閑話 水着ガチャ
この回の時期、魔石、ガチャの排出物は本編と関係ありません。
サブタイ通りのもし水着ガチャがあったら~、というifみたいなものと思ってください。
読み飛ばしたい方はそのまま次話をお読みくださると幸いです。
目が眩むような猛暑。
外ではビンビンと鳴く、セミみたいな生物が鳴いている。
この世界に来てから、もうかなりの月日が経った。
そして俺の世界と同じように、とうとう夏が到来したらしい。
「あー、あちぃ……」
「暑いのでありますよー。暑くて、何もやる気がしないのでありますー」
「そうね。少し動いただけで汗が出てくるし、動く気にもならないわ」
俺、ノール、エステルは居間にいる。
全員暑さに文句を言いながら椅子に座って元気がない。
目の前にいるノールは、机に顔を乗せ伸びていた。
エステルは指先から風魔法を使い、部屋全体に風を送り続けている。
そのお陰で多少マシになっているが、暑いことには変わりない。
「シスハはどこにいるんだ?」
「さっき廊下で転がっていたわよ」
「またルーナを襲ったのでありますか……」
朝からシスハの姿を見てないと思ったが……まだそんなことやっているなんて。
この暑い中放置してたら流石にヤバそうだし、回復させに行ってやるか。
「おい、大丈夫か?」
「はへぇー、どうかしましたか大倉さん?」
「あら、ちゃんと意識があるみたいね」
「こんな所で普通に転がっているなんて、どうしたのでありますか?」
ハウス・エクステンションの廊下へ行くと、シスハが手を前に伸ばし、体を正面にして転がっていた。
一応声を掛けたら、気の抜けた声だが返事があった。
うん? 返事ができるということは、ルーナに噛まれた訳じゃなさそうだな。
「ここの床、すっごい冷たくて気持ちいいんですよー」
「……服が汚れるぞ?」
「毎日掃除していますから、大丈夫ですよー」
シスハは小さく笑いながら、頬ずりをして気持ち良さそうにしている。
毎日掃除しているからって、床に転がって寝るなよ……。
この暑さじゃ、そうしたくなるのもわかるけどさ。
俺達が呆れながらシスハを見て立ち尽くしていると、急にスマホが振動した。
「ん? こ、これは!?」
「どうかしたのであります?」
「その反応……こんな時にガチャかしら?」
取り出して画面を見ると【期間限定水着ガチャ開催! 特別仕様のアイテムが盛りだくさん!】なんて表示されていた。
「期間限定水着ガチャ、だってよ」
水着ガチャか……。
まさかこのガチャで、期間限定ガチャがあるとは思っていなかったぞ。
俺としてはこの期間限定ガチャ、あまり良い思い出がないんだよなぁ。
元の世界で、目玉の水着ユニットが全く出なくって一体どんだけガチャを回したことか……。
詳細欄を見ると、このガチャだけの特別仕様な装備が出るみたいだ。
でもあまり回し過ぎても切りないしな……今回は少しだけ回して出なければ素直に諦めよう。
「水着……でありますか?」
「あら、水着だなんてちょうどいいじゃない。それを回して、皆で海にでも行きましょうよ」
「うんしょ……海、いいですね。たまには皆さんで遊びに行きたいです」
水着と聞いて、エステル達が食い付き気味に近寄ってきた。
転がっていたシスハもむくりと起き上がり、興味津々だ。
海、海ねぇ……。
この世界の海なんて、魔物がいそうで怖いな。
でもエステル達はなんだか盛り上がっているし、止めようなんて言えない。
それに彼女達の水着姿が見れるかもしれないとなると、俺も期待してしまうぞ。
「とりあえず2回ぐらい回してみるか」
「ふふ、水着ガチャって言うぐらいだから、可愛いものが出るの期待しちゃうわね」
今回は2回という制約を決め、俺はガチャを回すことにした。
一体どんなものが出るのやら……。
さっそくガチャをタップして、1回目のガチャを回す。
画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金。金で止まった。
【R日焼け止め、SR水着『男性用』、R麦わら帽子、SR水着『女性用』、Rビーチパラソル、SRビーチボールセット、Rバーベキューセット、Rブルーハワイ、Rサマーベッド、Rサングラス、Rシュノーケル】
うおっ!? 完全に海仕様なんですが……。
水着とか専用のが出るのかと思っていたけど、違うんだな。
再度ガチャをタップして、2回目のガチャを回す。
画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金、白、虹。虹で止まった。
「うっほ!? マジか!」
「おぉ、URなのでありますよ!」
「一体何が出るのかしら」
まさか2回目でUR!
