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遺跡の奥へ

「はぁ……あちぃ……この遺跡、やっぱり広いな」


「んぐ、んっ、ぷはぁ……迷路みたいになっていて、マミーもそこら中にいるでありますね」


 遺跡の探索を続け、今いるかなり広い部分はだいぶ探索し終わった。

 今は一度休憩をして、水筒で水を飲みながら話をまとめているところだ。

 砂漠にある遺跡だからか、内部にいて日の光がなくてもかなり暑い。

 定期的に水分を補給しないと、熱中症で倒れてしまいそうだ。……塩分も取らないと。


「エステルとルーナは大丈夫か? 辛かったら休憩するから、すぐに言うんだぞ?」


「えぇ……ちょっと暑いけど、お兄さんやノールよりは平気だと思うわ」


「私は体温がそこまで変わらないからな。この程度大したことはない」


 体が小さいエステル達を気遣っているが、逆に俺やノールの方が心配だと言われてしまった。

 ヘルムと鎧をしているせいか、たしかにめちゃくちゃ暑い。フルフェイスのヘルムとボロ布をしている分、俺が1番暑いかもしれない。


 ルーナは汗1つかかないで余裕がまだまだあると言う感じだ。

 こういうところを見ると、やっぱり吸血鬼なんだなって思えるね。


「普段はCランク向けの場所って話ですけど、こんなにマミーが湧いているのに本当に突破できるのでしょうか?」


「うーん、この異常な数も異変の1つなのかもしれないな」


 Cランク向けの金を稼ぐ場所だって聞いていたが、出てくるマミーの数を考えると本当にそうなのか疑問に思えた。

 中に入ってから既に40体以上始末しているけど、こんな奴ホイホイ出てきてたらフラーウムマミーのことを抜きにしても、普通のCランクじゃ厳しいんじゃないのか?

 これもたぶん遺跡の異変の1つなんじゃないかなって思う。強い魔物に数が増える……まるで大討伐みたいだ。

 


「ん? この場所……こんなところ行ったっけ?」


「んー、そこって部屋なんてなかったと思うわよ?」


 休憩を終わらせて、また遺跡内部を探索し始めた。

 このまま下に続く階段を降りようとしたのだが、その前に地図アプリで気になる部分を見つけた。

 地図アプリから見ると、どこにも道が繋がっていない隔離された空間が表示されているのだ。

 一定範囲に入るだけで地図アプリに表示されるから、こういう隠れた部分もわかるんだな。今まで室内での探索なんてしてなかったから、これは新しい発見だ。


「壁……だな。もしかして他の場所から行ったりするってことなのか?」


「何か仕掛けを解いて行く部屋なのかもしれないでありますよ! なんだか本格的に探索って感じでありますね!」


 その場所まで移動して部屋があるところを見てみると、やはり他の部屋と繋がっていなくて壁しかない。

 こういうのって遺跡系の醍醐味の、何かをやって秘密の部屋の扉を開けよう的な奴なのか?

 ノールがブンブン腕を上下に振って興奮している。たしかにそういうのって、ちょっとワクワクするよな。

 ……今は急いでいるからできれば勘弁してほしいけど。


「どうだ? 何か見つかったか?」


「むぅ……何も見つからないのであります」


「私の方も何もなかったわ」


 ルーナに辺りを警戒してもらいつつ、ノール達と俺で辺りを探してみたり壁を調べたりしたが何も見つからない。

 壁のどこかが押せるようになっていたり、レバーを引いて壁が開くとかじゃないのか?

 もう壁を破壊して無理やり侵入するか……いや、遺跡が崩れたら怖いから止めておこう。


「大倉さんー、こっちに穴がありましたよー」


 どうしたものかと悩んでいたら、少し離れた隅っこの方でシスハが穴を発見したみたいだ。

 呼ばれてそこまで行ってみると、たしかに子供1人だけ通れそうな小さな穴が続いていた。


 地図アプリを見てみると、全部は見えなかったが細長い道が隠し部屋の方に伸びているから、ここから部屋に侵入すればいいらしい。

 隅っこの方で道も細いから、地図アプリに引っかからなかったのか……。今度からはちゃんと隅々まで一度歩かないとな。


「石像の裏にあって見えなかったのね」


「謎解きじゃなかったのでありますか……」


 ノールはあまりに単純過ぎたからか、口を尖らせてちょっと残念そうにしている。

 穴はどうやら石像の後ろに隠れていたみたいで、シスハはそれを退かしてこれを見つけたみたいだ。

 2mぐらいはある石像なんだけど……よく動かせたな。


「この穴からあの部屋に入れってことなのでしょうか?」


「たぶんそうだろうな。でも……こんな小さな穴、エステルかルーナしか通れそうにないぞ」


 今いる中じゃ、この穴に入れそうなのはエステルかルーナだけだ。

 だけどこんな遺跡で、1人だけ何があるかもわからないところへ行かせるのは不安だな。

 でも行ってもらわないと何があるかわからない。

 

