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ルーナの実戦

 エステルから首飾りを貰ってから数日後。

 今は日が落ち始め、夜を迎える時間帯だ。


「おーい、出てこーい! おーい!」


 俺は自宅で叫びながら、ハウス・エクステンションで追加された部屋の扉をドンドンと叩いている。


「……なんだ平八……うるさいぞ……もう夜なのか?」


「やっと起きてきたか」


 結構な時間呼んで、ようやく扉が開いた。そして真っ暗闇の部屋の中から、ルーナがヨタヨタと歩いて出てくる。

 あ、あれ……この部屋ってこんなに暗かったっけ……真っ暗すぎて何も見えないんだけど。


「それで、あんなにうるさく呼んで、一体私になんの用なんだ?」


「ああ、一緒に狩りにでも行こうと思ってな」


「却下だ。私はもう一眠りする」


 出てきたルーナは目を擦り凄く眠そうにしながら、起こした俺に不満があるのか真っ赤な瞳で睨んできた。

 黒いパジャマでとんがり帽のナイトキャップを被った格好をしているから、全く怖くはないんだけどね。

 というかいつの間にこんな気合入った寝る服用意してきたんだ?

 

 俺が呼んだ理由を彼女に言うと、即答で拒否し振り返ってまた部屋の中へ戻ろうとし始めた。


「まあ待てって。まだ1度も狩りに行ってないし、全然外にも出てないだろ? そろそろ外に行きたくなってきたんじゃないか?」


「いや、全く」


 肩を掴んで戻るのを止め説得しようとするが、また即答で返事をした後手を払い落とされる。

 これじゃまるで取り付く島がないぞ……1番幼く見えるルーナが、1番冷たいなんて。こんな幼女だと思っていなかったよ。

 これはこれで話し辛い……シスハ程とは言わないが、ノールぐらいフレンドリーに話せないものかね。


「そこをなんとか、な? 頼むよ」


「むぅ、しつこいぞ。なぜ外に連れ出そうとする?」


「このままずっと引きこもらせておくのも心配だからさ。それにどんな戦い方するのか知っておかないと、いざって時に困るし」


「ふむ……」


 ルーナを召喚し休日が始まってから既に10日近くになるだろうか。

 彼女は初日の方だけ外に出て以降、まるで自宅から出ようとしない。

 ここ数日なんて部屋から出てくることすらなく、ずっと寝ているみたいだ。

 

 そこでこのままじゃいけないと思った俺は、奮起してルーナを誘うことにした。

 そろそろグリンさんとの約束の日だし、その後また色々始めるかもしれないから今の内に実力は確認しておきたい。

 

 駄目なのかと思っていたが戦闘の為だと言うと、戻ろうとしていたルーナはピクリと止まり腕を組んで考え込み始めた。


「……いいだろう。これから毎日言われても困るし、それにノール達からもそろそろ言われそうだったからな」


「おし、それじゃあさっそく……と思ったけど、ノール達も呼んできた方がいいか?」


 これから先言われて睡眠を邪魔されるより、先に解決することを選んだみたいだ。

 どうやらノール達にも言われそうな雰囲気は出ていたみたいなので、諦めたのかな。

 事前にノール達に言わずにルーナを誘ったので、これから呼ぶことになるが全員呼んだ方がいいか一応聞いておいた。


「私の力を確認したいだけなのだろう? それなら――」


「はいはーい! 呼びましたか? 今私のこと呼びましたよね?」


「貴様の勘違いだ。帰れ、さっさと帰れ」


 ルーナが何か言いかけた瞬間、シュバっと元気のいい声を出したシスハが飛び出してきた。

 どこから出てきたんだこいつは?

 シスハの姿を確認したルーナは、眉をひそめて露骨に嫌そうな表情に変わってシッ、シッ、と手を払って帰れと言う。


「そんなこと言わないでくださいよぉー! ルーナさんの狩り初体験に同行させてくださいよぉー!」


「あっ、こら!? どうして俺に引っ付くんだ!? 離せ!」


「嫌です! 同行を認めてくださるまでは、絶対に離しませんからね!」


 帰れと言われたシスハは、泣き崩れながら何故か俺の足に両腕を回してしがみ付いてきた。

 こいつ、ルーナは無理だと判断してまだ泣き落としできそうな俺を標的にしてやがるのか!?