んひょー、期間限定ガチャでUR引くとか俺ぱねぇ!
【R浮き輪、SR水着『男性用』、Rビーチフラッグ、Rボディボード、Rフリスビー、SR水着『女性用』、Rクーラーボックス、SR水着『女性用』、Rうちわ、Rビーチテント、UR『真夏の小悪魔』エステル】
「えっ……私?」
排出されたURを見て、エステルは驚いている。
これはどういうことなんだ……?
何なのか確認してみよう。
――――――
●『真夏の小悪魔』エステル
夏仕様の衣装に切り替わり、称号が付加される。
――――――
「どうやら専用の衣装と称号が追加されるだけみたいだぞ」
「あら、私専用の水着なの? それは楽しみね」
自分だけの特別な衣装だと聞いて、エステルは両手を合わせて喜んでいる。
水着とは明記されていないけど、水着ガチャから出たのなら水着のはずだ。
「さっそく切り替えてみるか?」
「待って。それって、今の私の服装も強制的に変わったりするの?」
「たぶん……そうなるかもな」
「なら、海に行ってからにしてほしいわ。それまでの楽しみにしておきたいもの」
さっそく切り替えようとスマホを操作したが、エステルに止められた。
確かに今着替えるというのも、楽しみが減るもんな。
●
という訳で、さっそく俺達はブルンネの南にある海へとやってきた。
浜辺には他にも人がいて、海を泳いだりして遊んでいる。
どうやらこの辺は魔物がいないみたいだな。
「……眩しい。何故私がこんな日に外に出なければならないのだ……」
「ルーナさんだけ家に残るなんて、寂しいじゃないですか!」
「そうでありますよ。こういう時は、皆で行くのがいいのであります」
ルーナは目を手で覆いながら、煩わしそうにしている。
放置しているのもかわいそうだとノール達が言うから連れて来たけど、大丈夫か?
そもそも吸血鬼なのに、太陽の光が降り注ぐ浜辺に来たらやばいんじゃ……。
「本当に少し辛そうね。大丈夫?」
「……問題ない。ただ、私は日陰で見守らせてもらおう。たまには外で寝るのもいいかもしれない」
「結局寝るのか……」
流石はルーナ。
こんな時でも全くブレることなく寝ることを選択するなんて。
「それじゃあ、ノール達は着替えるか? エステルは切り替えでいいよな?」
ノール達にはディメンションルームを渡して、その中で着替えてもらうことにした。
俺は服の下に既に海水パンツをはいているから脱ぐだけだ。
エステルは切り替えをすればすぐ水着姿になれるだろうし、物陰でささっとやれば問題ないはず。
「待って、お兄さん! 私もノール達と一緒に着替えに行くわ」
「ん? でもこれなら一瞬で終わるだろうし、裸を見られる心配はないぞ?」
「もう、そんなこと気にしているんじゃないわ。水着に着替えてきて、お待たせ、ってやるのがお約束でしょ?」
「えっ……あー、うん。そうだね」
どうやら俺は無粋なことを考えていたみたいだ。
エステルは頬を膨らませて若干怒っている。
まあ確かにそういうのはお約束だけど……。
ノール達にスマホを手渡して、俺は待つことになった。
その間、一緒に連れてきていたモフットを撫でる。
「なあ、モフット。男が1人水着姿で、兎を撫でている構図はどうなんだ?」
俺がそう聞くと、モフットはブーと鳴いて擦り寄ってきた。
なんだろう、気を使われているのだろうか。
モフットは良い奴だな。
そんな感じで待つこと10分程。
「大倉殿ー、お待たせしたのでありますー」
ようやく着替え終わったのか、ノールが後ろから声をかけてきた。
いつも顔を隠し騎士風の姿で色気が全くないけど、水着だとどうなるんだろうか。
俺は少し期待しながら、後ろを振り返った。
「おう、きた――えっ?」
「どうかしたでありますか?」
「どうかしたって……それはなんだ?」
「水着でありますよ?」
俺の視界に映ったのは、首から足元まできっちり着込んだ、白いウェットスーツ姿のノールだった。
