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シスハとの探索

「ふぅ……ようやく感覚が戻ってきましたよ」


「おりゃ! そうだな、改めてノール達がいるありがたさを実感しているよ」


 休憩を終えた俺達は、ノール達と合流しようと迷宮を進む。その途中も、様々なゴブリン達の襲撃を受けるが、シスハと共に難なく倒していく。

 彼女もノールとエステルの能力上昇がないせいか、動きがいつもよりも鈍く見える。それでも、俺より遥かに洗練された動きだ。


 俺はエクスカリバールの攻撃力と、硬直時間マイナスによるごり押し。

 2回攻撃しないと黒ゴブリンと赤ゴブリンは倒せないが、1回刺した後間を空けずに2回目も突き刺せるぐらい、元々の攻撃速度は速くなっている。鍋の蓋を構える速度もその恩恵で速くなっているので、見てから攻撃を防いでも間に合う。


 それでもエステルの支援魔法がある時に比べると遅いので、少し違和感を覚える。

 いつもならこれぐらい動けるはず、という感じで動こうとしても体がその通りに動かない。シスハもそのせいで、先ほどまであーじゃない、こーじゃないとゴブリン相手にジャブジャブストレートを繰り返していた。

 彼女達の能力上昇に頼り過ぎるのも、問題かもしれないな。こうやって分断された時、急に感覚が変わるのは致命的だ。相手がゴブリンだからまだいいけど、強い魔物だったらやばかった。


「だいぶ進みましたけど、まだノールさん達は見つかりませんか?」


「地図に反応はないな……。階層とかもたぶんなさそうだし、ここ相当広いのかもしれないぞ」


 もう1時間近くは彷徨っているのだが、地図上にノール達の反応は現れない。何かあったら連絡をしてくれと言ってあるので、下の階に行く道があった場合連絡が来るはずだ。

 なのでまだ同じ階にいると思うんだけど……全然出会う気配がない。


「次から次へとゴブリンゴブリン……ゴブリン迷宮なんですかここ?」


「そう――あぶね!? この野郎!」


 続々と湧いて出てくるゴブリン達。そんなゴブリン達に気を取られていた時、炎の玉が俺に向かって飛んできた。

 それを鍋の蓋で防ぎ、前にいる剣を持ったゴブリン達を無視して飛んできた方向に走って向かう。そして奥の方にいた、杖を持つゴブリンにエクスカリバールを突き立てる。


「はぁ、魔法を使うゴブリンだけが危ないな」


「防御貫通ですもんね」


 俺が魔法を使うゴブリンを倒して振り向くと、無視したゴブリン達は既にシスハによって壊滅状態だった。ちょうど最後の1体の頭部を、彼女の杖が貫いている。

 魔法を使うゴブリンは、基本的に俺が処理をしている。シスハよりも俺の方が魔法抵抗が高いので、攻撃しに行く時に被弾しても大したことがないからだ。他のゴブリンを無視した時に、防御重視の俺なら剣など攻撃でもほぼダメージがない。

 それに防御力が上がる支援魔法を、彼女にかけてもらっている。忘れそうになるけど、一応神官なのでその辺りの支援魔法は使えるのだ。


「いつも自信がなさそうですが、大倉さんもだんだん戦うのに慣れてきているんですね」


「うーん? そうかな?」


 慣れてきているのか? 確かに前に比べたら、敵からの攻撃で被弾することも減ったし、どれを優先して叩けばいいのか判断ができるようになってきた。

 でも彼女達に比べたら……まだ全然追いついてすらいない。


「もう、そういうところが自信なさそうに見えるんですよ。おう、そうだな。俺が守ってやるぜ! ぐらい言ってください」


「んなこと言われてもなぁ……シスハ俺より強いじゃないか」


 人差し指を立て、腰に片手を当て前のめりになって俺にそう言ってくる。微妙に声色を変えて、守ってやるぜって部分は男っぽくだ。なんだ、凄く良いノリしてるな。

 まあそんなこと言われても困るよ。自信がついた頃になると、いつも何かしら起こして迷惑かけるからね……。おかげで全然自信が持てない。


「私だって女の子ですし、そういう台詞言われてみたいんです! そんなんだから、大倉さんはど――」


「それ以上は言っちゃいけない!」


 こいつ、今何言おうとしやがった!? マジで神官なのか疑いたくなるような、そんな発言しようとしただろ!

 ノールもよく乙女を自称しているけど、シスハも女の子と言うのなら恥じらいを持ってほしいな。最初出会った時はあんなに清楚で素直そうだったのに……いや、今も悪い意味で素直だったわ。


「んー、魔石が増えているってことは、ノール達もどこかで今戦っているみたいだな」


「そうなんですか……うわ!? す、凄い増えていますね」


「ああ、ここ希少種ばかり出るからな。こんな状況じゃなかったら、素直に喜べるんだけどさ……」


 スマホのプレゼントボックスに、どんどん魔石が送られてくる。俺達の方でもかなり黒ゴブリンと赤ゴブリンを倒したので、魔石がかなり手に入った。だが、俺達が戦闘をしていない時もみるみるとその数が増えていく。

 ノール達の方も相当派手にゴブリンを倒しているんだな……。家を出る前は596個だった魔石が、今じゃ689個になっている。

 現在の量ですら、今まで1日に稼いだ魔石の量を大幅に更新する回収数だ。

 いつもだったら叫び声を上げて狂喜乱舞していたと思うけど、状況が状況なだけになんだか喜べない。賢者タイムの気分だよ。


「合流した後に、ここをキャンプ地にして狩りをするのもいいかな?」


「うーん、それは止めておいた方がいいと思いますよ? いつどこから魔物が湧くのか、わかりませんからね」


「それもそうか」


 合流した後、ここに拠点を作って数日狩りをするのもいいかなと思ったが、シスハにあっさり却下された。

 ゴブリンがいつどこから湧いてくるのかもわからないし、昼夜問わず絶えず襲ってくるとなったら狩りするのも辛いな。ビーコンをここにも設置できたらいいんだけど……都合よくいかないもんだね。


