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大討伐の終り

 エステルの爆撃により、かなりの数のハイコボルトを倒すことができた。

 それでもまだコボルト達は倒しきれず、彼女の攻撃が薄い部分から徐々に広がりながら向かってきている。

 正面からの進行が激しいせいでそこに火力を集中させているのと、固まっていると爆撃の被害が大きくなると理解したのか散らばり始め、攻撃による効果がなくなってきた。

 

 側面からの進行に対応する為、俺が右側、ノールには左側に向かってもらった。

 ディウスにはそれまで彼女達を守ってもらい、数が減ってたら一緒に戦ってもらおう。

 ノールと違い俺の方は絶対敵を討ち漏らすので、ガウスさんと彼に守ってもらえば安心できる。シスハもいるから万が一はないだろうけど……回復に集中してもらいたい。

 今までは彼女達が近くにいたおかげでミスしてもカバーしてもらえたが、俺1人で複数相手にしても平気なのか不安だ。


「くっそ、数多過ぎだろ!」


 向かってくる集団を迎撃する為に俺は走っていた。前方にはコボルト達が無数にいる。まるで黒い壁だ。

 バールを振り風属性攻撃による不可視の風の刃で先頭集団を数匹倒す。

 そして集団と接触すると、すぐに飲み込まれあっちこっちから鎧に槍が当たりカンカン音がする。そして若干痛い。

 その間にもバールを振ってハイコボルトを倒していくが、目の前のコボルトは全く減らない。

 なんなんだよこの量は……装備一新してて本当によかった。

 

「うおっ!? な、なんだ」

 

 戦っている最中、突然光が俺の所に集まり体に吸収されていく。

 すると全身の痛みが和らぎ、体が楽になった。シスハかスミカちゃんの回復魔法か、ありがたい。

 

 ちらほら紛れているティラノスコボルトが血走った目で腕に噛み付いてきたり、斧が鎧に当たり体がグラつく。

 たまにエステルからの爆撃が飛んでくるのか近くで爆音がする。

 いつもどおりなら、今頃お家帰りたいって願っていたかもしれない。獅子の心のおかげでなんとか心が乱れずに済んでいるのか。


「はぁ、はぁ、いってぇ……」


「大丈夫でありますか大倉殿?」


「あぁ、ありがとう」


 左の方の処理を終えたのか、ノールも途中からこっちに来て一旦戦闘が終わった。

 マジで疲れた……心配そうな声をかけてくれてちょっとウルッとしそう。

 外傷はないのだが、集団に巻き込まれて全身を猛攻撃されたせいでなんだか体が痛い。

 向かってくるコボルトがいなくなったので、俺とノールは1度ディウス達の所へ戻ることにした。


「すまん、後ろにかなり行かせちまっただろ?」


「あ、あぁ……シスハさんも倒してくれたから問題なかったよ」


「おい……」


「えっ、あっ、違いますよ! 来ちゃったんですから仕方ないんです! 不可抗力なんです! それに回復だってちゃんとやっていましたよ!」


 後ろに行かせてしまったのは俺だが、こいつやりやがったな……。

 俺がジロリとシスハの方を見ると、違う違うと手を胸の前で振り言い訳をしている。何が違うのだろうか。

 まあちゃんと回復はしてくれていたのでいいんだけどさ。


「そ、それより第1陣は倒せた感じかな?」


「んー、そうだね。エステルちゃんのおかげでかなり減らせたみたいね」

 

 ディウスの言葉に、ミグルちゃんが頷き同意している。

 この戦闘でコボルトの大半を倒すことができたようだが、まだ100体近くが草原の奥の方で待機していた。

 先頭には普通のより赤いティラノスコボルトがズラリと綺麗にならんでいる。

 あれが核の魔物がいる集団なのかな?


「次の奴らは突っ込んでこないんだな」


「前にいたのは寄せ集めだったんだろうね。次のは本隊だと思う。前にいるのがティラノスコボルトの亜種だ。いつもはあれが核だったはずなのに前にいるということは、間違いなく別の魔物が核になっているみたいだ」


 ふむ、普段ならあれが核の魔物なのか。そこそこ強そうだし見ておこう。


 ――――――

●レッドティラノスコボルト 種族:コボルト

 レベル:45

 HP:3万5000

 MP:0

 攻撃力:800

 防御力:150

 敏捷:160

 魔法耐性:0

 固有能力 無し

 スキル 狂化

―――――― 


 うっ、確かにちょっと強いかも……。

 1体だけならそれほどでもないけど、先頭にいるのだけでも20体ぐらいはいるか?

 エステルにスキルを使ってもらって一気に殲滅させるか……? 

