URのようなもの
「うふふー」
俺を脅してルーナを拘束したシスハは、嬉しそうに彼女を抱き抱えて椅子に座っている。
ルーナはとても不快そうに眉をしかめて、見捨てた俺の方をずっと見ていた。怖い。
血だらけの拳を向けて、笑顔で、おっ、やんのか? あっ? って感じで言われたら逆らえる訳ないじゃないですか……。
「こうして見ると、なんだか姉妹みたいね」
「そうでありますな。ルーナも仲良くしたらどうでありますか?」
「ふざけろ、こんな奴と姉妹扱いなんて鳥肌が立つ」
膝の上に座らされ、大人しくしていたルーナを見て、エステルとノールがシスハ達が姉妹みたいだと言った。
それを聞いたルーナは露骨に嫌な表情になり、シスハの腕を退かそうと手で掴みグイグイ引っ張っている。
それでもビクともしていないので、相当な力で拘束しているみたいだ。
うーん……2人共金髪だし、膝にルーナが座っていると確かにそう見えるかも? かなり歳が離れて見えるけど。
「いい加減離せ。そろそろカプッといくぞ?」
「私は構いませんよ。その程度じゃ離しませんからね」
痺れを切らしたルーナが、牙をむき出しにして歯でカチカチと音を鳴らしている。噛み付くぞって威嚇しているのか?
見捨てた俺が言うのもなんだが、離してあげた方がいいと思う。そろそろマジで怒りそうだ。
そう思ってシスハを見ていると、彼女は威嚇されても絶対離さないと言いさらにギュッと抱き締める。
その瞬間、ルーナはカチカチ音を鳴らすのを止め、自分を拘束していたシスハの二の腕に噛み付いた。カプッというよりも、ガリッって聞こえそうな勢いでだ。
「いたたたた!? で、でもこの程度では――あれれ?」
「ふぁ、ふぁとはなへ」
「おい、シスハ? どうしたんだ?」
噛み付かれたシスハは痛かったのか悲鳴を上げたが、それでもルーナの拘束を緩めない。
痛みになれているせいか、その程度じゃビクともしないみたいだ。
だが、噛み付かれてから少し経って彼女に異変が生じた。
ルーナを抱き抱えていた腕が徐々に下がり始め、体が椅子の肘かけに寄りかかり始める。
そしてルーナは噛み付くのを止めると、スルリとシスハの膝の上から抜け出した。
「うぅ……か、体が動かない……です」
「あそこまで噛み付いてようやくか。化け物かお前」
「何をしたのでありますか?」
シスハはうなだれて、完全に体が動かせないみたいだ。抜け出したルーナは、呆れたような声を出している。
噛み付いた時に何かしたみたいだな。あのシスハが動けなくなるってことは、相当強力な何かか。
「私は噛み付いた時に、色々な状態異常を付加できる。今回は体を痺れさせておいた。しばらくは動けないだろう」
ノールに声をかけられたルーナが、動けなくなったシスハに背を向けて何をしたのか説明した。
噛み付いただけで状態異常にできるなんて、結構凄いな。でも、それを魔物に使うとなると噛み付かないといけないのか。
魔物に噛み付くなんて嫌がりそうだけどな……やれって言われたら俺だって嫌だし。
「なるほど、さすがはルーナさんですね」
「――!? き、貴様、何故動いてる!?」
「いえ、だって私、一応神官ですからね」
腕を組んで安心しきっていたルーナの両肩に手が置かれた。
彼女は体をビクッと震わせて、振り返った先にいたシスハを見て驚愕している。
さっきまで全く動く様子のなかったシスハは平然としていた。
神官だから状態異常程度なら簡単に治せるもんな……ルーナもそれをわかっていただろう。
冷静で冷たそうに見えるけど、意外に抜けた部分があるのか?
