばかりは家主の作戦勝ちです。
(無い蓋を落とせるものなら落としてみろや、クソがきども!! ハッハッハッ!!)
何処からともなくババアの高笑いが聞こえてくるようでした。
蓋が無い事で悪臭が広がり、便座から寒風が吹きあげる事を耐え忍んでまで自分たちに勝負を挑んだババアの執念を前に自分たちは完敗です。
諦めた帰り際。
捨てぜりふならぬ捨て爆竹を投入するも、投入した爆竹も空しく響くだけでした。
家主の完全勝利となったのです。
我々はこのまま引き下がった?
い~や、悪ガキどもは簡単には引き下がりません。
――だってそんな弱いメンタルじゃクソみたいな環境で生きて行けませんから。
ドブネズミの様な生き様の悪ガキ達、執念深さもまたドブネズミ並なのです。
我々は時期を待ちました。
かくして暫く経ったある日チャンスは訪れたのです。
何かの機会にターゲットの家の付近をたまたま通りがかるとトイレが水洗に変わり地中に浄化槽がつくってあったのです。
ぶくぶくと音を立てて忙しく稼働するコンプレッサー(空気を送る機械)この装置を見た時社会見学の内容が鮮やかによみがえったのです。
浄化槽は微生物が汚水に空気を送り込み発酵させて綺麗にするから、下水処理工場と仕組みはほぼ一緒であると……。
――つまり、空気が送り込まれないなら機械は動かない筈。
……閃いちゃった♪
ニヤリっ。 自分の口角が邪悪に歪むのが判ります。
(コンプレッサーのコンセントを抜くだけで報復攻撃は完了するねぇ……しかも静かだし)
そんな事を考えるや否や次の瞬間には実行に移してました。
コンセントを抜くとたちまち沈黙する機械。
しかし、大きな変化は無し。
そりゃそうです、効果が出るのは暫く経ってから。
一週間くらい後からジワリとボディーブローのように効いて来る予定なのです。
汚水が浄化せずに汚水が其のまま流れ下水に出すようになる計画、名付けて『悪臭大作戦』
そして、その日はそそくさと退散です。
数週間たった後日、標的に近寄ると思った通りの結果となって居ました。
――浄化しない汚水垂れ流し、臭いにおいがマンホール辺りに漂って居ました。
社会で習った通りの結果です。
我が計画に狂い無し♪ (ニヤリっ!)
こうしてキッチリ報復が終わった我々は意気揚々と引き揚げるのでした。
そして、その後は二度と近寄りませんでした……だって臭いんだもの。
何も無いのに臭い場所に行くバカは居ません。
家主には悪夢も同然の体験ですが、子供たちにとっては学校で学んだ知識を応用し実生活に生かす良いチャンスであったのだと思います。
座学で学ぶ知識と実生活が実は繋がってこそ本当の意味で覚えたと言えるのですから。