 いや、それやってエステルが戦闘不能になったら何かあったら対処できなくなるな。

 普通に攻撃してもらいながら、なんとか倒すしかないか。

 

「エステル、MPは大丈夫か? 随分と派手にやっていただろう」


「えぇ、ポーションもあるし、それにこれがあるもの。まだまだいけるわ」


 銀色の玉が付いた腕輪、月の雫を一撫して笑顔でまだまだ大丈夫だと言う。

 MPを回復させるポーションの大半をエステルとシスハに渡してある。

 なのでMP切れの心配はないとは思うが……予想以上に彼女達は頼もしいみたいだ。疲れてるの俺だけなんじゃないか?


「ノールは……全然平気そうだな」


「私としてはむしろ大倉殿が心配なのでありますが。本当はもう少し近くにいてあげたいのでありますよ」


「心配してくれるのは嬉しいけど、俺は大丈夫だ」


「むぅ……ホント気を付けるのでありますよ?」


 さっきの戦いを見ていたのか、かなり心配そうな声をしている。

 正直に言えば一緒にいてほしいけど、こんな状況じゃそんなことも言ってられない。


 回復も済み体勢を立て直し、全員で最後の集団を相手にする為に前に進む。

 無数にコボルトのドロップアイテムである牙と槍、斧が散らばっている。クレーターがあっちこちにあり、進むのが少しめんどくさい。

 ディウス達は草原だった場所を見て、これどうすんだよ……と言いたそうに眉をひそめているがもうなるようになるしかない。


「それじゃあいくわよ、えいっ!」


 ある程度進み、支援魔法を全員に再度かけてもらった。そして最後の集団に向かい、エステルが攻撃を開始する。

 集団の先頭に向かって、先ほど使った大きな岩を撃ち出す。

 そのまま直撃するかと思ったのだが、レッドティラノスコボルトが数匹で岩を受け止めた。しかしその瞬間岩が爆発し、周りに岩を飛び散らせながら被害を拡大していく。

 ……受け止めても駄目とか酷くない? エステルが仲間で本当に良かったと思う。


 岩で先頭を崩した後に、追撃で次々と火の玉が飛んでいく。

 それでもHPが高いので、倒しきれずに向かってくる赤いコボルト達が迫ってきた。

 既に狂化しているのか、顔には筋が浮かび上がり涎を撒き散らしながら走っている。


「っ!? やばっ」


 赤いコボルトを先頭にし、魔法からの攻撃を耐え進んでくる集団。

 俺とノールも迎え撃とうと前に出たのだが、突然エステルの魔法攻撃がこなくなった。

 後ろを振り向いてみると、後方からはぐれ集団が戻ってきているのが見える。その対応をする為、彼女が別方向へと攻撃を始めたようだ。

 

 前を向き、走ってくる赤いコボルトにバールを突き刺すとすぐに倒れた。既にエステルの爆撃で全体的にHPが減っていたみたいだ。

 ノールも少し離れた所で戦っており、俺なんて比べ物にならない速さで倒していくのが見える。

 これなら支援攻撃がなくてもいけそうだ。そう思いひたすらコボルト達を倒していくと、ようやく集団の一番奥が見えてきた。

 一番奥にいたのは、数体のコボルトが椅子のような物を担ぎ、その上に座っている2mぐらいある筋肉ムキムキマッチョのコボルト。裸のまま赤いマントを付け、頭には金の冠を被っている。


 コボルトだから許されるが、人間だったら間違いなく事案になる姿。あんな変態的な格好をするなんて何を考えているんだ。

 周囲にいたコボルトと戦いながらも、奥にいるコボルトロードがどう動くのか気になり、可能な限り視界に入れながらコボルト達を倒していく。

 ステータスは乱戦過ぎて見る余裕がない。


 俺がそろそろ周囲のコボルトを倒し終える頃、奴は椅子から立ち上がった。

 周りにいたコボルトから金色に輝く槍を受け取ると、槍を肩程の高さまで上げて構え、俺目掛けて投げ飛ばす。


「うおっ――ぶらぁ!?」


 投擲された槍は、光を纏いながらもの凄い速度で俺に飛んできた。

 鍋の蓋で防ごうと思ったが、急過ぎる攻撃に間に合わず槍は俺の鎧に突き刺さる。

 それでも貫通はしなかったのだが、槍の勢いに負け俺は上に弾き飛ばされた。

 

 ……痛い、主に全身が痛い。あー、防具を新しくしておいて本当によかった。あんな速いの防げるわけないよ。

 なんか俺空飛んでるけど、これ落ちたら痛いよね? やだ、落ちたくない。


「大倉殿!」


「の、ノール……」


 どうしようかと必死に手足をじたばたさせていたのだが、急に浮遊感がなくなり腰と足を抱えられた感覚がした。

 何事かと声がした方を見てみると銀色の光を纏ったノールが視界に入る。どうやら俺は彼女にお姫様抱っこされているようだ。

 ……普通逆だよね。


「全く、だから心配だったのでありますよ!」


「あ、あぁ……助かった。ありがとう」


 地面にきちんと着地して、俺は地面に降ろされた。

 直後に光が俺の周りに集まり、体に吸収されていく。ちゃんとシスハ達は仕事をしてくれているようだ。

 ノールは俺を降ろした後一言だけ言い、すぐにコボルトロードの方へ走っていく。

 白銀のアウラを発動しているみたいなので、切れるまでに倒しきるつもりなんだな。

 

 彼女が一瞬でロードの所まで詰め寄ると、さっき投げた黄金の槍を横に振った。いつの間に回収したんだろう?

