スキル発動
「ふふふ、あと僅か……あと僅かで我が悲願は成就されるのだ」
「ガチャ回すだけで大げさでありますな」
冒険者になってから数日が経過した。
今も俺達はFランク冒険者である。
Eランクに昇格するには依頼主がいる討伐依頼の達成。
しかし俺には優先すべき事が他にある。ガチャ、そうガチャだ。
「大げさ? これは一大イベントなんだぞ? あー、次は誰が来るかなー」
「UR引ける事前提で考えている辺りが恐ろしいであります……」
魔石を取る為に、毎日毎日ブラックオーク狩り。
所持金は既に50万G程に膨れ上がっている。
そして、現在の魔石は48個。あと2個で11連ガチャが引けてしまう。
11連なら無料で1回分ガチャが引けちまうんだ、お得だろ?
「さて、今日はどの依頼を受けようか」
「あの、大倉様とファニャ様。少しお時間よろしいでしょうか?」
「はい? なんでしょうか?」
ノールと話をしていると、受付嬢さんが声を掛けてきた。
「実は緊急の討伐依頼が入り込みまして、もし行けるようでしたらお2人に受けてもらいたいのです」
どうやら緊急依頼のご指名のようだが、何故低ランクである俺達なんだ?
「緊急の依頼、ですか。私達はまだFランクですのに大丈夫ですか?」
「お2人がブラックオークを狩れる程の実力があると聞いております。丁度今、腕の立つ冒険者達が外に出ていまして。今回の依頼はウルフの群れの討伐で、こちらが詳細でございます。北にあるテンドという村でのご依頼です。移動には馬をこちらから貸し出しいたしますので、どうでしょうか?」
緊急依頼だったせいで、この依頼を受けられる冒険者がいなかったみたいだ。
ブルンネの冒険者協会には、あまり高ランクの冒険者がいない。
高ランクになると、皆王都と呼ばれるシュティングに行ってしまうらしい。
詳細が書かれた紙を見ると、ウルフの討伐約30匹と書いてある。
確かにこの量は厳しいな。しかし、15万Gも貰える高額の依頼だ。
断ってもいいが、俺達にまで頼むとなると相当切羽詰っているのだろう。
馬まで貸し出してくれるというし、ここは受けておいた方が良さそうだ。
「はい、わかりました。その依頼受けさせていただきます」
●
「漏らすかと思った……」
「情けないでありますなぁ」
「だって、馬なんて今まで1度も乗ったことないんだよ! 無理に決まってんだろ!」
馬を借りたのはいいのだが、俺は乗馬の経験が皆無。
当然乗った瞬間にバランスを崩して頭から後ろに落馬した。誰だ馬を貸してくれるから良いだろうとか言った奴は。
結局乗馬出来なかったので、ノールの後ろに乗ることになった。
乗馬は騎士の嗜みでありますよ! と軽々乗りこなす彼女には嫉妬すら覚える。
でも、しがみ付いたノールの体は良い匂いがして気分が良くなった。
「今回は依頼を受けていただき、ありがとうございます」
「あっ、いえ。それで、一応受ける前に聞いておりますが、ウルフの群れの規模は現在どの程度なんですか?」
ブルンネを出て休憩を挟みながら大体3時間。
テンド村に着くと、しわ深いおじさんが出迎えた。
この人が村長で、今回の緊急依頼を出した人みたいだ。
「はい、現在はウルフが約35匹程と赤い毛並みのウルフが2匹の群れです」
「それはまた随分と増えていますね……。失礼ですがよく今まで襲われませんでしたね」
「群れを発見したのはつい先日でして。この村にも一応戦える者がいるので、追い払うことはできたのです。最初は20匹にも満たない群れだったのですが、次第にその数を増やし始めまして……これ以上増えてしまうと、この村では対応出来る者がいないのです。どうか、群れの討伐をお願いします」
数日前から兆候はあったみたいだ。
20匹程度ならばと甘く見ていたらここまで膨らんでしまったのか。
依頼をするにもお金が掛かるし、できるなら村の住民だけで対応したかったのだろう。
ウルフがたまに村の作物を荒らしに来ても、追い払ったりはできていたらしい。
しかし、気が付いた頃には群れの数は増え手に負えなくなってしまった、と。
村長から改めてお願いをされ、俺達はウルフの討伐へと向かうことにした。
「それでは早速ウルフの討伐に出かける! 前に進め!」
「普通後に続け、じゃないでありますか?」
「俺が前歩いたらやられるだろ。いい加減にしろ!」
「逆ギレでありますか!?」
ウルフの群れが居る場所は、村から離れた森の中。
茂みが凄く視界が悪い。
こんな場所で魔物を相手にするのは厳しくないか?
