オークの森へ
ハウス・エクステンションを使って翌日。住めるようになったマイホームでゆったりとしていた。
いやぁ、持ち家があるってなんだか良いな。新築ではないがとても気分が良い。
今は全員で居間の机を囲んでいるが、昨日はあれから大変だった。家具などを買ってきて運び、それを部屋の中に持ち込んだりしていたら1日潰れてしまったよ。
まあパワーブレスレットのおかげでベッドや机を俺1人でも持ち運べるので、元の世界よりはかなり楽だったと思う。荷車を借りて運んでいた時結構目立っていたけど仕方ないね。
「大倉殿、本当によかったのでありますか?」
「あぁ、問題ない。床で寝てても平気だし俺」
現在この家にある個室は3部屋。通路を拡張した後に部屋も追加した。追加された部屋は窓がない白い壁と天井にフローリング。広さは10畳ぐらいだと思う。一応換気扇のような物があり空気の入れ替え自体はできるようだが……どこに繋がっているのかわからない。
元々あった2部屋よりも広く綺麗で、さすがはガチャから出たアイテムの力だなと思った。ポイントがかなりお高いけど、それ相応の価値は十分にある。
で、この3部屋。全部彼女達の個室として使っている。俺の部屋はありません。追加された部屋を使うべきだと全員に言われたけど、俺は後回しでいいので譲った。
快適な自家発電は魅力的だったけど、それほど急いで欲しいという訳でもなかったし。だから俺は自分の部屋ができるまで、居間のソファーで寝るか寝袋でその辺に転がっておくことにした。
いつも世話になっているし、こういう時ぐらい優先してあげたい。
「私があの部屋で良かったのかしら?」
「良いのでありますよ。部屋があるだけで私は十分なのであります」
「私も気にしていませんよ。大倉さんと同じで床で寝ても気にしませんし」
それで話しあった結果、拡張してできた部屋はエステルが使い、元々あった部屋はノール達が使うことになった。部屋決めは彼女達に任せていたからわからないが、穏便に部屋決めはできたみたい。
シスハが俺と同じように床で寝ても気にしないと言うけど、そこはちゃんとベッドで寝ていてほしい。俺みたくなってはいけない。
「さて、拠点が一応だが手に入ったし今後どうしようか」
「うーむ……拠点の拡張のこともありますし、やはりガチャに向けて準備するべきでありますかね?」
狙っていた訳ではないが、アイテムガチャからの流れで一気に家まで手に入ってしまった。
なので他に優先することがないか考えようとしたのだが……なんとノールがガチャの為に準備した方がいいかもしれないと言うではないか。
それを聞いた瞬間、俺はノールの顔を凝視し、彼女の手を両手で握り締めた。
「わわっ!? な、なんでありますか大倉殿!」
「俺は今猛烈に感動しているんだ……まさかノールからガチャに向けて準備するという言葉が出てくるなんて。ようやく……ようやく俺の気持ちを理解してくれたんだな!」
あんなに魔石集めを嫌がっていた時期があったノールが、自発的に魔石集めをしようと言うようになったのか。俺の努力がついに実った……ガチャ沼へようこそって奴だな。涙が出てきそう。
「えっ、あっ、いや! ち、違うのでありますよ! 理解した訳じゃ――」
「恥ずかしがらなくてもいいんだぞ。そうだな……期待に応えて北の洞窟以外の狩場も探そうか。もう4人もいるんだし、また別の効率の良い場所が見つかるかもしれない」
「新しい狩場を探すんですか! 今度は私も前に出て良い場所がいいです!」
両手を振って違う違うと言っているが照れているのかな? そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに。もっと自分に素直になるべきだよな。
シスハは素直になり過ぎているので自重してほしい。というか自分から前に出るの希望するなよ、一応神官だろ。
「ノール……」
「えっ、私のせいなのでありますか!? で、でもエステルだって考えたでありましょ!」
「えぇ、そうね。ガチャで家が拡張できるのだし、それを目指してガチャをするのも悪くないわね」
ジト目でエステルがノールを見つめている。しかし彼女も同じ考えは持っていたらしい。
そうだろう、そうだろう。ガチャは良い物だもんな。それに前向きに考えたらこれはからは爆死しても、ポイントに変える餌が手に入ると思えばいいのだ……いいのか?
