アンネリーちゃんとの交流
活動報告にて書籍化に関してのご報告がございます。
目を通していただけると幸いです。
護衛開始から6日、俺達は問題なく護衛を続けていた。
途中でまた魔物の襲撃があって、ちょっとした問題はあったけど。
エステルの魔法が派手ということで、今度はノール任せたのだが……馬でそのまま魔物に突撃して行きやがった。
しかしブラックオークが相手だったから、戦闘面で特に何か問題はなかった。
ノールの馬さばきに、後ろに乗っていたエステルが悲鳴を上げるという事態が起きたのだ。
倒し終えて俺達の所に戻って来た時、エステルは顔を青くして涙目で震えていたからな……よっぽど怖かったんだろう。
調子に乗って相当な速さでブンブンと馬を乗り回していたしな。
有無を言わさず突撃していったから、止める暇すらなかった。
ノールはエステルにポカポカと後ろから殴られていたけど、仕方ないと思う。
その後、空を飛ぶ魔物が出てきたりもしたのだが、エステルの魔法による対空迎撃で撃ち落されていた。
俺のセンチターブラの出番かと思ったのに……まあ、空飛ぶ相手に当てられる程の操作はまだできないんだけど。
「いやー、何事もなく平和だな」
「どこが平和なんでしょうか……」
今日もそろそろ日が沈みそうなので、移動を止めて野営の準備を始める。
今のペースで進めば、あと2、3日でクェレスに到着するみたいだ。
エステルとシスハの支援魔法のおかげだな。
俺としては比較的平和感があったけど、シスハはそうでもなかったみたいだ。
エステルが振り向いてくるというから、一応遠回しに止めてやれと伝えた。
すると今度は、何故かシスハが背後からエステルの気配を感じるとか言い出した。
後ろには俺が乗っているんだから、そんなことあるはずがない。
気にし過ぎて、錯覚みたいなものを感じているだけだろう。
とりあえず、シスハ、お前ツかれてるんだよ。と、言っておいた。
野営の準備も終わり、いつも通り火のついた薪を囲んで座ろうとしたのだが……。
「あのー、エステルさん?」
「どうかしたの?」
地面にシートを敷いて俺があぐらをかいていると、エステルがその上に座ってきた。
声をかけると彼女はニコニコとしながら、俺の方を見て首を傾げる。
「どうして俺のところに座っているんだ」
「夜ぐらい、いいでしょう? ね、シスハ?」
「はい! それが大変よろしいかと存じ上げます!」
「このままでいいから、シスハを威圧するのは止めてやれ……」
エステルに何故か問い掛けられたシスハは、頭をブンブンと上下に振ってそれに同意している。
これ以上やると、シスハの胃に穴が空いてしまいそうなので止めておいた。
「むぅ、エステル。また見られているのでありますよ」
「え? ……あら、本当ね」
「日に日にあの子がこっちを見る頻度が増しているであります」
「そして見られているのに気が付いて、顔を逸らすのも速くなっていますね」
ノールに釣られて見ている方を向くと、またアンネリーちゃんがこっちを見ていた。
野営をしている時、毎回のように彼女はこっちを見ている。
そして俺達がそのことに気が付くと、慌ててそっぽを向いてテントの中へと逃げていく。
よっぽどエステルに興味があるんだな。
「そんなに気になるのかしら?」
「あれで気にならない方がおかしいと思うけどな……」
今回は全部水の魔法と土の魔法対処しているけど、それでも十分目立っていたと思う。
魔物が砕け散る水の噴射とかどうなってるんだよ。
対空には前に使っていた水の小粒をばら撒いて撃墜した後、土で作られた巨大な手を使って叩き潰していた。
火の魔法だったら空に小さな太陽が出来上がっていただろうから、これでもマシなんだろうけど……。
「あっ、こっちに向かって歩いてきたのでありますよ」
「えっ、マジ?」
今回もまたテントに戻っていくだろう。
そう思っていたのだが、なんとアンネリーちゃんがこっちに向かって歩いてきた。
その後ろには少し離れてエゴンさんもついて来ている。
すぐ近くにいるとはいえ、1人で勝手に行動させる訳にはいかないということか。
そしてアンネリーちゃんは俺達の目の前までやってくると、無言のまましばらく立ち止まった。
顔を真っ赤にさせ、キョロキョロと落ち着かない様子で頭を左右に振っている。
恥ずかしくて、なかなか話を切り出せないのか?
