アンゴリ遺跡
「中は……ちょっと埃っぽいな」
「最近は立ち入り禁止で、人が来なかったみたいでありますからね」
サンドワームを大量に処理して、ピラミッドのようなものに入ると下に降りる階段が続いていた。
冒険者協会からの忠告が出て以降人が立ち入っていないからか、階段には外から入ったであろう砂が溜まり歩くとなんだか埃っぽくなる。
「外から見ても結構大きかったから、中もかなり広いみたいね」
「ランプで照らしてはいますけど、それでも暗いところがまだ多いですよ」
「そうだな……一応地図アプリで確認しておくか」
このピラミッドは外から見た時点で、一辺が100……いや、200mは超えていたか? とりあえず長過ぎて目測でわからんぐらいには大きかった。
階段を下りていき広場のような場所に出たのだが、高級ランプで照らし切れないぐらいの広さだ。
支えの柱や、よくわからない形をした銅像などが置いてあって、視界も少し悪い。
迷宮と違って、中が光で照らされていないのはかなり不安になるな。
とりあえず地図アプリで不意打ちされないように注意しておこう。
「この程度の暗闇、私にとってはないに等しいがな」
「見えるのかルーナ?」
「ああ、奥の方までばっちりだ。何かこっちに向かってくるぞ」
俺には全く見えない暗闇に向かって、ルーナは迷うことなく指差した。
地図アプリでその方向を確認すると、たしかに赤い点が少しずつ動いて俺達の方に向かってきている。
さすがは吸血鬼だな。暗闇だと頼りになるぞ。
「うお……こりゃいきなり気味悪いのが出てきたな」
「あの包帯の下どうなっているのでありますかね?」
「干物みたいになってるんじゃない?」
何が来るかと待ち構えていると、ようやく俺でも見える範囲に魔物が入ってきた。
その魔物は人型で全身が白い包帯に覆われ、手をだらんと下げながらノロノロと歩いている。包帯はちょっと黄ばんでいて臭そう。
目の部分だけは包帯がなく、赤く発光するような瞳をしている。完全にホラーなんですが。
このままジッと向かって来るのを待つ、なんてこともなく、さっそく槍を出したルーナがミイラに向かって槍を投擲する。
ミイラはなんの抵抗をする素振りもなく、彼女の投げた槍を頭部に食らって体を大きく仰け反らせた。
「むぅ、効果が薄いな」
「物理系の攻撃はあまり効かないのかもであります」
あの一撃なら頭がもげてもおかしくなさそうなのに、仰け反ったミイラはそのまま体勢を立て直して何事もなかったかのように進んでくる。
頭部には槍が刺さったままで、ちょっと怖いぞ。
少しすると槍は光に包まれ、ルーナの手元へと戻ってきた。これが自動回収なのか。
それにしてもあの一撃を食らっても、全くダメージを受けているように見えないぞ。
一応ステータスを見ておいた方がよさそうだな。
――――――
●種族:マミー
レベル:40
HP:1万5000
MP:0
攻撃力:850
防御力:400
敏捷:10
魔法耐性:20
固有能力 物理半減
スキル 再生
――――――
大して強いってほどじゃないな。物理半減と再生って組み合わせが厄介だけど、動きが遅いからたこ殴りにして終わりだな。
さっそく俺とノールとルーナでたこ殴りにして倒した。マミーのドロップアイテムは、黄ばんだ包帯だ。これを触るのは、ちょっと嫌だな……。
1体目を倒してからしばら進んで、その間にも複数のマミーを相手にしたが、特に問題なくたこ殴りで処理をしている。
「大倉さん。1度私もマミーの相手をしてもよろしいでしょうか?」
「ん? あー、いいぞ」
物理半減や再生のせいで、いつものようにノールが瞬殺というのができないのが地味に厄介だった。出てくると少し足止めされちまう。
そしてまたマミーが目の前に現れると、今度はシスハが相手をしてみたいと言い始める。
全く……ここでも戦闘狂が発動し始めたのか。まあ、今まで大人しくしていたから、少しぐらいならいいかな。
1、2体倒せば満足するだろう。
シスハがいつものように走り出し、マミーの方へと向かっていく。
マミーは攻撃力がそこそこあるけど、彼女ならあの攻撃ぐらい簡単に回避できるから心配はないだろう。
念の為いつでも助けに入れる準備をしつつ、シスハの戦闘を全員で見守る。
「はぁ! ふっ!」
彼女が杖をマミーに向かって突き出すと、腕に当たった。その程度じゃルーナの時みたいに仰け反るだけだと思ったのだが、なんと当たった腕の部分が千切れ飛んだ。
その後も拳で頭を殴ったら頭部は砕け散り、1人でノール達と俺でたこ殴りにする時と同じぐらいの速さで倒してしまった。
ど、どういうことなんだ?
「マジか……」
「そ、そんな!? なんであっさり倒せるのでありますか!」
その様子を見て、ノールは驚いたように叫んでいる。
火力に自信を持っていたから、地味にショックを受けているみたいだ。
「うふふ、私は殴る際腕に軸回転を加えているんですよ。これで体の芯まで衝撃が届くんです。ついでに神聖な加護も付いています」
体の芯に届くどころか、そのまま体粉砕してるじゃねーか。それに軸回転って、コークスクリューブローかよ!
