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ハウス・エクステンション

「ふぅ、なんだか拍子抜けするぐらい簡単に家が手に入ったな」


「王都に比べるとだいぶ安かったのでありますね」


 ブルンネに到着してから翌日、不動産屋へと行き家を買うことができた。そして今、目の前には購入した家が。

 大きさは具体的に何坪かわからないが、普通の大きさの家だ。平屋で部屋は2つ、キッチン、風呂場、その他にも物置やトイレなどがあり、そして居間もある。

 1人なら十分なのだが、このままだと4人で生活するのは厳しいと思う。

 冒険者協会からもそんなに遠くない場所で、お値段700万Gとかなり安かった。大通りに面した場所じゃなくて隅っこの方だが、場所としてはそれほど悪くないだろう。

 ハウス・エクステンションの試し用なので、最悪住むことはできなくてもいい……可能ならこのまま住みたいけどね。


「やっと持ち家が手に入ったかと思ったけど、このままじゃ住めそうにないわね」


「この街で活動する為の拠点ぐらいにはなりそうです」


 それでも一応石造でかなり立派に見えるのだが、家の周辺の雑草などはかなり伸びており壁にまで草などが張り付いている。

 窓なども若干汚れているので掃除しないと駄目そうだ。

 全員個室は無理かもしれないが、現状でもなんとか生活することはできると思う。


「さてと……うっ、やっぱり埃溜まってるな」


「下見の時も凄かったのであります」


 中に入ってみると、扉を開けたせいで家の中の埃が舞う。一応購入する前に下見に来たのだが、その際も扉を開けた時に埃が舞って酷かった。

 ここに住んでいた人がいなくなってから、かなり放置されていたみたいだ。そのまま進んでみると、床には靴の跡が残る。そのぐらいには埃が積もっていた。

 できれば掃除しておいてほしかったな……。


「とりあえず掃除かしら? 埃なんて風魔法で一瞬で――」


「待て待て待て!? やるなら窓全部開けてからにしてくれ! それと威力は抑えろよ!」


「むー、私が考えなしに魔法使うとでも思ったのお兄さん? 失礼しちゃうわ」


 エステルがさっそくと杖を構えて魔法を使おうとしたので止めた。

 すると口を尖らせてぶーぶーと文句を言われたが、今すぐにでも始めるかのように杖を構えれば誰だって同じ反応すると思うぞ。

 というか絶対やろうとしただろ。いつもの調子で魔法を使われたら、家が吹き飛んじまう。


「まずは掃除に……ベッドなどの生活用品も必要でしょうか?」


「あー、そうだな。住めるかわからないが、カーテンや食器や……考えてみたら揃えなきゃならんの大量だな」


 家具などは全くないので、住むのなら色々と買ってこないといけない。

 ハウス・エクステンションでどのぐらい拡張できるのかもわからないし、買いに行くならそれの後かな。


「まだどうなるのかわからんし、まずは掃除してから決めるか」


 なので今は掃除を優先することにしよう。この汚いままじゃ拡張した所まで汚れてしまいそうだしな。

 モフットには掃除中ペット小屋に入ってもらい、さっそく掃除を始めることにした。



「イヤァァー!」


 急に家の中で叫び声が響いた。それと同時にドンッ、と重い音がして家が揺れる。


「な、なんだ!?」


「今のはエステルの悲鳴なのでありますよ!」


 エステルにはシスハと一緒に物置の掃除を任せていたはずだ。彼女がこんな悲鳴を上げるなんて珍しい。

 居間の方の掃除をしていた俺とノールは顔を見合わせて、悲鳴のした物置の方へ向かった。


「おふっ、どうし――」


「お兄さん……あれが……あれが出たの! 黒くて、速い飛ぶ奴が……」


「とりあえず落ち着けって」


 到着すると、物置の扉の前にいたエステルが俺に抱き付いてきた。そのまま上目遣いで俺を見ている。頬が赤く若干涙目だ。

 今は鎧を着ていないので、直に感触がしてドキッとしたがまずは落ち着かせることにした。

 あれってなんだ? これほど怯えるなんて一体……黒くて速い……ゴキブリか? まさかこの世界にもゴキブリが? 

