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分断されたパーティ

 魔法陣が現れ視界が染まった瞬間、急に足元の地面の感覚がなくなった。

 直後に浮遊感がしたかと思うと落下。

 俺の体はどこか下に向かって落ちていく。


「ぷげっ!? アタタ――タァ!?」


「きゃあ!」


 地面にぶつかったのか背中に強い衝撃。

 そして追い討ちのように、防具で守られていない股間の部分に何かが落ちてきた。

 めちゃくちゃ痛い……何、何が起きたんだ?


「イタタ……なんなんですか……」


「あっ、あっ……」


 下半身に強烈な激痛を感じてまともに動けなくなっていたが、俺の上からシスハの声が聞こえる。

 どうやら俺の上に落っこちてきたのは彼女だったみたいだ。


「うっわ!? な、何やってるんですか大倉さん!?」


「お、お前が落ちてきたんだろうが……」


 下敷きになった俺に気がつき、彼女は飛び跳ねるように俺の上からどいた。

 好きで下敷きになった訳じゃないのに、何してるんですかと言われるなんて……。


「いたた……全く、勘弁してくれ」


「すみません……それより、ここはどこでしょうか? それにノールさん達は?」


「え?」


 俺も起き上がって周囲を見てみると、緑色に輝く岩の壁に囲まれている。迷宮と同じような場所だ。

 そしてここには俺とシスハしかいない。

 立ち上がり少し歩き回って探してみても、彼女達の姿は見当たらなかった。


「も、もしかしてノールとエステルいないのか?」


「どうやら私達だけみたいですね」


「ど、どうしよう……そうだ! ビーコンを置いて――ってもう在庫が無いぞ!? じゃ、じゃあ脱出装置は……駄目じゃん!」


 焦った俺はスマホを取り出してビーコンを出そうとした。

 ビーコンは外にあるのと繋がらないだけで、迷宮内で同じ階にいれば電波も届くはずだと思ったからだ。

 だが、昨日家に設置したのが最後の1個。なので今手持ちに無い。


 次に脱出装置を使おうとしたが、これは一定以上離れると移動できないと書いてあった。

 今使ったら俺とシスハしか脱出はできないかもしれない。

 やばい、これはやばいぞ。このままだと俺とシスハだけで進むしかなくなる。とんでもなく不安だ。

 それにノール達は大丈夫なのか? もし変な場所に飛ばされていたらと思うと……。


「落ち着いてください大倉さん。まずは私達がしっかりしませんと。ビーコンが駄目なのでしたら、トランシーバーの方で連絡を取れるか、お試しになった方がいいのではないのですか?」


「そ、そうだな」


 そうか、トランシーバーがあったか!

 落ち着いた様子のシスハに促され、俺はスマホの通話機能を使いノールのトランシーバーに連絡を取れるか試してみた。


『はい、こちらノールなのであります』


 数回トゥルルとコール音が鳴った後、ノールの声が聞こえた。

 いやぁ、良かった。トランシーバーは迷宮内でも使えるんだな。


「おお……よかった。無事だったか」


『そちらも無事のようでなによりでありますよぉ……』


 姿は見えないが、彼女達が無事なことに俺は安堵した。

 シスハにも聞こえるように通話をスピーカーフォンに切り替える。

 スマホから聞こえるノールの声も、若干安心したような声をしていた。

 あっちも俺達が見当たらなくて不安だったのかもしれない。


「エステルも一緒なんだよな?」


『一緒なのでありますよ。そちらはシスハが一緒なのでありますか?』


「ああ、そうだ」


 転移させられる前、俺とシスハは近くにいてノール達は若干後ろの方にいた。

 その微妙な違いのせいで転移させられた位置が変わったのかも。

 これは俺の予想なだけで、もしかしたら元々パーティー分断系トラップの可能性もあるけど。


「それで、今どこにいるかわかるか?」


『全くわからないのであります。そちらも明るい迷宮のような場所なのでありますよね?』


「そうだぞ。緑色の壁だよな?」


『そうなのであります』


 迷宮はどこも同じような光景が続いている。

 なのでそれだけじゃ同じ場所にいる確証は得られない。

 だが、多分同じ場所なんだと思う。そう思わないとまた不安になるというのもあるけど……。


『同じ場所だと確定した訳ではないのでありますが、とりあえず同じ場所とするであります。合流しないと駄目みたいでありますね』


「そうみたいだな。こっちからも地図アプリで探しながら移動するから、範囲に入ったら連絡をする。もし何かあったら一応連絡をくれ」


『了解なのであります。それでは大倉殿、お気をつけて。シスハも大倉殿を守ってあげてほしいのでありますよ』


「はい~、了解しましたよ~」


 合流するということで意見もまとまり、通話を終えた。

 地図アプリで探そうとしても、迷宮内ではあまり広範囲の表示がされない。

 今見てみると魔物の赤い点がちらほらと映っていて、パーティのマークである青い点は俺とシスハの分しか確認できない。


 なのでまずは歩き回って表示できる部分を広げていかないとな。そうすればノール達と行き違いになっても、地図アプリに彼女達が表示されるので戻って合流することも可能だ。


「無事のようで安心しましたね」


「ああ、良かった……でも不安だなぁ。メイン火力の2人が抜けた状態で俺達大丈夫なのか? あっちもポーション持たせているけど平気かな?」


 問題があるとしたら、火力が極端に落ちたことだな。

 それに離れすぎているので、彼女の能力であるバフもちゃんと入るのかわからない。さらにエステルの身体能力強化もない。


 防御でガチガチにしている俺と、回復できるシスハがいるから安定感は俺達の方があるが……沢山敵が来た場合に処理しきれないかも。

 それに俺1人でシスハを守りきれるか?


