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棺の中は

 扉を無理矢理開けるのを諦めて、宝石を棺に素直にはめることにした。


「さてと……それじゃあ、やるとするか」


「この棺の中身、やっぱり魔物なのでありますかね?」


 ノールは顎に手を当てて、棺を見ながら呟いた。

 何を今更……どう考えたって、この中身魔物だろ。むしろ魔物じゃない方がびっくりだよ。


「そう考えるのが妥当なんじゃない?」


「開けるのなら、ちゃんと心構えをしておいた方がいいかもしれませんね」


「なんなら開けた瞬間に私が槍をぶち込むか?」


 これからここから魔物が出てくると改めて認識し、全員武器を握り直してやる気十分という感じだ。

 ルーナは槍を投げる構えをして、魔物が出て来る時を狙おうとか言っている。

 なんて物騒な……俺と大して発想が変わらないじゃないか。


 ……ん? 待てよ……確かにこのまま普通にこの棺を開けて、正直に魔物と戦う必要なんてないんじゃないか?

 よし、ならばあれを使って……。


「何、してるのでありますか?」


「ん? 準備だけど」


「そんなに爆発物を周りに置いて……出てきた瞬間爆破するつもりですか……」


 俺はバッグからマジックダイナマイト数個と爆裂券2枚を取り出した。そしてそれを棺の前方に設置する。

 その様子を見ただけで、シスハは何をするのか理解したみたいだ。

 出てくる場所とタイミングがわかっているのなら、それはもう出てくる前から倒す準備をしてくれと言っているようなもの。


「よし、じゃあ俺が開けるから、エステル達は外に出ていてくれ。俺がこの部屋から出てきたら、エステルは部屋に向かって火の魔法撃ってくれないか?」


「それはいいのだけど……」


「まともに戦う気がまるでないのでありますね……」


 爆発物だけじゃ心許ないから、エステルの魔法攻撃も加えようと思う。

 この部屋は真っ直ぐな通路の先にあるので、先にノール達を外に待機させて俺が出てきた後すぐに攻撃を撃ち込む。

 エステルの火の魔法なら、部屋の中全体を爆破するぐらい楽にできるはず。

 ふふふ、ここまでやれば即死だろうな。


「出てくるのがわかっているんだから、出待ちするのは当然だろ。攻撃される前に倒せるなら1番良いに決まっている」


「そうだな。それがめんどうがなくていい」


「あはは……ルーナさんは大倉さん寄りの思考なんですね……」


 少し呆れ交じりの反応を彼女達はしていたが、ルーナだけはうんうんと首を縦に振っている。

 出てきた瞬間に攻撃しようと提案しただけはあるな。なんだか色々分かり合える気がするぞ。

 まあ、俺は危険な事を回避する為だけど、ルーナはめんどくさいって動機の差はあるけどな。

 それでも利害は一致しているから、今後も味方になってくれそうだ。


 準備も終わったので、ノール達を部屋から出して俺だけ残った。

 さて、この棺から一体どんな魔物が出てくるのやら。


 さっそく宝石を取り出して棺の蓋部分にある六角のくぼみへとはめ込む。

 その瞬間、赤い宝石は輝き緑の棺が発光し始めた。

 そして次第に光は収まり、部屋の中になんともいえない静けさが訪れる。


 な、何もないのか? なんだか拍子抜け――。


「うおっ!? や、やば」


 突然ドンッ、という音と共に目の前の棺の蓋が上へと吹き飛んだ。

 明らかにやばいので、何が出てきたのか確認せず、俺は急いで振り返り部屋の外まで走り出した。


 部屋から少し離れてから爆裂券に爆発するよう念じると、後ろから爆発音が聞こえる。

 爆裂券は1枚で5回爆破できるから、2枚で10回。ダイナマイトも誘爆しているはずだ。


「エステル、やってくれ!」


「ええ、任せて!」


 エステルは杖と赤い本を持って既に準備をしていた。

 俺が合図を送ると、彼女は火の玉を作り出す。

 いつもの巨大な玉じゃなくて、ドッジボール程のサイズが次々とエステルの周りに出現していく。


 そして杖を前に振ると、浮いていた火の玉は次々と棺の部屋へと入っていき、さっきと大差ない爆発音を響かせる。