「シスハ、さすがにそろそろ止めにしてやれ。本気で嫌われるぞ」
「うぅ……そうですね。でも、いつか必ず仲良くなってみせるんですから!」
召喚されて早々に嫌がることをし過ぎて、不快な思いをさせるのはあまりよくない。これ以上は止めた方がよさそうだ。
シスハに止めろと言うと、ちょっと名残惜しそうな感じだったが、ルーナの両肩から手を離して引き下がった。
一応引き際はわかっていたらしい。彼女が離れると、ルーナはホッとしたように胸を撫で下ろしている。
「平八、感謝はしておく。でも、私を見捨てたことは忘れないからな」
「うぐっ……本当にすまないと思っている」
お礼は言ってくれたが、最初に見捨てたことを忘れてはくれないみたいだ。
挨拶といい、完全に第一印象最悪ですよこれ……どうしてこうなった。
こうなってしまったのは仕方ないので諦めて、気になったことを聞くことにしようかな……。
「それより、さっき噛み付いた時にシスハの血を吸ったりしたのか? それで吸血鬼化したりは……」
「ん? 私が噛んだからって吸血鬼にはならないぞ。それにさっきは血を吸ってはいない。こいつの血なんてお断りだ」
「血を飲むことすら拒否されるなんて……あんまりですよ……」
吸血鬼に噛まれると吸血鬼になったり、眷属にさせられるとかよくあるけど、どうやらそれはないらしい。
シスハには単純に噛み付いただけみたいで、血は吸っていないという。相当嫌われているのか、血を吸うことすら拒否されている。
それを聞いた彼女はかなり悲しそうだ。吸われないというのはむしろ喜ぶべきことだと思うのだが……血を吸われて大喜びする変態の姿が浮かんできたぞ。
「なんだか随分と騒がしくなったわね」
「そうでありますね……それで、この後はいつもの装備分けでありますか?」
「そうだな、ルーナの装備も整えないといけないし。……あれ? そういえば、ルーナって職業なんなんだ?」
いつもどおりに装備の整理をしようと思ったのだが、シスハのせいでだいぶ遅れてしまった。
素の状態に近くなると、ホントよく暴走しやがる。
全く、俺のようにもっと自制心を持ってもらいたいものだ。
ようやく話も落ち着いて、装備の整理を始めようとした。だけど、ここで1つ疑問があった。
ルーナの職業がわからない。いつもなら何かしら武器を持っていたりするのだが、彼女は何も持っていなかった。
UR装備を所持していない訳ではないだろうし、どこかに隠し持っているのか?
「吸血鬼だ」
「いや、それ種族だろ。武器は何を使うんだ?」
「槍だ。見せてやろう」
ルーナは見せてやるというと、自分の人指し指を鋭く尖った犬歯で傷をつける。
そして指先から小さな血の玉が出てきたと思うと、魔法陣が現れて真ん中から真紅の矛先が徐々に姿を現す。
「うおお! カッコいいな!」
「それがルーナの武器なのでありますか! 立派な槍でありますね!」
「そうだろう、そうだろう」
すげぇ、カッコいい! これだよ、これ! 俺が魔法に見ていたロマンはこういうのだよ!
一緒に見ていたノールも、俺と同じように興奮している。彼女もこのロマンを理解しているみたいだ。
俺達の反応を見て、ルーナはとても満足そうに頷いている。
取り出した槍は、彼女の背丈よりも長く、先端に刃が付いているだけのシンプルなものだ。無駄な装飾品が一切付いていない。
槍使いだったのか……遠距離攻撃があるって話だったが、もしかしてこれを投擲するのか?
「あら? でも、もう1つのUR装備を持っているんじゃないの?」
「ふむ、それならこれだな」
URキャラは2つのUR装備を所持して召喚される。なのでルーナはもう一つ持っているはずだ。
それをエステルが聞くと、槍を出した時と同じように人指し指の先に魔法陣が現れて、今度は黒いマントが出てきた。
ルーナはそれをバサリと羽織る。首元で留めるようになっていて、足元近くまですっぽりと覆うような大きさのマント。
俺の纏っているボロ布と違って、かなり立派だ。
「羨ましいなぁ……俺の聖骸布と交換しないか?」
「なんだそのボロ布」
「駄目ですよ! そんなボロ布をルーナさんに使わせるなんて!」
交換しないかと俺が聖骸布を取り出して見せると、ルーナは不思議なものを見るような目をしている。
シスハまで俺の聖骸布をボロ布だといい始めやがった。
俺自身もボロ布だと思っているんだけど、唯一のUR装備をここまで酷く言われるとちょっぴり傷ついちゃう。
「くっ……そ、それじゃあ他のアイテムも整理していくか」
「今回は過去最高の回数でありますよね。よさそうなのが出てるといいのでありますが」
ルーナの確認も終わったので、槍とマントを仕舞わせる。
色々とあったが、気を取り直して装備の整理をすることにした。
今回はかなりの回数を回したから、新しいSSRなどもそこそこ出ている。
何か使えるものがあるといいな。
――――――
●液晶モニター
最新式の液晶モニター。
スマホと連動して様々な映像を映すことができる。おまけでゲーム機も接続できる。
――――――
「お兄さん、これはなんなの?」
「俺の世界にあった物だな。何かできたらいいんだが……ゲームもないし今は使い道がないか」
出てきたのは、しっかりとした台に支えられたモニター。
大きさは50インチぐらいか? でか過ぎだろ。
スマホと連動して何か映したりできるみたいだ。今は使えそうなものがないので意味がなさそうだけど……。
「これが大倉殿の世界の物なのでありますか」
「待て! その黒枠部分以外は脆いから触るな! ノールが触ったら壊しかねない!」
「わ、私そんなことしないでありますよ! 失礼にも程があるのでありますぅ!」
ノールが物珍しそうに近づいて触ろうとしていたので止めた。
液晶部分を下手に触ってぶっ壊されても困る。
両手を握り締めてプルプルと震えて怒っているけど、仕方ないよね。
――――――
●ボードゲームセット
様々なボードゲームが遊べる。
暇つぶしにはもってこい。
――――――
次にコンプ対象だったボードゲームセットだ。
大き目の箱に入っていて、中を見るとリバーシ、将棋、囲碁、ダイヤモンドゲームなどが入っている。
「おっ、なかなか面白そうだな」
「色々とあるわね」
「むぅ……なんだか難しそうなものばかりでありますね」
暇を潰すのによさそうだな。ノールは渋い声を出しながら見ているが……こういうのは苦手なのか?
