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怪しい木

 アンネリーちゃんと打ち解けてから翌日。

 俺達は大きく切り開かれた山道を走っていた。

 今回の護衛で1番心配なのはここだと言うので、走る速度を落とし馬車との距離を縮めている。


「あと2日もあれば到着するだろうし、今回は大きな問題もなく終わりそうだな」


「初日にも言いましたけど、そういうこと言うと何か起きて……あら? あれはなんでしょうか?」


「ん?」


 シスハが前を指差したので、俺も横から顔を出して前を見てみる。

 するとそこには、この林道の半分以上を塞ぐ木が生えていた。

 高さは5m以上ありそうでかなり高い。


 ……何これ? なんで道のど真ん中に突然木が生えているんだ。

 まるで周囲の木をそのまま持ってきて、植え直したみたいに見えるぞ。


 先を進んでいたノール達が木から少し離れた位置で止まり、馬車も停止した。

 俺達も同じように止まって、馬車に合流する。


「道が塞がれているのでありますよ? どういうことでありますか?」


「とても不自然な木ね。道の真ん中に堂々とあるなんて……」


 俺達だけなら木の脇を通れるけど、このままじゃ馬車が通れない。

 それにこの木、あまりにも怪し過ぎる。


 もしかして魔物なんじゃないかと地図アプリを確認してみたが、何の反応もない。

 まさか、わざわざ道の真ん中に木を植える人がいるとは思えないし……。

 それとも魔物が馬車止める為に植えたとか……どっちにしてもなんていう嫌がらせだ。


 どうしたものかと困ったように、エゴンさんも顔をしかめている。

 ただの木なら、エステルに魔法で退かしてもらえばいい。

 だけどその前に、念の為エゴンさんに確認を取ることにしよう。

 勝手にやって面倒なことになっても困るし。


「エゴンさん、何か心当たりとかってありますか?」


「うーん……今まで何度もこの道は通っているけど、こんなこと初めてだ。思い当たるようなことは……いや、待てよ」


 下を向いて顎に手を添えながら少し考え込んだ後、エゴンさんは顔をハッと上げた。

 

「クェレス周辺の森には、木のような魔物がいるという話を聞いたことがある」


「ということは……あの不自然に道を塞いでいる木が、その魔物なんでしょうか?」


「恐らく……でもここはまだクェレスからだいぶ離れているはずなのに、どうしてこんな所で……」


 やっぱりあの木は魔物だったみたいだ。

 まさかスマホの地図アプリに表示されない魔物がいるなんて……何で表示されないんだろう?

 固有能力かスキルが原因だとは思うけど……あまり地図アプリを過信し過ぎてもいけないみたいだな。


 それとこの魔物は、この周辺にはまだ現れるような魔物ではないらしい。

 これも今までの異変と同じように、本来いる場所から外れて出現した奴なのだろうか。

 とりあえず、まずはこの木をどうするか決めないとな。


「このままでは通れませんが、どういたしましょうか?」


「うーん……少し待ってくれ。旦那様と話し合ってから決めたい」


 エゴンさんはアーデルベルさんの乗る馬車へと歩いていく。

 そして扉を開けて少し会話をした後、戻ってきた。


「すまないけど、できるのなら倒してもらいたい」


「わかりました」


 アーデルベルさんは、俺達なら大丈夫だと判断してくれたのかな?

