ガチャる再び
「申し訳ありません。ドロップアイテムを全て回収できませんでした。もしかしたら、数匹取り逃がしたかもしれません」
「そんな、謝るなんて止めてください。赤いウルフを討伐していただけたのなら、残党が居たとしてももうあそこまでの群れにはならないでしょう。お疲れでしょうし、今日はこの村にお泊りください」
ノールに肩を貸しながら村にまで帰ってきた。空も夕焼け色に染まり、もう夜が近くなっている。
結局回収できた牙はレッドウルフの牙2つ、ウルフの牙が14個だった。
各個撃破した分は殆ど回収していない。
討伐証明であるドロップアイテムがなければ、証拠がないも同然だ。
しかし村長さんは笑顔でそれを許してくれた。
依頼達成の証である証明書も渡してくれ、宿まで用意してくれると。
ぐったりとしているノールも、今日は使い物にならないだろう。
馬乗れないから帰れないしありがたい。
「ノール、本当に大丈夫か?」
「大倉殿、今までありがとうございました。私、次生まれて来る時も大倉殿の――」
用意してもらった宿へ行き、ノールをベッドに寝かせていた。俺は食事を貰い彼女に届けに来たのだが……。
「よし、大丈夫みたいだな」
「いや、冗談。冗談で――アダダァァ!? もう、無理、無理でありますぅ」
アイマスクを着けてふざけたことを抜かすので、両肩に手を乗せ体重をかけた。
悲鳴を上げ逃げるように動き、さらにそれで体が痛んで全身ビクンビクン痙攣している。
「アル・ラキエに状態異常無効ってあっただろ? なんで筋肉痛になってんだ?」
「アル・ラキエの効果は敵や罠の状態異常しか弾いてくれないのでありますよ~」
ふむ、なんだか便利なのか不便なのかわからんな。
GC内でスキル自爆なんて聞いたこともなかったし。まあいいか。
「大人しく寝ておけ。さてと、ついにこの時がやってきたぞ」
「ガチャでありますか?」
解放してやり、俺は近くの椅子に座った。
ぐったりとしていたノールは、俺の手にあるスマホに反応する。
そう、あのブラッドウルフから2つの魔石を手に入れた。
つまり、俺は11連ガチャが引ける、引けてしまうのだ。
「さぁ、平八カーニバルが始まるぞ」
「なんか嫌な響きでありますな」
嫌な響きとは失礼な奴だな。
あぁ、ガチャ、ガチャだ。俺はこれの為にこの数日間頑張った。
煽られる射幸心、堪らん。次はなんのユニットが出るだろうか。
やはり本命で言うならルーナちゃんが欲しい。
しかし戦力的には回復の神官、壁役の重装鎧辺りか?
GC内の戦略兵器と言われた、龍神カロンちゃんでもいいな。
俺は持っていなかったが、この娘が出てくるだけで戦局が一気に逆転する程のユニットだったらしい。
リセマラ候補筆頭の性能だと言われていたな。
さて、そろそろガチャを引こうか。
スマホをタップし、ガチャページを開く。そして11連ガチャの欄をタップした。
画面に宝箱が映し出される。宝箱は、銀、金、白、そして虹色へと変化……しなかった。
白で止まった、止まってしまった。
「あっ」
「SSR出たでありますな。めでたいであります」
ノールは覗き込むようにベッドの上から俺のスマホ画面を見ている
白、つまりSSRは確定だ。
くっそ、UR、URが俺は欲しいんだ! もう1回課金――できない。
あっあああー、課金したいんじゃあぁー!
【R食料、SR地図アプリ、SSRマジックバッグ、SRニケの靴、Rランプ、SRエクスカリバール、Rトランシーバー、Rぬいぐるみ、SRビーコン、Rフレイムロッド、SSRステータスアプリ】
俺の心情とは別に、次々とガチャから排出される。SSRが2つにSRが3つか。
まあ悪くないな。それにしても、ぬいぐるみ出たか。
これなんの役にも立たないゴミなんだよね。
掲示板でこれは何に使うんですか? って初心者が質問すると可愛いだろう? って返事が来るテンプレがあるぐらいだ。
しかもピンク色で丸くて潰れたまんじゅうみたいな顔して可愛くないし。
――――――
●ぬいぐるみ
愛らしいマスコットキャラをランダムで1つ排出する。
とても可愛い。はい、とても可愛い。
――――――
「……これやるよ」
「これは何か意味のあるアイテムなのでありますか?」
「可愛いだろう?」
「えっ、あっ、はい」
ぬいぐるみをタップして実体化させた。そしてノールにそれを渡す。
片手に乗る程の大きさだ。
可愛いだろうと俺に言われ、まじまじと人形を見ている。
どう反応していいかわからない、といった様子。
「んー? 今回は色々と出たな」
「SSRが2つもあるでありますな。これは十分運が良い方でありますよ」
「そうだな、それにしても、このアプリってなんぞや」
――――――
●地図アプリ
スマートフォンに地図機能を追加できる。
1度通った場所を自動的に記憶する。MAP上に他の生命体などを表示することも可能。
●ステータスアプリ
スマートフォンにステータス確認機能を追加できる。
カメラで一定の範囲内に収めた対象のステータスを確認することができる。
女性を見ると嬉しい特典が!?
