コンプリートガチャ
「やばい……やばいよこれ……どうしよう……」
迷宮を攻略し、俺達は無事家に帰ることができた。全員揃って帰れたことは、素直に嬉しい。
だが、帰宅早々俺は椅子に座り机に肘を立てて頭を抱えていた。
「大倉殿がまたおかしいのでありますよ」
「お兄さんがおかしいのはいつものことだけど、今回のはなんだか違う感じがするわね」
「どうなされたのですか、大倉さん? もしかして、まだどこか痛いところでもあるのですか? 言ってくだされば、私が魔法で癒しますよ?」
彼女達も同じように、椅子に座り机を囲んでいる。
そして俺の様子を見て、彼女達は各々感想を口にしていた。
ノールとエステルの、俺に対する言葉が酷い気がするのだが。俺そんなにいつもおかしいかな?
シスハは一緒に迷宮で探索していたからか、怪我をしたんじゃないかと心配してくれる。迷宮攻略後、全員彼女の回復魔法をかけてもらったので、怪我がある訳ではない。
「あー、違う違う。ガチャだよガチャ」
「はぁ……どうしてガチャで、そこまで深刻な表情ができるのでありますか」
「まあ、お兄さんだもの。どうせそんなことだと思っていたけど、いつにも増して表情が重く見えるわ」
「全く……心配する必要なかったみたいですね。そういえば、迷宮攻略後にガチャの告知があったんですよね? えっと、コンプリートガチャでしたっけ?」
俺がこんなにも悩んでいる原因。それは迷宮攻略後に告知された、コンプリートガチャのせいだ。
コンプリートガチャ――それはガチャから排出されるアイテムの中から、指定されたものを全て引くことで、コンプリート報酬としてレアな景品がもらえるというもの。
これだけで考えると、ガチャを回しついでにおまけまで貰える、素晴らしいガチャに思える。
「それで、そんな表情をするようなガチャなのでありますかそれ?」
「ああ、俺の世界じゃ色々あって、規制されるぐらいには凄いガチャだった」
「規制されるって……そんなに酷いガチャだったの?」
詳しくは知らないけど、色々と問題が起きて、最終的にこの方式のガチャは俺のいた世界で規制されてしまった。
規制されて数年経っても、このガチャはたびたびネタにされていたりする。それぐらい世間を賑わす話題になったガチャだ。
「いやぁ、俺もあれに手を出したけど恐ろしいガチャだったよ……もやし生活は辛かった」
「よ、よくわかりませんが、とにかく凄いガチャなんですね」
もはや懐かしいぐらい前の話になる。GCを始める前にやっていたゲームのガチャで、俺はそれと出会った。
魔法のカードを使用して、分割支払いをしないといけなくなるぐらいまで追い詰められたガチャだ。
最初の1万円分で数枚出て、これはいけるって注ぎ込んだら最終的には10万円を超える金額まで膨れ上がった。
元々そんな使い方していたもんだから、一気に金欠になって食費から削ることになってしまった苦い思い出が残っている。
「そこまでトラウマになっているのなら、今回はガチャしないのかしら?」
「そうしたいところだけどさ……あー、この運営エグイぞ」
正直今回のこのガチャはスルーしたい。今ある914個の魔石じゃ心もとない。
だが、今回のコンプリート報酬が俺の心に揺らぎを生じさせる。
コンプリート報酬――URルーナ・ヴァラド。
その一文が俺の心を掴んで離さないのだ。
まさか、まさかこんなタイミングで、あのルーナ・ヴァラドちゃんが対象になるなんて……このガチャは意地でも俺に引かせたいのか?
俺がこの世界にくることになったガチャ、それはこの娘を引く為に回したガチャだったんだ。
エステルと同じぐらいの少女の姿、それに吸血鬼というあざと過ぎるキャラクター。そんな彼女と実際に出会えるチャンス……これは揺らいでしまう。
性能はまだ詳しくわかっていなかったけど、近接と遠距離を合わせ持ったユニットだということは、掲示板を見てわかっていた。
今のパーティに欠けている火力枠としては申し分ないだろう。
「でもでも、ガチャを回してさらにURユニットが貰えるなんて、このガチャ太っ腹なのでありますよ? 大倉殿風に言えば、無料でURが手に入る! みたいなものでありますよね?」
「いや、その理屈はおかしい。お前は何を言っているんだ?」
「んな!? お、大倉殿にだけは言われたくないのでありますよ!?」
ノールがよくわからないことを言っている。俺がおかしいと言うと、何故か彼女はプンプン両腕を上下に振って怒りだした。
なんで怒っているんだ?