というか、神聖な加護の方がついでって……。
「おまけの方が本命なんじゃないかしら?」
「こいつは本当に神官なのか?」
「ああ、残念ながら神官だ」
どうやら、シスハの神聖な加護というのが原因なのか?
ステータス以外にも、そういう特効みたいな要素があるみたいだ。聖職者なら、アンデッド系相手に大ダメージや即死効果の攻撃ができても不思議じゃないもんな。
ルーナが初めて戦うシスハの姿を見て、本当に神官なのかを疑うように首を傾げていた。
吸血鬼にすら、神官なのか疑われ始めたか……。
「うーん、今のところ特に強そうな魔物は出てこないな」
「魔物の異常は外だけだったのかしらね?」
「マミーも耐久力はありますが、遅いから全く脅威ではないのであります」
シスハの戦闘を見て全員で呆れた後も、どんどん先へ進んでいく。
こういう遺跡なら、罠とかがありそうだって思っていたけどそういうものはなさそうだ。
既に他の冒険者が探索したから、解除されたりしたのかな?
異変があるかもしれないからってここに来たけど、今のところ変わった魔物は出てこないな。
まあ、このまま奥に行って攻略! ってなるなら、俺としては都合がいいんだけどさ。
「ん? このマミー、なんで倒したのに消えないんだ?」
「たしかに……倒したのにそのままですね」
「こういうことも、あるんじゃないのでありますか?」
相変わらず現れるマミーを倒していると、1体だけ倒れたのに光の粒子になって消えない個体が出てきた。
念の為にエクスカリバールでグサグサと突き刺しておいたが、特に反応もないから死んでいるはずだ。
地図アプリにも、マミーがいるところには灰色のマークがあるから確実に息絶えている。
こんなこと1度もなかったのに不思議だなと思いつつ、地図アプリを見ながらまた先へ進んだ。
そしてさっきのマミーからある程度離れた瞬間、地図アプリの方に異変が現れた。
灰色だったマークが突然赤に戻り、凄い速度でこっちの方に向かい始めたのだ。
「なっ!? お、おい! 後ろから来るぞ!」
急いで後ろを見ると、ノロノロと歩いていたのが嘘のように両手をブンブン振りながら、全身の包帯が真っ黄色に染まったマミーが走ってきていた。
覆われていた口は牙が突き出して破れていて、両手も鋭い爪が伸びて飛び出している。
な、なんだよこいつ!?
「ぐっ……さ、さっきより強いぞ……」
1番早く反応した俺が前に出て、爪が伸びた手を振り下ろしてくるマミーの攻撃を鍋の蓋で受け止めた。
手にズッシリとした重みが伝わり、かなり威力が高そうだ。
明らかにさっきより強くなっていて、全く別の魔物としか思えない。
「え~い」
「うわっ!?」
俺が攻撃を受け止めてマミーの動きを止めていると、いつものエステルの緩い声が聞こえた。これは魔法を使う合図だ。
声がした後、すぐに周囲の石の壁が伸び始めて俺の目の前にいたマミーが左右から一瞬で潰された。
突き出していた腕だけが潰されずに残り、岩から生えているみたいにプラプラと揺れている。
こ、怖過ぎるぞ!? 一瞬チビるかと思った……。
「流石に建物の中で炎の魔法使う訳にいかないものね」
「またグロい攻撃方法を思いついたな……」
いくら物理半減でも、ペッチャンコにされたら即死するみたいだ。
室内だから炎を使ったら俺達にも被害が出るから考慮したみたいだけど、逆にいつもよりグロい気がする。
挟まれたマミーはようやく光の粒子に変化して、腕の部分から通常のマミーよりさらに真っ黄色になった包帯が出てきた。
なんかさらに臭そうになってるな。
「それで、さっきのはなんだったのであります?」
「うーん……地図アプリを見ていた感じだと、灰色のマークだったのが、突然赤に変わってこっちに向かってきたな」
「それって……息を吹き返したってことですか?」
「息を吹き返しただけじゃなくて、強くなっているように見えたぞ」
地図アプリの反応から見て、間違いなくさっきのマミーは1度倒した奴だ。
それが復活して、俺達を襲ってきた。一体どういうことなんだ?
それからもマミーを倒しながら進んで行くと、また倒れても消えない個体が出てきた。
また立ち上がって襲ってこられても困るし、今の内に対処しておくか。
その前に、一応何でこうなるのかステータスを見てわかるか試しておこう。
――――――
●フラーウムマミー 種族:マミー
レベル:50
HP:8000
MP:0
攻撃力:2400
防御力:300
敏捷:150
魔法耐性:0
固有能力 物理半減
スキル 活性化
――――――
……なるほど。最初は通常のマミーと外見は同じだけど、1度倒されると活性化で変化する奴がいるのか。
とりあえずこのマミーは、起き上がる前にエステルに燃やして跡形もなく消し去ってもらうことにした。
「見た目に大して差がないけど、一応違う魔物みたいだ」
「普通に出てくるよりも厄介ね。でも、起き上がる前に燃やしちゃえばいいだけだから対策は簡単ね」
「普通の冒険者からしたら、それでもかなりめんどうだと思いますけど……」
俺は地図アプリで気が付いたから平気だったけど、いきなり後ろからこいつに襲われたらCランクの冒険者じゃひとたまりもないな。
倒していちいち燃やすのも、魔導師がいなかったらかなり手間だ。
冒険者協会がここを立ち入り禁止にしておいたのは正解だったのかもな。
 




