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ヘルムの下

 ウルフ討伐依頼から数日、俺達はまた魔石を増やす為に狩りまくりの日々を送っていた。

 魔石も順調に貯まり、最初の頃の勢いには劣るが今38個まで貯まっている。

 ふふ、もうすぐセカンド平八カーニバルの開催だ。


 所持金の方は既に100万Gを超えている。

 そろそろ宿の部屋を2部屋にするかノールに聞いたけど、そのままでいいでありますよ! と断られたのでそのままだ。

 まあ特に問題無いし、話もできるのでこのままで俺も良いんだけどな。


「おっ、大倉じゃないか。こんな所でどうしたんだ」


「あっ、グリンさん。先日はお世話になりました」


 今日も冒険者協会で依頼を探す。

 すると途中で見覚えのある男性に声をかけられた。

 前に馬車の護衛で同行したグリンさんだ。


「そんな堅苦しい挨拶よせやい。で、どうして冒険者協会になんているんだ?」


「えぇ、実は私達も冒険者になったんですよ」


「あー、あんたら強かったもんな。あれからそう日も経ってないし今Fランクぐらいか?」


「いえ、今はEランクですよ」


 そういえばまだ冒険者になって10日と少しぐらいか?

 早いのか遅いのかわからないな……でも依頼主のいる討伐依頼とただの魔物討伐だけだし案外楽な気もする。


「……早いなおい」


「グリンさん? 大倉様達とお知り合いなんですか?」


 グリンさんと話していると、受付嬢さんが声をかけてきた。

 手には何やら書類を持っているが……まさかまた依頼なんじゃ。


「おぉ、マーナちゃん。いやぁ、少し前に魔物の軍団に襲われた時に助けてもらったんだよ」


「そうだったんですか。ところでグリンさん、大倉様、今お暇でしょうか?」


「ん? なんか用か?」


「はい、護衛依頼が入っておりまして。3名程募集しているんですよ。こちらが詳細でございます」


 やっぱり依頼だったか。

 3名募集してるとか、偶然過ぎる。それにノールはもう俺とセット扱いだな。

 というか受付嬢さんの名前がついに判明した。

 マーナさんというのか。今まで聞くのもあれかなって思って聞かなかった。

 

 さて、マーナさんから書類を受け取って目を通す。

 えーと、ルベルグ村まで馬車の護衛? 徒歩での移動になるか。

 まあこれなら受けてもいいか。報酬は10万Gだ。


「うげぇ……ビストロス森林抜けかよ」


「ここってどんな場所なんですか?」


 同じく書類を見ていたグリンさんが嫌そうな声を出した。

 詳しく聞いてみると、ルベルグ村に行くにはビストロス森林という場所を抜けなくてはいけないらしい。

 普段はすんなりと通れるらしいが、たまに凄く強い魔物が出てくるとかいう話だ。


「まぁあんた達が一緒なら大丈夫そうか」


「期待されると困りますけど……私達も一緒に行きますよ。ノールも平気だよな?」


 グリンさんには世話になったし、この世界で数少ない顔見知りだ。

 協力するのも悪くないだろう。

 一応ノールにも確認を取ろうと振り返ると、えへへ~、と声も出しだらしない顔をし手のひらにぬいぐるみを載せて眺めていた。

 あれこないだあげたぬいぐるみじゃないか……。


「おーい」


「ふぇ!? あっ、だ、大丈夫でありますよ!」


「それ気に入ったのか……」


 こいつ絶対話聞いてなかっただろ。まあ来るだろうしいいか。

 


