冒険者 初体験
「ここが冒険者協会か」
「活気があるでありますな」
次の日、予定通りに冒険者協会へと訪れた。
中に入ると掲示板に貼ってある紙と睨めっこしている人や、テーブルに座り雑談している人が目に入る。
皆剣や盾、斧を持つ冒険者達だ。男ばかりかと思っていたが、意外にも女の冒険者もいた。
俺達の方を見た何人かは、隣にいるノールの方を見て驚いた顔をしている。
こんな騎士風の人間が来るのは珍しいのだろうか。
「すみません、冒険者の登録を行いたいのですが」
「はい、ではこちらに必要事項の記入をしてください」
受付嬢に声をかけると、紙と鉛筆を渡された。
記入欄には名前、年齢、職業を書くだけでいいみたいだ。
職業と言われてもなぁー。とりあえず戦士と書いておけばいいだろう。
ステータスとか無いのを考えると、この世界じゃそういうのはないのかもしれない。
隣で書いているノールのを見ようとしたら、年齢を見ようとするのは失礼であります! と隠された。あんたまだ若いだろうに。
「大丈夫みたいですね。ではこれからネームプレートを作成いたしますので、こちらをお読みになって少々お待ちください」
受付嬢が記入した書類を確認し、また1枚の紙を渡してきた。
目を通すと冒険者についての説明が書いてある。
まず冒険者ランク。上からA、B、C、D、E、F、Gの順番。
このランクを目安にして依頼を受けるらしい。
プレートは色別にされており、Aは金、Bは銀、Cは銅、Dは赤、Eは青、Fは緑、そしてGは黒らしい。
ただ受けるのはそのランクじゃなくてもいいようだが、推奨されたランクよりも上は危険なので受けるのは控えてほしいとある。
ランクが上がると指名依頼などもあるとか。ランクを上げるには指定された依頼を達成すればいいそうだ。
次に依頼の達成条件。
冒険者協会発行の薬草採取や魔物討伐は採取物やドロップアイテムを持ち込み確認。
依頼主がいる物は依頼主からの証明書を貰って報告する。
依頼を達成できずそれを複数回やってしまうと、冒険者プレートを剥奪されるそうだ。
依頼を長期間しない場合も登録を抹消されるとあるので注意しよう。
「お待たせいたしました。それでは、こちらが大倉様とファニャ様のネームプレートとなります。最初はGランクからで、10日以内に1つでも依頼を受けない場合は剥奪となります。紛失した際は1000Gで再発行となりますのでご了承ください」
「だってさ、ノール。失くすなよ」
「私を一体なんだと思っているでありますか……」
4cm程の黒いプレートを受け取った。
プレートには大倉と暗号のようなこの世界の文字で書いてある。
ガチャで言語の書が当たっていなかったらと思うとゾッとするね。
こんなの読めんわ。
「うーん、色々と有るな。無難にゴブリン行くか?」
「私はオークでもいいでありますよ」
早速掲示板にある依頼書を見た。
Gランク依頼を確認したが、薬草採取や物運びばかりだ。
報酬金額も2000Gなどで少ない。
討伐系を探してみるとゴブリン討伐はF、オーク討伐はDランクだ。
こちらは報酬5000と1万でなかなかの金額。
ドロップアイテムは証明時に牙を見せるだけで、その後は雑貨屋で売ってもいいらしい。
一旦持ち帰ってからまた持ってくればいいんじゃね? って思ったが注意書きにそれやったらプレート剥奪って書いてあった。
多分何かしらの方法で、1度持ち込んだ物かどうか判別できるんだろうな。
「じゃあゴブリンとオーク討伐でもやるか」
Gランク推奨の薬草採取なんてやってられんしな。
レベルも早く上げたいし、金稼ぎの効率も段違いだ。
この依頼はゴブリンは15体、オークは5体討伐で1回分完了らしい。
●
「グキャ!?」
「うし、また1匹っと」
「またオーク肉でありますよ~」
ブルンネから徒歩1時間ちょっとした場所にある森に来ている。
ここは魔物のリポップ場所らしく、倒しても森の奥から次々とゴブリンがやってくる。
