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アンゴリ迷宮

 開いた扉を潜ると、また下に降りていく階段が続いていた。広さはそこそこあって、5人で横に広がって歩けるぐらいはある。

 そのまま奥へと進み、だんだん壁や床の緑色の輝きが増していき、階段が終わり直線の通路に出た。

 そこはいつもの迷宮と同じような場所に思えるが、造りが遺跡そのままで緑色に発光しているから、いつもより雰囲気がちょっと怖い。

 

 前回の反省を踏まえて、今回は入る前に全員にトランシーバーと脱出装置を渡しておくことにした。

 これで何かあったとしても、連絡もできて脱出も可能だ。


「……よし。今回は俺が先頭で進むから、ノールは1番後ろを頼む」


「へ? お、大倉殿が先頭なのでありますか!? どうしちゃったのでありますよ!」


 遺跡といったら罠とかが多そうだし、状態異常の耐性と防御力が高い俺が先頭がいいだろう。

 後ろは1番ステータスが高いノールに任せておけば心配はない。

 そう思い提案したのだが、ノールは俺が先頭だということを聞いて口に手を当てて驚いている。

 ……いくらなんでも驚き過ぎだろ。


「そんなに驚くことじゃないだろ?」


「前に出発すると言いながら、私を先頭で進ませたのは誰でありますかね……」


 また昔の話を持ち出しやがって……確かにそんなこともあった。

 でも、今は装備も充実してレベルも上がっているんだから、いつまでもノールに頼ってばかりじゃ情けないからな。

 俺だってちゃんと活躍できるってことを証明してやるぞ!


「それじゃあ、お兄さんにしっかり守ってもらおうかしらね」


 そんな風に意気込んでいると、後ろからエステルが抱き付いてきた。


「こら! 抱き付くなって! エステルはできるだけ皆の中心にいてくれ!」


「あっ――」


 エステルとシスハは防御力が低いから、できるだけパーティの中心にいて守りやすいようにしておきたい。

 だから抱き付いてきたエステルをゆっくりと引き剥がした。

 すると、彼女は小さく声を洩らし眉を寄せて悲しそうな表情で俺を見上げる。

 

「うっ……何かあったら俺がしっかり守ってやるから、そんな顔するな」


「あら……ふふ、そんなこと言ってくれるなんて嬉しいわ」


 見ていてなんだか心が痛くなってきたから、思わず前にシスハが言われたいと言っていた言葉をかけてやった。

 それを聞いたエステルは、さっきまでの悲しそうな雰囲気が嘘のようになくなってニコニコと笑い上機嫌な様子。

 切り替えるのはや!? まさか演技……じゃないよな? はめられたか?


 エステルの切り替えの早さに俺が唖然としていると、口元に手を当ててニヤニヤしているシスハが目に入った。

 凄い楽しそうな顔してるな、おい。


「な、なんだよ?」


「うふふ、なんでもありませんよ」


「単純に俺が1番防御力高いから守らないとって思っただけだからな! そんなことより、何かあったらしっかり回復してくれよ!」


「全く、素直じゃないですね。ちゃんと回復いたしますから、安心して進んでください」


 前に俺がシスハに同じこと言った時のことでも思い出しているのだろう。

 長引かせて余計なことを言われても困るから、早々に話を断ち切って俺は進み始めた。

 チラッと後ろを見るとシスハと目が合い、またニヤニヤと笑っているのが見える。

 くっ……やっぱり恥ずかしいことは言うもんじゃないな……。


「やれやれ。お前たちはずっとこんな風にやってきたのか? まるで緊張感がないのだな」


 俺達の会話を黙って聞いていたルーナが、呆れたような声で口を開いた。

 確かに迷宮に入ったというのに、少々気を抜き過ぎていたかもしれない。


「緊張し過ぎるよりはいいんじゃないかしら」


「もう少しぐらい気を張れというだけだ。ほら、目の前に魔物がきているぞ」


 ルーナが真っ直ぐ奥まで続く通路を指差すと、床からグジュグジュとした緑色の液体のような物があるのが見える。

 そしてそれが盛り上がり始めて、だんだんと形が変わっていき、最後には人の手のような形へとなった。

 まるで床から腕が生えているみたいだな……見ていて凄く不気味だぞ。

 

