コンプリートを目指して 中
2日目。
「うふふ、今日は私がこっちの番ですね! ノールさんから腕輪も借りましたし、準備万端です!」
「おぉ、シスハはやる気があるんだな。頼もしいじゃないか」
「私は倒す方が好きですからね! 大倉さんと2人きりなら遠慮する必要ありませんし、こっちの方が気楽です!」
今日はノールがエステルと北の洞窟に行き、シスハが俺と一緒にオーク狩りをすることになった。そして、今はエステル達を送ってシスハとオークの森に来ている。
昨日はサソリを釣る作業でとても疲れた様子だったが、今はとても元気がいい。狩りが待ちきれないのか、体を動かしてウズウズしている。
釣り役のノールには必要ないので、彼女のパワーブレスレットをシスハに渡してもらい、狩り用に装備を整えさせた。
これで彼女でも、ブラックオークを2回ぐらい攻撃するだけで倒せるはずだ。
「よし。それじゃあ、早速狩りを始めるとするか」
「はい! 頑張りましょう!」
まずはやり方を教える為に、リポップ場所を回る順番を覚えさせないといけない。なので別々に狩りをする前に、シスハと一緒に狩りすることになった。
ゴブリンやオークを狩って、ブラックオークを湧かせて倒す。この一連の流れを彼女に伝え、俺も早速狩りをする為に少し離れたリポップ地点に向かった。
「はは、はははは――! あー、やばっ、これ楽しい!」
狩りをしていると、突然シスハの笑い声が森に響いた。俺は思わず彼女の方を向き、今俺に襲いかかろうとしていたゴブリン達も、彼女の方を見て唖然としている。
凄い速さで木々の間を駆け抜け、笑いながら湧いたゴブリンを片っ端から倒しているのが見えた。ゴブリンやオークの頭部を杖で粉砕し、ブラックオークも杖の2連撃で瞬殺だ。
エクスカリバールの補正がある俺よりも何故か速い。
こっわ!? あれ関わっちゃいけない人の雰囲気がしているぞ……。
迷宮内では何があるからわからないからブレーキしていたみたいだけど、ここは危険もないから完全にタガが外れているみたいだ。
……うん、見なかったことにしよう。
「おーい! シスハ! そろそろ帰るぞー!」
シスハが狂乱しているのを確認してから、かなり時間が経った。
もうそろそろ日が沈みそうなので、今日の狩りは終了することにした。魔石は104個回収して、総数132個だ。
俺がシスハの方へ行って、楽しそうにゴブリンの顔に右ストレート叩き込んでいた彼女を呼ぶ。
振り向いた彼女は、満面の笑みだった。かつてこれほど愉快そうにしている人間を、俺は見たことがない。そのぐらい良い笑顔だ。
「あれ? もうそんな時間なんですか? あっ、確かにもう暗くなりそうですね」
「随分とお楽しみだったようで……」
「いやー、昨日のサソリに追いかけ回された分のストレスが溜まっていまして。あのサソリ、攻撃しても全然効かないんですもん」
「お前……攻撃したのかよあれに」
「だって悔しいじゃないですか。私は追いかけられるのよりも、追いかけ回す方が好きなんです」
むっふんと、シスハは満足そうに鼻を鳴らして返事をした。
釣りをしている最中に、サソリに攻撃しやがったのか……どこまで好戦的なんだよ。
10時間近く狩りをしても、嫌になるどころか時間を忘れて戦っていたみたいだな。これならノール化することはなさそうだ。
「シスハ、大丈夫だったでありますか?」
「はい! もしノールさんがよろしいと言ってくださるのなら、明日もこっちでやりたいぐらいです!」
「そ、そうでありますか。私は別に構わないのでありますが……大倉殿もそれでよろしいのでありますか?」
エステル達を迎えに行って、自宅へと帰ってきた。
ノールも今日は耐え切ったみたいで、おかしくなる素振りはない。釣り役だったら、彼女もそこまで精神的負担にはならないみたいだ。
1日ずつ交代しようかと思っていたけど、このまま固定にした方がよさそうだな。シスハも釣り役は合わなかったみたいだし、適正って奴があるんだろう。
「俺は構わないぞ……ちょっと怖かったけど」
「怖かったって……シスハ、何かしたの?」
「はい? 私はいたって普通に狩りをしていただけですよ?」
普通の人は、あんな笑顔で声を出しながら狩りをしないと思う。魔物にすら引かれていたんだぞ。
「まあ、それは置いておいて。今回はモフットに引いてもらう」
「モフット、頼んだのでありますよ!」
今回は運の良い順で引いてもらっている。可能な限り早めに終わらせたいからな。
ノールがいつものようにモフットを持ち上げ、机の上に置く。
トコトコとスマホまで歩いていき、11連ガチャをタップした。
画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金、白。白で止まった。
【Rおやつ、SRビーコン、Rぬいぐるみ、SR高級ランプ、R催涙玉、SRプラチナプレート、Rホットリング、R薙刀、SRスカルリング、Rシャンプー、SSRパワーブレスレット】
「くっそ……SSRは出たのに……」
「次、次でありますよ!」
SSRは出たけど、ディメンションルームじゃなかった。
運がいいことにはいいのだが……やはり1点狙いとなると、そう簡単に出るもんじゃないか。
モフットは構わず、さらに11連ガチャをタップする。
