スキルアップと合成機
協会長との話し合いを終え、Bランクの証である銀のプレートを受け取り帰宅した。
「はぁ……凄い気疲れした」
「今までになくガチガチでありましたね。確かにあの方はなんとも言えない凄みを感じたので、しょうがないと思うでありますけど」
帰宅してすぐに、居間に集まり今日のことを話し合うことにした。
協会長クリストフさん。
協会長って聞くと堅物な印象があったけど、話してみると話しやすい人だった。
だけど、俺達が知られたくない部分を的確に突いてきたのにはヒヤっとしたぞ。
間違いなくあの人はただ者じゃないな……もし会話する機会が今後あったとしたら注意しないと。
「それにしても、Bランクになってすぐに依頼を頼まれるなんて思わなかったわね」
「護衛依頼でしたよね。魔導都市クェレス……どんなところなんでしょうか?」
クリストフさんから見せられた依頼書に書かれていたのは、魔導都市クェレスまでの護衛依頼。
Bランク以上指名のもので、依頼主は王都に住むお金持ちの人らしい。
出発は6日後でブルンネから馬車で王都まで来た時と同じく、10日間以上の移動。
そして報酬は60万G。
いやー、流石お金持ち。太っ腹だね。
だけど、Bランクに昇格したばかりの俺達が護衛でいいのだろうか。
戦力的には問題はなさそうだが、ちゃんとやれるか心配だ。
それと今回の護衛依頼の目的地である魔導都市クェレス。
名前からしてわかるけど、魔導師達が主にいる街だったよな。
ようやくこの世界の魔導師を拝めそうだし、どんな街なのかも気になるぞ。
「んー、おはようだ……」
「おっ、起きたのかルーナ」
いつものナイトキャップを被った寝巻き姿のルーナが居間へとやってきた。
昨日の疲れが残っているのか、目を擦り眠そうにしている。
ちょうど良いし、今の内に護衛依頼のこと伝えておくか。
護衛依頼をするとなると、10日以上は戻ってこられないだろう。
他人の目もあるからビーコンを自由に置くこともできないから、道中に設置する暇もないかもしれない。
そうなると、その間はルーナ1人で自宅にいることになる。
冒険者として登録していないし、一緒に連れて行く訳にもいかないからな。
「ふむ、留守の間は任せておけ。責任を持って私が警備しておこう」
「頼もしいでありますね。あっ、モフットのご飯もお願いするのでありますよ」
「ああ、モフットと一緒に過ごすつもりだから心配するな」
腕を組んで自信満々にルーナは返事をした。
見た目は幼女だが、とても頼もしいな。
モフットは勿論連れていけないから、ルーナが自宅にいてくれるのは都合がいい。
今も帰ってからノールが抱いていたモフットを受け取り、体を撫でながら可愛がっている。
「ルーナさんを1人で残すなんて心配です! 私も残らせていただきます!」
「何言ってんだ。神官がいるのに連れてこないで護衛とか怒られるわ」
話を聞いていたシスハは机をバンッと音がする勢いで叩いて、椅子から立ち上がり片手を胸の前で握り拳にして残ると主張した。
勿論そんな意見は却下だ。
神官がパーティにいるのに連れてこないとかありえないだろ。
それに今回の依頼を達成すれば、シスハもEランクになるから都合がいい。
「ル、ルーナさんだって、私に居てほしいですよね? ね?」
「いや、全く」
「うぅ……そんなぁ……」
俺の説得が駄目だと理解したのか、今度はルーナ本人に頼むよう訴えかける。
そしてルーナは視線を向けることもなく、モフットを撫でながらどうでもよさそうに答えた。
返答を聞いたシスハは大人しく椅子に座り直して、顔を机に伏せしくしくと口で言いながら泣いている。
無情過ぎる……少しは距離感縮まったかと思っていたけど、即答で切り捨てたぞ……。
まあ今回はそっちの方が助かるけど。
「約束の日まで数日あるみたいだけど、何か準備はした方がいいのかしら?」
「うーん、とりあえずガチャ産のアイテムを自由に使えないから、必要な物をいくつか買っておこうか」
ビーコンと同じで、人の目があるところでは可能な限りガチャ産の便利品は使用を控えるつもりだ。
ガチャの食料を出せないのは痛いけど仕方ない。
クェレスまで行く途中いくつか村は経由するみたいだが、一応日持ちする食料を持っていこう。
マジックバッグがあるから腐る心配とかはないんだけどね。
「あっ、そういえば今回は馬を貸してもらえるのでありましたよね。最低でも2頭は必要になりそうでありますが、どうするであります? 1頭は私が乗れるでありますけど、もう1頭は誰が乗るでありますか?」
「私、馬なんて乗れないわ。できればお兄さんの後ろがいいわね」
「大倉殿は馬に乗れないのでありますよ。前に乗った時なんて――」
「あ、あー! 聞こえない、聞こえない!」
ノールが余計なことを言いそうだったから、俺は大声で誤魔化した。
あんな恥ずかしい話を広げないでくれ!
