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土の中にいる

「ここは中が明るくないんだな」


「これを持っていてよかったわね」


 入ろうか迷った結果、俺達は中に入ることにした。

 ここは迷宮のように壁が発光していないので、仕方なく高級ランプを使っている。

 1番魔力の扱いが上手いエステルに任せているけど、まるで外にいるかのような明るさを放つランプだ。


「崩れないかちょっと心配でありますね」


「そうですね……こんな穴どうやって空いたんでしょうか?」


 迷宮のような不自然な場所だが、あっちは一応岩のような壁だった。しかしこっちはかなり固くなってはいるが全部土みたいだ。

 中は意外にも広く緩やかな坂になっている。俺達4人が横に広がって歩けるぐらいには幅もあった。

 こんな広さの穴を掘るのは相当大変だろう……迷宮もだが一体どうやってできたんだろ。


「ん? なんかきたぞ……」


 しばらく歩いていると、奥の方から何かが走ってくる音が聞こえた。

 立ち止まり俺とノールが前に出て警戒する。そして現れたのは、弓を持った5体のゴブリン。

 ゴブリン達は俺達の姿を確認すると、早速弓に矢をつがえて放つ。


「うお!? アーチャーかよ!」


「今更感が凄いのでありますよ」


「なんだか拍子抜けしちゃうわね、えい」


 今まで見たことあるのは棍棒を持つタイプだけだったので、俺は驚いた。しかし放たれた矢はそこまで速くもなく、簡単に鍋の蓋で弾き返す。

 ノールも盾で矢を弾いて、なんだか呆れたような声を出している。その後エステルが杖を振ると、5体のゴブリンの体が一瞬でバラバラの肉片になった。

 目に見えるような攻撃はなかったから、多分風魔法だな。穴の中だから火や土魔法は危ないって判断したのか。いつ見ても風魔法で切り裂かれる魔物を見ると悲惨だな……。

 それにしてもよくこのゴブリンこんな暗闇で移動できるな。夜目がきくのか?

 

「無情な光景ですね……」


「レベル上げる前に来てたら脅威だったかもしれないが……完全に適正外だな」


 儚く散ったゴブリン達を見て、シスハはなんだかしんみりとしている。

 ここってかなり低レベ向けの場所なのか? 王都に行く前の俺達だったら丁度良さそうだけど……今の俺達60レベルぐらいだし、もうゴブリン相手じゃ全くダメージがない。

 彼女達からしたら歯応えのない場所かもな。冒険できると期待していたみたいだが、ちょっと期待はずれだったか。


「でも暗くてちょっと危ない気がするのでありますよここ」


「そうね。それにビーコンは使えるの? 迷宮は使えなかったし、こっちも使えない可能性があるわよ」


 そういえばそうだな。まだスマホでビーコンが使えるか試してないな。

 言われて早速スマホを取り出し、ビーコンの画面で選択をしてみたのだが……移動することができないと表示される。


「あっ、使えない」


「ほらね? あまり深くまで行かない方がいいかもしれないわ」


「うーむ……でも奥まで行けば何あるかもしれないぞ? それに一応すぐに脱出する手段はある。これだ」


「こないだアイテムガチャで出た物ですね」


 確かに迷宮のような場所なので、奥に行ったら何があるのかわからない。エステルが心配するように戻るという選択もありだ。

 だがここを攻略したら何か貰えるかもしれない。進む価値は十分にあると思う。

 それにさっき出てきたゴブリンを考えると、ここはそこまでの難易度じゃなさそうだ。

 攻略した際に何があるのか、それを知るにはいい機会のはず。今の戦力でどのぐらい進めるのか試すのもいいだろう。それに今回は切り札とも言えるアイテムがあるのだ。


 ――――――

●脱出装置

ボタンを押すとパーティごと外へ脱出できる。

何かの内部にいないと使用できず、一定以上離れた場合はパーティでも移動させられない。

使用後に消滅する。

 ――――――


 ここに入る前に、これをポケットの中に入れておいた。四角い箱で中央に沈んだ赤いボタンの付いた物だ。

 なんだか自爆スイッチのように見える気がする……。


「迷宮用にしようと思っていたけど、ここで使うこともできるからな。それにさっき出た魔物から考えたら、そこまで強い敵がいる場所じゃなさそうだし平気だろ」


「本当に大丈夫なのかしら?」


 このアイテムは2つあるので、今回1つ使っても大丈夫だ。いざとなればこれで逃げることができる。

 まだ入って遭遇したのがゴブリンだけなので判断はできない。なのでこのまま進みやばそうになったら戻るということで話がまとまった。

 

 ●


 話がまとまってからだいぶ先へと進んだ。あれからゆるやかな坂道の一本道と広く平坦な場所を交互に何回も通った。

 そのたびに弓を持ったゴブリン、剣を持ったゴブリン、盾を持ったゴブリンと色々なゴブリンが出てきた。

 そしてまた坂道を抜け、平坦な場所に出たのだが……。


「うおっ!? な、なんだ!」


 坂道から抜けた途端に、俺に向かい火の玉が飛んできた。とっさに鍋の蓋で防ぐと、着弾したのか鍋の蓋の前で爆発が起きる。

 それでも俺が感じる熱さは、ドライヤーぐらいの暖かさって程度だ。

 飛んできた方向を見てみると、杖を持ったゴブリンが6体いた。まさかこれは魔法か? 魔法を使うゴブリンがいるなんて……。

 ゴブリンがさらに魔法を撃とうと杖の先端辺りに魔法陣が現れるが、それを使用する前にさらっとノールが走りだして杖ごと体を切り裂いていく。

 

