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ガチャは待ってくれない

 ウィッジちゃんからの説明を受け、俺達はさっそくアンゴリ遺跡を目指して移動していた。

 Bランク昇格依頼、アンゴリ遺跡の調査。内容は王都の西にある砂漠地帯に存在するアンゴリ遺跡での魔物の確認、及び遺跡内部にある特殊な魔光石の入手。

 本来ならアンゴリ遺跡はCランク用の狩場みたいなのだが、Bランク相当の魔物が現れたという話があってからは立ち入り禁止になっているそうだ。

 

 俺達はアステリオスの討伐経験もあり大討伐も解決しているから、今回この調査を任される事になった。

 普段遺跡周辺にはサンドリザードやサンドイーグルなどのCランク相当の魔物しかいないはずだったが、今はサンドワームというBランクの魔物が確認されているという。

 遺跡内部に関してはまだ調査していないので、俺達が中に入って調査してほしいと頼まれた。

 各魔物の討伐証明と、アンゴリ遺跡の奥にある緑に輝く魔光石を証拠として取りにいけば依頼達成だ。


「アンゴリ遺跡ねぇ……」


「何か気になるの?」


 今は魔法のカーペットに乗り、高速で移動している最中だ。

 今回はシスハがいないから後ろに乗れるスペースがあるというのに、エステルはいつも通り胡坐をしている俺の足の部分に納まっていた。もうここが指定席みたいになっているな。

 俺が遺跡の名前を呟くと、俺の前にいた彼女は頭を上に向けて尋ねてきた。


「いやぁー、なんで遺跡に魔物がいるんだろう。って思ってな」


「住み着いたんじゃないのでありますか?」


「住み着くって、あいつら湧く場所からあんまり移動しないじゃないか」


「あっ、そうでありますね……」


 遺跡って言ったら、普通は昔人が作った人工物とかのはずだ。ただの跡地ってこともあるだろうけど、今回は内部の調査なんてものも依頼に含まれているんだから、間違いなく建物がある。

 だけどそこに魔物がいるってどういうことなんだろう。


「わざわざ魔物が出る場所に作る訳ないし、後から魔物が湧き出す場所になったのか?」


「どうかしらね。お姉さんが言うにはいつ作られた物なのかわからないって話だから、もしかしたら迷宮と同じ物だったりしてね」


 うーむ……そういえば迷宮もいつからあったものなのか聞いていないな。

 もし迷宮と同じようなものだったとしたら、最初から魔物の住処として作られたもの?


「でも過去に何人も中に調査に入ったのでありますよね? 迷宮だったら、もっと注意してくれって言われると思うのでありますよ」


「そうだな……まあ、考えたところでわからないだろうからいいだろ。俺達は言われたことをしてくればいいだけだ」


 アンゴリ遺跡は既に冒険者によって隅々まで調べられている場所らしい。一応ウィッジちゃんから内部の地図も受け取っている。

 今回は内部に強力な魔物がいないかの確認だから俺達が来ているが、普段ならCランクの冒険者パーティでも普通に奥まで行って魔光石を回収できる程度の場所だ。

 王都のハジノ迷宮の10層にいるスライムみたいなボスもいないみたいだし、アンゴリ遺跡が迷宮という可能性は低いだろう。

 

 とりあえず気にはなるけど考えても解決しないだろうから、さっさと魔物の調査と魔光石の回収を終わらせて帰ろう。


「遺跡周辺の魔物の調査に、遺跡内部の調査と証明する為の魔光石の獲得なんて、今回のはそこそこめんどくさそうね」


「魔物自体はそこまで強くないだろうし、遺跡だって迷宮ほどじゃないだろうけど……出てくる魔物がな」


 今までは魔物を倒して、はい終わり! って感じだったけど、今回はそうじゃない。

 ちゃんとどんな魔物が出てくるか確認して、さらに奥まで行って魔光石を回収してこないといけない。

 アンゴリ遺跡の最深部には魔光石が発生する場所があるみたいで、冒険者達にとってはいい稼ぎになる物らしい。

 だから今回こうやって立ち入り禁止にされると、主にCランクの冒険者が困っているとか。

 

