目標の達成法
魔石の入手法も判明したので、俺達は自宅へ戻ってきた。
今回実験で渡したガチャ産の装備は、そのままグリンさん達にあげようとしたんだけど……グリンさんだけは受け取ってくれなかった。
報酬も破格だったのに、こんな高価な物まで受け取れないなんて言われちまったよ。魔導具って高いのか……。
アルミロさん達にはそのまま武器をあげたから、これからも冒険者として頑張ってほしいな。
「おかえり」
「うおっ!?」
「……驚き過ぎだぞ。失礼な奴だ」
「あっ、すまんすまん」
さっそく自宅に入ろうと玄関のドアを開けると、ルーナがモフットを抱え扉の前で待ち構えていた。
もうそろそろ日が沈む時間だから、起きていても不思議じゃないんだけど……出迎えてくれると思っていなかったからビックリしたぞ。
「モフットと遊んでくれていたのでありますか!」
「ああ、暇だったからな」
「むふふ、ルーナにもすっかり懐いたでありますね」
ルーナに抱き抱えられたモフットは、プゥプゥと鳴いている。
そしてノールが中に入ってくると、彼女はモフットをノールに手渡した。
ちょくちょくノールの部屋に行って、モフットと遊んでいたせいかもう随分と仲がいいみたいだ。
彼女が部屋から出る数少ない理由の1つに、モフットと遊ぶことが含まれているぐらいだもんな。
「ほら、これでいいか?」
「おっ、すまないな」
「ありがとう。ルーナが飲み物くれるなんて珍しいわね」
「ちょうど喉が渇いていたので、ありがたいのであります!」
俺達が椅子に座ると、ルーナが木製のコップに入れた飲み物を持ってきてくれた。それを俺、ノール、エステルの前に置いていく。
おお、ルーナがこんなに気を使ってくれるなんて、一体どうしたんだ?
「ほら……」
最後に少し遅れて、眉をやや寄せ嫌そうな表情でコップをシスハの前に置いた。苦渋の決断をするように躊躇しているぞ……。
「る、ルーナさん! 私にもくれるなんて……感激ですよ!」
「うっ、こら……抱き付くな……」
飲み物を貰っただけなのに、シスハは嬉しかったのかルーナを抱き締める。
抱き締められた彼女は、やっぱりこうなったか、と言いたそうな諦めた表情だ。
こうなるだろうとわかっていたから、置こうか迷っていたのか……。
その様子を見守りながら、そろそろかな、と思った瞬間。ルーナが口を開いてシスハの腕に噛み付いた。
「あたたたた!? ……あっ、あっ……へ、へへ……」
噛み付かれたシスハは、ルーナに抱き付いたままズルズルと膝から崩れ落ちていき、最後にはルーナに倒れかかった。
白目をむいて全身をピクピクと痙攣させながらも、それでも嬉しいのか不気味な笑みを浮かべている。
こえーよ……。
「ペッ、ペッ……やっぱりまずい。こいつはもう駄目だから、部屋に運んでおくぞ」
「あ、ああ……」
ルーナはそんなシスハを肩に乗せて、シスハと共に俺達の前からいなくなった。
今日のシスハは比較的大人しいと思っていたんだけど……結局こうなるのか。
「さてと……とりあえず、だ。今日わかったことをまとめるとするか」
「おお、随分とあっさりスルーしたでありますね」
「シスハがああなるのはいつものことだもの。休日中、何回も廊下で転がっているのを見たわよ」
いちいち反応していたら疲れるぐらい、シスハは問題起こしているからな……。流石にもう色々慣れたよ。
ルーナも休日中に噛み付きまくったせいか、シスハが動き出さないよう調整できるようになったみたいだし。
たぶん今日も数時間はあのまま動けないだろう。
「まず条件は、希少種を倒す、パーティを組む、ガチャ産の装備を使う。って、ことでいいのか?」
「それでいいはずなのでありますよ」
「でも今日のだと、パーティを組む必要があるのかどうかわからないわね」
「あー、たしかにそうか……でも、それをどうやって確かめたらいいんだ……」
今日わかったのはこの3つのはずだ。でも、たしかに今日のだとパーティが条件なのかわからないな……。
もしかしたらガチャ産の装備持ってるだけで、魔石が手に入る可能性もある。それならだいぶ条件が楽になるんだけど……さすがにそこまで甘くないと思うんだよね
「もう1回気合でパーティ抜けられるか試すか?」
「そうね。ノールお願いできる?」
「いいのでありますよー」
前に1度試しているけど、もう1度パーティから抜けられるか無理を承知でやってみるか。