画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金。金で止まった。
【R食料、R寝袋、SR賢者の石、Rポーション×10、SR命の宝玉、SRニケの靴、SRエクリプスソード、Rフレイムロッド、SRエクスカリバール、Rハードカバー、『SRボードゲームセット』】
「モフットでも駄目なのでありますか!?」
「くそ……このコンプガチャ凶悪過ぎだろ……」
くぅ……やはりこの計画はガバガバ過ぎたのか。1日2回のペースなので、引けてもあと6回。
3回にするにはさらに50個上乗せ……無理だ。どう考えてもそんなのは無理だ。
俺とシスハで、オークの森の方でもう少し狩りをして、最終日に3回引けるよう調整するぐらいしかできそうにない。
「はぁ、なんでもって言うから引き受けたけど、ちょっと精神的にくるわね、これ」
「なんだか疲れているな。ほら、これを飲んで元気を出すんだ」
「あら、ありがとう、お兄さん」
エステルは昨日よりさらに疲れているのか、ため息をしてぐったりしている。
いいと言ったことを少し後悔している雰囲気だ。
今彼女に抜けられても困るので、ガチャから出た栄養剤を渡してやった。彼女はグイっとそれを飲み干す。
うん、これでなんとか頑張ってもらいたいな。
3日目。
「今日もなんとか100個は超えたぞ……今日こそ、今日こそは……」
「本当にもう、早く終わってくださいでありますよ……」
「いやー、今日も充実した1日でした」
今日も狩りを終えて、自宅へと戻ってきた。現在の魔石の総数は143個。
今日は111個魔石を回収できた。エステル達の方が微妙に遅くなってきて、夕方の時点で98個だったのだが、俺とシスハが粘り魔石を集めた。
疲れたけど、ガチャの為なら仕方ないな。
それにしてもだ……。
「エステル?」
自宅に帰ってきてから、エステルが一言も話していない。帰宅早々椅子に座って、無言で下を向いたままジッとしている。
声をかけないでくれ、死ぬほど疲れているんだ、という雰囲気だ。
でも、なんだか心配になって俺は声をかけた。
それでも彼女は反応しない。
「おーい、エステル」
「……えっ? 何?」
「いや、なんかボーっとしていたからさ」
「あら、そう? ごめんなさい」
目の前まで行って顔の前で手を振り、ようやく俺に気が付いて返事をしてくれた。
このパーティの中じゃ1番体力がないし、この狩りはちょっときつかったかな? まだ3日目だけど……少し気にしてやらないと駄目かもしれない。
「今日はちょっと、調子悪かったみたいなのでありますよ。危うく私も、攻撃に巻き込まれるところだったのであります」
「そりゃ危なかったな。気をつけるんだぞ?」
「ごめんなさい。何回も撃っていると、狙いがちょっとブレちゃって。大丈夫、私、大丈夫だから」
「あー、まあ、無理はするなよ。無理だと思ったら、遠慮なく休んでくれ。ノール、すまないけど、やばそうだったら頼むぞ」
「了解なのでありますよ」
どうやらエステルが不調らしく、それで微妙に魔石回収の効率が落ちているみたいだ。
大丈夫だとは言っているが、あんまりにも不調だったら休んでくれと伝えておいた。
ノールもいることだし、本当にやばかったら彼女が対処してくれるはずだ。
「さあ、今日のガチャの時間だぞ」
「今日はどうするのでありますか?」
「うーむ……それじゃあ、今回はエステルに頼もうかな」
「えっ……うん」
元気を出してもらおうと彼女にガチャをやらせようとしたが、今まで聞いたことがない暗い声で返事をされた。
俺からスマホを受け取ると、彼女は元気がなさそうに軽く11連ガチャをタップする
画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金、白。白で止まった。
【R万能薬、SR調味料セット、R弁当箱、R掃除機、SR守護の指輪、Rマジックダイナマイト、SRカースドロッド、R香水、Rティアラ、R閃光玉、SSRウォールシューズ】
「あっ……」
「くっ、駄目か。エステル、次だ、次で引くぞ!」
「ええ……」
SSRが出たが、またもや違う対象の物じゃなかった。こういうの、なんだか逆に心がへし折れそうだ。
勢いで気分を払拭してやろうと思ったが、エステルの表情は変わらない。口数も明らかに減っている。
短く呟いて俺に返事をして、彼女はさらに11連ガチャをタップした。
画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金。金で止まった。
【Rおやつ、Rリンスー、Rエストック、SRウエストポーチ、R鋼の斧、R万能薬、Rアイスロッド、Rぬいぐるみ、SRフランシスカ、Rサンダル、『SRトゲ付き肩パット』】
「むぅ……コンプガチャ……なんて恐ろしいのでありますか……」
「エステルさん、大丈夫ですか? 昨日より疲れているように見えますよ?」
「大丈夫、私は、大丈夫、大丈夫だから」
ガチャを引き終えたエステルは、スマホを両手でギュッと握り締めて、プルプルと震えて何か呟いている。
それが悔しいからなのか、それとも別の何かなのか俺には想像がつかない。
このままだと何か嫌な予感がしてきたが……明日の様子を見て、狩りの時間を減らすか考えるか。
その分は俺とシスハで少しでも埋めればいいしな。