今回は俺達も馬に乗って馬車を護衛することになっている。
全員乗れるのなら4頭借りればいいんだけど、エステルと俺が乗れないのは確定している。
1頭に2人乗るのが限界だろうし、もう1人馬を操れないといけない。
どうしよう……残りの日数でなんとか俺が乗れるように練習するしかないか?
前に乗った時のトラウマがまだ残っているのだが。
「ふざけていないで、本当にどういたしますか? なんなら私が手綱を握りますけど」
「えっ、シスハ乗れるのか?」
「ノールさん程上手くはないと思いますけど乗れます。なんたって神官ですから、はい」
「そうか……それじゃあ頼むわ」
顔を上げたシスハが、馬に乗れると言いだした。
泣いた跡が顔に全くない。嘘泣きしてやがったな……。
それよりシスハが馬に乗れるみたいで助かった。
だけど近接戦闘をこなして馬にも乗れるなんて……神官ってなんなんだ。
「まあ、準備はボチボチとやるとして、それ以外にも出発前にやっておきたいな」
「あら、他に何かやることなんてあったかしら?」
護衛に行く為の荷物は後で揃えるとして、まずはその前に確認しておきたいものがある。
「合成機を使ってみるのと、迷宮攻略時に貰ったスキルアップの確認だな」
「そんな物貰っていたのでありますね。スキルアップだなんて、もしかして私達のスキルを強化できるのでありますか?」
「たぶん、そうだと思う」
ガチャから排出されたSSR合成機と、迷宮報酬のSSRスキルアップだ。
合成機は2つの物を混ぜることができて、スキルアップは名前的にスキルを強化できるものっぽい。
コストダウンの時みたいにエステルがアピールしてくるかとチラッと視線を向けると、視線に気がついて微笑み返してきた。
そしてまた自分に指を向けて強調するかと思いきや、特に何もせず俺をニコニコと見たままだ。
「今回はアピールしないんだな」
「いくら私でもそこまでわがまま言えないわ。スキル選びとなると重要だもの」
コストダウンも重要と言えば重要だが、スキルアップとなるとそう簡単な話じゃない。
ちゃんとそういうところを判断しているんだな。
こうなると逆に強化してあげたくなるけど、そういう訳にもいかない。
スキル強化となると、ノール、エステル、ルーナの3人がまず候補か。
シスハのスキルは未だに使ったことがないし、今はまだ強化する必要もないだろう。
俺は称号変化だから、スキルがないのとほぼ同じだし。
この三人の中から考えると……誰にしたらいいんだ。
ノールはスキルを使えば全能力が上昇してほぼ無敵状態。スキル終了と同時にしばらく動けない。
エステルは魔法の威力が上昇して、魔法耐性や防御力が高い相手でも一気にダメージを与えられる。終了後に気分が悪くなって魔法の精度と威力が低下。
ルーナは高威力の単発攻撃を短い間に繰り出せる。ただ使えば使うほど吸血衝動が増して理性を失っていく。
全員強力過ぎてどうしようか迷うぞ。
うーむ……ここはノールのスキルを強化しておくべきか?