 魔物みたいだし、ステータスを確認しておこう。

 

 ――――――

●種族:リガスマヌス

 レベル:45

 HP:8500

 MP:0

 攻撃力:20

 防御力:10

 敏捷:80

 魔法耐性:60

 固有能力 同化

 スキル 縛り付ける

――――――


 ん? 弱いな? でも、スキルの縛り付けるっていうのが気になるぞ。

 HPが低いから脅威にはならないけど、お邪魔キャラ的な存在か?


 とりあえず倒しておこうと近づいていく。

 しかし、リガスマヌスは俺の攻撃範囲に入る前にまた液体のような状態になってグジュグジュと奥の方へ消えていった。

 敏捷が微妙に高いから、結構な速さだ。


「逃げたか……。マミーよりはマシだけど、これはこれで嫌な魔物かもな」


「突然地面や壁から出てきて掴まれたら、危ないかもね」


 自分から逃げていく魔物はフロッグマン以来だな。

 戦わずに済むのはいいけど、他の魔物と戦っている時や罠に掛かった時に掴まれたら厄介そうだ。

 そういう意味じゃ今までの魔物の中でかなり嫌な部類に入るかもしれない。


 リガスマヌスと遭遇してから真っ直ぐな通路をしばらく進んで行くと、今度は少し広めで何個も部屋の入り口がある場所へと出てきた。

 ふむ、ここからは少し迷路のようになっているのか……こりゃめんどくさそうだ。


 さっそく目に付いた部屋に入り1歩踏み出したのだが……。


「うおっ!? あ、あぶねぇ……」


 俺が部屋に1歩足を踏み入れた瞬間、左右から突然風を切るような音と共に何かが上から振子のように向かってきた。

 普通なら避けられないぐらい速かったが、エクスカリバールのおかげで行動速度が上がっていたから後ろに戻ってなんとか回避する。

 避けた直後、バッコン、と音を立てて緑色の四角い石のような物がぶつかり合い、入り口を塞ぐかのように止まった。


「罠があるみたいですね」


「よく反応できたでありますな大倉殿」


「エクスカリバールのおかげで見てからなんとかな……」


 し、死ぬかと思った……初手で完全に殺しに来てるトラップかよ……引っかかったのが俺でよかった。

 潰されても多分平気だっただろうけど、できれば当たりたくないからな。

 行動速度に関しては、この中じゃ1番俺が早いからある意味適任だったか。持ってて良かったエクスカリバール。

 

 それから他の部屋を探索し始めたのだが、床の一部が沈んだ瞬間周りから矢や槍が飛んできたり、壁にはまった宝石を取ると天井が迫ってくる部屋があったり色々な罠を体験した。

 ……勘弁してほしい。


「はぁ……はぁ……ま、魔物は少ないけど、罠が多くないか?」


「上の遺跡に罠がなかった分、こっちにあるのかもしれないわね」


「これなら確かに平八が先に行くのがいいな」


 迷宮に入る前は全く罠がなかったのに、ここは罠のバーゲンセールだ。

 なんとか全部防いでいるから怪我はしていないが、精神的に来るものがある。

 魔物は上と同じマミーとリガスマヌスしか出てきていないから、戦闘に関してはだいぶ温い。

 

 宝石とかも必要そうだから回収しておいたけど、あんな怖い目に遭うのは勘弁だ。

 早くこの迷宮終わらせて、自宅でゆっくりとガチャりたいよぉ……。


「ようやく広い部屋か。……なんだ、あの真ん中の玉みたいの?」


「なんだか見張りみたいな感じでありますね。この部屋に入るのは注意した方がいいかもであります」


「あっ、奥の方には宝箱がありますよ!」


 複数の部屋を探索し、ようやく別の場所に繋がる通路を発見したので進んでいく。

 一本道の通路がまた奥まで続いているが、途中にポツポツと入れる部屋がある。

 そしてその内の1つはかなり広めの部屋で、中央には水晶のような玉が台座の上に固定されていて、水晶の中を赤い丸が部屋中を見渡すようにギョロギョロと動いていた。まるでモノアイだな。

 

 部屋の奥の方には窪みがあって、そこには大きめの鉄製と思われる宝箱が置いてある。

 見た感じあの水晶は、あれを取られないように監視しているように見えるな。ということは、あの宝箱は重要な物が入っているのか?