――――――
●プロミネンスフィンガー
MPに応じて威力が変化するグローブ。
あなたのこの手が真っ赤に燃える。
――――――
出てきたものはなんの変哲のない赤色のグローブ。説明文からすると熱を発生させる装備なのか?
「なんかロマンが溢れる装備だな」
「これ近接用なんですか? ちょっと欲しいかもしれません」
「神官なのに近接装備……?」
素手での近接戦闘が好きなシスハが興味を示した。素手で殴るよりはよさそうだからいいけど、これを渡したら相手の顔面掴んで焼きそうで怖いな。
ルーナがそれを聞いて、得体の知れないものを見るような目で彼女を見ていた。初めて聞くと、本当に神官なのか疑問に感じるもんな。
――――――
●四次元ゴミ箱
ゴミ箱。内部は四次元空間になっているのでいくらでも捨てられる。
生き物は入らないので注意。
――――――
「ゴミ箱を四次元にしてどうするの?」
「どうせ四次元にするなら、収納箱とかにしてくれよ……」
「ハズレでありますかねこれ?」
ゴミ箱なら、せめて中に入れたものが消滅するようにしてくれ。
四次元空間のゴミ箱なんて、何の意味があるんだ? まあ収納箱として使えそうだからいいか。
――――――
●食材販売機
ポイントで食材を購入できる。
販売ポイントは、魔物の素材を入れ変換することで得られる。
――――――
四角いそこそこの大きさをした箱。上の部分が開くようになっていて、正面には液晶パネルがくっ付いている。
ポイントは0だが、どんなものがあるのか確認していくと、玉ねぎや牛肉やら俺の世界の食材が色々と選択できるようになっていた。
魔物の素材から自由に食材を引き出せるなんて……凄いなこれ。
「へぇー、これあればガチャの食料使わなくても色々作れそうだな」
「でも誰が作るんですか? この中で料理をできるのは……」
これで食料を使わなくても、同じような料理が食えると思ったが、肝心の作れる人間がいなかった。
前に作れると言っていたノールを、ルーナ以外の全員でチラッ、チラッと見るが、無理かと諦めて視線を外した。
「いないな……」
「いないわね……」
「い、今のはなんでありますか! 私作れるって言ってるじゃないでありますか!」
机をバンバン叩いて抗議しているが、信用ならないので無視だ。
もし今後作る機会があったら、1回作らせてみてもいいかもしれない。
――――――
●ウォールシューズ
壁に張り付くことができる靴。
スカートの人は注意しよう。
――――――
底に吸盤のような物がくっ付いた靴が出てきた。これで壁も歩けるって、なんだか単純すぎない?
スカートの人は注意って……たしかにパンツ見えちゃうもんな。ノールと俺以外は履けないかも。
「壁が歩けるのか」
「面白そうだな。平八、貸してくれ」
そう思っていたら、ルーナが興味を示したので渡すと履きだした。
そのまま家の壁をテクテクと登って行く。横から見ていると、凄く奇妙な光景だな……。
――――――
●グリモワール『スペルビア』
風属性魔法の攻撃力+100%
攻撃対象の嗅覚を50%の確率で一時的に失わせる。
――――――
ついに3つ目のグリモワールが出てきた。今度のは鳥の描かれた緑色の本だ。
「あら、新しいグリモワールね」
「今度は風か……あんまり派手な攻撃はしないでくれよ?」
「ふふ、一応覚えておくわ」
これで火、風、土の3系統のグリモワールが揃った。さらにエステルの攻撃のエグさが増すのか……。
念の為に忠告はしておいたが、彼女に軽く笑って流された。大丈夫なのだろうか。
――――――
●ペタソス
移動速度+50%
行動速度+40%
――――――
SSRだったので期待したのだが、出てきたのは帽子だった。
黒くて頭に被せる部分が丸く半ドーム上になっていて、前後につばが付いている。探偵帽って奴かな?