もしかしたら終了後に動けなくなるのが軽減される可能性がある。
スキル後も継続して戦えるようになってくれたら大助かりだ。
エステル達もスキル後の反動があるけど、動けなくなる程じゃないから我慢してもらおう。
「よし、今回はノールにしよう。これで痛みが和らぐかもしれないし」
「そうだったら嬉しいでありますよ。あれ、本当に痛いでありますから……」
いつも発動後、本当に痛そうに泣きそうな声を出しているもんな。
普段攻撃を食らっても平気なノールがそうなるんだから相当の痛さなんだろう。
せめて少しでも軽減されればいいのだが……。
そういう訳で、さっそくスキルアップをスマホで選択してノールを対象にする。
すると光がスマホから溢れ出し、ノールの体に吸収されていく。
「どうだ? 何か変わった感じはするか?」
「うーん……むぅ、特に変わった感じはしないのでありますよ」
手を握って開いて、体をあっちこっち動かしてノールは確認しているが、変わったところはないみたいだ。
やっぱりスキルを発動させてみないと、変化は感じられそうにないか。
ステータスの方に何か変化があるかもしれないから、確認しよう。
【白銀のアウラ☆2】
12分間全ステータスを3.2倍にする。 再使用時間:10時間
「これはなかなか……最終的にどこまで上がるんだろ」
「でも、まだ使ったら体が痛みそうでありますね……。早く沢山強化してほしいのであります!」
「私もあの頭痛がなくなるのなら、強化してもらいたいわね」
ノールのスキルを確認すると、時間が延びて能力値の上昇も増え、再使用の時間が短くなっていた。
1つ強化しただけでこんなになるとか、最大強化したらどうなるんだ?
これはもっとスキルアップが欲しくなるぞ。
「とりあえず、どうなるか今の内に試してみないか?」
「そうでありますね。ではやってみるのでありますー!」
ノールが脇を絞めて叫ぶと、全身が白いオーラに包まれる。
再使用までの時間が延びたし、今日はもう何かする予定もないからスキルの確認をしてもらうことにした。
それに今やれば、戦わなかった場合使用後どうなるかもわかる。
あの異常な動きのせいで体を痛めているのか、それともスキル自体にそういう効果があるのか。
「おぉ、これがノールのスキル。凄いな」
「ルーナに見せるのは初めてでありましたね! むふふ、凄いでありましょ?」
「ああ、カッコいい」
初めて見るノールのスキルを、ルーナは目を輝かせて拍手している。
ノールは褒められたことに気分を良くして、胸を張って得意げな様子だ。
スキルを使うと気分がよくなるのか、いつもテンション高いな。
ルーナも冷たいかと思いきや、こういうの好きなのか。
まるで今にも飛び上がりそうなぐらい、全身光ってるもんな。
それからしばらく、ノールを全員で見つめながらスキルが切れるのを待つ。
そしてようやく、彼女の体から溢れ出していた白い光が収まり、それと同時にノールは膝から床に崩れ落ちた。
「痛い、痛いのでありますよぉ……。なんでなのでありますかぁ……」
「動いていないのに、問答無用で体が痛むのね」
「大丈夫ですかノールさん。これで少しは痛みも和らぐはずです」
「カッコよかったけど、まるで火の燃え尽きる寸前みたいだ」
ノールは床を這いずって泣きそうな声を出している。
シスハがすぐに駆け寄って、上半身を起こし回復魔法を施す。
ルーナは崩れ落ちたノールを見ながら、地味に酷いことを言っている。
確かにそう言われると、線香花火が燃え尽きる時みたいな輝きに見えてきたぞ。
強化第1段階じゃ、そこまで差はないみたいだな。
それとノールが動けなくなるのは、あの動きは関係ないのか。
動かなければ平気だったら、スキル使って攻撃防ぐだけにするとかできそうだったのに。
「すまない、今日は大人しくしていてくれ」
「うぅ……やらなければよかったであります……」
シスハの回復を終えて、若干動けるようになったノールを椅子に座らせた。
本当に申し訳ないと思う。
でもやってみないとわからないんだし、仕方ない。