「で、結局ガチャを回すの?」
「そりゃ回すよ。ここで回さなきゃ、いつ回すんだ! って俺の中の何かが囁いている」
「それはまたはた迷惑な囁きですね……まあ、私としては回せるのは大歓迎ですけどね!」
このチャンスを逃したら、次ルーナちゃんが対象になるのがいつになるかわからない。もしかしたら二度と対象にならないかもしれない。
そう思うと、スルーするなんてありえない。俺の魂がガチャを回せと叫んでいる。
シスハはガチャを回すと聞くと、胸の前で両手を組んで嬉しそうな声を出す。同じガチャ沼の住人候補として、彼女は頼もしいな。
「おう、いい心意気だ! なら今回もシスハから回していいぞ! まだ1回しか回してないもんな。全部で18回ガチャれるから……4人で各4回、2人が5回かな?」
「モフットを忘れちゃ駄目なのでありますよ!」
「そ、そうだな。なら各3回に3人が1回ずつか……ノールとエステルとシスハが4回でいいぞ」
ノールは膝に乗せていたモフットを抱き抱えて、俺に見せてきた。モフットは忘れるんじゃないって怒っているのか、鼻息を荒くしてブゥブゥと鳴いている。
この中じゃガチャ運最有力候補なのだが、うっかり忘れてしまうな。
今回は魔石900個分の18回11連ガチャを引ける。なので、彼女達が各4回。俺とモフットが3回引くことにした。
「譲ってくれるのは嬉しいわね。でも、今回は遠慮しておくわ。その代わりお兄さんが、その1回引いてちょうだい」
「えっ、いいのか?」
「ええ、前に譲ってもらったもの。だからそのお返しよ」
俺が各自何回引くのかを言うと、エステルが微笑んで俺に自分の分をくれると言ってきた。
な、なんということだ……まさか譲ってくれるとは。前に彼女達を優先させてガチャを回させたが、それのお礼ということなのか?
そう思うとなんだか地味に嬉しいな。そういうことちゃんと覚えててくれるなんて。
「なら、私の分も引いてくださいなのでありますよ」
「の、ノールまで……なんだかすまないな」
それを聞いてなのか、ノールまで俺に譲ってくれると言う。
なんだろう……こういうのっていいな。涙が出てきそうだよ。
「うぅ……わ、私の分も引いてくださっていいんですよ。はい、これっぽっちも惜しいなんて思っていませんよ、ええ」
「シスハは無理しなくてもいいんだぞ……」
シスハは前回が初めてのガチャだった。なので今回のガチャは楽しみにしていたはず。
だが、エステル達が譲ると言うので自分だけ4回引くのは申し訳なく感じたのだろう。彼女まで俺に譲ると言い出した。
本当に名残惜しそうなので、別にいいぞっと言ったのだが、両手を前に出して手の平を見せるように横に振り、拒否するジェスチャーをしている。
うーん、ちょっと楽しみを奪ってしまったようで申し訳ないな。次回引く時は、何かしら彼女を優先してあげよう。
「でも、途中でコンプリートできたらそこで終了なのよね?」
「あー、そうだな。全部回すつもりでいたけど、途中で揃ったら終了ってことで」
早速引こうとスマホを出したが、その前にエステルから質問をされた。
今回のコンプリート対象は5つ。そして期間は今日を含め6日間ある。いつものガチャと比べると、何故か期間が長い。
――――
・SSRディメンションルーム
・SSR食材販売機
・SRボードゲームセット
・SRトゲ付き肩パット
・SRプロミネンスフィンガー
コンプリート報酬
・URルーナ・ヴァラド
―――――
という風になっている。もちろん彼女の言うように、途中で全て揃ったのならその時点でガチャは終了だ。
できるだけ早めに揃ってくれることを、俺は祈っているよ。
「うふふ、私は一番手ですからね。途中で揃って回せない、なんてことはないので安心です!」
「シスハ、なんだか大倉殿に似てきたのでありますね」
「そうか?」
「そうでしょうか?」
「息ぴったりじゃない。迷宮で何かあったのかしらね?」
ガチャを引けることが嬉しいのか、素の状態に近い雰囲気を出している。俺との迷宮探索のせいで、少し警戒心が薄れているのかもしれないな。
ノールがそんなシスハに気がついて、あろうことか俺と似ていると言い始めた。
いやいや、そんなことないだろ。俺と似ている……それは女の子としてどうなんだ?