「さて……合流してもないのに、また何かありそうな場所に来てしまったのだが」


「あー、これは何かありそうですね」


 それからもゴブリンに襲われつつ進んでいると、かなり広めに作られた場所へと到着した。転移された時の部屋と同じぐらいの広さだ。

 俺とシスハはそこに入らないで、その空間の入り口からキョロキョロと中の様子をうかがう。敵がいる訳でもなく、目立ったような物は何も無い。

 しかしそれが逆に怪しい。こんな広い空間だ。入ったら絶対に何かが起きるぞ。


「奥にあるのは通路か?」


「あの奥に行けば、何かあるのかもしれませんね」


 そしてその空間の奥には、俺達がいる通路と同じぐらいの幅の縦長の穴が空いていた。あの奥にも道が続いているのだろう。

 何かが起きる前に走りきってあそこにいけるかなと考えたが、距離的にどう考えても無理だな。

 

「どうする?」


「無難に行くなら、ノールさん達と合流してからの方がいいと思いますね。でもこれだけ歩いて合流しないとなると、もしかしたらあの通路の奥にいる可能性も考えられますよ」


 地図マップを見てみると、既にかなりの範囲が地図マップに映されている。それでもノール達の反応は、マップに表示されていない。

 こうなると彼女の言うように、こちら側にいないこともあり得ると思った。そう考えたら、あの奥に早く行きたい気持ちにもなってくる。

 だが、あの奥に行くにはこの部屋を横断しないといけない。またどこかに飛ばされたりしないよな……? 奥に行く道があるってことは、転移系じゃない罠がある可能性の方が高そうだ。


「ここで待ってみようか。ノール達があっちからくるかもしれないし」


 急いで合流はしたいけど、無理してここを通るのは危険だ。彼女達から連絡がくるかもしれないし、ここは焦らず待ってみよう。



「むぅ……やはりあそこに行くしかないのか」


「こちら側にはやはりいなそうですね。地図マップの魔物の動きから見ても、他の場所に向かっている個体がいませんよ」


 待ち始めてから数十分程度経過したと思う。時折襲ってくるゴブリンを返り討ちにしながら、入り口に前にいたが彼女達が来る気配は微塵もない。

 地図アプリで表示されている範囲の魔物の動きを見てみると、どんな仕組みで位置を特定しているのかはわからないが、大体は俺達の方に向かってきていた。侵入者達を排除する為に動いているのかな?

 まあとりあえず、これでノール達がこっちにいる可能性は薄くなった。


「くっそ、やっぱりノール達に通話が繋がらない……」


「腹を括って進むしかないですね」


「それしかないか……」


 連絡を取ろうと何度も電話をかけているのだが、ノールが出ることは1度もなかった。おかけになった電話は、電波の届かない――とお馴染みのお返事。

 最初は通話できたのに、今は電波の届かない場所にいるということは移動したのか? でもそれならその前に連絡があってもいいはずだ。

 魔石の増加も確認してみると、今は全く増えていない。彼女達は戦ってすらいないということだ。

 なんだか心配になってきたぞ。怖いけど、先に進むしかないなこれ。


「よし、行こうか。シスハ、俺が守ってやるから離れるなよ」


「……へ?」


 気合を入れて、俺はこの不気味な部屋の中へ進むことにした。その際にシスハが言われてみたいと言っていた台詞を言ってやった。

 今は俺と彼女だけなんだ、やっぱり守るのは俺の役目だろう。そう決意して言ったのだが……言われた本人は、少し間抜けな声を出し目を見開いて唖然としていた。

 おい、なんだその反応は。恥ずかしいの我慢して言ったのに、その反応はあんまりなんじゃないか?


「なんだよ……さっき言われたいって言ったんじゃないか。ちゃんとした返事ぐらいくれよ」


「いやー、まさか本当に言うとは思っていませんでした」


「お、お前な……」


 口の端を吊り上げて、あごに片手を当てて乗せて彼女はニヤニヤした表情で俺を見ている。凄く楽しそうだ。

 今まで生きてきた中で、ここまでムカつくニヤケ顔を俺は見たことがない。なんて表情してやがるんだ。神官がというより、女の子がしていい表情じゃない。

 酷い、酷すぎる。真に受けてやらなきゃよかったよ……。


「でも少し胸がキュンとしちゃいましたよ。もう、私のこと惚れさせようとして、どうするおつもりなんですか? ポッってなっちゃいますよ?」


「そういう意図で言ったんじゃねーよ! はぁ……このことエステル達には言うなよ。恥ずかしい」


 今度は頬に手を当てて、恥ずかしそうにしている。口でポッて言いふざけているように見えるけど、若干頬が赤く見えた。

 このことをノール達に知られるのは恥ずかしい。いや、ホントなんで言っちゃったんだ俺。

 俺が守ってやる……うわ、恥ずかしい。かなり恥ずかしいよこれ!


「はい、もちろんですよ。……言ったらエステルさんの怒りを買いそうですもん」


「怖いもんな、怒ったエステル」


「はい……怖いです。笑うことや泣くことができなくされそうです」


 なんかよくわからないけど、シスハも言わないことには同意してくれた。

 なんでエステルが怒るのかわからないが、怒るというのなら言わないでほしい。怒るとマジで怖いもん。

 

 そんな感じで緊張感がなくなりつつも、俺達は部屋の中へ入ることにした。 

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[良い点] やっぱしエステル最高
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