「それじゃあ、次は合成機だな」
「それ実は結構楽しみにしていたんですよね。装備を混ぜて強化できそうで、楽しそうです」
「私はそこまで都合の良い物には思えないな」
合成機である白い箱を部屋の隅に置いて、さっそく何か混ぜてみようと思う。
正面の部分には一部黒いパネルのような物があり、ここに何か表示されそうだ。
うーむ、適当に入れてみるか。
まずはどうなってもいいR品の大剣とブーツを入れることにした。
白い箱を開けると真ん中に仕切りがあって、左右に物を入れられるようになっている。
箱のサイズを明らかに超えているが、左側に大剣を入れてみると光の粒子になって、箱の左側が光で満たされた。
次に右側へブーツを入れると、同じように光の粒子に変わって右側が満たされる。
これで準備完了なのかな? とりあえず蓋を閉めてみるか。
「あれ? 始まらないぞ?」
「お兄さん、ここに何か表示されているわよ?」
箱を閉めても全く動かない。
エステルに言われて黒いパネルを見てみると、【この素材同士では合成できません】と表示されていた。
どうやらこの2つじゃ混ぜれないみたいだ。
それから色々試した結果、ガチャの装備と魔物が落としたドロップアイテムを入れて、ようやく黒いパネルに【合成をいたしますか? Yes、No】と表示された。
今回入れた物は大剣とスティンガーの毒針だ。
出来上がりを想像すると、毒の大剣かな?
そしてYesを押すと、今度は【魔石を1個消費して消滅防止をいたしますか? Yes、No】と表示される。
ん? 消滅防止……魔石1個!?
え、何これ。もしかして失敗したら装備消えるの!?
いや、そんなまさかぁ。流石にそんな理不尽なことないだろ。
今回はNoを選択し、合成機は動き出す。
ガタガタとしばらく揺れ、そしてチン! と音を出して停止する。
その後、黒いパネルに文字が表示された。
【失敗しました。装備は消滅いたします】
「うぇ!? マジで消えやがった!?」
表示に驚いて箱を開けてみると、中に貯まっていた光は消えていた。
うおぉ……装備どころか素材も一緒に消えてやがる。
「失敗したら消滅でありますか……でも、消滅するのを防げるみたいでありますよ?」
「だけど、1回やるごとに魔石を1個消費するのは痛いわね」
確かに消滅防止はできるのだが、エステルの言うように1回ごとに魔石を1個消費するのは地味に痛いな。
しかも消滅しなくなるだけで、成功率が上がっている訳ではない。
つまり合成を成功させたければ、何度も消滅防止をして合成することになるのだ。
「消滅するよりはマシだ」
「URを合成しようとしたら、消滅防止は必須ですね」
ルーナとシスハも消滅防止は絶対やるべきだと言う。
重要なのはわかる。だけど魔石を消費するのは躊躇してしまいそうだ。
しかし合成機がどの程度成功するのか、出来上がった物はどんなになるのか。
そんな疑問を解消する為に、俺は自分のエクスカリバールと、スティンガーの毒針を混ぜ続けた。
魔石による消滅防止は、元となる装備のみで使った魔物の素材は1回ごとに消えていく。
そして混ぜること14回目。
ようやく黒いパネルに【成功しました】と表示されて、合成されたエクスカリバールのステータスが出てきた。
――――――
●エクスカリバール☆29
攻撃力+3290
行動速度+190%
状態異常:毒(小)
――――――
「魔石14個消費したのに、ショボいでありますね」
「ショボいって言うなよ! やっと成功したんだぞ!」
「これがベヒモスの角だったら、もっと良い効果が付きそうなのに残念ね」
くっ、まさか成功するまでここまでかかるなんて……。
まあ、成功率があまり高くないことがわかったからよしとしよう。
魔石も迷宮報酬の余りが60個もあったし、14個程度ならまだ平気だ。
だけどこれがベヒモスの角だったらと思うと、惜しい。
1回ごとに素材が消えるから、レアな魔物のドロップアイテムは気楽に混ぜられないな。
護衛依頼前に大幅強化を期待していたけど、今はまだ無理そうだ。