 この短い護衛依頼の間に、少しは信頼してもらえているみたいだ。

 よし、ここは気合を入れて、安全かつ迅速に倒してしまおう。


「木の魔物はCランクから上の冒険者が戦う魔物だと聞いている。それと魔法による攻撃は効果が薄いらしい。君達なら問題はないと思うけど、注意してくれ」


「わかりました。ありがとうございます」


 魔法の効果が薄いか……そうなるとエステルの魔法で一気に片付けるってことはできそうにないな。

 というかエステルに任せたら、この森一帯が火の海になりそうだし今回は馬車の守りをしてもらおう……。


「さて、ということであの魔物を倒すことになったのだが」


「どのぐらい強い魔物なのでありますかね? 大倉殿、確認できないのでありますか?」


「ああ、今試してみる」


 馬車を例の木から遠ざけて、どう戦うか話し合おうとした。

 するとノールが、まずはステータスを確認したらどうだと言う。

 確かにそうだなと思い、スマホで木をカメラに収めてみた。

 しかしステータスアプリは全く反応しない。


「駄目だ。地図アプリにも表示されていないから、もしかしたらと思っていたんだけどな……」


「お兄さんのスマホでも確認できない魔物なんているのね」


 どうやらあの木の魔物は、本当にただの木のような状態みたいだ。

 うーむ、戦う前にステータスとかを確認しておきたいのになぁ。

 まあエゴンさんがCランクの魔物だって言うし、魔法が効きにくいこともわかっているから大丈夫か。


「それでどうしますか? 倒すと言っても、護衛を疎かにする訳にはいきませんよ」


「そうだな……」


 情報を踏まえて、誰があの魔物を倒しに行くのか決めることにした。

 勿論馬車の護衛を誰もしないなんてことはできないから、1人は絶対に残らないといけない。


 そうなるとさっき考えた通りエステルがまず候補に挙がるな。

 でもエステルだけだとちょっと不安だな……シスハも護衛に回ってもらうか。

 この森はそこまで強い魔物が元々いる場所じゃないらしいから、シスハだけでも十分守れるはずだ。

 そこにエステルも居れば、迷宮にいるような魔物じゃない限りは馬車に危害を加えられないだろう。


 ノールは力こそパワーであります! とか言うぐらい攻撃力が高いから、早く倒すなら適任だ。

 ルーナさえ居たら遠距離から槍投げしまくって、すぐ倒せそうなのに……今頃何しているんだろ。

 普通に寝てそうだけど、ちょっと心配だな。


「よし、今回はノールと俺でパパッと片付けちまおう」


「むっ、久々に大倉殿と2人で戦うのでありますか!」


 ノールと俺でいこうと言うと、ノールはガッツポーズをしてやる気満々といった様子。

 その一方で、エステルは俺の言葉を聞いた途端に頬を膨らませて、ちょっと不満そうにしている、

 いやー、そんな反応されても困るぞ。


「そう機嫌悪くするなって。エステルはアンネリーちゃんの所に居てやってくれよ」


「……わかったわ。魔法に耐性があるみたいだし、私が行くよりノールの方がいいものね。でもお兄さん、Cランクの魔物だからって油断しちゃ駄目よ?」


「ああ、わかってるよ。ありがとうな」


 エステルは頬を膨らませるのを止めて、今度は眉を寄せて心配そうな表情で俺を見つめてきた。

 そうだな……Cランク魔物だからって甘くみたら駄目だよな。


「私、今回は何にも活躍させてもらえないんですね。馬に乗っていただけですよ、神官なのに」


「普段から神官らしいことしていないだろうが……」


 シスハはシスハで残念そうに肩を落としていた。

 いつも神官らしからぬことばかりしているのに、何を今更言っているんだ。

 魔物をめちゃくちゃぶん殴ってる、神官なのに、って言っても通用しちまうぞ。


 とりあえず話もまとまり、エステル達を残して俺とノールは木の魔物へと向かった。


「それで、どうしようか?」


「そうでありますね……。いきなり近づくのは危険でありますから、まずは様子見がしたいでありますね」


「なら俺のセンチターブラで軽く攻撃してみるか?」


「……大丈夫なのでありますか?」


「ふふ、安心しろ。特訓の成果、見せてやる!」


 攻撃するには近づくしかないが、どう動いてくるのかもわからない。

 ということで、さっそく俺のセンチターブラの出番が来たという訳だ!