まあとりあえず全員がガチャに前向きになってくれたようだし、ハウス・エクステンションはやってよかったと思う。
「うん、うん。そうだよな。なら――」
「でも、また暴走するようなら、ね?」
「あっ、はい……」
エステルが杖を持ち、先端から電撃が迸った。その後は無言で俺を見つめてニッコリ笑っている。
調子に乗るなって無言の圧力を感じる……狩りに行けると浮かれていたシスハも、なぜか同様に静かになって顔を伏せた。
「それで今はどのぐらいの魔石があるんでしょうか?」
「今はアイテムガチャを回したから596個だな」
「まずまずの量でありますね」
あと4個手に入れれば600個。11連換算にしたら12回分だ。今の量でもそれなりにガチャは回せる。
だが33連ガチャのようなのがくる可能性もあるし、魔石がいくらあっても安心はできない。これが数千個単位であればなー。
いつか制限を気にせずにガチャりたいものだ……それやると何か大切な物を忘れてしまう気がするけど。
「んー、とりあえず初心に帰ってあの森に行ってみようか」
せっかくブルンネにいるんだ。久々にオークがいた森に入ってみようかな。
●
前は徒歩で歩いていたが、今回は魔法のカーペットで行ったのですぐに到着した。途中で何人か冒険者らしき反応が地図に映ったが、そこは避けて進んだ。
久々に来たが、相変わらずゴブリンが森の前を歩いている。変わらない場所だな。
「うぐ……なんだかあの時のことを思い出すのでありますよ……」
「いやぁ、あの時はごめんな」
森の中へ入ろうとしたのだが、最初のキャンペーンの時を思い出しているのかノールは渋い声を出して中に入るのを躊躇っている。
今思っても申し訳ないことをしたな……今後はああいうことはないように気をつけよう。でもシスハだったらあれ喜んでやりそうだよなぁ……。
「体が大きい割には弱いですね」
「平然と体を吹き飛ばしながら言われてもな……まあレベル低い頃の俺達ですら余裕だったからな」
実際に今、シスハがちょっと通りますよって感じで飛び出してきたオークに軽く杖で突き刺していた。頭を攻撃されたオークは、頭だけじゃなくて上半身ごと吹き飛んでいる。
やりすぎだろ……と思ったが、考えてみたら俺達はあの頃に比べてレベルが相当上がっている。今ならここでの狩りの効率も……あの頃から既に一撃だったか。
やられる心配がないという意味では、気楽に狩りができそうだけどね。
「そういえばさ、あの頃はリポップ場所を見つけるだけで終わったけど、奥の方はどうなっているんだろうな?」
「さあ? ずっと森が続いてるんじゃないの?」
前回は比較的浅い所で狩りをしていた。地図を見ても森はかなり広がっている。リポップ地点自体はそこまである訳ではないようだが、この森の奥に何かあったりするのかね?
「探検するのもいいでありますな! 大倉殿、奥まで行ってみましょうでありますよ!」
「冒険しているようでちょっとワクワクしてきますね! これで強い敵でもいたら嬉しいのですが」
「森の中って虫がいそうで嫌だけど……ちょっとだけ楽しそうね」
ノール達は結構ノリノリで奥まで行こうとしている。地図アプリもあるし、自宅にビーコンも置いたので奥に行っても迷う心配はない。
探索みたいなことは今までやっていなかったし、こういうことできるのが嬉しいのか? 強敵がいるのは嫌だが、こんな場所に強い敵はいないと思う。
俺も虫はちょっと嫌だけど、奥に行ってみるのもありかも。もしかしたら大討伐の時みたいにアイテムが貰える何かがあるかもしれないしな。
「ん? これなんだ?」
「どうかしたのお兄さん?」
「あぁ、これ見てみろよ」
しばらく進んでいると、地図に黒い小さな丸が表示された。全体図で見ていた時には表示されていなかったが、近くに行ったら突然現れた……これはどういうことだ?
「なんでありますかねこれ?」
「ここに行けば何かがあるってことでしょうか?」
うーむ……森の中に何かあるなんて話は聞かなかったし、魔物が歩き回る森を探す人間もいなそうだよな。
地図アプリにわざわざ表示されるなんて、行けと言われているようだな……なんだか怖い。
「悩んでいてもわからなし、行ってみようか」
ノールと2人だけの時なら行くという選択肢はしなかっただろうが、今は4人もいるんだ。ある程度のことなら対応はできる。
よし、行ってみないとわからないし先へ進むか。
「うーん? なんだこれ?」
「まるで入り口でありますね」
しばらく歩いて、地図のマークがある場所までやってきた。そこには、土が半ドーム状に盛り上がり大きな穴がポッカリと空いていた。
人が余裕で通れる大きさだ。中を覗くと真っ暗で、なんだか吸い込まれそうな感覚になる。たぶんこれは地下へと続いているのかな?
「これって……迷宮に似てない?」
「迷宮? ……たしかに似てるかも」
確かに迷宮の入り口みたいに不自然な感じだ。元々あった物じゃなくて、突然そこに現れたかのような……そんな不自然さを感じる。
うーん……この中に入るべきなのか? 迷宮みたいな魔物がいる可能性もある。
……とりあえず中に入って、魔物を確認してから進むか考えようか。