 若干むにょっとしたものが当たってるから止めて……止めてほしいかな?


「あら、ルーナがいるなんて珍しいじゃない」


「何してるのでありますか大倉殿達は……またシスハが何かしたのでありますか?」


 外からハウス・エクステンションで拡張された廊下に、エステルと荷物を抱えたノールが入ってきた。

 俺の前で寝巻きのまま立ち尽くし呆れているルーナと、足に絡みついたシスハと格闘する俺を見て状況を察してくれたみたいだ。

 理解力があって凄く助かるね。


「今からルーナと少し狩りに行こうとしていたんだけど、そしたらシスハが飛びついてきたんだよ」


「大倉さんだけズルイですよ! 私だってルーナさんと一緒に行きたいんです!」


「こいつは本当に騒がしい奴だな。いつもこうなのか?」


「いや、ルーナの前以外ならもう少しまともなのであります」


 ノールにすら呆れられたように、俺の足にしがみ付いたシスハは見つめられている。

 召喚した当時、ここまで残念な娘になってしまうなんて誰も思っていなかっただろう。

 掲示板の人達が言っていたことは、こういうことだったのか? 

 GCのシスハ個人エピソードが凄い気になってきたんだけど……。

 最初からエステルだけが微妙に察知していたが、ある意味凄いことだったんだな。


「それで大倉殿。本当にこれから狩りに行くのでありますか?」


「ああ、グリンさんとの約束もあるし、その前に行こうと思ってな。軽く確認する程度なんだがノール達も来るか?」


「行きたいのでありますよ! ルーナの戦い方には、同じ近接職として興味があるのであります!」


「そうね。夜になると調子がよくなるって言っていたし、せっかくだから見ておきたいわね」


 どうやらノール達もルーナには興味があったみたいで、一緒に行こうと言うと興奮気味にノールが食いついてきた。

 エステルも乗り気みたいだいし、結局全員で行くことになりそうだな。


「むぅ……増えた。貴様のせいだぞ」


「そ、そんなぁ……私何もしていませんよぉ……」


 床に座ったままになっているシスハを、ルーナが腕を組んだまま見下ろして呟いた。

 たしかに騒がしくて自重しない奴だが……このままだとあまりにもかわいそうな気がしてきたぞ。



「さて、ここにやってきた訳だが……まだギリギリ明るいが、そろそろ真っ暗になりそうだな」


「そうでありますね。夜に狩りしたのはこないだが初でありますが……ちょっと危なそうなのであります」


 完全に真っ暗になると俺達が確認できなくなるから、夕焼け空がピークのタイミングで狩場へとやってきた。

 あまり多く相手にして長引かせるつもりもないので、ささっと確認する程度のつもりだ。


「初の戦闘なのに、あれが相手で本当に大丈夫かルーナ?」


「大丈夫だ。あの程度のトカゲに、この私が遅れを取るはずがない」


「あら、自信満々なのね」


 今回の相手は、レムリ山のリザードマンだ。

 俺のレベルも上がっているので、召喚されたばかりでもルーナのレベルもそこそこ高い。

 なのでリザードマン程度なら問題なく狩れるだろう。

 それでも一応大丈夫か聞くと、腕を組んで自信満々という風にルーナは答えた。

 心なしか瞳が普段よりもさらに赤くなり発光しているように見える。これが上昇状態ということか?

 

「それより、平八は本当に変な格好をするのだな。不審者じゃないか」


「うぐっ……仕方ないだろ。これが1番良い装備なんだから」


「本当にその帽子をヘルムの上に被っているのでありますね……」

 

 戦闘用のいつもの装備をしている俺を見て、ルーナがジト目で俺を見つめている。

 せっかくなのでガチャから出たペタソスを被っているのだが……やっぱり似合わなかったかな?

