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護衛の終わり

 トレントと遭遇してから2日後。

 今日はいよいよクェレスに到着する予定だ。

 魔導都市とか言われているし、どんなところなのか楽しみだな。


「大倉さん! 見えてきましたよ!」


「おっ、どれどれ……おぉ!」


 しばらくいつも通りシスハの後ろで揺られていると、急に声を上げた。

 それにつられて彼女の横から顔を出し前を見る。


 そこには白い大きな壁が広がっていた。

 さらにその奥には、壁よりも大きな塔がいくつも建っており、赤や青にいたる所がチカチカと点滅している。


「とても立派な造りですね」


「流石は魔導都市ってことか。中に入るのが楽しみだな」


 パッと外から見ただけでも王都と大差なく、かなり発展しているように感じる。

 やはり魔法の本場だけあって、色々と街の中で魔導具を使ったりしているのかな?


 それからすぐに魔導都市クェレスの入り口へと到着した。

 門の見張りの人にエゴンさんが話をして、すんなりと中へ入れた。

 

 クェレスの町並みは、王都とあまり変わらない。

 街の奥の方を見ると、シュティングの王城程じゃないけどかなり大きな建物もある。

 白い大理石のような物で造られていて、随分と綺麗な建物だ。


 町を歩く人は普通の格好の人も多いけど、ちらほらとローブを羽織った人もいた。

 あれがこの世界の魔導師か?

 俺達の方をチラッと見て前を向き直した後、もう1度こっちを見て驚いた顔をしている。

 そこまで注目されるようなことはないはずだが……。

 

 ある程度門から離れた後、馬車を止めてアーデルベルさんが出てきた。

 それに合わせて俺達も止まり馬から降りる。

 どうやらここで護衛は終わりみたいだな。


「ありがとう、君達のお陰で無事クェレスまで来ることができたよ」


「いえいえ、私達も依頼をちゃんとこなせて安心いたしました」


 狼やトレントと遭遇したけど、アーデルベルさん達を無傷でクェレスに送り届けられた。

 まあ俺達が相手してピンチになるような魔物と外で遭遇したら、もう護衛どころか大討伐並だと思う。

 護衛対象を無傷で守り通せるかが問題だったけど、やり過ぎて驚かせた以外は問題なかったな。

 今回はアンネリーちゃんが喜んでいたから平気だったみたいだが、また護衛依頼を受けることがあったらそこは注意しないと。


 馬車から降りてきたアーデルベルさんは、俺達にお礼を言った後、依頼達成の証明書を渡してくれた。

 これで完全に、今回の依頼は終了だ。


「最近は馬車が魔物に襲われる被害が多いと聞いていてね。いつもはCランクの方々に依頼していたんだが、今回はBランクを指名させてもらったんだ。君達が来てくれて本当に助かったよ」


 うーん、王都に行く時に俺達もミノタウロスに襲われたけど、あれからさらに増えているってことなのか?