「グリンさん、1つお願いがあるんですがよろしいですか?」


「ん? どうした」


「これで少しだけグリンさんを見させてもらってもいいですか?」


「なんだそりゃ? まあいいぞ」


 護衛対象の馬車と合流し、俺達は依頼を開始した。

 ルベルグ村には2日程歩けば到着するという。

 背負ったマジックバッグに食料などを入れているので、野宿の準備は万全だ。


 そして移動している途中、俺はあることを試す為にグリンさんにお願いをした。

 取り出したのはスマホ。そしてこれでグリンさんのステータスを見てみるのだ。

 今なら周りに人もいないし、他の人間に見られる心配はない。

 街中じゃ何処に人の目があるかわからんし、迂闊に試せなかったんだよね。

 できれば戦闘をする冒険者が見たかったし、これは絶好のチャンス。


「それじゃ失礼します」


――――――

●グリン 種族:ヒューマン

 レベル:30

 HP:500

 MP:0

 攻撃力:200

 防御力:160

 敏捷:40

 魔法耐性:5

 固有能力 無し

 スキル 無し

――――――


 む、これは……。失礼だが、少し低く思えるな。

 やはり俺とノールが異常な数値になっているみたいだ。

 俺は主人公ユニットと同性能ステータスだからか? ってことはこの世界でGCユニットは非常識な戦闘能力があるというのは確定か。


「ありがとうございました」


「おう? なんだったんだ?」


 やはりこれは広めてはいけないことだな。

 そしてこのステータスということは、俺の装備関連も全部異常だな。

 ノールを見た時のことを考慮すると、このステータスアプリでは装備の上昇分までは表示されないのか。


「そういえば思ったんですけど、冒険者って皆戦士みたいな人ばかりじゃないですか? 神官とか魔法を使う人はいないんですか?」


「この前も思ったが、あんたらこの辺のことには詳しくないみたいだな。そういや遠くから来たとか言ってたな」


 あまりスマホについて追及されたくないので、話を切り替える。

 そのついでに疑問をぶつけてみることにした。

 前会った時遠くの出身だと言い色々誤魔化したのだが、今回もそれでいけそうだ。

 冒険者になってから疑問だったのだが、冒険者を見ても大きな盾を持った壁役、剣や斧、槍を持つ攻撃役、そして遠距離の弓。


 これしか見かけないのだ。

 よくあるファンタジーの杖を持った神官や魔法使い。

 それを一切見かけていない。


「神官や魔導師が冒険者なんてやる訳ねーよ。殆どの奴は王都のシュティングで専属の治療師になっちまう。魔導師もクェレスにある学校に行って、その後シュティングで軍に入っちまうな」


「なるほど。だから冒険者協会で見掛けなかったんですね」


 治療師か。確かに需要も有りそうだし、冒険者やるよりもよっぽど安定して金を稼げるな。

 魔導師も同じようなもんか。軍っていうぐらいだし多分雇うのは国か。

 そりゃ同じような危険度なのに不安定な冒険者なんかやらんか。


「そういうことだ。冒険者パーティで神官や魔導師がいるだけで、冒険者では頭1つ抜けた存在になるってこった。実際Aランク冒険者のパーティには両方居るのが多いからな」


「グリンさんはAランク冒険者達と会ったことが?」


「あぁ。あんた達もすげーが、Aランク冒険者達は格が違うな。俺も昔にドラゴンの大討伐に参加した時見たんだ。ありゃもう人を辞めてる奴らの集まりだな。Dランクの俺でもそう思うんだ。まあ、あんた達ならBは確実にいけるだろうけどな」


 グリンさんでDか。Aランクとかがどのぐらいの強さか想像ができないな。

 やはり情報が少な過ぎる。

 どうにか街中でのステータス盗撮方法の確立を目指さなければ。


「うお!?」


「うっわ!?」


「ど、どうしたでありますか?」


 馬車に随伴し移動していたが、ドスンと音がして突然地面が揺れる。

 もう半日以上は歩き、ビストロス森林にも既に入っていた。

 ビストロス森林でのこの振動。こりゃ魔物が来たか?


「あ、あんた達逃げろ! さ、サイクロプス、サイクロプスが出たぞ!」


 御者台に居た依頼主が叫び声を上げた。

 そして前方の森の中から、全身灰色の1つ目の巨人が姿を現す。

 額には鋭い1本角まで生やしている。

 手には3mはあるだろう棍棒。背丈は首を上に向けないと見えない程の高さだ。

 5m、いや、それ以上かもしれない。


「な、なんだと……お、おい、あんた達も急いで逃げるぞ!」


「戦わないんですか?」


「馬鹿言ってんじゃねーよ! サイクロプスだぞ? あいつの討伐ランクはCだ。Cランク冒険者パーティじゃなきゃ勝てないんだよ! くっそ、なんでこんな場所でサイクロプスなんて……」