 

 肩の水晶からぷるんぷるんの丸い銀の塊を排出させて、宙に浮かばせる。


「行け、センチターブラッ!」


「おぉ!」


 ビシッと指を木に向かって突き出すと同時に、浮いていたセンチターブラが前へと前進する。

 それを見てノールが期待したような声を出した、と思ったのだが……。


「……おぉ? なんというか……微妙な速さでありますね」


「ま、まだだ! センチターブラの本領はここからだ!」


 最初は大きかった声が、だんだんと小さくなり、最後には首を傾げていた。

 走るような速さで飛ぶようになったとはいえ、ノールの走る速さに比べたら圧倒的に遅い。

 だが、これで終わりではない。俺の特訓の成果はこんなもんじゃあないぞ!


 俺が気合を入れて念じると、丸かった銀の塊が徐々に先細く尖った棘のような形へと変化する。

 ふふふ、これがセンチターブラの攻撃形態!

 剣とかそういうちょっと細かいのはまだ無理です。

 

 棘へと変化した塊が、そのままの勢いでコツンと音を立てて木へと突き刺さった。

 その直後、木が左右に揺れ始め、枝が鞭のようにしなりながら銀の棘を叩き落とす。

 枝に叩かれたセンチターブラは、バラバラに砕け散って光の粒子へと変わっていく。


「ああぁぁ!? 俺のセンチターブラがぁぁ!」


「……壊されたのであります」


 うそぉ……壊れるって書いてあったけど、あんなあっさり壊れちゃうの?

 もしかして俺の練習不足で、形の完全な固定化ができていなかったのか?


「って、落ち込んでいる場合じゃないでありますよ! 動き出したのであります!」


「マ、マジか!? 歩いてるぞ、あの木!」


 下を向いて落ち込んでいると、ノールが大声で叫び出した。

 顔を上げると、道のど真ん中に生えていた木の下の地面が盛り上がり、根っこが地上に出てきていた。

 そして根っこを足のようにして、木が俺達の方へと進んでくる。

 幹にはさっきまでなかった、目と口のような穴が開いていて不気味だ。

 き、木の化け物じゃないか!

 

 と、とりあえず、今ならステータスが見られるかもしれない。

 一応確認してみよう。


 ――――――

●種族:トレント

 レベル:45

 HP:3万5000

 MP:0

 攻撃力:550

 防御力:750

 敏捷:20

 魔法耐性:80

 固有能力 擬態

 スキル 魔吸収 

――――――


 エゴンさんの言っていた通り、魔法に対して耐性があるな。

 魔吸収は魔法を吸うってことなのか?

 耐性が高くて吸収までするとか、なんて嫌らしい。


 そしてアプリで見られなかったのは、どうやら固有能力が原因だったみたいだな。

 動き出したから解除されたってことか?


 スキルとかを抜いてしまえば、大して強くもない魔物だ。

 これなら問題なく狩れそうだな。


「うーん、そこまで強くないな。ミノタウロス程度だぞ」


「それならささっと倒せそうでありますね」


 確認もできたところで、さっそく俺とノールはトレントに向かって走り出す。

 近くまで行くと、上の方に生えている枝を触手みたいにこっちに向かい伸ばしてきた。

 それをバールで払い除け近づこうとしたのだが、払っても払ってもどんどん追加で伸びてくる。


 しばらくそんなことを続けていると、枝の一部が集まって先端を槍のように尖らせて、俺に向かって突っ込んできた。

 鍋の蓋を構えその攻撃を受け止め、そのままバールでへし折ってやろうとしたのだが……受け止めた瞬間また触手のように枝がバラけて、鍋の蓋を通り越して俺の腕に絡み付く。


「おっ、うおぉぉ!?」


「大倉殿!」


 腕を持ち上げられて宙ぶらりんになったと思ったら、今度はトレントの方へと引き寄せられた。

 トレントは口のような穴を大きく開けて待ち構えており、そこに放り込むつもりのようだ。

 

 だが、そのまま食われるような俺ではない。

 腕に絡みついた触手をバールで引き千切り、引き寄せられた勢いを残したままトレントの体へと取り付く。

 そんなに食べたいなら、たっぷり食べさせてやるぜ……という感じで、バールで何度も口の穴の部分を刺しまくった。

 

