ゴブリンラッシュ
奥の通路に行く為に、俺達は部屋の中に足を踏み入れた。今度は飛ばされても大丈夫なように、シスハには俺の背中に手を当てさせている。
「……やっぱりこうなるか」
「でも転移系じゃないみたいですね」
広い部屋の中央まで進むと、案の定魔法陣が出現した。それと同時に、俺達が来た通路と奥に続く通路は下から壁が上がってきて塞がれる。
飛ばされるのかと身構えたのだが、魔法陣の輝きを増すと壁のあちこちから光の粒子が溢れ出す。
そして俺達を囲むように複数の光の塊が形成されていく。
何が現れるのか警戒していたが、光から現れたのはいつもの紫色をしたゴブリン。
「緊張させておいてこれかよ!」
「あれだけ大げさにやってこれですか……拍子抜けですよ」
30体程出現したゴブリン達が、棍棒を振り上げ全方位から一斉にこっちへ向かい走ってきた。魔物に囲まれるという状況自体はかなりまずい。
だが、相手は最弱のゴブリン。いくら囲まれても脅威になるはずもなく、向かってくる奴を片っ端から倒していく。
俺もシスハもこいつらは一撃で倒せる。それどころか、バールの一振りで数体まとめて倒せるので、すぐにこいつらは全滅した。
「終わり……じゃないよな」
「今度は剣持ちですか」
間髪入れずに、再度壁から光が溢れ出す。光の塊になり次に現れたのは、この迷宮にいた剣を持ったゴブリン達だ。戦闘力に関しては最初のゴブリンと大差ないので、こいつらも処理の仕方は変わらない。
こいつらも全滅させると、また同じように壁から光が溢れて、今度は槍を持ったゴブリンが30体程出現した。
なんだこれ……いつまで続くんだ?
「だんだん強くなってないか?」
「そうみたいですね……調子にのらずに、堅実にいきましょう」
「ああ、そうだな」
弓、盾、魔導師、黒、赤のゴブリンの集団が順番に出現し、それを俺達は倒していく。だんだんと強くなっているみたいで、なんだか不気味だな。
俺達が見たことあるのは、レッドゴブリンまでだ。そうなると、次からは見たことない奴がくるかもしれない。
入り口と出口の壁は、未だに閉じたまま。まだ終わった訳ではないはずだ。
これからが本番だと気合を入れ直して、再度壁から溢れ出す光を見据える。
「うげっ……なんだよあれ」
「八頭身のゴブリンですかね?」
出現したのは、いつもの背が俺達の膝ぐらいのゴブリンではなく、俺よりも背の高いゴブリン。黒色の肌をしており、胸筋や腹筋はガチガチで俺よりも体格がいい。
それが同じように30体程いる。正直気味が悪い。ムキムキの裸男に囲まれているような状況だ。
新種なので、一応ステータスは確認しておこう。
――――――
●エボルチオゴブリン 種族:ゴブリン
レベル:45
HP:8000
MP:0
攻撃力:550
防御力:400
敏捷:80
魔法耐性:0
固有能力 なし
スキル マッスルバスター
――――――
そこそこ強いか? 見た目は強そうだけど、ステータスはそこまで高くないな。それに武器も持っていないから、それほど脅威ではなさそうだ。
現れたエボルチオゴブリン達が、一斉に両手を地面について屈んだ姿勢になり、凄い勢いで地面を蹴って走ってきた。
1番最初に俺の所へ到達したゴブリンは、右足で地を踏みしめ握った左拳を振り、力強い拳の一撃を突き出す。
その一撃が俺の鎧へと当たると、ゴキリ、と鈍い音がした。だが俺にダメージは全くない。目の前にいるゴブリンの腕を見ると、手首から先が曲がってはいけない方向に曲がっている。こんな鎧素手で殴ったら、そうなるよね。
お返しに俺はエクスカリバールを振り上げて、脳天に突き刺して、引き抜き体を数回突き刺す。それだけでHPが尽きたのか、ゴブリンは倒れて光の粒子になった。
シスハの方を見ると、ゴブリンからの攻撃を避けて、その際にカウンターをして攻撃している。
彼女は突き出された腕を両腕で絡め取り、そのまま地面に投げ飛ばす。その後腕を離さずに拘束して、足で肩を押さえて腕に捻りを加えてゴキゴキと音を鳴らして砕く。そしてとどめの一撃に、杖で頭部を粉砕して絶命させた。
杖持ちながら投げ飛ばすとか、どうなってやがるんだ?
「うりゃ! ふん! んー、大きくなった分、やりやすくなっていますね」
「お前……そっち方面に関しては素直なまんまなのな」
「ストレスがたまっちゃいますからね。だけど、一応普段は控え目にしているつもりですよ?」
「お前達の控え目はどこかおかしいぞ……」
そのまましばらくエボルチオゴブリンと戦った。彼女が最後のゴブリンの頭部をわし掴みにして、地面に頭を叩きつけ粉砕し光の粒子に変える。
今回のは少し手間取ったな……。それにしても、シスハは普段猫を被っていたみたいだが、戦闘に関してはあまり大差ないな。グロさが少し上がっている気がするけど。
本人はいつもは控えめとか言ってるけど、あれで控えめとか……エステルもそうだけど、控え目という言葉が全く信用ならん。
エボルチオゴブリンを倒した後も、さらに壁から光の粒子が溢れ出す。まだ終わりではないみたいだ。
次に出てきたのは、30体以上いる杖を持った八頭身のゴブリン達。申し訳程度にボロ布を纏っていた。そしてすぐに、杖を掲げて小さな魔法陣がゴブリンの横に展開される。
これは……まさか魔導師系か!? やばい、このままだとシスハが巻き込まれる!