それ対して軽く返事をすると、ちょうどシスハと俺の返事が被った。
そして今度はエステルまで何か感づいたのか、首を傾げてじーっと俺とシスハを見ている。若干真顔になっているのが怖い。
「な、何もなかったぞ! な、なあシスハ?」
「えっ、あっ、は、はい! な、何もございませんでしたよ?」
「へー……」
慌てて俺はシスハと何もなかったと否定して、彼女にもそれを聞いて肯定してもらう。
だが、それが逆効果だったのかエステルは目を細め、感情を感じさせない声を短く漏らして俺達を見つめている。
怖いから、怖いからその目止めて! 完全に疑われているじゃないか、おい!
「そ、そんなことよりも、ガチャ回しましょうよガチャ!」
「そうだな! ガチャろう! はよガチャろう!」
「なんだか隠し事してるみたいでありますね」
「はぁ、まあいいわ。後でじっくり、お兄さんとお話しさせてもらうから」
勢いで誤魔化して、そのままガチャに突入することになった。
エステルが後で話をしたいと言っているけど、忘れてくれることを願おうか。
「それじゃあ1回目いきますよ!」
シスハにスマホを手渡し、机の中央まで手を伸ばして全員が見えるようにしてもらう。
そして、彼女は早速本日一回目のガチャを回した。
画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金。金で止まった。
【Rおやつ、SR鍋の蓋、R万能薬、SRビーコン、Rポーション×10、SRゴールドシューズ、SRエクリプスソード、Rぬいぐるみ、R籠手、SRプラチナプレート、Rハードカバー】
「ぐっ、ま、まだ初手ですからね。これでショックを受けるような私じゃありませんよ」
「なんだか前にも聞いたような台詞でありますな……」
その後、彼女は2回連続でガチャを回したのだが……結果は銀が1回に金が1回。
【Rポーション×10、R食料、R寝袋、R消臭剤、Rマジックダイナマイト、Rトランシーバー、R増強剤、R薄い本、Rナイフ、Rウィンドロッド、R銅のレギンス】
【Rショートスピア、SR賢者の石、R食料、SRエクスカリバール、Rボーガン、SR警報機、Rメタルウィップ、SRエクリプスソード、Rキャンプセット、SRゴージャスシューズ、SRマジックキャンセラー】
「そ、そんな、こんなの嘘ですよ! これじゃ大倉さんと同じじゃないですか!」
「おいこら! 誰が同じだって! いくら俺でもそこまで酷くないわ!」
「似たような思考だと、結果も似るのね」
「やっぱり、似てきている気がするのでありますよ」
当たりが何もでなかったことが悔しかったのか、彼女は机をバンバンと叩いて暴れた。
さらに俺と同じだとか、とんでもなく失礼なことを口にしている。
おいおい、俺は一応URとかだって当てているんだ、同じにしないでくれ。
だけど、こういうのってやっぱり物欲センサーでもあるのかな? 強く念じれば念じる程、結果が酷くなっている気がするぞ。
「さて、次は私の番のようね」
「うぅ、爆死した私の分も、頑張ってください」
「任せなさい。まあ、私もそこまで運がいい訳じゃないけど」
無残に散ったシスハに代わり、今度はエステルがスマホを手に取った。
彼女は軽々しい動作で、11連ガチャをタップする。全く気負いを感じていないように見える。
画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金。1回目は金で止まった。
【Rおやつ、Rホットリング、SRマジックブレード、Rクロー、SRカースドロッド、Rマジックペーパー、Rウィンドリング、SRカドゥケウスの紋章、R寝袋、SRニケの靴】
コンプ対象は出なかったが、仕方ない。そう簡単に出るもんじゃないもんな。
彼女は続け様に2回目、3回目のガチャも回して、結果は金が1回、白が1回だった。
【R金塊、SR鍋の蓋、R食料、R閃光玉、SRビーコン、Rロングコート、SRウエストポーチ、Rホットリング、SR修羅の拳、Rロングソード、SR脱出装置】