 水晶の動きが生きてるように思えたから、部屋に入る前に念の為ステータスがあるか確認してみた。

 しかし、ステータスアプリには何の反応もない。つまり、あれは魔物じゃなくてただのオブジェクト?

 

 このまま悩んでいても仕方ないので、さっそく俺達はこの部屋に足を踏み入れた。


「んー? 何もなさそ――う!?」


 部屋に入り中間辺りぐらいに差し掛かった時、中央の水晶の赤い点が俺達の方をギョロっと向いた。

 その次の瞬間、水晶が緑色に輝き出し、レーザーのような細長い光が発射された。


「痛っ!? や、やべぇ! 急いで入り口戻れ! エステルとシスハ優先で逃げさせろ!」


「了解でありますぅ!」


 その光を鍋の蓋で受け止めると、凄まじい衝撃が腕に走り一気に腕が後ろに弾かれた。

 なんとか蓋を放さずに済んだが、衝撃でまだ手がビリビリとしている。とんでもない威力だ。

 

 再度水晶の方を見ると、また光を溜め始めていたので、俺は急いでノール達に入り口まで戻れと叫ぶ。

 ノールとルーナなら食らっても多分平気だが、エステルとシスハの場合ただじゃ済まなそうだから彼女達が優先だ。

 

 行動速度上昇のおかげで、辛うじて攻撃を防げる俺が囮になりながら、ノール達を入り口まで避難させた。

 そして俺も逃げようと後ろを向いて一気に走ろうとした瞬間、俺の尻でパンッ! という破裂音と共に何かが弾けた。

 激痛が尻に走り、破裂の勢いで入り口まで一気に吹き飛び、入り口まで転がる。


「ぴぎゃょあぁぁ!? 尻が、尻が2つに割れた!? 回復! 回復!」


「お、落ち着いてください! ほら、すぐに痛みもなくなりますよ」


 激痛に耐え尻を押さえながらシスハに回復を頼むと、俺のお尻に光が集まり暖かな感触に包まれる。

 くっ……まさかあんな早く攻撃してくるなんて……攻撃時間を少し見誤ったか。


「はぁ……なんだよあのレーザーみたいな攻撃」


「お兄さんがダメージを受けるなんて、結構威力があるみたいね」


「むぅ……それでも奥にある宝箱は重要そうでありますし、無視する訳にはいかないでありますよ」


 恐らくあれは魔法による攻撃判定だが、聖骸布がある俺でもなかなか痛かった。

 ノールやルーナが食らっても結構やばかったかもしれないな。

 正直さっきの尻の一撃がかなり痛かったから、諦めて逃げ出したい気分だ。


 でも、あそこまでして守られているとなると、間違いなくあの宝箱の中身は貴重品だろう。

 何か良い手段はないかねぇ。


「私とエステルで攻撃してみて、あれを壊せないか試すか?」


「そうね。無理に行こうとするよりはそれがいいわね」


 俺が悩んでいると、ルーナが壊せばいいと言い出した。

 遠距離攻撃ができるエステルとルーナなら、入り口から安全に攻撃することは可能だ。

 

 さっそくとエステルは赤いグリモワールを取り出し杖を構え、ルーナは槍を持ち上げて投げる体勢になった。

 そしてルーナが力いっぱい水晶に向かって槍を投擲し、エステルはいつもより少し小さめの火の玉を作り出して同じように水晶に向かって撃ちだす。

 