 棺の部屋からは炎が漏れ出し、中は煙と炎が入り混じって視認が全くできない。


 うわぁ……俺から提案しておいてなんだけど……エグいなぁ。こりゃ確実に生きてないだろ。

 念の為地図アプリで確認していると、棺の部屋にあった赤い丸が灰色へと変わった。


「ははは、見ろ! 部屋から出てくる前に仕留めたみたいだぞ!」


「本当にこれで終わりなのでありますか……」


 倒したぞとノールに地図アプリの画面を見せると、やるせない雰囲気をしていた。

 ボス戦かもしれないとワクワクしていたのか? 遺跡に入った時は楽しそうにしていたから、ちょっと悪いことした気分だな。

 しかしこれでこの迷宮も終わり! ふふふ、ガチャ、ガチャの時間が来るんだ!


「あれ……お兄さん。これ、灰色ってことはもしかして……」


 俺が終わりだと浮かれていると、地図アプリの画面を覗き込んだエステルが呟いた。

 ……ん? 灰色で残ったまま……あっ、これもしかして……。


 まさかと地図アプリをそのまま凝視していると、灰色だった棺の部屋の丸が赤に戻った。

 こ、これは!?


「エ、エステル! もう一度あの部屋の中に火の魔法ぶち込め!」


「わかったわ! えーい!」


 この魔物、フラーウムマミーと同じ復活する奴だ。ならばもう一度倒すまで。

 エステルに追加で棺の部屋に火の玉を撃ち込んでもらう。

 さっきよりも少し長い時間撃ち込み、また棺の部屋の赤い丸は灰色になる。


 爆裂券のダメージがなかったから多少長引いたか。

 地図アプリで見ていると、あれを撃ち込まれているのに入り口の方へと徐々に近づいていたのが恐ろしい。

 よし、もう1度倒したしこれでお終い――。


「は? ま、また復活しやがったぞ!?」


「で、出てきましたよ大倉さん!」


 このまま消えてくれと願っていたが、地図アプリに表示されていた灰色の丸はまた赤へと戻った。

 そしてとうとう、棺の中にいた魔物が部屋の入り口から出てくる。


 姿は上半身が楕円のように縦に細長く、腕はないがその代わり、ガッチリとした足。上の方には黒い目が2つだけ付いている。

 部屋から出てきた魔物はマミーに比べると愛嬌がある見た目をしていた。

 怒っているのか目の横部分に青筋を浮かべ、俺達の方を見てプルプルと震えている。


 出てきた瞬間に部屋を爆破されたら、そりゃ怒るよなぁ……。

 しかし参ったぞ。まさか2度も復活して来るとは思わなかった。

 どんな魔物なのかわからないし、まずはステータスの確認だな。


 ――――――

●スマイター 種族:マミー

 レベル:55

 HP:3万5000

 MP:2000

 攻撃力:4500

 防御力:3500

 敏捷:120

 魔法耐性:20

 固有能力 低下無効 状態異常無効

 スキル 昇華 白き流星

――――――


 既に2回倒しているからHPは高くないと予想していたが、ここまで低いのか。

 だけど攻撃力と防御力と敏捷が高いから、近接で戦うのは危険だな。

 復活する原因になりそうなのはスキルの昇華か……マミーの活性化とどう違うんだ?

 それと白き流星って……カッコいい感じがするけど、ちょっと怖いな。


「と、とりあえずもう一度攻撃だ!」


「任せろ!」


「わかったわ!」


 このままでは棺の部屋から出てきて追いかけてきそうなので、今の内にもう1回倒しておこう。

 そう思い俺が攻撃しろと言うと、ルーナとエステルが元気よく返事をし、各々の武器を構える。

 そしてルーナが槍を投擲すると、スマイターの体に槍は突き刺さり、次にエステルが火の玉を撃ち出してまた棺の部屋まで押し戻す。


 その後も攻撃の手を緩めずに、またあいつが倒れるまで攻撃をしてもらったのだが……。


「おいおい……まだ立ち上がるのかよ」


「ど、どうするでありますか? 私達も近づいて、消えるまで倒し続けるでありますか?」


 地図アプリで見ていると一瞬灰色に変化したのだが、またすぐに赤色へと戻った。

 これで3度目。なんかさっきよりも復活速度が早くなっている気がするな……念の為もう1度ステータスを見ておくか?