――――――
地図アプリにステータスアプリね。アプリと言ったらスマホか。
アイテム欄に入った地図アプリをタップしてみる。
するとGCの画面が切り替わり、マップが表示された。
「おぉ、別の画面が出てきやがったぞ」
「これは……地図でありますな」
中央に青い点が2つ、そして周りには無数の青い点が表示されている。
中央のは俺とノール? ってことは周囲のは村人か。これは今後便利そうだ。
「ステータスアプリも入れてみるか」
ホームボタンを2回押すとマルチタスク画面が表示された。
どうやらアプリの切り替えはここでするみたいだ。
GC画面に切り替え、アイテム欄でステータスアプリを開く。
すると今度はカメラが立ち上がった。これで対象を撮影しろということか?
「ノールで確認してみても良いか?」
「いいでありますよ~」
少し離れ、ノールをカメラに写すと別の画面が立ち上がる。
――――――
●ノール・ファニャ 種族:ヒューマン
レベル:12
HP:1780
MP:190
攻撃力:410
防御力:295
敏捷:69
魔法耐性:30
固有能力:【戦姫の加護】
スキル:【鼓舞】
B:85 W:56 H:87 推定:Eカップ
――――――
表示されたのはステータス画面だ。名前に種族、攻撃力に防御と能力にスキルか。
これでもしかしたらこの世界の平均的強さが分かるかもしれん。
ん? 下に変なのが表示……あっ。
「うおっ!?」
「ど、どうしたでありますか?」
「い、いや。なんでもない、なんでもないから」
こ、こいつ。Eカップだと!? 普段を鎧で意識しなかったがめっちゃあるぞ!?
特典ってこれかよ! なんてくだらない機能なんだ……いや、嬉しいんだけどさ。
「むぅ~、怪しいでありますな。私にも見せるでありますよ!」
「マジでなんでもないから! ほら、大人しく寝てろって、な?」
必死に覗こうとベッドの上でもがくノールを押さえ付ける。
アダダァ!? とまた悲鳴を上げているが問題なしだ。
「さてと、お次は」
「それはとらんしーばーとか言う物でありますか?」
――――――
●トランシーバー
スマートフォンに繋がるトランシーバー。
これさえあれば離れていても通話が可能。通話料金は無料です。
――――――
今度はトランシーバーをタップする。出てきたのは黒いトランシーバーが1つだけ。
スマホに通話可能か……。
どうやってやるんだといじくり回してみると、横に付いたボタンを押した瞬間にスマホがバイブレーションした。
これで通話できるのか?
「ノール、これ持ってみろ。ちょっと部屋の外出るからその後横のボタン押してくれ」
「はい? いいでありますが」
トランシーバーをノールに預け、俺は部屋の外へと出る。
すると彼女がボタンを押したのかスマホに着信が届く。
「おう、聞こえるか?」
『しゃ、しゃべったー!? どうなっているのでありますか!』
「これがあれば俺のスマホに繋がるってことだな」
これで離れた所からでも会話が可能か。
まあこれが本来のスマホの使い方だよなぁ……。
「うし、次だ。ランプは……ただのランプだな。次は……やばそうだからまた後で」
――――――
●ランプ
ランプです。
――――――
ランプを出すがなんの変哲も無いランプだった。暗い所なら使えるかな?