それの側面に羽の付いた帽子だ。速度系の上昇値がかなり凄いな。これはぜひ欲しい。
「帽子か。これは俺が貰ってもいいか?」
「いいでありますが……それ、まさかヘルムの上から被る気でありますか?」
「ん? もちろんそのつもりだけど」
「さすがにそろそろ危ないと思うのですが……」
ヘルムの上から被るつもりだったのだが、ノール達の反応が妙だ。
まだまだ体に空きはあるので、もっと色々装備する気なんだけど……GCじゃ1つの部位に2つ以上は装備が付けられなかったので、複数頭に装備をできたりするのはワクワクする。
ゲームの時に一度はやってみたいことだったからね。
「なんだ、平八はそんなに変な格好になるのか?」
「ルーナはまだ戦闘時のお兄さんを見ていないものね。多分驚くと思うわよ」
戦闘時じゃないので装備はほぼ全部脱いでいるから、ルーナはどんな感じなのかわからないみたいだ。
エステルが頬に手を当てて呆れたようにジト目で俺を見つめて、彼女に教えている。
驚かれるほどの格好をしているつもりはないんだけど……なんだか悲しい。
――――――
●ディメンションルーム
壁に貼り付けることで異空間へ扉が開く。
どこで貼り付けても繋がる空間は同じ。
――――――
コンプリートガチャの最後に出てきたアイテムだ。これは期待してしまう。
そう期待高まる中出てきたものは、ただのドアノブだけだった。これだけだとゴミだと思ってしまう。
説明の通りにドアノブを壁に向かって付けると、壁に長方形を描くように光が走る。そしてそのままドアノブを捻ると、普通のドアのように壁が開いた。
「最後まで出なかっただけはあるな。かなり有用なアイテムだぞこれ……見た目がしょぼいけど」
「迷宮内でも安全に休めそうなのは助かりますね」
中へ入るとそこは白い空間が広がっていた。ハウス・エクステンションで追加される個室の2、3個分はありそうだ。
この部屋に色々と置いておけば、迷宮内からここに移動して安全に休憩することができるな。
さすがはあそこまで出なかったSSRのアイテムだ。
――――――
●エクスカリバール☆29
攻撃力+3290
行動速度+190%
●鍋の蓋☆22
防御+1300
●アダマントアーマー☆3
防御+1100
防御速度+15%
――――――
最後にいつものようにダブった装備を重ねてみたのだが……。
な、なんかもうエクスカリバールがやばいんだけど……もうUR超えてるぞこれ。
ここまできたらさ、UR判定でよくない? 【約束された勝利のようなもの】とか名前変更されないかな。もうそろそろビームが出てもいいんじゃない?
鍋の蓋も、もはや鍋の蓋を超越している。アダマントアーマーも強化されて、さらに防御力が跳ね上がった。
「お、大倉殿の武器が凄いのでありますが……」
「SRも、ここまで育てば強力なのね」
URの性能すらも上回ったエクスカリバールを見て、ノールとエステルが驚いていた。
俺もいつかはこうなるんじゃないかと思っていたが……複雑な心境だ。
ここまで強くなってしまうと、もうどのURが出ても換えることはないだろう。
さようなら、カッコいい俺の武器。俺はこの光り輝くバールのようなものを、今後も使うしかないみたいだ。
「なんだこれは……ヘンテコな武器なのに、私のよりも強そうだな」
「ルーナさんの武器だって、十分じゃな――あっ」
ルーナが物珍しそうに、俺のエクスカリバールを手に取って眺めていた。
そんな彼女の背後から、シスハが忍び寄り体に触れようと手を伸ばしたのだが、手が届くと思った瞬間にルーナの姿が消え失せる。
「おお、凄いなこれ。平八、私にくれ」
「それがなくなったら、俺がへっぽこになるから駄目だ!」
「チッ、残念だ」
シスハの魔の手をかいくぐり、いつの間にか俺の真横にルーナは立っていた。
おそろしく早い移動だ……見逃しちゃったよ。
エクスカリバールの性能に感心したのか、彼女は欲しいと言ってきた。
これがないと、俺は全く役に立たなくなるのでそれはできない。でも……ここまで強いと俺じゃなくて、彼女達に使わせた方が有用に使えそうだ。
その内全員分のエクスカリバールを作る日がくるかもしれない。
パーティ全員がバールを振りかざして戦闘をし始める想像をすると、ちょっと不気味な集団としか思えないけど。