「それにしても赤いウルフでありますか。ブラッドウルフが2匹となると、少しやっかいでありますね」
「前もそんなこと聞いた気がしたんだけど。今回は本当にやっかいなのか?」
ギリギリとか言っておいて瞬殺した奴が言うと、全く説得力がないぞ。
「えぇ、まあ。ウルフとなると通常種でも速いのでありますよ。希少種であるブラッドウルフは、通常種の3倍は速いと言われてるのであります。攻撃力もそこそこあるので、大倉殿は無茶しないでほしいであります」
3倍って……どっかで聞いた事あるような話だ。
でも速いとなると、ノールですら対処できないかもしれないな。
せめて彼女の邪魔にならないようにしないと。
「おっ、居たぞ。早速やるとするか」
進んでいると目の前に、ウルフが3匹現れる。
俺はバールを構え迎撃しようとしたが、ウルフ達は向かって来ないでさらに奥へと逃げていく。
仲間の所に行くつもりなのか? とりあえず追い掛けないとな。
「大倉殿ストップであります」
「ん? どうした?」
走り出そうとした瞬間、ノールに肩を掴まれた。
いつになく真剣な声だ。
早く追いかけないと見失うというのに、なんなんだ。
彼女は頭を動かして周りを確認している。何をしたいんだ?
「既に囲まれ始めているでありますよ。ちょっとこれやばいであります」
「はぁ? って、おぉぉぉ!?」
確認し終えると、俺の手を取りノールは走り出した。
物凄い速度だ、バフ状態でなきゃコケてしまうね、と言う程に。
それにしても包囲され始めているとはどういうことだ。
「おい、きゅ、急にどうした!?」
「さっきのウルフは餌でありますな。先に回り込みしようとしている、ウルフを叩くでありますよ」
「ウルフにそんな知能が……」
「ふっ! だからブラッドウルフは厄介だと言ったんであります」
進む先に居たウルフ5匹程を俺とノールで壊滅させた。
出会い頭で俺は遅れたが、彼女は分かっていたように剣を振って初手で3匹は瞬殺している。
こいつ、エスパーか?