次はフレイムロッド……はパスだ。明らかに火が出るだろこれ。室内で使ったら火事になるわ。
「ビーコン? なんだこりゃ」
「面白い形してるでありますね」
――――――
●ビーコン
地図アプリと連動させることで、置いた場所へと移動できる。
電波の届き辛い場所だと稀によく届かなくなる可能性も。
パーティ内なら指定して個別に移動することもできる。
――――――
ビーコンを出すと、黒い箱に小さなパラボラアンテナが付いた物が出てきた。
移動? どうやって移動するんだこれ。
「おっ、またスマホになんか増えてるぞ。何々……移動先の指定?」
スマホがバイブレーションをし、右下に何か出ていた。
そこをタップすると地図が表示され、一箇所だけオレンジ色に光っている。
丁度端にあるビーコンの位置だ。
オレンジの部分をタップすると、対象を選んでくださいと出て、空白の欄が出てきた。
さらにそこをタップすると【ノール・ファニャ】と選択できるようになっていた。
とりあえずノールを選択しないで【移動を開始しますか】という表示をタップしてみた。
すると、俺の体が光に包まれる。
「うおっ!? これすっご」
「置いた場所に瞬間移動するのでありますね」
「これは便利だな。でも目立つから置く場所は考えないとな」
気が付くと俺はビーコンの前にいた。
これは瞬間移動したのか。移動するのに超便利じゃん。
でも数揃えないと運用は難しそうだ。
目立つからどこでも置ける物でもなさそうだし。
次にSSRのマジックバッグ。
実体化させると緑色をした丁度いい大きさのリュックサックが出てきた。
――――――
●マジックバッグ
魔法が施されたリュックサック。
容量は無限大。重さも変わらず、生の物は腐らない凄い鞄。
生物 は入らないので注意。
――――――
「うおおぉ! これは一番当たりなんじゃないか?」
「便利でありますね」
すげぇ! これさえあれば持ち運びがかなり楽になるな。
それに生の物が腐らないなんて食料に困ることもなくなる。
今後のドロップアイテム集めに役立ちそうだな。
「ニケの靴に……またエクスカリバールかよ。ん?」
残った装備は2つ、片方は前回出たエクスカリバールだ。
これホントよく出るな。もっとまともな武器が欲しい。
でもそれなりの長さで扱い易いのは確かなんだよな。
エクスカリバールをタップしてみると、【同名の武器が存在します。この装備を進化させますか?】と表示がされる。なんだ進化って。
――――――
●エクスカリバール☆2
攻撃+590
行動速度+55%
――――――
「重なるのかよ!? こんなのGCには無かったんだが……まあ良いことか」
進化をさせてみたら、エクスカリバールの名前の横に星が付いた。
攻撃力が100、行動速度が5%上昇か。
こりゃ救済措置としては最高だな。
SSRの武器が出るまではこれで十分補えそうだ。
「めっちゃ良いなこれ。どれどれ……スニーカーかよ!?」
「どうしたんでありますか?」
「いや、なんでもない」
――――――
●ニケの靴
防御+10
移動速度+60%
――――――
最後に残ったニケの靴。
ニケと言ったら勝利の女神と言われるあれだよな?
これは期待できる……と思ったけどなんでSRなんだろうか。
能力値を見てみるとかなり使えるのだがね。
実体化させると、そんな期待とは裏腹にただの黒いスニーカーが出てきた。
いや、履き易そうだからブーツとかよりはいいんだけどさ。
「んー、ユニットは当たらなかった。しかし、今回は良い物が結構出たな」
「その靴良いでありますなー。また今度出たら私も欲しいのでありますよ」
「おういいぞ。じゃあまた一緒に魔石貯め頑張るんだぞ」
「了解でありま――ぴゃう!?」
今回のガチャでユニットは当たらなかった。
しかし、俺自身の強化もできたし、便利な物が複数手に入ったのはデカイな。
ノールと共にさらにやる気を出す。
彼女も元気よく腕を振り上げると、全身の筋肉痛でまたベッドに沈んだ。
●
次の日、朝早くから俺達はブルンネに帰ることにした。
帰る前に村長に挨拶して行かんとな。
「今回は本当にありがとうございました。またお暇な時にでもいらっしゃってください。その時はまたおもてなしさせていただきますよ」
「いえいえ、こちらも相方がダウンしていたので助かりましたよ。また何かありましたら依頼してください」
「宿を用意していただき、ありがとうございました。お蔭様で痛みもすっかり取ることができました」
ノールも村長にお礼を述べるが、俺はその姿に絶句してしまう。
の、ノールがまともに話しているだと!?
「私の顔を見てどうしたでありますか?」
「いや、ありますって語尾無しで話していてビビった」
「一体大倉殿は私のこと、どう思っているでありますか……」