 

 まあそれはいいとして、その前にルーナのステータスを見ておこう。

 こないだステータス確認したのは昼間だし、夜の状態も確認しておかないと。


――――――

●ルーナ・ヴァラド

レベル:55

HP:3550(4500)

MP:900(1300)

攻撃力:960(1200)

防御力:650(750)

敏捷:120(150)

魔法耐性:30(40)

コスト:22


固有能力

【闇に潜む者】

 夜にだけ、戦闘時能力値が上昇。

スキル

【カズィクル】

 1撃のみ総攻撃力の4倍。防御力、魔法耐性を無視する。 再使用時間:5分

 B:64 W:47 H:61 推定:Aカップ

――――――


「うおっ、マジで能力値が上がってる」


「だから言っただろ? まあ、昼間でもあの程度の魔物を屠るのは造作もないが」


 凄いステータスだな……俺よりもレベルが10近くも低いのに、どれも圧倒的に高い。

 2段階目に突入する前のノールを上回っている可能性すらあるな。

 

 それよりも注目すべきはルーナのスキルだ。

 1回のみの攻撃みたいだが、威力が高く再使用時間も短い。これなら普段からスキルを使った戦闘ができるかもしれないし、戦力的にはかなり期待できる。

 ノールやエステルのように何か副作用的なものがあるかもしれないから、使わせるのはちょっと怖いけど……。

 防御も魔法耐性も抜いてダメージを与えられるとなると、今後魔法も物理も効き辛い相手が出てきた時に頼りになりそうだ。


――――――

●ブラドブルグ

 攻撃力+1800

 HP吸収

 自動回収

 自動追尾

●血染めの黒衣

 HP+500

 防御力+500

 ダメージ吸収

 HP自動回復

――――――


 この前ルーナが出した装備の方も確認してみた。

 うーむ、ブラドブルグが槍で、血染めの黒衣がこないだのマントか……って、血染めとか物騒な装備だなおい!?

 ブラドブルグは俺のエクスカリバールより攻撃力が低いが、自動回収や自動追尾が付いているとなると、投擲武器としても使えるものなのかな?

 それとHP吸収も付いていて、黒衣の方もダメージ吸収や自動回復が付いている。

 これだけの能力付きだと、単騎で戦っていても全くHP減りそうにないな。吸血鬼だから、不死身というコンセプトを元に作られた装備なのかね?


「おお、ルーナかっこいいのであります! そのバサッ! って感じやってみたいでありますよ!」


「俺のでやるか?」


「……遠慮しておくのであります」


 さっそくやる気になっているのか、ルーナが前のように指先を少し傷つけて血を出すと、槍と黒衣が魔法陣から出現した。

 もしかしてこれ、収納魔法みたいなものなのかな? エステルが使っているところを見たことがないけど、ルーナだけが使えるものなのかね?


 取り出したマントをバサリと羽織り、槍を携えてルーナは完全に戦闘モード。

 それを見ていたノールが、両手をブンブン上下に動かして興奮している。

 そして自分もやりたいと言いだしたので、俺は聖骸布を脱いでノールに差し出してやるか? と聞いたのだが、聖骸布を凝視した後止めておくと言った。

 

 ……なんだよ、これだって一応URの装備なのに……扱い酷すぎるんじゃないか?


「それじゃあルーナ、支援魔法かけてあげるわね」


「ふむ、これが支援魔法か。なかなかいいものだ、ありがとう」


 準備も整ったので、エステルがルーナに支援魔法をかける。

 彼女は手をグーパーさせながら、自分の体に施された魔法を確認し、その後持っていた槍を軽く動かし始めた。


 ブンッ、と勢いよくルーナの前方に槍を片手で横回転させ、そのまま背後に回したりして上手く地面に当たらないよう動かしている。 

 あの小さい体であんな槍を扱えるのか疑問だったが、俺なんかより遥かに扱いが上手いようだ。

 ……あれができたら、カッコいいんだろうな。やりたいけど、俺がやったら最初の回転でどこかに飛んでいっちゃうよ。


「ルーナさん! 私も、私も支援魔法で――」


「いらない。平八、行ってくる」


「おー、あいつ1体攻撃すると増えるから気をつけるんだぞー」


 今まで沈黙していたシスハが、ルーナに支援魔法をしようと声をかけると、即答でいらんと答えリザードマン達の方へ駆け出していってしまった。

 ルーナの耐久力はかなりあるので、シスハの防御系の支援魔法はたしかにいらないと言えばいらないけど……。


「うぅ……なんで、なんで私こんな扱いなんですか……」


「元気出すのでありますよ。いつか、ルーナと分かり合える日がくるのであります」


「本当ですか!」


「……たぶん、であります」


「どうして顔を逸らすんですかー!」


 走っていくルーナを見ながら、シスハは両手と膝を地面に付けて泣き崩れた。

 それを慰めるようにノールが背中を擦ってあげている。

 彼女の慰めに、シスハは顔を上げて希望を見たかのような表情でノールを見るが、見つめられた彼女は頬をポリポリとかきながら顔を逸らして自信がなさそうに答えた。

 馬鹿をやっているシスハ達は置いておくとして、今はルーナの戦いを見るのに集中しないとな。

 