時折オークも出てくるがノールに瞬殺されてしまう。
「にしてもこいつらどんだけいるんだよ……。てか懲りずに襲ってくるの多いな」
「魔物は無尽蔵に湧くと言われてるでありますよ。あっ、また来たであります」
ここに来てから多分1時間ぐらいかな? 森の近くにいるだけでどんどん出てくるゴブリンの数は30匹を超えてた。オークは5匹ぐらいだ。
牙が合計35本。棍棒が5本にオーク肉2個と既に前回を超えた数である。
しかし一撃で倒せるとはいえ少し疲れてきた。
今回ゴブリンは俺が優先的に貰いオークをノールが処理している。
出てきた瞬間に首を刎ね飛ばされるオークにはちと同情してしまう。
「ん? なんか黒いの混ざってないか?」
「あぁ! あれはブラックオークであります! レアでありますよレア!」
次々と出てくるゴブリン達に紛れ、黒いオークが出てきた。
手には黒い棍棒を持ち、通常のオークよりも発達した牙が口から出ている。
紅い光を宿した眼光は、これぞ強敵だ! と主張しているようではないか。
これは激しい戦闘になるな、と身構えたがその考えは間違っていた。
出てきてすぐに、レアでありますよー! とノールが疾走してブラックオークの首を刎ね飛ばす。
通常種と変わらぬ扱いにずっこけそうになった。
「本当なら苦戦する……んだよな? 希少種だよねこれ?」
「おっほー! ブラックオークの肉ゲット! 大倉殿、今日はオーク肉のステーキにするでありますよ!」
「魔物の肉なんて食えるのか?」
「何を言うでありますか。オーク肉は食材に分類されるのでありますよ」
倒したブラックオークのドロップアイテムを嬉しそうに抱えて彼女は戻ってくる。
それ食うつもりなのか。
オークが普通の豚肉だとしたら、ブラックオークは黒豚肉? 美味そうだがなぁ。
てか食材に分類とかマジかよ。
「ん? なんだ?」
「どうしたでありますか?」
突然ポケットに入っていたスマホがバイブレーションした。
取り出して画面を見ると、右上のプレゼントBOXに1と表示されている。
「あっ、ふ、増えてる! 魔石が増えてるぞ!」
「えっ、本当でありますか!」
中を見てみると、魔石1個と表示されていた。
おぉ! ついに魔石が手に入ったぞ!
「まさか、ブラックオークを倒したからなのか?」
「希少種を倒すと魔石も取れるのかもしれないでありますな」
「おっしゃ! なら今日はどんどん狩っていくか!」
「そうでありますな! 行くでありまーす!」
俺達は魔石の入手方法が判明しテンションが跳ね上がった。
ついに、ついにまたガチャを引ける時が来たのだ。
それから夕方になるまでの数時間、ひたすらオークとゴブリン達を狩り続けた。
●
「はぁ……はぁ……ちょっとやり過ぎたか」
「うごご、お、重いのであります……」
日が沈む前にどうにかブルンネの街に帰還する事ができた。
ノールが使っていた小さい袋を俺が持ち、昨日購入した大きな袋はノールが持っている。どちらもパンパンだ。
あの後、ゴブリンをさらに60匹、オークを10体、ブラックオークを4体討伐した。
合計でゴブリンの牙90本、オークの牙15本、ブラックオークの牙5本、棍棒15本、オーク肉6個、黒い棍棒1本にブラックオーク肉2個。
そして魔石が5個の大戦果だ。これはちと張り切り過ぎた。
ノール持つ袋にはオーク肉がぎっしりと詰まっている。俺じゃとても持てない重さだ。
「す、すみません。今日の依頼の報告に来ました」
「えっ、あっ、はい。えーと、本日登録なされた大倉様とファニャ様ですね? そのお荷物は……」
「少し調子に乗って狩り過ぎてしまいまして。今日受けた依頼の討伐証明のドロップアイテムの確認をお願いします」
冒険者協会に入り、討伐証明確認をする受付で牙を見せる。
ゴブリン90体とオーク20体分の牙だ。
確認する受付の人はその量を見て顔を青ざめている。少し多過ぎたか?