 俺は見ていないからなんとも言えないが、たぶん同じような何かがいたのだろう。魔物でもバンバン倒していくエステルがこう怯えているなんて。

 しかし悲鳴の原因はわかったけど、それと一緒に聞こえたあの音はなんだったんだ? 彼女が魔法で吹き飛ばしたのなら、この辺が全て吹き飛んでいてもおかしくないがその様子もない。

 とりあえず怯えるエステルをノールに預けて、俺は物置の中を見ることにした。


「か、壁が壊れてる!? 一体何があったんだ!?」


 物置の中を見てみるとそこにはシスハがいた。物置はそれなりに広く、2畳分ぐらいのスペースがある。

 奥の方にはサッカーボール程の大きさの穴が空いていた。中にいた彼女は何故かヴィーティングを握っている……あれでその黒い生物ごと粉砕しやがったのか。


「いやー、私もびっくりしましたよ。驚いて思わず叩き潰してしまいました」


「石の壁ごと破壊する奴がいたことに俺は驚いてるよ……」


 まさか買って即行破壊されるなんて思ってもいなかった。というか驚いて叩き潰すのはいいけど、壁を破壊する勢いで攻撃するなよ……。

 どうしようこれ。そんな虫みたいなのがいたらここから入ってくるだろうし、何かで塞がなきゃ……ハウス・エクステンションで直らないかな。


「あぁ、ゴキブンでありますか。あれなら掴んで外にポイすればいいのでありますのに」


「えっ」


「あれ? どうかしたでありますか?」


 物置から出るとノールが納得したように頷いていた。どうやら例の生物はゴキブンという名前みたいだ。

 掴んで捨てればいいと彼女が言うと、エステルとシスハが後退りながらノールから離れていく。

 俺もゴキブリを掴めなんて言われたら手袋しても嫌だな……どんな生物だったのかちょっと気になるな。



「うへー……家の掃除って大変なんだな……」


「なんだか戦うよりも疲れたのでありますよ……」


 開始から数時間、やっと家の中の埃がなくなった。大まかな部分はエステルの魔法で済んだのだが、細かい部分も拭いたりしていたらかなり時間がかかった。

 狭い家でこれなら、広い家買ったらどうなるんだか。今度は専門の掃除屋にでも任せようかな……いるのかわからないけど。


「はぁ、ただの掃除だったのにゴキブン見るなんて最悪だわ」


「気持ち悪かったです……」


 ゴキブンに遭遇した彼女達は精神的にだいぶ参っているみたいだ。俺もゴキブリと遭遇した時は大騒ぎするし、気持ちはわかる。


「さっさとやらないと今日も宿に行くことになりそうだし、さっそく使ってみるか」


「おぉ、ようやく使えるのでありますね。待ち遠しかったのでありますよ」


 なんだか疲れで暗い雰囲気になってきたが、気を取り直してハウス・エクステンションを使うことにした。

 スマホを操作して、アイテム欄で選択をする。【現在いる建物に使用いたしますか? Yes、No】と表示されたのでYesを選択。

 すると画面が切り替わって、今俺達がいる家の間取り図のようなものが地図アプリのように表示された。等間隔で線が引かれていて方眼用紙のようだ。

 図の右側には拡張、修復、消去、変換と項目があり、右上には0ポイントと表示されている。 


「……ん? どうするんだこれ?」


「家の大きさを超えて指定もできるみたいね。それをしたら外にできるのかしら?」


「うーん? わからないし変換して試してみるか」


 間取り図を飛び越えた部分も選択できるようになっていて、押すとその正方形の部分が違う色に変わった。これで選択ということか。

 ポイントがないと始まらないので、まずは変換という項目を押してみた。そしたら今度はアイテム欄が表示され、変換するアイテムを選べと書いてある。

 レートも下に書かれていて、Rが10、SRが100、SSRが2500、URが1万。

 

