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3つの条件

 ブラックオークの狩りを開始してから数時間。既に5体ほど狩ったのだが、未だに魔石は手に入らない。

 倒し方の問題なのか、それとも他に何かあるのか考えたけど、結局何もわからずただ時間だけが過ぎていく。


「大倉、あとどれぐらい狩ればいいんだ?」


「すみません……申し訳ないんですが、後少しだけお願いします」


 普通の冒険者からしたら、1日でブラックオークを5体も狩った時点で、もう十分なぐらいだ。冒険者になりたてだった俺とノールだって、それぐらいで狩りを止めていたからな。

 だけど、このまま何の成果も得られませんでした……と、終わることはできない。

 せっかくの作った機会なんだ。どうにかして魔石の謎を解き明かさなければ。

 

「まあ、いいんだけどよ……けど流石に疲れてきたから、少し休憩させてくれ」


「はい。本当にすみません……」


「そう何度も謝るなよ。まだまだ時間もあるしな」


 朝早くから狩りをしているおかげで、まだ昼ぐらいの時間だ。

 日が落ちるまで時間はまだあるけど、帰りも歩きだということを考えたらそうゆっくりとしていられない。


「それにしても、本当にエステルちゃんの支援魔法は凄いな。俺達でもあんな簡単にブラックオークが倒せるようになるなんて、思ってもいなかった」


「そうですね。僕達でも狩れるなんて、夢みたいです」


「私達もパーティに魔導師様が欲しいねー」


「ふふ、もっと褒めてくれてもいいのよ」


 ブラックオークと戦い改めて実感したのか、グリンさん達がエステルの支援魔法をベタ褒めしている。

 彼女の本領は攻撃魔法なんだけど、支援魔法だけでも十分過ぎるぐらい強いもんな。


「はぁ……それにしても一体どうなっているんだ?」


「うーむ……パーティを組んだだけじゃ駄目みたいでありますよ」


 とりあえず一旦休憩することにした。その間、俺達は一体何が足りていないのかグリンさん達と少し離れて話し合う。

 元々特別なことをしているという感じじゃないので、条件はそう多くないはずだ。

 パーティを組むだけじゃ駄目となると、他の条件も満たさなければならないんだけど……まるでわからん。


「やっぱり私達以外が倒しても、魔石は手に入らないのでしょうか?」


「でも、まだ決め付けるには早いんじゃない? もう少し考えてから結論を出してもいいんじゃないかしら?」


 スマホを持っている俺本人と、ガチャの召喚石で呼び出されたノール達しか、倒しても魔石は手に入らないというのも考えられる。

 そうなったらもうどうしようもないので、完全にお手上げだ。いくら考えたって解決できるはずがない。


「と、言われてもな……条件を満たしていないとして、他に何があるっていうんだ?」


「それがわからないから困っているのだけどね……」


「私達とグリンさん達で、何か違う点でもあるのでしょうか?」


 4人で考え込むが、全く話が進む気配がしない。

 

 「……希少種、パーティ……違う点……あっ!」

 

 もう駄目なのかと思っていたのだが、ブツブツと何か呟いていたノールが突然声を上げた。


「まだ試していないことがあるのでありますよ!」


「おっ、本当か!」


 まさかノールが何か閃くなんて。そういえば、ノールは稀に冴えたことを言うもんな。

 これは期待できるかもしれない。


「私達が全員持っていて、あの人達が誰も持っていないものがあるのであります!」


「もう、勿体ぶらずに早く教えなさいよ」


 1番最初に気が付いたからか、ノールは得意げな声をしている。口の両端が吊り上っているし、ヘルムの下は間違いなくドヤって顔になっているだろう。

 思わず頬を引き伸ばしたくなったが、せっかく気が付いたのにその仕打ちをするのは酷なので耐えた。


「それは――ガチャ産の装備なのでありますよ!」


「な、なんだってー! ……って、考えてみたらたしかに当たり前のことだったな」


「私達は持っていて当然でしたから、その点を全く考慮していませんでしたね」


 ノールが自信満々に指をビシッ、と俺に向けながら言った。

 そうか……それがあったか。たしかに俺達だけが持っていて、グリンさん達が持っていないのはそれだ。

 4人共最初からガチャの装備を身に付けていて、それが当たり前だったから気が付けなかったのか。

 ノールのお手柄だな。


「うーん……となるとだ。グリンさん達にガチャ産の装備を渡して狩りしてもらわないといけないな」


「そうね。だけど、ガチャ産の装備と言っても、武器なのか防具系なのかで変わってくるわよ? ガチャ産の武器で止めを刺さないといけないのか、身に付けているだけでいいのかも確かめないとね」


 原因がわかったのはいいんだけど、ガチャ産の装備を渡すのか……。まあ、SRまでならギリギリ大丈夫だろう。

 それとガチャ産の装備が条件だとして、武器で直接倒さないといけないのか、それともどれでもいいので装備を持っていればいいのかも重要だ。

 他の冒険者に狩りをしてもらう時、どれを渡せばいいかで違ってくる。


 武器だった場合は、元々持っていた物と同等かそれ以上の物を渡さなければならない。慣れていない違う種類の武器を渡す訳にもいかないし、貸し出し専用の物を用意する必要が出てくる。