 クリストフさんも言っていたし、今回はトレントまで実際に居ない場所で道を塞いでいた。

 危険が増しているとなると、依頼する側としてはより高ランクの冒険者に依頼をしたくなるよな。


「君達はこの後はすぐ、シュティングへ戻ってしまうのかい?」


「はい、そのつもりです」


「そうか……できれば帰りもお願いしたかったのだが、それじゃあ仕方ない」


 帰りも俺達に依頼をしたい、か。

 それは光栄な話だけど、この後すぐに俺達は帰るつもりだ。

 と言っても、ビーコンを配置してあるからいつでも来られるんだけどね。


「帰りがどのぐらいになるか教えていただけたら、それに合わせてクェレスに来て護衛をいたしますよ?」


「おぉ、それは助かる。でも、いつ帰るかまだ正確に決めていなくてね」


「そうですか……それじゃあ、もし私達がここの冒険者協会で依頼を見つけたら、優先してお引き受けいたしますね」


「気を使わせてすまないね」


 毎日来られるかわからないけど、可能な限りここの冒険者協会で依頼の確認をしておこう。

 頼られるというのは悪い気はしないし、アンネリーちゃんとエステルを会わせてあげたいからな。


「エステル!」


「きゃっ! ど、どうしたのアンネリー?」


 そんなこと思っていたら、馬車から今度はアンネリーちゃんが飛び出してきて、エステルに抱き付いた。

 急に抱き付かれたエステルは短く声を上げて驚いている。

 だけど顔が少し緩んでいて、まんざらでもなさそうな表情だ

 昨日もアンネリーちゃんとエステルは楽しそうに会話していたし、もうすっかり仲良しだな。


「私達のこと、護衛してくれてありがとう!」


「えっ、ええ……依頼だもの、当然よ」


「馬車の移動はいつも退屈だったけど、今回はすっごい楽しかった! これもエステルのお陰だよ!」


「そ、そう?」


「うん!」


 グイグイと抱き付いたままエステルに迫るアンネリーちゃん。

 いつも俺に同じように迫ってくるエステルだが、自分がされると恥ずかしいのか、頬を赤くして顔を背けている。


「あ、ごめん……迷惑だった?」


「いえ、別にそんな訳じゃ……」


 ちょっと困っているように見えるその様子に、アンネリーちゃんは離れて眉を寄せながら、不安そうに聞いた。

 アンネリーちゃんから解放されたエステルは、少し残念そうな表情をしている。

 それからお互い黙り込んでしばらく見つめ合っていたが、アンネリーちゃんから沈黙を破った。


「……あのね、エステル。もしよかったら、シュティングに戻ったら私の家に遊びに来ない?」


「えっ?」


「私ね、またエステルの魔法が見てみたいし、おしゃべりもしたいなぁ」


「えっと……」


 急なお誘いに、エステルは気の抜けた声を出した。

 ソワソワと体を動かし、左右をキョロキョロと見て挙動不審にしている。

 そして俺の方を見て、どうしたらいいのかと目で訴えかけてきた。

 

 俺は肯定も否定もせず、ただ見つめ返す。

 どうしたいのか、それはエステル自身で決めるべきだ。

 まあ、もう答えは決まっているだろうけど。

 

「駄目、かな?」


「……いいわよ。私も、アンネリーとおしゃべりするのは楽しかったもの」


「やったー! エステル大好き!」


「んっ……ちょ、ちょっと、苦しいわ……」


 エステルが息を呑み、意を決したようにしてから口を開いた。

 それを聞いたアンネリーちゃんは、またエステルに抱き付いて大はしゃぎしている。


「うふふー、エステルって可愛いね」


「同じぐらいの子にそう言われると、なんだか恥ずかしいわ……」


 エステルはアンネリーちゃんに、抱き付かれながら頭を撫でられている。

 いつもの俺達に対する余裕ある態度が全くなく、赤面しながらされるがままだ。

 こんな彼女は本当に見たことがない。

 うーむ、実に可愛らしいな。いつも俺に迫ってくるエステルと別人のようだぞ。


「よかったら、アンネリーも私の家に来る? フォルトゥーナラビットがいるわよ」


「えっ、フォ、フォルトゥーナラビットが!?」


 フォルトゥーナラビットが家にいると聞いたアンネリーちゃんは、目を輝かせたように食いついてきた。

 金持ちの娘さんなのにここまで驚くなんて、そんなに珍しいのかモフットは。

 いつも家の中で跳ねていたり、ノールが抱き抱えているからもう珍しいって気がしない。


「行く行く! 絶対に行くよ!」


「むふふ、モフットは可愛いでありますからな。期待してくれていいのでありますよ!」


「それでしたらル――んごっ!? ふごごぉ!」


「はいー、ちょっとシスハは黙ってような」


 モフットの話題が出てきた途端、ノールが少し自慢気にしている。

 それに次いでル、と言い掛けたシスハの口を俺は手で塞いだ。

 今ルーナって口走ろうとしやがっただろ? そういうところで競うんじゃない!

 このままだと暴走しそうだったから、そのまま口を塞いでシスハを大人しくさせておく。


「あっ……そろそろ行かないと。シュティングに戻ったら、冒険者協会に頼んで連絡するね。それじゃあエステル、またね! 大倉さん達も、今回はありがとうございました!」


 流石に別れの挨拶が長引き過ぎたと感じたのか、アンネリーちゃんはエステルから離れた。

 そしてエステルに両手で握手をした後、俺達にもお礼を言い頭を下げてから馬車へと乗り込んだ。

 アーデルベルさんも俺達に頭を下げて一礼した後、同じように馬車へと乗り込む。

 

 馬車が出発して俺達から離れていくが、後ろの窓からアンネリーちゃんがこっちに向かって手を振っている。

 エステルはそれに小さく片手で振り返して、馬車が完全に見えなくなるまでずっと手を振り続けた。


「行っちゃったな……」


「ええ、そうね……」


 見えなくなりエステルが手を下ろした後、俺はなんとなく呟いた。

 エステルは短く答え、馬車の向かった方を見て立ち尽くしている。

 やはりアンネリーちゃんとの別れが名残惜しいのか。


「良かったな、仲良くなれて」


「……うん」


 なんとなくそのままにしておけなくて、俺がさらに声を掛けると、エステルは少し間を空けた後頷いた。

 いつもの大人びた雰囲気じゃなくて、少女らしい感じだ。

 やっぱりエステルもまだ少女ということか。今回のことは、彼女の良い経験になったはずだ。

 今後もアンネリーちゃんと仲良くして、少女らしい楽しみ方もしてほしいところだな。


「お、大倉殿!? シスハが気を失いかけてるでありますよ!」


「えっ、やべっ!? だ、大丈夫か!」


「ゲホッ、ゲホッ……ヒュー、ヒュー……ど、どうして私がこんな目に……」


 エステルのことに夢中になって、シスハの口をずっと手で塞いでいたことを忘れていた。

 鼻も塞がっていたのか、ぐったりして両手をブラブラと下げ、今にも意識が飛びそうだ。

 慌てて手を放すと、シスハはそのままズルズルと尻から崩れ落ちて、俺に寄り掛かり咳き込んで苦しそうにしている。


「……アンネリー、また会いましょうね」


 俺とノールがダウンしたシスハを介抱していると、ふとそんなエステルの呟きが聞こえた。

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