 トレントは体を左右に大きく振るが、へばり付いている俺はその程度じゃ取れない。

 触手のコントロールも乱れたのか、その後すぐにノールが駆け寄ってきて、木の幹を一振りで真っ二つに叩き斬った。

 倒れる前に体から飛び降りると、上下に分かれたトレントの体は倒れ、光の粒子になっていく。


「ふっ、ふふ、華麗に決まったな!」


「どこがでありますか……。それより、お怪我がないであります?」


「ああ、大丈夫だ」


 あー、びっくりしたー。

 防いだと思ったらスルーされて巻き付いてくるなんて。

 もしこれでさらに触手を巻き付けるタイプだったら、平八の貴重な触手プレイ公開になるところだったぜ。

 ……誰得だな。


 そんな馬鹿なことを考えつつ、トレントのドロップアイテムである膝下ぐらいの大きさの丸太を回収して、馬車の所へと戻った。


「もう、だから油断しないでねって言ったじゃない!」


「す、すまない……」


 戻るとエステルが眉を吊り上げて俺の所へと駆け寄ってきた。

 ぐっ、事前に注意されていたのに、触手に腕持っていかれたからな……。

 でも、あれは初見殺しみたいなものだろう? 少しは許してほしい。

 

 そんな言い訳が通るはずもなく、プンプンと怒るエステルに説教をされた。



 山道を抜けて平原に出てきた頃には、もう空が暗くなり始めていた。

 森から離れてから急いで野営の準備を始め、なんとか完全に日が落ちる前に完了した。

 そして今日もアンネリーちゃんがやってきて、エステルと楽しそうに話しこんでいる。


「それでね、割った瞬間変な臭いが部屋の中に充満して騒ぎになったんだよー」


「それは大変だったわね。そんなに凄かったの?」


「凄いなんてもんじゃないよ。割った人なんて、白目剥いて口から泡を吹いて気絶してたもん」


 クスクスと互いに笑い合って、楽しそうにエステルとアンネリーちゃんは話している。

 今はどうやら果物を割った時の話らしいのだが……なんだその果物。

 ドリアン以上にやばそうな果物があるのか……。


「あっ、そろそろ戻らないと。今日もありがとうね、エステル!」


「ええ、私も楽しかったわ。またお話ししましょうね」


 アンネリーちゃんが自分のテントの方を見て、今日は戻ると言い出して立ち上がった。

 そしてテントの方へ歩いていき、途中振り返ってこっちに手を振っている。

 エステルも手を振り返してそれに応えていた。

 いやー、見ているとなんだか微笑ましいな。

 

 アンネリーちゃんがテントの中へ入ると、微笑んでいたエステルは眉をひそめてなんだか残念そうにしている。


「なんだ、エステル。もっとアンネリーちゃんと話しをしたかったのか?」


「……いえ、十分よ。今日はなんだか疲れちゃったし、早めに寝させてもらうわね」


 俺が聞いてみると、少し間を空けてからエステルは答えた。

 そしてすぐ立ち上がって、1人テントの中へと入っていく。


「うーむ、エステルがあんな風になるなんて初めてだな」


「そうでありますね。やはり同じ歳ぐらいの子と話すのは、違うのかもしれないであります」


「本当に楽しそうでしたもんね。私とルーナさんが話している時みたいな雰囲気でしたよ」


「何ちゃっかり話盛ってやがるんだ。全然違うだろうが!」


 アンネリーちゃんと話しているエステルは、本当に楽しそうにしていた。

 ノール達と違って、エステルは自分だけじゃ外に出たりしなかったもんな。

 話し相手も俺達ばかりだったし、同じぐらいの歳の女の子との会話は新鮮なのかもしれない。

 

 このままアンネリーちゃんと仲良くしてくれたら、俺としても嬉しいってもんだ。

 これでエステルがアンネリーちゃんと、普段から会って遊んだりしてくれたらいいけど。

 

 ……あれ? そうなると、もしかしてこの世界の人とまともに交流していないの俺だけじゃ……。

 い、いや、そんなことない! 俺だって普段気軽に会える人が……人が……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 漫画版から来たけれど、 原作にはノール暴走のイベントはないのかな。
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