顔がわからないようにシュノーケルの付いた黒いマスクまで着用している。
やべぇ……期待していた要素が微塵もねぇ……。
「あはは……そういう反応になりますよね」
「うおっ!?」
俺が唖然としていると、シスハが声をかけてきた。
彼女の水着は黒いビキニだ。
トップスが胸の下でクロスしていて、思わず目がその周辺に行ってしまう。
「うふふ、大倉さん、どこ見ていらっしゃるんですか? いやらしー」
「べ、別に胸元なんて見てないからな! ホントだからな!」
「わかりやすいですね。まぁ、わざとなので見てもらった方が楽しいんですけど」
慌てて目を逸らしたが、シスハは口元を歪めて面白そうにしている。
くっ、相変わらず俺の反応を見て楽しんでいるな。
シスハを見ているのは目の毒だ。
「お兄さん、どうかしら?」
助け舟とばかりに、今度はエステルが戻ってきた。
エステルは白いのチューブトップに、黒いパレオを巻いている。
それに髪に赤い花飾りと腕には同じ色のシュシュも付けており、凄く可愛らしい格好だ。
「おぉ、似合ってるぞ。可愛いじゃないか」
「むぅー、褒めてもらえるのは嬉しいけど、シスハの反応と比べるとなんだか不満だわ……」
俺が普通に接したせいか、エステルは口を尖らせて少し不満そうにしている。
いや、だって仕方ないじゃないか……俺だって男だし、あんな格好見たら反応せずにはいられない。
その点エステルは可愛らしくて健全だから、安心して見ていられるぞ。
そして最後にルーナが戻ってきた。
彼女の水着は紺色の……スクール水着に見える。
なんで! なんでスクール水着!?
「……なんだ?」
「いやー、定番と言えば定番なんだが……」
「これが1番着やすかったんだ。さて、私はさっそくあっちで寝てくるぞ」
水着としてはよくある物だとは思うけど……どうなの?
ルーナは特に気にしたこと様子もなく、俺の足元にいたモフットを抱き上げて離れていった。
相変わらず冷たいというか、クールというか。
「お兄さん、服を脱ぐと結構引き締まっているのね」
「ちょ、く、くすぐったいから止めろって!」
「ふふ、いいじゃない」
ルーナに気を取られていた間に、エステルが近づいてきてペタペタと俺の腕や腹をに触れてきた。
止めてくれと言うと、笑いながら少し離れる。
くすぐったいというのもあったけど、普段他人に触られないところだからゾクゾクしたぞ。
「そ、それで! 来たはいいけど何をするんだ?」
「それはもちろん、せっかくこんなに水がある場所にきたのでありますから、泳ぐでありますよ!」
そう言うとノールは走って海の中へと入っていった。
準備運動もせず入って平気なのか……というか、泳げるのかな?
そんな心配をしながら見守っていると、元気よく海に入って行ったノールは……沈んだ。
「ゲホッ、ゲホッ……しょっぱいのであります……」
「吸気口まで水の中に入れて呼吸するからだろ……」
それからあたふたと慌てながら体が海面から出ては沈んでを繰り返し、フラフラとしながら戻ってきた。
いきなり飛び込んで、シュノーケルごと海の中に入るからだろ……。
その後ノールは大人しく海に戻っていき、頭だけ海面から出して泳ぎ始めた。
たぶんあれ……犬かきかな?
「シスハは……えっ!?」
「海の上……走っているわね」
シスハは何してるんだろうと探すと、海の上を走っていた。
浜辺にいる他の人達も、シスハを見て驚きの声を上げている。
おい! あいつは何をしているんだ!?
目立ち過ぎだろ!
「ふぅ、泳ぐっていうのは気持ちいいですね」
「泳ぐ……? それのどこが泳ぎなんだよ! というかどうやってやったんだ!」
「えっ? 片足が沈む前にもう片足で水面を蹴って走っただけですよ?」
しばらく海を駆け回ったシスハは、良い汗かいたというように腕で拭う。
えっ? 泳ぐってなんだったっけ?