「それでは……私はパーティじゃないであります……大倉殿とパーティじゃないのでありますよ……ぬおお!」
ノールが拳を握り絞めて、ブツブツと呟きながら力いっぱいパーティであるということを否定している。
俺とパーティじゃないってそこまで否定されるのを見ると、実験だってわかっていてもなんだか悲しくなるぞ……。
「ぐぬぬ……どうでありますか?」
「駄目だ」
「むぅー、ここまでしても駄目でありますか……」
ビーコンで確認してみると、やはりノールの名前は残ったままだ。
うーむ……どうやってもパーティから外れないか。
「エステルはどうだ?」
「あら、仮だったとしても、私がお兄さんと離れられる訳ないじゃない?」
「お、おう……」
エステルは当たり前でしょ? という感じで、ニコニコと笑顔だ。
嬉しいことなんだろうけど、なんだか不気味なものを感じるのは気のせいだろうか……首飾りを貰った時と同じような悪寒がするんだけど。
「と、とりあえず、この3つ全てを満たさないと駄目だと仮定して話をしようか」
パーティを抜きにした場合は、装備を渡せばいい簡単なお仕事になる。
だから今から話し合うのは、難しいであろう3つの条件だった場合の話だ。
「で、この中で達成するのが困難なのは……やっぱりパーティだよなぁ」
「うーむ……そうでありますね。」
どう考えても、俺達が一緒じゃない時にパーティを組んでもらうのが難しいんだよなぁ。
ノール達のパーティから抜けられないって現象は、離れて狩るのに役立ったからある意味よかったんだけどさ。
もし他の冒険者をノール達と同じ状態にできたら最高なんだけど……そんなの無理な話だ。
「今日の狩りを見ていると、希少種を狩るっていうのも問題じゃないかしら?」
「……そうだな」
今日のグリンさん達の狩りを見ていて改めて思ったのは、希少種を相手にするのは普通の冒険者達だけだと厳しいってことだ。
普通の冒険者は、まずあの森の中に入って狩りなんてしない。それどころか森に接近して狩ることすらしないから、ブラックオークと遭遇すること自体稀なのかも。
俺達が最初に黒豚肉を持って行った時に、店の人も驚いていたからその線は濃厚だろう。
となると……仮に条件を全て満たしたとしても、魔石の入手は絶望的に低くなる。
「あー、こりゃせっかくわかったのに実現不可能ってことか?」
これから快適なガチャライフなんだと想像していたけど、結局魔石デスマーチに戻るってことなのか?
せめて毎日1、2個でもいいから手に入ればいいんだけど……ログイン報酬的な感じでさ。
「いえ、一応方法があるにはあるわよ」
「マジか!? さすがエステルだな! それで、どうやってやるつもりなんだ?」
「エステルは頼りになるのでありますなー」
そんな風に俺が悲観的になっていると、エステルが方法はあると言い出した。
「まず、パーティの判定がどこまで適用されるのかってところが重要ね」
エステルの説明が始まったので、俺とノールは大人しく彼女の話を聞くことにした。
判定の適用……? パーティにまで何か仕様があるってことなのか?
「私達がいくら頑張ってもパーティ扱いから外れないっていうのは、無意識に仲間として認識しているからだと思うの。だから他の冒険者達も、ある程度仲間として意識をしてくれれば、離れていてもパーティだって判断されるはずよ」
「うーん……? もしそうだとしたら、俺は既に冒険者協会に登録しているんだし、今も冒険者が沢山パーティとして認識されているんじゃないか?」
話を聞けば、たしかに一理あるとは思う。
ノールがいくら頑張ってもパーティから外れないのは、パーティじゃないけど仲間だって意識はしているからだってことだ。
だけど、そうなるとおかしな点も出てくる。既に俺は冒険者協会の一員なんだから、他の冒険者達がパーティとして判定されていても不思議じゃない。
「それは冒険者協会に所属している、ってだけで、お兄さんと仲間になっているって認識じゃないからでしょ。もっと強いお兄さんとの繋がりがないと駄目みたいね」
まあ、顔も知らない人が大半だもんな……そりゃ判定されてる方がおかしいよな。
パーティとして判定されるには、本人達が仲間だって思ってないといけないってことか。
ディウスやグリンさん達は、一緒に狩りをする仲間だって認識したから、一時的に認識されていたのかな?
もしそれを永続的に続けるなら、もっと仲間だって意識をしてもらう必要がある……と。無理じゃないそれ?