「は? Rが10でSRが100だと!?」


「随分とポイントが低いんですね」


 おいおい、これはちょっときついんじゃないか。俺達の主装備はSRが中心だ。変換に使えるのがだいぶ限られるぞ……。

 しかし拡張するのにどれぐらい必要なのかわかっていない。がっかりするには早いな。

 なので今度は拡張の項目を押して中を見てみた。

 表示されたのは、【通路】1マス100P、【部屋】1000P、【キッチン】3000P、【トイレ】3000P、【風呂】5000P……などなど他にも物置や書斎とかもある。


「ははは……マジか。ポイント全然足りねぇ……」


「これはもっとガチャをしろっていうことなのでありますかね……」


 全く足りない。部屋ですら1000P……SR10個生贄にしないと作れないとか酷すぎる。風呂が5000PとかSSR2つ分かよ。

 今必要なのはとりあえず部屋だ。俺の鎧系を変換すれば2つぐらい……駄目だ。家を優先するなんて馬鹿げている。まずはいらない装備を変換してから考えよう。


 それからしばらくアイテム欄と睨めっこし、彼女達とも相談してなんとか1100P分の変換候補を選ぶことができた。

 エステルとシスハがいるので杖系のSRは変換対象となった。それとゴージャスシューズなどの見た目重視の防具も変換。オートガードスフィアや指輪系は便利なので変換するなんてとんでもない。

 エクリプスソードなども入れ、Rの装備も変換してなんとか1100P抽出することができた。Rの武器ガンツさんに売らなきゃよかった……。


「とりあえずどうなるのか確認しておくか」


 準備ができたのでさっそく拡張機能を使い、通路を増やすことにした。まずは通路でどうなるか試して、それから部屋を拡張するからだ。

 近隣の家とは多少距離があるので、ちょっと増やす程度なら問題ない。だけどこれでいきなり外に拡張した分だけ飛び出したら、後々厄介だ。

 なのでまずは通路だけこの家にくっ付く形で外に選択してみた。するとスマホから光が飛び出し、選択した部分の壁に向かっていく。光が集まり長細いような形になると、その部分に扉が出現した。


「うおっ!? と、扉ができたぞ?」


「どれどれ……廊下ができているのでありますよ! ちょっと外も見てくるのであります」


 ノールが1番に近づいて扉を開いてみると、1畳程の広さの空間がそこにはあった。両壁と天井は白く、床はフローリング。天井には照明が埋め込まれていて明るい。

 なんだか色々とふざけているが、その部分だけ俺の世界にある家の廊下のようだ。

 その空間が作られた部分を、彼女は確認する為に外へと走っていった。


「大倉殿ー、壁に広がった場所の変化はないのでありますよ」


「へ? じゃあここどうなってるんだ?」


 この家の範囲を超えた部分に作ったので、普通ならその部分の壁が飛び出しているはずだ。

 しかしそんな部分はないという。俺も嘘だろと思って見てきたのだが、確かに飛び出した部分はない。

 どういうことなんだ?


「異次元空間になっているんじゃないの?」


「家の大きさはそのままで、内部の空間が広がるなんて便利ですね」


 異次元空間だと……それはそれで怖いのだが。でもこれで狭い家でも問題ないし、外からバレることもなく近隣にも迷惑がかからない。

 これなら王都で家を買うべきだったかもしれない。そう思うとなんだか悔しい気がしてきたのだが、試さなきゃわからなかったし嘆いてもしかたない。

 とりあえず今はここを拠点にして、快適な家を作っていくか。その為にはさらにガチャを回さなければいけないけど……先が長すぎるな。

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