 行かせるとしたら、近接で強いルーナかな。エステルだと不意打ちに弱いし、激しく動くのも苦手だから危ないだろう。


「ルーナ、悪いけどちょっと見てきてくれないか? ビーコンの用意しておくから、何かあったらトランシーバーを押して合図してくれ」


「うむ、いいだろう」


 ここは迷宮じゃないし同じ階層だから、ビーコンは使用できるはず。

 ルーナにトランシーバーを渡して、俺はさっそく穴の近くにビーコンを設置した。

 試しに一度自分でビーコンを使って移動してみても、問題なく使用できる。

 これで何かあった場合は、スマホに連絡してもらえばすぐに呼び戻せるな。

 

 彼女はさっそく四つん這いになってズリズリと穴の中へと潜っていった。

 

「大丈夫でしょうかルーナさん……」


「そんなオロオロするなって。ルーナの実力は十分知っているだろう?」


「で、でも……」


 ルーナが穴に入っていた後、ずっとシスハはそわそわと体を動かして心配そうにしている。

 毎日のように撃退されているんだから、十分その体で実力を味わっているはずだろうに……本当にルーナのことが好きなんだな。

 俺も少し不安はあるけれど、彼女ならよっぽど強い相手じゃなければやられないはずだ。

 

 それから数分ぐらい経った後、スマホに着信が来たので通話に出ないで俺はビーコンを選択してルーナを移動させた。


「大丈夫だったか?」


「うんしょ、っと。ああ、魔物は一切いなかった。代わりにこの箱だけが置いてあったぞ」


 俺達の前に移動してきたルーナは、大きな箱を抱えていた。鉄製の箱みたいで、彼女が床に置くとドスっと鈍い音がしてかなり重そうだ。

  

 その箱を確認すると、長方形の鉄で作られた、上の蓋の部分が丸くなって宝箱のようだ。

 蓋の正面部分に鍵穴があり当然のように鍵が掛かっている。


「隠し部屋みたいな場所に宝箱でありますか! 中身が気になるのでありますよ!」


「あら、でも鍵が掛かっているみたいよ? どこかにある鍵を探さないといけないわね」


 ノールは宝箱を見て興奮しているのか、箱の周りをうろちょろと動きながら騒いでいる。

 エステルは冷静に箱を見ながら確認しているけど、結局鍵がないとどうにもならないと結論付けた。

 

 うーむ、箱の中身は俺も気になるけど、わざわざ鍵を探していたら手間どりそうだな。

 この遺跡はかなり広いし、さっきのようにまた隠し通路を探す為にウロウロしていたら時間がなくなってしまいそうだ。

 何かいい手段は……。

 

 他に方法がないか俺が考え込んでいると、ふと自分が持っているエクスカリバールが目に付いた。

 これを使えばもしかして……いけるかもしれない。


「ノール、この宝箱を押さえていてくれないか?」


「いいでありますけど……何をするつもりなのであります?」


 俺はノールに頼んで、鉄製の宝箱を上から押さえてもらった。

 そんなお願いをする俺を、ノール達は不思議そうに見ている。

 ふふふ……わざわざ鍵を探す必要なんてないだろう。今の俺の力ならできるはずだ、きっと。


「よし、いくぞ。うおりゃ!」


「な、何やってるんでありますか大倉殿!?」


「ガチャのことになると、とんでもないことやり始めますね……」


 押さえてもらった宝箱の蓋と箱の隙間に向け、俺はエクスカリバールを突き刺した。

 そしてそのまま、グイグイと上下に動かして強引に蓋を動かす。

 俺の行動にノール達は何やってるんだと驚きの声を上げている。

 

 そんな声を無視して、何度もグイグイと動かした。

 するとついに限界を迎えたのか、バキッとした音と共に箱の隙間が広がる。

 ……成功だ。これがただの鉄の箱でよかった。ちゃんと破壊することができたぞ!


「うっしゃ! これで一気に時間短縮だ!」


「まるで盗賊じゃない……」


「探索の醍醐味が台無しだな……」


 離れて見ていたエステルとルーナが、俺を見て呆れたような声でそんなことを呟いている。

 たしかに探索の醍醐味は大事だと思う。でも、時と場合とガチャによっては、それを優先することはできないんだ。理解してもらいたい。


「んー? 宝箱の中にまた鍵が入ってるぞ?」


「金色でちょっと豪華に見えるでありますね」


 中身はなんじゃろなっと確認すると、入っていたのは金色の鍵だった。

 えー、宝箱の中にまた鍵かよ。でも、これだけ豪華な鍵だと、たぶん重要な鍵なんだろうな。

 もしかして、この鍵に辿り着くまで、他にも色々鍵を探していかないと駄目だったのか?