【Rジャンクリング、SRエクスカリバール、Rおやつ、『SRボードゲームセット』、R万能薬、SR命の宝玉、Rボーガン、SR天使の衣、Rハタキ、SRバタフライグリップ、SSRアダマントアーマー】
「あら、出ちゃった」
「ど、どこが運良くないですかー!」
「これでコンプ対象1つ目なのでありますね!」
コンプリート対象である、SRボードゲームセットが排出された。
エステルは何が何でも引くぞっていう感じではなかったが、当たりを引くことは嬉しいのか頬に手を当ててニコニコとしている。
シスハはその当たりを見て叫んで、悔しそうに歯を食いしばってぐぬぬと声が漏れていた。
「むふふ、次は私なのでありますね」
「ノールは毎回良い結果出しているからな。期待しているぞ」
「そ、そういうこと言われると、なんだか緊張するのでありますよ……」
引き終わったエステルから、今度はノールにスマホが手渡された。
彼女は今までガチャで様々な実績を残してきた期待の星だ。ノールとモフットのワンツーコンビが、ガチャに最も貢献しているだろう。
俺もダブりさえなければ、驚異のUR率を誇っているんだけどな……。
スマホを受け取った彼女は、早速11連ガチャをタップした。
画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金。金で止まった。
【Rおやつ、SR癒しの宝玉、R煙玉、R万能薬、SRエクスカリバール、R興奮剤、Rサンダーリング、R鋼の鎌、SR芭蕉扇、R鋼の斧、『SRトゲ付き肩パット』】
「あっ、きちゃったのであります」
「い、1発目で対象のアイテムですか!?」
「相変わらず、ノールの引きは強いわね」
なんと1回目で対象である、SRトゲ付き肩パットを引いてしまった。
マジでノールのガチャ運はやばすぎる。なんでこんなに運がいいんだよ!
さらに続けて2回目と3回目のガチャを回し始めた。
結果は金が1回、白が1回だ。
【Rクロムアーマー、SRエクスカリバール、Rポーション×10、SR守護の指輪、R手裏剣、SR厚い本、R食料、SRハイポーション×10、SRツインサーベル、SRビーコン、R短刀】
【R食料、SRスタビライザー、Rマジックダイナマイト、Rエストック、SRプロミネンスロッド、SRフランシスカ、R望遠鏡、Rハタキ、SRマジックブレード、SRビーコン、『SSR食材販売機』】
「おお、またきたのでありますよ!」
「こ、ここまで差がでるなんて……しかもSSRですよ……。ノールさんにお祈りすれば、私もその運にあやかれるでしょうか?」
「本当にノールは凄いな……そのガチャ運を俺に分けて欲しいのだが。ちょっと爪の垢煎じて飲むからくれ!」
「あっ、私も飲みたいです!」
「ちょ、お2人とも、落ち着くのであります! あ、ちょ、こ、こっちに来ないでくださいなのでありますよー!」
こんなの絶対おかしいよ。なんで、なんでノールだけこんなに当たるんだよ!
もう煎じて飲むどころか、爪を直接ペロペロして幸運を吸い取りたいんだけど。
シスハも同じ心境だったようで、俺と彼女はノールの運にあやかろうと、椅子から立ち上がりジリジリと迫った。
ノールは両手でこっち来るなと手を振っていたので、俺がヒャオ! と飛び上がって襲おうとしたのだが、対空デコピンで迎撃された。
今は自宅なので、ヘルムを脱いでいたからめちゃくちゃ痛い。
シスハはそんな俺を見て、しれっと自分の席に戻ってやがるし……なんて奴だ。
「全く……ガチャが関わると異常な行動ばかりするのでありますね」
「アイタタ……ま、まあこれで3つ目か……これ案外いけるんじゃないか?」
「そうね、お兄さん心配し過ぎだっただけよ」
「あとはモフットさんの3回と、大倉さんの6回ですか。半分で3つも出たのですし、これはもう確実にコンプリートできますね」
これで対象のSRが2つ、SSRが1つだ。残りはSR1つにSSRが1つ。
これは予想していたよりも、遥かに良い結果なんじゃないか? それにここまでダブりが1つもない。