「シスハ! 俺に回復魔法をかけろ!」
「きゃっ! ちょ、大倉さん!?」
逃げようにも囲まれていて、既に発動準備が整っているので間に合わない。だから俺は、シスハを抱き寄せて前に抱え込む。できるかぎり、彼女に攻撃が当たらないようにだ。
直後、俺の体のあっちこっちに何か当たる衝撃がした。それに爆発するような音もする。様々な魔法を撃ってきているみたいだ。
防御を貫通しているからか、地味に痛い。だが、前に抱えている彼女が俺に回復魔法をかけ続けてくれているので、すぐに痛みもなくなる。
「あたた……大丈夫か?」
「は、はい……」
「よし、それじゃあ俺を壁にしながら、あいつらを殲滅するぞ!」
魔法攻撃を耐え、音が鳴り止んですぐにシスハを離しゴブリンへと向かう。次の魔法を撃たれる前に、あいつらを倒さなければならない。
ステータスを確認したいが、そんなことやる前に倒さないと。それにさっきのと姿が似ているから、そこまで大差はないはずだ。
最初の1体目に辿りつき、バールで体を抉る。それと同時に、シスハも杖でゴブリンを殴りつけた。それだけでゴブリンは崩れ落ち、光の粒子となる。
どうやらさっきのゴブリンと比べると、HPが低いみたいだ。1体倒し終えて、すぐに次の他のゴブリンに向かう。
移動最中に魔法による火の玉や土の弾丸などが飛んでくるが、当たりそうなのは俺がガードする。それを繰り返して、このゴブリン達も全て始末することができた。
「ふぅ、なんとか乗り切ったか……早く終わってくれ……」
「そろそろ最後だと思いたいですね。魔法を使う魔物相手は、私達だけじゃ少し辛いですね」
このゴブリンラッシュはいつまで続くんだ。もう100体以上は倒しているし、そろそろ終わって欲しい。
そんな俺達の思いが通じたのか、再度魔物を生み出すべく溢れ出していた光に変化が生じた。
今までに比べて、尋常じゃない程の量が壁から発生し、離れた場所に全て集まって1つの巨大な光の塊となる。
「な、なんだあいつ!?」
「お、大きいですね。私でもさすがにあれの相手は無理です……」
光が安定し、その姿があらわになる。オーガやサイクロプスと同じような巨体。手足を地面につけて四足歩行の魔物だ。
全身が黒く、口から牙が飛び出たカバのような頭部には、2本のギザギザに折れ曲がる角がある。背中には透明な丸い膜のようなものがあり、中には黒いゴブリンがいるのが見える。
なんだあれ? 今までゴブリン系しか出てなかったのに、いきなり怪獣みたいなのが出てきたんだけど……。
と、とりあえずステータスを確認しないと。
――――――
●クッルスゴブリン/カラミタース 種族:ゴブリン/ベヒモス
レベル:65
HP:8000/15万
MP:0
攻撃力:10/4500
防御力:10/5万
敏捷:10/120
魔法耐性:0/0
固有能力:操縦/ハイパーアーマー
スキル なし/突貫
――――――
……へ? おいおいおい、冗談じゃないぞこれ!? なんだよこいつ!?
というかベヒモスに乗ってるとか反則だろ! ふざけんな!
「く、くるぞ! シスハ、あいつ攻撃力4500あるぞ! 絶対攻撃当たるなよ!」
「うぇ!? そ、そんなに高いんですかあれ! と、とりあえず、1体だけしかいないので逃げましょう!」
ゴブリンが乗っている4足歩行の怪物の巨体が動き出す。1歩動き出すたびに、この部屋全体が激しく揺れる。
だんだん歩くのが速くなってきて、絶えず地震のような揺れと、ドスンドスン歩く音が部屋に響いた。
こんなのに何も考えず立ち向かうなどできるはずもなく、俺とシスハは回れ右して走り出す。
「どうするんだあれ! 防御力もめっちゃ高いぞ!」
「魔法……しかないですよね! 大倉さん、風属性攻撃できましたよね!」
「できるけど、あれ倒しきるの相当きついって!」
走りながらどうするか彼女と相談をする。幸い、敵が1体だけなので逃げ回ることはできる。
一応風属性攻撃があるので、あの防御を貫通して攻撃は可能だ。だけど、ベヒモス自体は倒せるようなHPではないし、あのゴブリンの所まで届かせるのもきつい。というか動きながら当てるの無理。
あのおまけで付いているようなゴブリンが本体なんだろうけど、あそこまで登って攻撃するのも危険だ。それにあの膜も薄そうに見えるけど、防御力の恩恵を受けているなら硬いかもしれない。
これは逃げるしかないのか……でも、そうなるとノール達が置いてけぼりになってしまう。背中のゴブリンさえ倒せれば、この状況も打開できる可能性はある。どうする……考えろ、考えるんだ俺。