「ふぅ、魔法を使う魔物でありますか。危ないのであります」


「ゴブリンとはいえ、魔法を使うとなるとちょっと危ないですね」


 瞬く間にゴブリンを倒し終えたノールが戻ってくる。やはりゴブリンも魔術師系は鈍いのか、逃げる素振りすらすることなく、彼女の餌食になった。

 うーむ、ついに魔法を使う魔物が出てきたか。今はエステルの固有能力で魔法抵抗+10%と聖骸布の50%で60%ある。なので6割ダメージ軽減だ。ゴブリン程度なら防御無視とはいえ大したダメージにはならない。 


「まさかこんな所で魔法を使う魔物が出るとは……」


「先に進むのなら注意しないと駄目ね」


「戦士に弓に魔法使い……色々いたんだなゴブリンって」


「勢ぞろいって奴でありますな」


 それでも一応魔法を使う魔物が出てきたので、ここからはさらに気を引き締めていかないと。

 この穴の中は豊富な種類のゴブリンがいるな……。


「こんなのもいましたよー」


「なんだそいつ?」


 シスハが何かを手に持って俺に見せてきた。顔を黒い頭巾のようなもので隠し、黒い布を全体に巻いたゴブリンだ。

 彼女に後ろから首をわし掴みにされ、苦しそうにもがいている。

 これって……アサシン? こんなのまでいるのかよ。


「さっきからこそこそとしていたので捕まえておきました。アサシンって奴でしょうか? とりあえず絞めておきますね」


 そう言うと力を入れたのか、メキメキと音が鳴り最後に鈍い音がしてゴブリンの体がビクンと跳ねた。そして全身から力が抜けたのか手足をだらんとさせ、光の粒子になって消える。

 こわ!? シスハこっわ!? 武器で殴って倒すのは慣れたが、素手で首へし折るって……俺にはできないようなことを平然とやりやがる。


「ん? 黒いのが出てきたぞ」


「あれはブラックゴブリンなのでありますよ」


「それじゃあ希少種か!」


「多分そうだと思うのであります」


 それからさらに進むと、今度は全身が黒い棍棒を持つゴブリンが10体ぐらい出てきた。ノールが言うにはブラックゴブリンみたいだ。

 ブラックオークが希少種なので、こいつも希少種扱いかもしれない。

 そうなら今すぐに殲滅しなくちゃ! 魔石が自分から走ってやってきやがった!


「うほほい、ここ凄いな。この辺りからは希少種が出るってことか?」


「そうみたい。ここで狩りしていたら効率良いかもね」


 希少種と言っても所詮はゴブリンだった。俺がエクスカリバールで攻撃をすると、一撃で体の半分ごと消し飛んでいった。

 全員で総攻撃をしたので、全滅までに10秒もかからなかった。

 スマホを確認してみると、この一瞬で10個以上の魔石が追加されている。

 これはやばい。圧倒的な魔石効率。もうこの穴の中にこもりたいぐらいだな。

 ここを攻略したら、この場所でひたすら魔石集めしたいな……リポップ時間がどれぐらいかわからないけど。


「なんだ? やけに広い場所に出たな。それにこれって……」


「迷宮の壁と同じでありますな」


「そうね。ここからが本番なのかしら?」


 希少種と遭遇してからさらに進むと、今度はかなり広い場所に出た。ここまで来る間にも希少種と遭遇して、なんと50個以上の魔石が手に入った。このダンジョンみたいな所最高だな。

 そんな気分ウキウキで着いた場所は、土の壁が終わり迷宮のように壁や床が緑色に発光する岩になっている。まるで迷宮のようだ。


「私は迷宮に行ったことがないのでわかりませんが、このような場所なんですね」


「迷宮に行ったのはシスハが来る前だからな。それにしてもここからどうやって進むんだ?」


 変化があったということはある程度進んだ証だと思うのだが、見渡した限り先に進む場所がなく行き止まりだ。

 それならボス級の魔物がいそうだけど、そんなのもいない。一体この空間はなんなんだ?

 変な空間だと首を傾げながら、中央の方へと俺達は進んだ。


「な、なんだ!?」


「こ、これは……魔法陣なのでありますよ!?」


 ある程度の場所まで進んだ瞬間、突然壁の光が増し始めた。そして地面には魔法陣が浮かび上がる。

 

「ちょ、大倉さん! あれ、あれ使って逃げましょうよ!」


「あっ、ああ、ちょっとま――」


 急なことで思考が追いつかなかったが、シスハに言われて脱出装置のことを思い出した。

 なので今すぐ押そうとポケットに手を入れようとしたのだが、それよりも早く魔法陣の輝きが増し俺の視界は緑色の光に染まった。


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