もしかして、このGCガチャはダブりなしなのかな? いやぁ、エグい運営とか言ってすまなかった。
この運営は素晴らしい、神運営だわ。これなら残りの魔石で、今回は無事にコンプできそうだよ。
「さて、モフットの番なのでありますよ! さあ、いくのでありますモフット!」
「毎回思うんだけどさ、直接スマホの前に置いてやれよ」
「このトコトコはお約束なのでありますよ!」
「あっ、そうですか……」
ノールがモフットを持ち上げて机の上に乗せる。モフットはトコトコと歩いて、中央に置かれたスマホまで歩いていく。
わざわざ歩かせないで、スマホの前に置いてやればいいのにと思ったのだが、彼女いわく駄目らしい。
スマホの前に到達したモフットが、前足で丁寧に11連ガチャをタップした。
画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金。金で止まった。
【Rスパタ、SR鍋の蓋、SRトマホーク、R食料、SR幸福の指輪、R閃光玉、SR脱出装置、Rおやつ、SR守護の指輪、Rぬいぐるみ、『SRプロミネンスフィンガー』】
「うおっ!? モフットまで1回目でコンプ対象出しやがっただと!? やっぱりモフットは凄いな! よーしよしよしよ――ふごっ!?」
「何してるのでありますか! そんな勢いで撫でたらハゲちゃうのであります! もう、せっかく手入れしたモフットの毛並みが……」
「イテテ……す、すまん……」
コンプ対象である、SRプロミネンスフィンガーを引き当てたモフットを抱き寄せて、頭や体を俺は撫でまくった。するとモフットはキーと鳴き声をあげた。
その直後、俺は額をノールにデコピンされて頭が仰けぞる。とてつもない威力だった……俺じゃなきゃ耐えられないね。
彼女に抱き抱えられたモフットは、プウプウと鳴いている。普段からノールがブラッシングや餌をあげているから、もう完全に飼い主になっているな。
少し揉めたが、その後も順調に2回引いた結果は、金が1回に白が1回だった。
【R金塊、SR金のメイス、R食料、SRエクスカリバール、Rランプ、SR慈愛の杖、Rゴム、SRエアーロープ、Rティアラ、SR水筒、Rぬいぐるみ】
【R薙刀、SRエクリプスソード、SRプロミネンスロッド、R籠手、SRウエストポーチ、R香水、SR脱出装置、Rキャンプセット、SRエクスカリバール、SSR白銀のヘルム】
「あうー、モフットでも1個だけでありますか」
「でも、残り1つよ。まあこのままだと全部使い切りそうだけど、コンプリートはできそうね」
これで残すは、ついに1つ。SSRディメンションルームのみ。これは勝った、もう勝ったも同然だ。
コンプリートガチャだからって不安になっていたが、やってみるとそんなに酷いものじゃなかったな。
このガチャも、ちゃんと俺達のことを考えて親切設計だったみたい。
「ついに俺の番か……残りの6回、これで確実に最後の1つを引いてやるぞ!」
残すは俺の番のみ。ここは華麗にフィニッシュを決め、俺のガチャ運を彼女達に思い知らせるしかあるまい。
はぁ、こんなことなら平八カーニバルにしておけばよかったよ。
もはや勝ち同然だと思い、俺は軽やかに11連ガチャをタップする。
画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金。金で止まった。
【Rマジックポーション×10、R眠り薬、SRエクスカリバール、R食料、SRニケの靴、Rアニマルビデオ、SRスパイクシールド、R弁当箱、SRスタビライザー、Rチャクラム、『SRトゲ付き肩パット』】
「……へ? だ、ダブりやがっただと!?」
「えっ……こ、これ1回出たものもまた出るのでありますか!?」
「このタイミングで出るって……もう後に引けないじゃない」
「もう13回やってしまいましたもんね……」
なんと、一度出たはずのSRトゲ付き肩パットが再び出てきた。
こ、ここまで1回もダブっていなかったのに、まさかここでダブりが出てくるだと!?