  ――――――

●スマイター 種族:マミー

 レベル:60

 HP:3万7000

 MP:2050

 攻撃力:5000

 防御力:3700

 敏捷:140

 魔法耐性:20

 固有能力 低下無効 状態異常無効

 スキル 昇華 白き流星

――――――


 ……!? レ、レベルが上がってる!? それにステータスが大幅に上がっているぞ!

 まさか昇華ってスキル……倒されたらさらに強化されるってことか?

 既に3回……強化されるペースが同じなら、今の時点で15レベルは上昇しているかもしれない。

 これ以上やっても、どんどんエボリューションしちまう!


 部屋に押し戻されたスマイターが煙を纏いながら、さっきよりも震えを大きくして部屋から出てくる。

 それを見て、ルーナがまた槍を投擲しようと構えだした。


「待て! あいつ、さっきより強くなってる! 一旦倒すのは止めだ!」


「えっ……まさか倒せば倒すほど、強化されるって奴なんですか?」


「チッ、もしそうならめんどうだぞ」


 これ以上下手に倒したら、さらに強化されてしまうから俺はルーナが攻撃するのを止めた。


 現時点で攻撃力5000……既にゴブリン迷宮にいたベヒモス並の攻撃力。

 あいつは上にいたゴブリンさえ倒せればなんとかなったが、こいつはそうはいかない。

 普通に戦うには、あまりにも危険だ。


「一旦退いてどうするか考え直そう。って、走ってきた!?」


 いくら急いでいるとはいえ、このまま戦えば確実に俺達に被害が出る。

 そう判断して、逃げれる今の内に逃げ出しなんとか対策を練ろうとしたのだが……俺達がその場から退こうとした瞬間、スマイターは走りだして向かってきた。


「ど、どうするであります! あれ、考え無しに倒していたらドンドン強くなるのでありますよね!」


「どうするって言われても! どうすりゃいいんだ!」


「この前も逃げるパターンでしたよね! このままだと、いずれ逃げ場がなくなりますよ!」


 俺達も慌てて走りだして、スマイターから距離を置く。

 不味いな……このまま走り続けても、すぐに追いつかれそうだ。

 今はまだなんとか俺とノールで攻撃を受ければそれほどの脅威じゃないが、あと数回でも倒せばそうも言ってられない。


 今回ばかりは、前回のベヒモスの時みたいにすぐどうにかできる案が浮かびそうにもない。

 どうする……どうすればいいんだ?


 と、その前にだ。


「エステル! ちょっと持ち上げるぞ!」


「えっ……きゃっ!? お、お兄さん!?」


「すまないけど、しばらく大人しくしていてくれ!」


 1番最後尾で既に息を切らしそうになっているエステルを、俺は両腕で抱え上げた。

 こうやって走るとなると、体力のないエステルじゃきついからな……幸い俺も少しは身体能力が上がっているから、軽い彼女なら持ち上げて走るぐらいわけない。


 エステルを抱えながら走り続けていると、だんだんと逃げる方向にマミーが現れるようになった。

 それをノールとルーナが瞬殺して、道を切り開いて進んでいく。


「大倉殿! このままだとマズイでありますよ!」


「エステル、どうにかあいつの動き止められないか!」


「やってみるわね」


 倒したマミーの中に、ちらほらと消えないでそのまま残る奴も混ざっている。

 それを通り過ぎる際にエステルに焼いてもらっているが、走っているせいで全部はできない。

 このままでは逃げれば逃げるほど、迷宮内に活性化したフラーウムマミーが増えていってしまう。

 早くどうにかしないと、この迷宮をクリアするのがさらに難しくなっていくぞ……。


 ちらりと後ろを振り返ると、両足を大きく振り上げながら、身を左右に振って爆走するスマイターが視界に入る。

 怖い! あれめっちゃ怖いよ!


 エステルになんとかできないか頼んでみると、彼女は俺の後ろに顔を向けて、何度か杖を振り始めた。


「……駄目みたい。土魔法も、周りの壁に干渉できないから使えないわ」


 くっ、状態異常無効と低下無効の固有能力があるから、魔法による干渉もできないのか。

 迷宮だからか、周囲の壁にエステルの土魔法が使えないみたいで、壁を作って封じ込めることもできない。

 ノールのレギ・エリトラによる行動速度低下を使って逃げるのも不可能。


 ……これ、詰んでる?