「ね、ねぇ。ちょ、ちょっといい?」
「私かしら?」
「そ、そう!」
意を決したのか、真っ直ぐと前を向いて、アンネリーちゃんは口を開いた。
うーむ、ようやくエステルに声をかけてきたか。
そうなると俺やノール達は邪魔かな?
同じ歳ぐらいのエステルと2人きりの方が話しやすいだろう。
「私達は離れていましょうか?」
「い、いいです! そんな気を使わないでください!」
アンネリーちゃんに聞いてみると、頭をブンブンと振って断られた。
どうやら余計なお世話だったみたいだ。
無言で離れた方が……って、エステルが俺の上に座ってるから無理だったわ。
念の為に少し離れて俺達の方を見守っているエゴンさんに、目を向けて確認をした。
すると彼は頷いて平気だと合図してくれたので、このまま話を続けるとしよう。
「それで、私に何か用なの?」
「えっと……その……出発前、疑うようなこと言ってごめんなさい!」
少し言いにくそうに眉をひそめた後、アンネリーちゃんはエステルに向かって頭を下げた。
出発する際に疑ったことを気にしていたらしい。
だからずっと見ているだけでこっちに来なかったのか。
もうそろそろクェレスに到着するから、腹を据えたってところかな。
「別に気にしていないわよ? 疑問に思っても仕方ないもの」
「ほ、本当?」
「ええ、本当よ。それより、立っていないで座ったらどう?」
「そ、それじゃ……うんしょ、と」
本当に気にしていないという様子で、エステルは謝罪を受け入れた。
そのまま敷物の上に座ったらと促し、アンネリーちゃんを座らせる。
「えっと、名前は……」
「エステルよ。よろしくね、アンネリー」
「な、なんで私の名前わかるの!?」
「あら、出発する日にあなたのお父さんが、私達の前で呼んでいたじゃない」
「あっ、そういえばそうだった」
アンネリーちゃんは、まだエステルの名前を知らなかったみたいだ。
初日に名乗ったのは俺だけで、エステル達は頭を下げただけだから当然か。
このちょっとしたやり取りでだいぶ緊張が解れたのか、アンネリーちゃんは徐々に口数が多くなっていった。
しばらく話をしていると、やはり興味があった魔法の話へと話題が変わっていく。
「エステルって凄いね! あんな水がビューって勢い良く出てる魔法、初めて見た!」
「ふふ、ありがとう。そう言われると他の魔法も見せたくなるわね」
「えっ、他にもできるの!」
「ええ、勿論。ここは1つ、私が1番得意な火の魔法を――」
「駄目だ! 暗いのにそんなの使ったら魔物が寄って来るだろ!」
「あら、残念」
アンネリーちゃんは両手を胸の前に上げて、少し興奮気味だ。
そしてそのことに気分を良くしたのか、エステルがキリッとした表情で火の魔法を見せてあげるとか言い出した。
勿論そんなことやらせる訳にはいかないから、俺はそれを制止した。
すると嬉しそうな表情をしていたアンネリーちゃんが、残念そうに肩を落としている。
うっ、こういう反応されると罪悪感が湧くぞ……でも、もう暗いのにエステルが火の魔法なんて使ったら、綺麗な花火が打ち上がって魔物が寄ってきてしまう。
ここは我慢してもらいたい。
「そういえばさっきから思っていたけど、エステルはなんでその人の上に座っているの? 普通に座ればいいのに」
「ここが私の特等席だからよ。ね、お兄さん?」
「俺の膝の上は、いつの間に特等席になったんだ……」
エステルがずっと俺の上に座っていることが気になったのか、アンネリーちゃんは首を傾げて聞いてきた。
すると当然だと言う様に、エステルは俺の上が自分の特等席だと言う。
魔法のカーペットに乗る時は乗せているけど……同意を求められても困るぞ。
「たしかにエステルの特等席だとは思うでありますけど……」
「わ、私はエステルさんを支持いたしますよ! 犠牲になってください大倉さん!」
「んー? シスハ、その言い方どうなのかしら?」
「ひぃ――申し訳ございませんでした!」
ここぞとばかりにシスハがフォローをしたが、言葉選びを間違えてエステルに笑顔で見つめられている。
そしてすぐに謝って、ノールの近くへと逃げていった。
本当に色々と災難だな……護衛依頼が終わったら早めにルーナに会わせて、アフターケアしてもらおう。
「エステルは凄い魔導師なのに、なんで冒険者をしているの?」
「それって聞くほど珍しいこと?」
「うん、珍しいよ。私の友達にも魔導師を目指している子がいるけど、まだ学校で勉強しているもん。普通私達の歳で冒険者になんてならないよ」
俺達のやりとりを眺めていたアンネリーちゃんが、エステルに質問をした。
彼女が今回クェレスに行くのは、その友達に会う為なのか?