「それと希少種に関してだけど……これは考えられる解決策は2つあるわ。1つはBランク以上の冒険者達を引き込むこと。そしてもう1つは……低ランクの冒険者達を強くして、希少種を狩れるようにすること」
人差し指を立てながら、さらにエステルの説明は続いていく。
Bランク以上を仲間にするっていうのはわかる。ディウスほどの強さなら、希少種相手だって問題なく狩れるだろう。
低ランクに比べたら相手にする機会は多いはずだ。
だけど2つ目の強くするってどういうことだ? そんな簡単に強くなんて……できるな。
「それってつまり……ガチャ産装備を渡して強くするってことか?」
「ええ、そういうこと」
合っていたみたいで、エステルは満足そうに頷いていてくれた。
「ブラックオークぐらいだったら、武器と装飾品のSRをある程度渡せば狩れるでしょう? それにこれなら、ガチャの装備を使うって条件もクリアできるわ」
たしかにそれなら、条件を2つ満たせて効率的だ。
だけどガチャ産装備を渡すというのは、少しリスクがある気がする。渡すならこの世界で不自然じゃない程度に強化したRの武器か、守護の指輪系の装備だな。
ガンツさんのような装備屋に迷惑をかけたくもないし、武器や防具を渡すのはできれば避けたいけどね。
良いの渡しちゃうと、武器や防具なんてしばらく買わないだろうし。
そう考えると今日アルミロさん達に武器をあげちゃったのはまずかったか? ……いや、でも未強化品だから平気だろう。
渡す装備のバランスには、かなり気を使わないといけないな。
「勿論信用できない相手に渡したりしちゃ駄目だけど、これならパーティの方もすぐに解決できるわよ?」
「……え? どういうことだ?」
いくら魔石が手に入るとはいえ、俺だって見境なく渡す気はない。まあ、渡すとしても俺達の脅威にならない程度で抑えるつもりだ。
SSRや一部のSRは危険だ。防御貫通系なんて特に危ないだろうし。
それより……パーティも解決できるだと?
「私達で冒険者同士のグループを作って、入ってくれたらそれを証明する物としてガチャの装備をプレゼントすればいいのよ。入った証があるってだけでも、そこに所属しているって意識が強くなるはずだもの」
「そういえばグリンさんが魔導具だって驚いていたな……。物で釣るってことか」
「そう言われると聞こえが悪いけど、口約束でグループを作るよりは確実じゃない?」
なるほど……パーティより少し大きめなグループを形成して、それで仲間だと思ってもらうのか。
それなら冒険者協会所属の仲間ってよりは、かなり近い存在に感じてくれるはずだ。
それに物でグループの一員って認識させるのもいいな。所属の証として、守護の指輪辺り渡したら効果がありそう。
魔導具なんて滅多に手に入らないだろうし、貰ったらかなり意識するだろう。
「Bランク以上の冒険者をグループに入れる案は……今は難しそうね」
「ディウス達なら入ってくれそうじゃないか?」
Bランク以上の冒険者はそう多くはないだろうけど、俺達には既に一応知り合いのディウスがいる。
エステルが作ったって言って指輪を渡せば、喜んで食いついて来そうだけど……。
「ディウス達はある程度知名度があるみたいだし、どこかに所属するっていうのは難しいかもしれないわ。強い冒険者をグループに入れたいなら、まずはランクを上げないと駄目かも」
たしかにまだCランクの俺達が作ったグループに、Bであるディウス達が入るのも他の冒険者達の目を考えると駄目か。
グループを作るとなると、装備を渡してはい終わり、って訳にもいかないし。それなりに何か活動を考えないといけないから、こそこそやるよりは、堂々とグループだってしておきたい。
そうなると……俺達もそろそろBランクを目指して動かないといけないな。Bランクなら他の冒険者をグループに誘っても、受け入れてくれる可能性がグッと増すはずだ。
一応協会にも、冒険者同士でそういうグループを組んでいいのか聞いておこうかな? 後で駄目だって言われても困る。
「ほえー、エステルはよく考えているでありますねー。私、頭から湯気が出てきそうなのでありますよ」
「俺が言えたことじゃないけど、ノールも少しは考えたらどうなんだ?」
「私は直感タイプなので、頭を使うことはエステルにお任せなのであります!」
「堂々と言うのはどうかと思うわよ?」
話がまとまったところで、ノールが頭をフラフラさせてだらしない声を出し始めた。正直俺も少し頭が痛い……考えるのは苦手なんだぞ。
だが、これで希望は見えてきた。とりあえずこの先の目標は、Bランク昇格とグループ形成かな?