 そうなると手順を相当破壊している気がするけど……ま、まあ急いでいるんだしいいよね。



 下に続く階段を降りていくと、今度はさらに大きな広場に出てきた。

 天井もかなり高くて、ピラミッドの中とは思えないような場所だ。

 奥の方には緑色に発光する尖った石のような物が壁から複数飛び出し、生えているように見える。

 あれが特別な魔光石なのか?


「もう終わりか。なんだかあっさりと奥までこれたな。フラーウムマミー以外は特に変化なしか?」


「ゴブリン迷宮みたいなボスもいないでありますし、ここで終わりでありますかね」


「ここは迷宮って訳じゃないってことかしら?」


 結局ここに来るまでに遭遇した魔物はマミーだけだった。

 異常と呼べるのはフラーウムマミーとマミーの数ぐらいで、原因と思えるものは何もない。

 これだと原因不明で、この狩場は侵入禁止になりそうだな。まあ内部でも異変が起きてるってわかっただけでも、Bランク昇格依頼を達成したということに変わりはない。

 

 だけど、このままじゃガチャの方が問題だ。あの魔光石を回収して遺跡を出たところで、攻略! なんてなると思えない。

 ゴブリン迷宮のように謎の板にスマホをかざしたりしないと、攻略判定は出ないだろう。

 そうなると元々ここは何もない場所だったというのが濃厚なんだが……くっそ、やっぱりガチャを諦めるしかないってことか?


「平八。あそこの壁のところ、なんだか不自然だぞ」


「ん? どこだ?」


 とりあえず魔光石を回収し、何か他にないか探そうとしていると、ルーナがある部分の壁を指差して変だと言っている。

 そこに近づいてみると、他の壁に比べると若干色が明るい長方形の部分があるのがわかった。


「地図アプリでもこの先に何か空間があるのが表示されているぞ」


「この先に何かあるのかしらね?」


「あっ、こっちには鍵穴のようなものがあるのでありますよー」


 近づいてみて新たに地図アプリに追加された範囲には、かなり広い空間があるのが表示されていた。

 間違いなく、この壁の向こうに何かあるな。

 ノールも鍵穴を発見したみたいで、そこを指差しながら早く早くと俺に手招きしている。


 さっきの鍵で開くのかわからないが、一応試してみるか。駄目そうなら破壊して……大丈夫かな?


「おっ、開いたな」


「ちょうどさっき手に入れた鍵で開くなんて、運がいいわね」


「ある意味平八の行動は正しかったということか」


 破壊してでも進もうか悩んでいたが、鍵を差してみると壁は下に下がっていって道ができた。

 やっぱりこの鍵重要なものだったんだな……さっさと箱を破壊して手に入れた俺の行動は間違っていなかったようだ。


 中へ入ってみると、さっきまでの遺跡の雰囲気と違い、壁全体がわずかに発光する場所だった。

 これじゃまるで……迷宮じゃないか。


「これ、ゴブリン迷宮にあった奴だよな?」


「そうですね。ここにスマホをかざしたら遺跡は攻略……なんですかね?」


「でも、目の前に扉があるのでありますよ? さらに奥がありそうなのであります」


 真ん中辺りまで進むと、中央にはゴブリン迷宮の最後のあった地面から伸びた棒に支えられた板のようなものがあった。

 また、これにスマホをかざせってことなんだよな? つまり、これで遺跡は終わりってことなのか?

 でも、ノールが言うように奥の方を見ると、かなりの大きさをした両開きの扉があるのがわかる。

 ……なんだかすげー嫌な予感がするんだけど。


 とりあえずやってみないことには始まらないので、スマホをかざすことにした。

 前みたいにいきなり転移魔法で飛ばされても困るから、全員で体をどこかしら密着させて離れ離れにならないようにだ。

 

 スマホを板にかざした瞬間、奥にあった黒い扉が緑色に発光して、ギギギと重そうな音を立てながら勝手に開いていく。

 扉の奥は暗闇で、先に何があるのかまるでわからない。


「……開いたな」


「終わりじゃなくて、始まりだったみたいね」


「むぅ……帰れると思ったのに、まだまだ続くのか」


 遺跡の探索がこれで終わるのかと思ったら、終わりにあったのは迷宮の入り口だった……。

 この遺跡は、迷宮の入り口にしか過ぎなかったということなのか。随分と豪華な玄関だな。

 ルーナはもう終わりかと期待していたみたいだが、まだ続くとわかり不満げな様子だ。

 

 俺達は警戒しながらも、迷宮を本当に攻略するべく新たに開いた扉の先へと進み始めた。


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