マジかよ……ダブりなしならこれでいけると思っていたのに……甘くなかったか。
もうここまで回してしまったし、後戻りはできない。残りは5回。
なんとしても、なんとしてもこの5回で勝利を掴まなければならないのだ。
それからさらに、俺は3回ガチャを回した。結果は金が3回だ。
【Rおやつ、SR守護の指輪、R短刀、SRビーコン、R栄養剤、SRバタフライグリップ、R鉄の剣、SRハイポーション×10、R寝袋、SR慈愛の指輪、R万能薬】
【Rアイスロッド、SR鍋の蓋、R薙刀、R短刀、R鉄の鎧、SRオートガードスフィア、Rキャンプセット、Rポーション×10、SRエクリプスソード、R寝袋、『SRトゲ付き肩パット』】
【Rボーンリング、SR賢者の石、Rスリッパ、SR鍋の蓋、Rコンロ、Rナイフ、SR慈愛の宝玉、Rマジックポーション×10、SRマジックシールド、Rクロムアーマー、SRフランシスカ】
「あっ、あっ、あ、あと2回だぞ……どうしよう」
「これでダブりを回避しながら、残りの1つを引かないといけないのでありますね……」
「お兄さんが恐れていたのって、こういうことだったの?」
「その考えは一応あったんだけどさ……マジか、マジか……」
「タイミング的にかなりエグいですね」
確率操作したんじゃないかと疑いたくなるほど、突然ダブりが出てくる。
しかしよく考えたら、元々全部1個ずつ出ることの方が珍しいのか。最後の1つを引くのにどれぐらい引けばいいんだ?
俺が勝手にダブりが出ないって、思い込んでいただけだもんな……くっそ、これはやられた。
もう後に引き返すなんてできるわけがない。あと1つ、あとたった1つなんだぞ!
さらにもう1回ガチャを回すが、結果は金。
【Rマスク、SRハイポーション×10、R鉄槍、R万能薬、SR四次元ゴミ箱、SRスカルリング、Rサンダル、SR高級ランプ、R精力剤、SR鍋の蓋、『SRプロミネンスフィンガー』】
「あっ、やばい。これやばいって」
「た、対象は出てきますが、ダブりですね……」
「の、残り1回なのでありますよ……これは……」
「いいえ、まだ諦めるのは早いわ。お兄さんの運を信じましょう」
残り――1回。この1回に、俺の全てを託すしかない。
そう思うと、だんだん呼吸が荒くなってきた。身が震える。
頼む、頼むぅ……! 神様、神よ、どうかこの俺に、勝利を掴ませてくれ……!
「うおおぉぉ!」
「な、なんでありますか!?」
俺は叫んだ。腹の底から叫んだ。
この想いの全てを、自身の指先に込めながら。
そしてガチャを回す為に、俺の腕は動き出した。
周りにいる彼女達が、突然叫んだ俺にドン引きする中、気合と想いを乗せた俺の指先が11連ガチャを捉える。
スマホの画面は切り替わり、最後の魔石が投入されたことをガチャは示す。
画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金、白。白で止まった。
きた、きたきた! これは最後のSSRディメンションルームだ! そうに違いない!
やった、やったぞ! 俺はこの勝負に勝利したんだ!
俺はその歓喜に震えながら、排出されたものを確認するためにさらにタップした。
【R鉄槍、SR守護の指輪、R閃光玉、SRマジックシールド、Rおやつ、Rホットリング、SRエクスカリバール、Rリンスー、R万能薬、SRビーコン、SSRグリモワール『スペルビア』】
「……あ? ……はああぁぁ!? なんで、なんで違うの出てくるのぉ!? ああぁぁァァ!」
なんだよこれ!? どうして、どうして違うSSRなんだよ!
納得できない俺は、叫びながらひたすら11連ガチャをタップする。しかし、魔石がない今ガチャは反応しない。
スマホの画面には、俺が流した大粒の涙がポタポタと落ちていく。
「ちょ、大倉殿!? 何やってるでありますか!? もう魔石はないのでありますよ! いくらやったって、もうガチャは引けないのであります! 壊れちゃうのでありますよ!」
「ああぁぁー! はなぜ、はなずんだよぉー!?」
「あまりのショックに気が狂いそうになっているのね……かわいそうに」
「こ、この人こんなに発狂するんですね……初めて見ましたが、想像以上です……」
スマホを連打し続ける俺を、ノールが後ろから羽交い絞めにした。それでも俺は暴れ続けるが、ガッチリと拘束された俺の体は動かない。
今までなんだかんだで、俺達はガチャで良い結果を残してきた。だが、今回ばかりは諦めるしかないというのか?
もう終わりだということを自覚した俺の頭が、急速に冷えていく。暴れていた体も次第に落ち着いて、心も静まる。
そして冷静になった頭で、何か良い方法がないか考えると、ある1つのことを思い出した。
まだガチャの期間は6日間も残されているのだ。なんでいつもみたいに1日だけじゃないのか不思議だったが、もしかしてこれを想定してのことだったのか……?
今日を抜きにしても5日間……これは……あれをやるしかないということなのか。