「――ぬわっ!?」


 どうしようかと考えていると、突然ノールが叫び声を上げて転倒した。

 おいおいおい!? なんでよりによってこの場面で転ぶんだ!


「おい! 何やって――」


「むっ、ぐっ! ……う、動けないでありますぅ」


 転倒したノールに代わって、ルーナとシスハは前方のマミーと戦っている。

 エステルを一旦下ろして、俺は転倒したノールの傍に近寄った。


 ノールは力いっぱい地面に手を付いて体を持ち上げようとするが、少し上半身が持ち上がった後すぐにビタン! と音がしそうなぐらいの勢いで地面にまた沈む。

 何が起きているのかと彼女の体をよく見ると、足の辺りにグジュグジュとした緑色の液体が纏わり付いていた。


 ……そういうことか。これ、リガスマヌスだろ。まさかこのタイミングでスキルを使って邪魔をしてくるなんて……。


「お兄さん! 後ろ!」


 すぐにリガスマヌスを倒そうとバールを取り出したが、突然エステルが叫んだので振り返る。

 すると、光り輝く真っ白な塊が高速で俺達の方に向かい突っ込んできていた。

 エステルが止めようと何度か火の玉の魔法で攻撃をするが、それを物ともせず火の玉を突き破り直進してくる。


 あれがスマイターのスキル、白き流星なのか?


「ぐっ……あっ……うおっ!?」


「ぐへっ!? ……お、重いのでありますぅ……」


 このままだと倒れているノールに当たりそうだったから、俺はノールの前に立って鍋の蓋で攻撃を防ぐ。

 当たった瞬間、かなりの衝撃が腕に伝わり、踏ん張りきれずにそのまま俺は後ろへ弾き飛ばされた。

 そして背中に衝撃を感じると、後ろからノールの苦しそうな声が聞こえる。


 吹き飛ばされて、彼女の背中に俺が吹っ飛んで圧し掛かってしまった……本当にすまないと思う。


 俺はすぐに立ち上がろうとしたのだが……前を見ると、白い塊――スマイターが俺を見下ろしていた。

 あっ……やばい。


「平八! 立つな!」


 俺の背中にいるノールのことも考え、攻撃されてもいいように俺は鍋の蓋を強く握り締めていた。

 そしてスマイターが片足を振り上げた時だ。


 前で戦っていたルーナの声が聞こえて、俺の頭の上を風を切る音と共に、極太の赤い閃光が通過した。

 攻撃しようと片足を上げていたスマイターは体の中央部分にその光を受け、くの字に曲がりながら通路の奥へと消えていく。


 す、凄まじい攻撃だ……ルーナの声がしたし、今のが彼女のスキルを使った攻撃なのか?


「た、助かった……ありがとな」


「そんなことより、早くノールを起こしてやれ。飛ばしたとはいえ、そんな時間稼ぎにはならないだろう」


 スマイターからの攻撃から逃れたことに安堵していると、ルーナが近づいてきた。

 手には槍が握られているから、既に自動回収で戻ってきたみたいだ。

 言われたとおり急いでノールの足にへばり付いていた、リガスマヌスを引っぺがして彼女を起き上がらせた。


 ふぅ……まさかノールがこんなことになるなんてな。

 いつも頼りにしていたから、まさかこんな事態になるとは思わなかった。

 リガスマヌスに誰かが掴まれるというのも、迷宮に入って今までなかったから油断していたな。


「申し訳ないのであります……」


「私もごめんなさい……あれを止めることができなくて……」


「いや、2人が無事で何よりだ」


 ノールはしょんぼりとしながら、俺達に向かって頭を下げて謝った。

 エステルも食い止めることができなかったと、申し訳なさそうにしている。


「とりあえずあいつを引き剥がすことができたし、もう少し進んでこれを使って避難しよう」


 ちょっと気まずい雰囲気だが、それを気にしている場合ではない。

 俺は避難しようと言い、鞄からドアノブを取り出した。

 コンプガチャで当てた、ディメンションルームだ。


 このまま戦い続けても、事態がいい方向に行く気がしないから、これを使って逃げて一旦仕切り直しをしようと思う。

 くそ……スマイターめ。どうにかして、あいつを倒さなければ……一体どうしたらいいのだろうか?

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