奥に持っていかれ、確認を終え6回分のゴブリン討伐と、4回分のオーク討伐の報酬7万Gを受け取る。ついでにFランクにも昇格できた。
「こ、これは、ブラックオークの牙!? しかも5本も……。オーク肉もこんなに……ああ、堅木の棍棒まである。アンタ達凄いな」
冒険者協会を出て、次に雑貨屋へと向かい買い取りをしてもらっている。ドロップアイテムを見たおやっさんは、興奮したように次々とアイテムを漁っていく。
「ブラックオークってそんなに強いんですか?」
「おまっ、強いも何もこいつは討伐ランクDだぞ。Dランクの冒険者でもパーティを組んで役割分担しないと倒せないんだ。アンタ達ひょっとして凄腕の冒険者だったのか?」
「いえ、たまたまですよ……」
それ隣にいる女騎士が一人で瞬殺したんですよ……。
あの魔物そんなに強い奴だったのか。
やはりこの世界の基準と俺達のステータスはかなり違う可能性が出てきた。俺ですらもしかしたら強いのかもしれない。
出来ればステータスとして具体的に見たいところだがその手段はなさそうだ。
基本GCのバフは素の攻撃力+武器とその効果。最後にバフが加算される計算式だ。
ノールは4000超えてそこから40%のバフだから合計約6000程度か?
それにスキル使ったら1万超えか。もう一人でドラゴンぐらい倒せちまうんじゃないかね。
ブラックオーク肉1つ残して売却し、買取金額は11万2000Gとなった。
本日の合計は18万2000Gの稼ぎだ。こりゃ一気に余裕できたぞ。
無地の服を追加で2着ずつ4着と大きな袋をもう1つ購入し、今日は宿へと戻ることにした。
「すみません。今日も宿泊したいのですが大丈夫でしょうか?」
「あっ、はい。大丈夫ですよ」
「それと1つお願いがあるのですがよろしいですか? 今日の夕食にこの肉を調理してもらいたいのですが……」
「こ、これブラックオークの肉ですか!?」
宿屋に入ると昨日の女性が出迎えてくれた。またカウンターで紙に書き込み宿を取る。
そのついでに夕食に、黒オーク肉を使ってもらえないかと聞いてみることにした。
雑貨屋に売らず残した黒オーク肉を取り出すと、女性は驚いている。そんなに珍しいのかなこれ。
「あっ、はい。余った分は差し上げますのでお願いできないでしょうか?」
余った分をあげると言うと、女性は嬉しそうな顔をして任せてくださいと奥へと肉を運んでいった。
さて、飯ができるまでに風呂でも入るとするかね。
●
「ん~、美味しいでありますな~」
「うーむ、納得はいかんが確かに美味いな……」
魔物の肉なんて不安だな。そんな風に思っていた時期がありました。美味いわ。
ステーキ風に焼かれた黒オーク肉は美味かった。
あの見た目からは想像できなかったが豚も同じようなもんかと……。
「ところで一つお願いがあるんだが、この台詞言ってくれないか? 可能な限り悔しそうな声で言ってもらいたい」
「えっーと……くっ、殺せ! ……なんでありますかこれ?」
女騎士とオーク。この組み合わせならこれは聞かずにはいられないな。
今は女騎士がオークを食っている側なのだがね。
●ノール・ファニャ
レベル 7
HP 1580
MP 140
攻撃力 360
防御力 270
敏捷 64
魔法耐性 30
コスト 15
●【団長】大倉平八
レベル6
HP720
MP 70
攻撃力 230
防御力 170
敏捷 29
魔法耐性 10