しかも昔からあるトンデモ理論であれをやっていただと……。
シスハは今度は普通に泳ぐと、犬かきをしながら必死に泳いでいるノールのところへと向かって行った。
最初から普通に泳げよ。
エステルと一緒に呆れながらも、次にどこかへ行ったルーナを探すことにした。
そしてすぐに見つけたのだが……。
「……ん? どうかしたか?」
「いや、なんでもないけど……想像以上にくつろいでいるな」
「うむ、思っていたより悪くない」
「なんだか1番大人っぽい楽しみ方ね……」
ルーナはビーチパラソルの下で、サマーベッドに寝っ転がってくつろいでいた。
足を組みサングラスをかけ、ブルーハワイのジュースが入ったグラスを傾け様になっている。
近くにはビーチテントも張られていて、中にはモフットが座り込んでくつろいでいた。
幼女と兎が1番優雅にくつろいでいるだなんて……俺達は何か楽しみ方がおかしい気がしてきたぞ。
「はぁ、海に来て早々に疲れたんだが……」
「あら、でもノール達は楽しんでいるみたいでいいじゃない」
「エステルは行かないのか?」
「私が動くの苦手なのは知っているでしょう?」
ノール達を見ていて、まだ何もしていないのになぜか疲れてきた。
まあ楽しんでいるみたいだから、いいんだけどさ。
エステルはどこにも行かずに、ずっと俺について来ている。
今は浜辺にシートを敷いて座り、海をボケッと眺めていた。
確かにエステルは元々あまり動く方じゃないから、ノール達と一緒に泳いだりしたらすぐバテそうだな。
「お兄さん一緒にいてくれるのなら、これを背中に塗ってもらってもいいかしら?」
「ん? 日焼け止めか?」
「ええ、シスハ達は先に塗っていたけど、私、まだ塗っていないの」
エステルは近くに置いてあった鞄から、ガチャから出た日焼け止めを取り出した。
シスハ達が先に自分で塗ったというのに、エステルだけ塗っていない。
まさか狙ったんじゃ……まあ、塗る程度なら別にいいんだけどさ。
「それじゃあ塗っていくぞ」
「うん、お願い」
シートに寝そべらせて、さっそくエステルに日焼け止めを塗る。
手に出すと白いクリーム系の物で、それを指で混ぜていく。
確かこういうのって、最初混ぜるって聞いた気がするからな。
なんでかは知らんけど。
「ん、ふぅ……あっ……んっ」
「あのー、声どうにかなりませんでしょうか」
「だ、だって、くすぐったいんだもの」
ある程度混ぜてから、エステルの背中へと塗っていく。
すると彼女は、なんとも言えない声を口から漏らして、体をビクビクとさせている。
ちょっと、俺がなんかいやらしいことしているみたいじゃないか!
普段触られない場所を触られて、そういう風になるのは理解できるけど。
「大倉殿ー、これやらないでありますか?」
「ビーチバレーか……却下だ」
「どうしてですか! いいじゃないですかー、やりましょうよー」
「そうでありますよー。やろうでありますよー」
塗り終わった頃になって、海からノールとシスハが戻ってきた。
そしてその手には、ガチャから出たビーチボールを持っている。
ノール達とビーチバレー……普通に考えたら女の子とキャッキャッウフフと遊んで楽しむものだけど、ノール達相手だと……。
「ノール、上にボール投げるから、砂浜に向かって打ち込んでみろ」
「へ? いいでありますけど……」
ボールを渡してもらい、俺はノールにスパイクをやらせることにした。
彼女は不思議そうに首を傾げたが、俺が上に投げるとすぐに反応して、とうっ! と掛け声と共にジャンプする。
「ふんぬ!」
そして思いっきりバレーボールを浜辺に打ち下ろす。
砂にボールが当たった瞬間、鈍い音がしてボールが砂浜にめり込んでいる。
やっぱりか……ボールが殺人的な威力をしていたぞ。
「……砂浜にめり込んでるわね」
「な? 俺とエステルがこんなのに参加したら、死んじゃうから」
恐らくシスハやルーナもこれに近いレベルだろうし、一緒にやったら俺とエステルが死んでしまう。
殺人ビーチーバレーなんてやりたくないよ
「ブー、ブー、でありますー。それじゃあ、モフットと散歩でもしてくるのでありますー」
ノールは不満そうにしながら、ビーチテントで休んでいたモフットを抱いて歩いて行った。
「それなら、私はルーナさんと……」
「おい、こっち来るな。1人で海面でも走ってろ」
「そんなぁ……うっ、うぅ……」
シスハもルーナと遊びたいのか近寄っていくが、手をシッ、シッと払ってルーナに来るなと言われる。
そして彼女は膝から崩れ落ち、四つん這いになって全身でショックを表現した。
そこまで遊びたかったのかよ……。
「ホント騒がしいな……」
「ふふ、いいじゃない。こっちの方が楽しそうでしょ?」
「まぁ、そうだな」
ちょっと騒がし過ぎるけど、こういうのも悪くはない。
その後はフリスビーやバーべキューなどをし、初めての海水浴は割と楽しく終わった。