 それと遺跡内部には、特殊な魔物が湧くそうだ。

 全身ぐるぐるに包帯を巻いた人型の魔物と、北の洞窟にいるサソリに似た魔物がいるとか。サソリは北の洞窟に比べたら遥かに防御力が低いみたいだ。

 俺としては、ミイラが湧くっていうのは嫌だな……ホラー系は苦手だぞ。

 

 そんな風に考えながら魔法のカーペットを進めていると、急にスマホが振動し始めた。


「ん? こんな時になんだ?」


 このタイミングで振動するなんて、シスハから通話でも来たのかと思ったのだが……1回で振動が止まったから違う。

 まさか……と思い、カーペットを止めてスマホを取り出して確認してみると……。


「げっ!?」


「どうかしたのでありますか?」


「この反応……ガチャね」


 突然カーペットを止めて画面を見ながら固まる俺に、ノールが後ろから声をかけてきた。

 エステルは体ごと振り返って俺のことを見ると、すぐにガチャだと気が付く。流石だな……。


「ああ、エステルの言うとおりガチャだ。……確かにもう来てもいい時期だったが、まさかこのタイミングで来るのかよ……」


「どうするの? 今日は遺跡に行くのは止めて、急いで魔石を集めに行く?」


「ま、魔石集めなのでありますか……」


 ガチャと聞いてエステルは俺が魔石集めに行くと思ったみたいだ。

 ノールは魔石集めという単語を聞いて、嫌そうな声で呟いている。

 

 コンプガチャが終わってからだいぶ経っていたし、そろそろ来るとは思っていたけど……仕方ないか。

 休日中全く狩りをしていないから、コンプガチャで魔石はすっからかんだ。

 このガチャは期限が今日までで、既に今は昼過ぎ。今から集めるのは無理だ。

 こういう告知がないゲリラ的なガチャは止めてほしい。


「いや、今日までみたいだし流石にこれはもう間に合わない。今回は見送るよ」


「お、大倉殿が見送るでありますか!? ど、どうしちゃったのであります?」


「大丈夫なの? んしょ……熱は……ないわね」


「あ、あのなぁ……」


 俺が諦めるというと、ノールは口を開けて大袈裟に驚き、エステルは膝で立ち上がり俺の額に手を当ててくる。

 前にもこんな扱いを受けた気をするんだけど……そこまで驚くことなのか?


「俺がガチャならなんでも狂ったように回すと思ったら大間違いだぞ? 思い返してみろ。今まで何回かは控えめだったことがあるはずだ」


「言われてみればたしかに……あったでありますか?」


「私の記憶が確かだったら、ないと思うけど……」


 ノールが両手を組んで考え込み、首を傾げながらないと言った。エステルも頬に片手を添えて、ないと言う。

 あれ? おかしいな……控えめにしようって言ってガチャを回したことあったと思うんだけどなぁ……。

 

 元の世界でもお金がないタイミングで限定ガチャがきて、引くことを諦めるのは何回もあった。本当に欲しいものが対象になっていた時は、枕を濡らして耐えたこともあったな……。