「そうですね……ノールさん達は大丈夫だと思いますよ。一応近接と遠距離でバランスは取れています。心配するなら私達の方ですね」


 強さで言えば俺が彼女達の心配するよりも、自分の心配をしろと言われるのは間違いない。

 シスハの言うようにあっちは近距離と遠距離だもんな……こっちはシスハがモンクみたいだとはいえ、一応神官だ。

 彼女が攻撃されないように、俺が守ってやらないとな。

 

「ですから、頑張って進んでいきましょう! 暗いことばかり考えていても始まりませんよ!」


「そうだな……」


 ……心配していても始まらないか。

 今は前向きに進んで、一刻も早く彼女達との合流を目指そう。

 こういう時はシスハのはっちゃけ感が頼もしく思えるな。


「それでは、ノールさんにも頼まれちゃいましたし、頑張って大倉さんをお守りしますね!」


「普通逆だと思うんだけどな……」


 シスハは両手をグッと握り締め、ガッツポーズをしている。やる気まんまんだ。

 さっき俺が守ってやると思ったけど……彼女が俺を守ると言った方が説得力があって悔しい。



 進もうと決めてからしばらく進んでいるのだが、ノール達の反応は未だに地図アプリに現れない。

 今は丁度広めの場所に出たので、魔物がいないことを確認して一休みしている。

 俺はヘルムを外しての休憩だ。ずっとフルフェイスのヘルムを被っているのも辛いので、たまにこうやって外している。

 

「はぁ、長いな……どんぐらい広いんだここ。ノール達が全く地図にも映らない」


「そうですね……敵が弱いからまだ大丈夫ですが、強かったら危なかったかもしれません」


 この場所で現れる魔物はやはりゴブリン系。今度はレッドゴブリンというのまで現れたが、今の俺達でも問題なく処理できる程度だ。

 ブラックゴブリンも出てきたが、俺の攻撃で2発以上突き刺さないと倒せなかった。

 ノールがいた時は俺でも一撃だったので、これで彼女のバフの効果が今の俺達にはないと思っておこう。


 俺達が魔物を倒していない時にも魔石が増えているので、ノール達も進んで魔物を倒しているようだ。

 それを見ると無事なんだと安心するのだが、やはり彼女達が近くにいないのは不安で落ち着かない。もう何回ため息をついたのかわからない。


「いやー、でもこんな形で大倉さんと2人きりになるなんて思いませんでした」


「えっ? あー、うん。そうだな」


 隣で座っていたシスハが、突然そんなことを言ってきた。

 身を乗り出して俺の顔を覗き込むようにだ。

 彼女の顔を直視するのがなんだか恥ずかしくて、少し他所を見つつ返事をする。

 黙っていたら本当に美人なんだよなぁ……。


「普段から思っていたのですが、大倉さんって私の顔をちゃんと見て話してくれませんよね?」


「ぅえっ!? そ、そんなことないと思うのだが……」


「本当でしょうか? それじゃあ今から見つめ合ってみましょう。はい、ジー」


「うおっ!? ちょ、近い近い!」


 顔を両手で固定され、余所見をできないようにされた。

 そして真正面から笑顔で俺を見てくる。吐息が聞こえるぐらいの近距離でだ。


 これは堪らんと首を動かして逃れようとするが、万力で挟まれているんじゃないかって程ガッチリと固定されて全く動かない。

 手で岩を掴み体を前後に動かしてジタバタしても無意味だった。

 なんだ、なんでだ!? なんでこんなことしてくるんだよ!? 


「うわっ!?」


「全く、大倉さんは相変わらずなんですね」


「アタタ……何するんじゃ! それと相変わらずってどういう意味だ?」


 後ろに動こうと体を動かした瞬間、シスハがタイミングよく両手を離した。そのおかげで後ろの壁に背中を打った。

 まだ目の前にいるシスハはなんだかニコニコとしている。


「反応が初々しいと言いますか、新鮮と言いますか。困ったり恥ずかしがっているのを見ていると、なんだか可愛いのでもっといじりたくなりますね。私と初めて会った時の反応なんて最高でしたよ」


 最低だ! コイツ最低の奴だ!? 俺のこと見て楽しんでやがったのか……。

 普段からニヤニヤと俺のこと見ていた気がするけど、まさかそんなこと思っていたなんて。

 それに可愛いって……ゾッとするようなこと言わないでほしい。せめてカッコいいとかにしてくれよ……。


「お前……良い性格してるな」


「大倉さんには言われたくありませんね、会ってすぐに胸を凝視する変態さん」


「なっ!? ……だって、その……見えてるし……」


「うふふ、見せてるんですよ」


 うひぃー、最初に胸元見てたのバレてる……。それにちょくちょく彼女の胸が視界に入って目で追ったりもしていた。

 それもわざと見せていた? マジか……俺泳がされていたのか。


「さて、冗談はこの辺にしてそろそろ進みましょうか。早くノールさん達と合流しませんとね」


「あ、ああ……」


 少し笑った後、シスハは立ち上がって俺に手を差し伸べた。その手を取って、俺は立ち上がる。

 少し困惑しながらも、彼女と共にまた進むことにした。

 なんだか若干だが、重かった気分が軽くなった気がする。 

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― 新着の感想 ―
[良い点] たまにはそれぞれのタイマンパートがあると新鮮ですね シスハ小悪魔姉さんでイイ
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