 5つの光の塊が奴の目の前に現れ、レッドティラノスコボルトへと変化する。

 しかし現れた赤いコボルトが動き出す前に、一瞬でノールの振るう剣で斬られてまた光の粒子に戻っていく。

 出てきて即退場って……なんかとんでもなく理不尽な光景を見た気がする。

 

 そしてついにロードとノールの戦いになったのだが……。

 周囲にいたコボルト達は彼女の攻撃の余波で近づいても即倒され、ロードも攻撃の速さに付いていけないのかどんどん切り刻まれていく。

 腕を切り落とされ、胴体には深い切り傷が無数にできる。いくらロードとはいえ、スキル発動中の彼女の相手ではなかったようだ。

 

 取り残された俺は、その様子を見ることしかできない。行ったところで邪魔だろうし、下手したら攻撃に巻き込まれる。今の彼女は動くだけで災害になっているレベルだ。

 とりあえず倒される前にステータスだけ見ておこう。

 

 ――――――

●コボルトロード 種族:コボルト

 レベル:60

 HP:15万

 MP:0

 攻撃力:2500

 防御力:1500

 敏捷:250

 魔法耐性:50

 固有能力 覇道

 スキル 王の裁き 眷属召喚

―――――― 


 さっきのコボルトを召喚したのはスキルか。俺を攻撃したのは王の裁きの方か。

 ステータスはそんなに高くはないみたいだ。ノールのスキル使用状態と比べたら、ああなるのも仕方ないか。

 

 俺がそうやってステータスを眺めていると、どうやら勝負がついたようだ。

 ロードはもう限界だったのか片膝をつき槍を地面に刺し倒れないように踏ん張っていた。そのロードの頭を、容赦なく白銀の刃が刎ね飛ばす。

 頭部を失った肉体は地面に倒れ、光の粒子へと変わっていく。後に残った物は金の冠と金の槍、そして赤いマントだ。

 ……このマント触るのちょっと嫌なんだけど。


「うぅ……スキルが切れた後は頼むのでありますよ大倉殿」


「任せておけって。それより早く戻ろう」


 倒し終えたノールが戻ってくる。まだ銀色の光を纏っているけど、これから効果が切れた時のことを考えているのかなんだかしょんぼりとしている。

 可能な限りはスキルを使わせる気がなかったのだが、俺の為に使ってもらったんだからその後の面倒はちゃんと見てあげないとな。

 それとはぐれ集団が戻ってきて後ろの方でも戦い始めたエステル達のことも心配だ。俺達は急いで彼女達の所へと戻ることにした。


「エステル! 大丈夫だったか!」


「えぇ、問題ないわよ。後ろからも敵が来て、ちょっと驚いたぐらいね」


 既に戦闘を終えていたみたいだ。ディウス達は疲れたのか全員座り込んで、顔を伏せている。

 

「あれ? シスハどこ行った?」


 なんとか無事終わったなーと思っていたのだが、シスハが1人だけ見当たらない。

 彼女の名前を俺が呟くと、ディウスとスミカちゃんがガバっと勢いよく顔を上げる。


「大倉、あの人一体なんなんだ。僕とガウスが対応できなくなってきたから、彼女にも戦ってもらったんだが……」


「なんなんですかあの人! 絶対神官じゃないですよ!」


 そう言い彼らは後ろの方を指差した。

 そこには数が少なくなったコボルト達がいて、それをめちゃくちゃに殴り飛ばすシスハの姿が。

 彼女に蹴り飛ばされ、ティラノスコボルトが空を舞うのが見える。

 彼らから見ても、やっぱり俺達のパーティの神官は異常だったらしい。

 

「あいつは……どうしようもないな」


「そうね、でもちゃんと回復の仕事はしていたわよ。怒らないであげて」


「あぁ、あの回復あいつだったのか。ちゃんと仕事してくれていたなら問題は――ん?」


 もはや恒例過ぎて呆れていたのだが、エステルが言うにはちゃんと仕事をしていたようだ。槍で吹っ飛ばされた後の回復は、彼女のおかげみたいなので感謝しておこう。

 そう言おうとする前に、ポケットの中でスマホがバイブレーションした。このタイミングでなんだ?

 ディウス達から見えないように取り出して確認してみると、画面に【大討伐達成報酬 ●魔石50個●SSRコストダウン】、[告知]【大討伐達成記念 アイテムガチャ開催】と表示されていた。

 


書籍化のお誘いをいただきました。詳しくは活動報告でお知らせいたします。

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