 今回のガチャは魅力的といえば魅力的だが、ギリギリ諦められるレベルだ。だから今回はすっぱり諦めて、このことは忘れよう。

 ……本当はめちゃくちゃ回したいけどな。


「ま、まあ過ぎたことはいいじゃないか、ははは……」


「誤魔化したでありますね……。それより、今回は何のガチャだったのでありますか?」


「ああ、ステップアップガチャだ」


「ステップアップガチャ? それはどういうガチャなの?」


 今回通知されたガチャは、ステップアップガチャだった。

 決められたガチャを回すごとに排出されるものが豪華になって、最終的には最高レアリティが確定するという、ありきたりなガチャだ


「これは単発ガチャを4回することで、最後にURが無料で貰えるみたいだな」


「……エステル、無料ってどういう意味でありましたっけ?」


「私にだってわからないわ。哲学かしらね?」


 俺が無料だと言うと、ノールとエステルは首を傾げている。

 ああ、魔石を消費することで無料でUR確定のガチャができるなんて、とても素晴らしいな。


「でも、単発4回だったらたったの20個でありますよね? それぐらいなら、今からだって間に合うでありましょ?」


「いや、これは1回目は10個だ」


「あら、それでも40個で済むじゃない」


「はは、これはステップアップガチャなんだぞ? そんな数で済むはずないだろ」


「どういう意味でありますか?」


 魔石5個の通常ガチャとは違い、このガチャは1回目は魔石10個の単発ガチャだ。

 1回10個の単発ガチャを4回ガチャる程度なら、たった40個で済む。もしそうだったら、今頃ビーコンで北の洞窟に引き返していただろう。

 しかし、このステップアップガチャはそこまで甘くはない。


「このガチャは回数が増えるごとに魔石の数も増えるんだよ。説明欄を見ると……1回ガチャるごとに10、30、40、60個って増えていくみたいだ」


「ふ、増え過ぎでありますよ……」


「つまり最終的に140個……今からじゃ間に合いそうにないわね」


 1回目はSR以上確定、2回目はSSR以上の確率アップ、3回目はSSR以上確定、4回目はUR確定、といった感じのガチャみたいだ。

 140個でこれを回せるのは、かなりお得だ。


「はぁ……まあ仕方がない。こういう時だってあるさ」


「いつもこのぐらい諦めが良ければいいのでありますが……」


 だけど今の俺達は魔石を全く持っていない。あればガチャるけど、今から死ぬ気で狩りをしたって140個なんて集まるはずもない。

 毎回ガチャの為に頑張っていたが、こうも不可能だとむしろ諦めがつくというものだ。

 それに休日を挟んだ時点で、こうなることは予想できていた。

 

 だから未練なんて全くない……ないんだから!


「うーん……」


「エステル? どうかしたのでありますか?」


 諦めてまたカーペットを進ませてアンゴリ遺跡を目指すことにしたが、目の前に座っているエステルは何か考え事をしているみたいだ。

 何か気になることでもあったのか?


「このガチャを回す方法あるかもしれないわよ?」


「ほ、本当か!?」


「諦めたんじゃないのでありますか……」


 もう完全に諦めていたのだが、なんとエステルが引けるかもしれないと言った。

 魔石の自動取得化すらできていないのに、今から魔石140個も手に入れる方法があるというのか?


「これから遺跡にいくじゃない? もしかしたら、そこを攻略したら魔石が貰えるかもしれないわよ」


 どんな秘策なのかと期待していたが、思っていたよりも普通の答えだった。

 たしかにこれまで大討伐やゴブリン迷宮を攻略して、魔石を貰えている。だから、遺跡にだって魔石が貰える何かがあるかもしれない。

 

 だが、今回行くアンゴリ遺跡は既に人の手で何度も調査されており、もはや攻略などと呼べる要素が残っているとは思えない。


「今まで普通の冒険者だって奥まで行ってる場所だろ。迷宮と違って、攻略とかはないんじゃないか?」


「でもでも、行ってみないとわからないのでありますよ? 遺跡の攻略でしたら、私も構わないのであります!」


「どうせこれから行くんだし、貰えるように期待してもいいんじゃない?」


 目的地であるアンゴリ遺跡で魔石が手に入るのなら、それはとてもありがたい話だ。それに今は遺跡で異変が起きているみたいだし、もしかしたらその関係で何かがあるかもしれない。


「うーむ……そうだな。とりあえず、どうするかは現地に着いてから考えようか」


 パパッと終わらせて帰るつもりだったが、魔石の為ならば気合を入れて遺跡を調べてみるのもいいかもしれないな。

 よし、そうと決まったら、急いでアンゴリ遺跡に向かわないと!

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