 1匹のリザードマンに向かい、ルーナは黒いマントをなびかせて駆けていく。

 その速度は今のノールには劣るが、俺なんかよりもずっと速い。

 

 近づいてきたルーナに気が付いたのか、リザードマンが彼女の方を向いて仲間を呼ぶ為の雄叫びを出そうと口を開く。

 そのまま声を上げるのかと思ったのだが……その前にルーナが地面を蹴り跳躍し、空中で槍をクルクルと振り回しながらリザードマンに向かって槍を投げ飛ばした。

 ルーナの手を離れた槍は、赤い光を纏い、長い線となった残光が空を突き進む。その光景はまるでレーザーでも撃ったんじゃないかと思うほどだ。

 

 投擲された槍の速度は、リザードマンが雄叫びを上げる前にその首を貫くほどだ。

 貫いた槍はそのまま後方に飛んでいく、なんてことはなく、途中で槍がさらに輝いたかと思うと突然消えた。

 ルーナの方を見てみると消えた槍をいつの間にか握り締めており、跳躍の着地点にいたリザードマンの頭に向かい槍を縦に突き刺した。


「うわぁ……なんだあれ……」


「流石でありますな。あれなら他のリザードマンが出てくる前に倒せるのであります」


「あ、あれはさすがに私でも耐えられそうにありませんね……」


「ルーナが本気で怒ってなくてよかったじゃない。これからは少し自重した方がいいんじゃないかしら」


「うぅ……そうします」


 気をつけろとは言ったが……まさか他のリザードマンが出てくる前に倒すとは思わなかった。

 吸血鬼だからわかっていたけど、あの動きは凄まじい。一撃でリザードマンが倒れていないのを見ると、スキルは使ってなさそうだ。

 俺もいつかは、あんな風にかっこよく魔物を倒して決めポーズでもしたいなぁ。

 武器のせいで地道に何度も突き刺す攻撃方法だから、かっこよく見せるのは不可能な気がするけど。

 

 あれだけ力があるのに、シスハには噛み付く程度に留めていた。

 いざとなれば実力行使でシスハを倒せそうだが、それをやらないということは意外とそこまで嫌ってないってことか?


「平八、これで満足か? まだやれというなら、もう数体狩るが」


「お、おう。もう十分だ」


 その後もルーナは他のリザードマンを同じ方法で何体も倒し、増援のリザードマンを出すことなく殲滅していた。

 ある程度狩り終えた彼女が、トコトコと歩きながら俺達の所へ戻ってくる。

 これ以上狩っても全く同じことの繰り返しになりそうなので、そこまで狩ってないけどもういいかな……そろそろ真っ暗闇になりそうだし。

 初の戦闘だというのに、俺なんかよりずっと戦い馴れしてるように見えたぞ……戦力的に頼もしいからいいんだけどさ。


「ルーナの槍、羨ましいのであります! 私もレギ・エリトラを投げて、遠距離の攻撃手段を……」


「そのまま行方不明になっても俺は知らんぞ」


「……止めておくのであります」


 ルーナが遠距離からの攻撃をするのを見て、どうやらノールも真似したくなってきたらしい。

 剣を投げ捨てて攻撃するなんて、自動回収がないのにやるもんじゃないだろ。

 それにノールが全力で投擲したら、遥か彼方まで飛んでいきそうだ。


「これでまた寝ていてもよいのだな」


「あんなに強いのに寝る気まんまんなのか……というか寝過ぎだろ」


「平八よ。私はな、可能な限り惰眠を貪っていたいのだ。もし私を好きなだけ寝かせてくれるのなら、大好きという言葉を貴様に送ってやろう」


 口元をニッと上げて、したり顔でルーナは俺にそう告げた。

 いや、素直なのは凄くいいことだと思うんだけどさ……あんまり素直に言い過ぎるのはよくないと思うんだよ。

 そんな得意げな顔で働きたくない、って言われてもね。それで許可して大好きだって言われても……まるで嬉しくないぞ。

 

 召喚時はまともそうだったのに……今までで1番苦労しそうな気がしてきた。



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