 その姿を見たグリンさんは、馬車を降りて後方に走る依頼主と共に逃げ出そうとする。

 確かにこいつはデカイし怖いな。

 しかし、こっちにはノールがいる。彼女さえいればサイクロプスでさえ問題はないだろう。

 それでもスキルを使うことになりそうだったら逃げるか。

 またノールを筋肉痛にさせたくないし、帰りに魔物に襲われてしまったらやばい。

 スマホを急ぎ取り出し、サイクロプスをカメラに収める。


――――――

●種族:サイクロプス

 レベル:45

 HP:2万6000

 MP:0

 攻撃力:700

 防御力:500

 敏捷:20

 魔法耐性:10

 固有能力 特効無効

 スキル 無し

――――――


 うーん、HPが高いな。攻撃力も高い。

 それと……特効無効!? おい、なんだこのピンポイント能力。

 これじゃノールの強みが半減だな……どうするべきか。


 彼女ならば防御2000超えているし、ダメージは入らないはずだ。

 俺は総防御力が鎧など含め大体500。俺も数発ならば耐えられる。

 攻撃力は850程度だから攻撃が350しか通らないな。

 ノールは2500近くのはずだから2000ぐらいは通るはず。ノールが13回攻撃したら倒せるか。

 しかし、あまり長引かせると他の魔物が来る可能性がある。


「これぐらいなら平気か? ノール!」


「了解でありますよ! スキルの使用は?」


「必要無い。むしろその後ダウンする方が痛い。まず動きを低下させてくれ、行くぞ!」


「おい、馬鹿止めろ!」


 グリンさんの制止を無視し、俺とノールは走り出す。

 今の俺の走りは、ノールの全力には劣るがそれなりに速い。ニケの靴めっちゃ良い。

 サイクロプスはすぐに気が付いて、棍棒を振り下ろそうと腕を上げる。

 

「おっと、はは。この靴すげーや」


「良い動きするでありますな大倉殿」


 サイクロプスが走り棍棒を振り下ろす前に、走り抜け俺は後ろに着く。

 そして、サイクロプスが棍棒を振り下ろした瞬間ノールは横に飛んだ。

 彼女はその後振り下ろした腕を剣で切り裂く。これで行動速度-50%だ。

 振り下ろした腕を上げる速度も遅く、その間に俺とノールはサイクロプスに攻撃を叩き込んでいく。

 

 その後はもう作業みたいに攻撃をするだけだと思っていた。

 しかし俺が膝裏辺りにバールを突き刺した瞬間、ついにHPが無くなったのかサイクロプスが後ろに倒れ始める。


「へ?」


「大倉殿!」


 ドロップアイテムに変化する前の巨体が、俺に圧し掛かろうとした。

 だが、ノールの声が聞えたと思うと俺の体は強い衝撃を受け、後方へと飛んだ。

 地面に衝突し背中に痛みが走ったが、なんとか助かった。

 前を見てみると、俺に抱き付き一緒に飛んだノールがいる。


「お、おい、ノール! 大丈夫か!?」


「いたた、大丈夫ですか?」


「えっ、あっ、うん?」


 慌てて声を掛けると、いつもと違う声色の返事があった。

 頑固に外さなかったヘルムが無く、長い銀髪少女が俺の体に抱き付いている。

 そして透き通った青い瞳と目が合う。

 幼さを残す童顔、素顔を晒したノールが俺の目の前に。


 お互いの息づかいが聞こえる程の近さで見つめ合い、俺はまるで頭をトンカチで殴られたような衝撃を受けた。

 とりあえず思ったことを簡単に言うとだ、めっちゃ可愛い。


「えへへ、よかった~」


「いや、お前の方が大丈夫なのか?」


 顔を見て唖然としていたが、口調を聞いて違和感を覚える。

 なんかおかしいぞ、どうしたんだ? もしかして頭でも打ったのか?


「え? どうかし――あっ、ああぁぁあぁ!? へ、ヘルム、ヘルムが無い!」


 ようやくヘルムが無いことに気が付いたのか、慌てて俺の上から退く。


「やだぁ、見ないでぇ、見ないでよぉ……」


 そして泣きそうな声で両手で顔を隠してしまった。

 立ち上がっていたのに、力無く女の子座りで座り込む。

 なんだろうか、この気持ちは。

 この姿を見ていると、どうもいけない扉を開いてしまいそうだぞ。


「ほ、ほら、ヘルムだ」


「うぅ、ぐすぅ、見られたぁ……聞かれたぁ……。ぐすぅ、もうやだぁ……お家帰るでありまずぅ」


「ホントごめん、ごめんな」


 辺りを探すとヘルムは転がっていた。拾い目の前まで運んでやると、物凄い勢いで俺の手から取って被る。

 そして、彼女は頭を抱えてうずくまってしまった。

 声から察するにマジ泣きしてる。なんだ、とてつもない罪悪感だぞこれ。

 うずくまり泣き続ける彼女の背中をさすって、俺は謝り続ける。一体この状況はなんぞや。

●ノール・ファニャ    

レベル 12→16        

HP 1780→1940

MP 190→230

攻撃力 410→450

防御力 295→315

敏捷 69→73

魔法耐性 30

コスト 15

●【団長】大倉平八

レベル11→15

HP 770→810

MP 95→115

攻撃力 255→275

防御力 195→215

敏捷 35→39

魔法耐性 10

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[良い点] ヘルム取ったらかわいい 最強の定番
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