 ルーナの槍が当たった直後に、エステルの火の玉も着弾して、部屋の中が爆発で僅かに揺れる。

 もくもくと黒い煙が水晶があった場所を覆い隠し、どうなったのかわからない状態だ。

 いやぁ……やり過ぎじゃないか? 俺が宝箱壊した時に微妙な反応していたが、ルーナ達も変わらないと思うのだが……。


「傷1つ……ありませんね」


「私の攻撃で傷1つ付かない……だと」


「あれも迷宮の一部なのかしら?」


 煙が晴れると、そこには全く傷のない水晶が。

 それを見てルーナは顔をしかめてショックを受けた感じで、エステルはやっぱりかという落ち着いた様子だ。

 マジか……あれで壊れないのかよ。そういえば、前に迷宮で壁を破壊しようとしたこともあったな。

 その時も全く傷が付かなかったが……あれも同じということなのか?

 

 うーむ……壊せないとなると、もう手段がないな。連射速度もかなりあるから正面突破は辛いし、走り抜けるのもきつい。

 あのモノアイに見つからない方法……あっ、あるな。

 でも、本当にこれでいけるのか?


「ちょっと試したいことがあるから、もう一度行ってみるわ」


「大丈夫でありますか? 無茶したら駄目でありますよ?」


「安心しろって。無理そうだったらすぐ戻ってくるからさ」


 さっそく試す為に、俺はバッグからインビジブルマントを取り出した。

 これで透明になれば、あのモノアイの監視から逃れられるはずだ。もし体温感知とか視覚による監視じゃなかった場合やばいけど……。

 行く前にビーコンを置いて、宝箱までたどり着いたらすぐ戻れるように準備しておく。

 いつバレるかわからない状態の往復なんてしたくないからな。


 宝箱を取るべく、俺はまた部屋の中に足を踏み入れた。

 さっきバレた場所に近づいてくると、撃たれないかとドキドキしてくる。

 部屋の真ん中辺りまで辿りつき水晶の方をチラッと確認すると、全く気が付いた様子もなくモノアイは違う方向を向いていた。

 よし、どうやら視覚で判断していたみたいだな。これで、安心して宝箱の中身を抜き取れるぞ。


 そのまま宝箱の所まで来ることができたので、恐る恐る蓋に手をかける。鍵が掛かっていないか心配だったが、力を込めて上に開けると蓋は開いた。

 水晶にバレないよう慎重に蓋を開いていき、ある程度開いたら手を突っ込んで中身を取り出す。

 

 そしてすぐさま、ここから離れようとスマホを操作してビーコンを使おうとしたのだが……【使用できません】という表示が出てビーコンは使えなかった。

 えぇ……同じ階層に置いても、ビーコン使えないのかよ……。仕方ない、ゆっくり歩いて戻るとするか。


「ふぅ……いつ撃たれるかとヒヤヒヤしたぞ」


「あの赤い目みたいなものに見られると、攻撃する仕組みだったのね」


「イタズラにしか使っていなかったそれが、初めて役に立ったのでありますよ」


 帰りもなんとか無事戻ることができた。

 いやぁ、まさかビーコンが使えないなんてな。遺跡内部じゃ使えたのに、迷宮内部じゃ使えないなんて。

 早めにわかってよかったというべきなのかな?

 

 それより、取り出した宝箱の中身をちゃんと確認するとしようか。


「それで、その割れた石版のようなものはなんなのですか?」


「さぁ? 鍵でもまた入っているのかと思ったけど、これが入っていたぞ」


「ふむ、このギザギザの割れた感じからして、複数集めてくっ付けるものなのじゃないか?」


 宝箱の中身は、四角い手の平サイズの石版のようなものだった。

 二辺がギザギザで荒く欠けているみたいで、ルーナの言うように他の部分と組合わせる物に思える。

 まさかこれと同じ物は複数探さないといけないってことなのか?

 うーむ……急いでいるというのに、時間が掛かりそうな迷宮だなぁ。

載せてほしいとあったガチャの排出結果をまとめたものを活動報告に投稿しました。

興味のある方はご覧ください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] シスハが残念すぎてノールが目立たない シスハが歯止め効かなくなりましたね
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