「包囲される前に向かって各個撃破であります! サーチアンドデストロイでありますよ!」
「んな、無茶な」
無茶だと思うから無茶なのでありますよ! と問答無用で走り続けるノール。
この格好で動くのには慣れてきたが、道の荒い森の中で走るのはきつい。
彼女に追い付く為、必死に俺は走った。
「おりゃ! はぁ……はぁ……ドロップアイテム拾ってる暇無いなこれ」
「そんな事してたら一気にやられるであります。ブラッドウルフが来る前に可能な限り減らすでありますよ」
ウルフは塊で移動しているようで、1組5、6匹だ。何処かへ向かい移動しているウルフを横から飛び出し襲い、先頭の奴を潰して動きを止めさせる。
耳が良いのか襲う瞬間こっちには気が付くが、行動させる前にノールが疾走して首を刎ね飛ばす。
あいつ、獣以上に足速いぞ。本気で走られたら俺が追い付けない。
移動中も合わせてくれていたんだな。
「ノール! 今何匹!」
「今ので23匹目であります。残りはブラッドウルフの、随伴ウルフってところでありますな」
「それにしても、よくブラッドウルフに遭遇せずここまでやれたな」
「ふっふー、騎士の勘は凄いのでありますよ」
しばらくそんなのを繰り返し、包囲しようとしていたウルフの大半を処理し終えた。
群れは約35匹と言っていたし、残すはブラッドウルフと少数のウルフのみ。
「あれがブラッドウルフか」
「大倉殿、今回は守ることだけに専念してほしいであります。本当に本気でやらないとやばいでありますので、私が殲滅するであります」
「お、おう。わかった」
目の前に、全身赤い毛並みで覆われた2匹のウルフが姿を現した。
そして俺達を囲うように、残ったウルフ達がぞろぞろと出てくる。
唸り声を出し、ブラッドウルフは息を荒くし牙を剥き出しにしている。
思う通りに行かなかったからか、随分とお怒りのご様子。
とりあえず、俺は自分の身を守る為に鍋の蓋を強く握り締める。
前方のブラッドウルフはノールが全力で処理するだろうから、俺はウルフを出来るだけ排除しよう。
「さぁ、行くでありますよ!」
ノールが前に躍り出ると、全身が青いオーラで包まれ始めた。
スキル【鼓舞】の発動だ。全ステータス2倍、攻撃力1万超えした怪物的な能力値。
そして彼女が動き出すと、残像が青い軌跡を描き始める。
一瞬で前方を包囲していたブラッドウルフ以外のウルフが、ミンチとなって吹き飛んだ。
ブラッドウルフが避ける為周囲に移動すると、他のウルフがノールの攻撃に巻き込まれ肉片になる。包囲していたウルフは既に壊滅しかけていた。
俺は2匹のブラッドウルフと、ノールの戦闘が恐ろしすぎて中央から身動きすら取れなくなっている。怖い、怖過ぎるのだ。
彼女の残像が通った所は全て木なども巻き込み吹き飛んでいる。下手に動いたら俺までミンチになっちまう。今はこの地獄が一刻も早く終わるのを祈るしかない。
もうやだぁ……平八お家帰るぅ……。
ブラッドウルフは辛うじてノールの攻撃を避けていた。しかし、1匹がついに切っ先へと体が触れてしまう。掠り傷程度だが、その後動きが急激に鈍くなった。
これが彼女の恐ろしさの1つ、レギ・エリトラが有する敵行動速度-50%だ。移動速度とかだけでは無く、全ての行動に対しての速度が半分に落ちる。
鈍くなったブラッドウルフは、その次の瞬間にはミンチとなって消し飛んだ。
そして、それに反応し一瞬隙が生まれたもう1頭もすぐに肉片となった。
「……もう全部あいつ1人でいいんじゃないかな」
●
「うがが、か、体が痛いであります……」
「ほぉ、えい」
「ぴゃ!? や、止めてほしいでありますよぉ……」
スキル発動後、人間とは思えない動きをしたノールは座り込んでいた。
ビクビクと全身を震わせているので、腰を突っついてやる。
変な声をあげ体をビクンと震わせ、ちょっと加虐心をそそられるが止めておこう。
あんな人並み外れた動きをして一気に筋肉痛にでもなったのか?
ドロップアイテムの回収を終え、動けない彼女に肩を貸す。
動く度に、ぬわー、ぴゃ!? と声をあげる。色気の欠片も無いノールに呆れながらも村へと撤収し始めた。
●ノール・ファニャ
レベル 12
HP 1780
MP 190
攻撃力 410
防御力 295
敏捷 69
魔法耐性 30
コスト 15
●【団長】大倉平八
レベル11
HP 770
MP 95
攻撃力255
防御力195
敏捷 35
魔法耐性 10