それなら魔導師をある程度知っているだろうから、本当に冒険者か聞いてきたんだな。
「そうね……冒険者をしているのは、特に理由って理由はないけれど……しいて言うなら――」
「ん?」
エステルは頬の手を当てる仕草をしながら考え込んだ後、俺の方をじーっと見つめてきた。
な、なんだ? まさか俺が理由だとでも言いたいのか?
たしかに、俺が呼び出して冒険者として協力してもらっているから、それで間違いはないけど……。
「その人の為ってこと?」
「ふふふ、そういうこと。お兄さんは、私の特別な人なんだから」
「誤解を招くような発言は控えような?」
間違っちゃいないけどさ、その言い方は聞いた人次第で危ない受け取り方になるから止めてくれ!
離れて聞いていたエゴンさんが、聞いた途端吹き出したぞ!
「ふーん……エステルと仲が良いんですね。えっと……」
「あっ、自己紹介していませんでしたね。私は大倉平八です」
「私はノール・ファニャでありますよ。ノールと呼んでくださいであります」
「シスハ・アルヴィです。よろしくお願いいたしますね」
そういえば、まだアンネリーちゃんとの自己紹介を済ませていなかった
俺が挨拶をして、続けてノール達も紹介をさせていく。
もう最初の緊張していた様子もなく、随分と落ち着いているな。
エステルだけじゃなくて、ノール達とも仲良くしてくれるといいのだが。
「うーん、せっかくだから、何か魔法を見せてあげたいけど……あっ、こういうのはどうかしら? えい」
魔法が見たいと期待してくれたのに、何も見せてあげられないのはエステルとしても不満だったみたいだ。
声を出しながら何かないかと彼女は少し悩むと、閃いたのかパンと手を叩いていつもの掛け声と共に人差し指を回す様に振った。
すると近くの地面が盛り上がって、徐々に何かが出来上がっていく。
完全に形が固まると、エステルがそれに手を添えて地面からその物体は切り離された。
うーん? なんかとても見覚えが……見覚えが……あれ?
「な、何なんだそれ……」
「ふふふ、手乗りお兄さん人形よ」
エステルが作り出した物、それは手の平に乗るサイズの土で作られた俺の人形だった。
彼女はそれを見て満足そうにうんうんと頷いている。
待て待て待て、それはおかしい。なんで俺の人形なんて作り出すんだよ!
しかもちゃんと鎧まで作りこまれていて、妙にクオリティがたけぇ!
「す、凄いのであります、これ! かなり大倉殿なのでありますよ!」
「そこまでやるなんて……。エステルさん、末恐ろしいです……」
ノールが興味津々といった様子で近づいてきて、エステルから平八人形を受け取り驚きの声を上げている。
シスハはそんな物まで作り出すエステルに、少し恐怖しているのか顔が引きつっていた。
凄い技術だけど、こんな正確な人形作られるとか怖いんですけど……。
「す、凄いけど……ちょっと違うかなぁ……」
「あら、それじゃあ――」
それを見ていたアンネリーちゃんは、困ったように苦笑を浮かべていた。
うん、やっぱり期待していたのはそういうのじゃないよね。
それから次々とエステルの比較的安全な魔法の披露が始まり、しばらくアンネリーちゃんを楽しませていた。
小さな竜巻や小さな虹を手の平の上に出したりと、もうなんでもありみたいな光景を作り出していた……そんなことまでできたんだな。
最後は満足そうにしながら、手を振って自分のテントへと彼女は戻っていった。
エステル達とは楽しそうに話していたし、護衛依頼中のことだけど良い思い出になってくれていたらいいな。
活動報告にて書籍化に関してのご報告がございます。
目を通していただけると幸いです。
大切なことなので2度も書いてしまいました。申し訳ございません。