 だが、指輪系でもよければその手間がなくなる。

 持っているだけでいいことを願うしかないな。


「とりあえず駆け出しの方々に武器を貸して、グリンさんに指輪系の装備を渡せばいいのではないでしょうか?」


「……そうだな。それが無難か」


 どっちかわからないので、両方試すことにしよう。

 グリンさんは元々それなりの武器を使っているので指輪を渡して、まだ駆け出しのアルミロさん達に武器を渡そう。

 これならそれほど不自然じゃないだろう……たぶん。


「すみませんー」


「ん? なんだ?」


「休憩が終わったら、今度はこれを身に付けて狩りをしてもらいたいんですけど大丈夫ですか?」


 さっそくグリンさん達の所へ行き、装備を渡すことにした。

 グリンさんに渡す装備は、防御の上がる守護の指輪だ。


「なんだ、この指輪は?」


「これはエステルが作った、魔法の力が込められてるものなんですよ。どのぐらい効果があるか試したいので、お願いします」


「うお、これ魔導具かよ!? こんな貴重なもの、貸してもらっていいのか?」


 グリンさんが指輪を不思議そうに眺めていたので、なんで渡したのか説明をする。

 俺の首飾りのように魔導師が力を込めて作る装飾品があるから、エステルが作ったことにしたんだけど……魔導具とかいう新しい単語が出てきた。

 詳しく聞きたいところなんだが、渡した俺が知らないのは不自然なのでこのままスルーしておこう。後で誰かに聞かなくちゃ……。


「は、はい。それと、アルミロさん達はこの武器を使ってください」


「こ、こんな立派な武器、貸してもらっていいですか!?」


「おー、私のと違って長くて丈夫そうー」


「自分のものだと思って、遠慮なく使ってください」


 アルミロさんとカミッラちゃんには、それぞれガチャ産の鉄剣と鉄槍を渡すことにした。ハウス・エクステンションでかなりのRを処分していたけど、残ってて助かったぞ……。

 ガチャ産の武器は、Rだけど質は良いとガンツさんからのお墨付きだ。駆け出しの彼らの武器と比べたら、同等かそれより少し質が良い程度のはず。

 受け取った彼らも驚いているので、問題はないだろう。


「……大倉。一体その武器どこに持っていたんだ? 来る時そんな物持ってなかっただろ?」


「あっ……エ、エステル。そう、これもエステルの魔法でバッグに仕舞っていたんですよ!」


「へぇー、魔導師っていうのは本当に凄いんだな。そんなこともできるのか」


 それなりの長さの剣と槍を持ってきた俺に、グリンさんが疑いの目を向けている。

 とっさに、これもエステルの魔法のおかげだと言うと、納得したように感心していた。

 や、やばかった……目の前で出した訳じゃないけど、いきなり剣と槍を持ってきたらそりゃおかしいと思うよな。

 魔法ってことで誤魔化せて助かった……。


「あ、あぶねぇ……」


「お兄さん、何か不都合があったら大体私のせいなのね」


「いや、本当にすまん。魔導師のおかげにしておけば大体なんとかなりそうだからさ……」


「まあ、別にいいけど。でも、言い過ぎて疑われるようなことになっても困るから、本当に困った時だけにしてね」


 今回は大体エステルのおかげということでゴリ押していたせいか、彼女は呆れたようにジト目で俺を見ていた。本当に申し訳ないと思っている。

 この回避方法は便利だけど、使い過ぎて魔法を知る人に聞かれたらまずいかもしれない。

 さっきの魔導具と合わせて、1度魔法に関しては詳しく調べておこう。


「よし。休憩もしたし、さっそくやるとするか!」


「はい!」


「はーい」


 俺から装備を受け取ったグリンさん達は、立ち上がりまた狩りをしようと意気込んでいる。

 本当はもう少し強い装備を渡したいけど、今はSRで丁度いいのがないから仕方ない。SSR以上は性能がやばいから、そうポンと渡せるものでもないしな……。


「よし、それじゃあ俺達も行くとするか」


「はいでありますー」


 俺達もグリンさん達に続き、狩りを始めた。

 そしてしばらく狩りを続けると、また森の奥からブラックオークが飛び出してくる。

 先ほどと同じように俺達が周りのゴブリン達を処理し、グリンさん達に相手をしてもらう。

 頼む……今度こそ成功してくれ! これで失敗だったら、もう他に考え付くことがないぞ。


 俺は祈るようにスマホを見つめながら、グリンさん達がブラックオークを倒すのを見守っている。

 次々と入れ替わるように彼らが攻撃を加え、カミッラちゃんの槍がオークの胸元を突き刺し、ようやくオークは前のめりに倒れて光の粒子に変わった。

 さあ、これで……。


「お……おお! きた、魔石がきたぞ!」


「むふふー、やっぱり私の勘は冴えているのでありますね!」


 握っていたスマホが振動し、魔石が1個俺のスマホへと入ってきた。

 ノールは自分の予想が当たっていたのが嬉しかったのか、凄く満足そうな声で頷いている。

 やった……やったぞ! ついに魔石を手に入れる条件を解明できた! これで、これからのガチャ生活はバラ色になるはずだ!


「おっ、グリンさんがトドメを刺しても入ってきたな。つまりガチャ産の装備を持っていれば、魔石が手に入るってことか」


「これで、ノールさん達が考えた方法も使うことができそうですね」


 今度はグリンさんにトドメを刺してくれと頼み、さらにもう1体ブラックオークを倒してもらった。

 結果、それでも魔石が1つスマホに入ってきた。ということは、条件はガチャ産の装備を身に付けることだな。


「うーん……」


「どうかしたのか、エステル?」


 条件が全て判明したので俺達は喜んでいたのだが、エステルだけは眉を寄せて浮かない顔をしていた。

 どうしたんだ? ノールとエステルがこれを提案したというのに、あんまり嬉しそうに見えないんだが……。


「言ったのは私達だけど、ここまで条件があるなんて思っていなくてね。上手くできるのか、ちょっと不安だわ」


「まあ条件がわかったんだし、後はじっくり考えればいいだろう」


「……それもそうね」


 条件は、希少種を倒す、パーティを俺と組む、ガチャ産の装備を身に付ける、の3つ。

 これぐらいならなんとか……なんとかなるのか?


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