集団の本体
はぐれの集団を壊滅させ、さらに目的地へと向かい進んだ。その途中にはぐれ集団といくつか遭遇したりなどもした。
そして、ハイコボルトが生息すると言われていた草原に無事辿りついたのだが……。
「おい……これどうするんだ」
「どうするんだと言われてもね……」
目前にはもう数え切れないぐらいのハイコボルトがうじゃうじゃといた。
遠くから眺めているのだが、広く開いた草原がコボルトで埋まり緑が見えなくなる程だ。微妙に動いているので、全体が波打つようで気味が悪い。
はぐれ集団とは比べ物にならない量。100体どころか軽く数百体は超えているだろう。多分1000体は超えていないと思うが……わからん。
これのどこかに核の魔物とやらがいるのか?
「2パーティだけでこれと戦えって無茶よね」
「……この数の敵の攻撃を受けるなどなかなか体験できないな」
「ひ、引き返しますか?」
ディウスのパーティは皆これを見て完全に怖気付いている。ガウスさんはなんか興奮しているように聞こえるが……気のせいにしておこう。
俺もこれを見て正直無理だろって思ってしまった。今まで数千単位で魔物を倒してるとはいえ、一度にこの数は倒せる気がしない。
「むぅ、ここで引き返したらもっと増えるんじゃないのでありますか?」
「そうよね。お兄さん、この程度なら大丈夫なんじゃない?」
「これだけいるのなら、私の分も余りそうですね」
弱気になりつつあった俺とディウス達とは違い、こっちの女性陣は不安な様子が全くない。
ノールは顎に手を当てて考える風にし、結構真面目に考えているようだ。
エステルは杖と赤と黄色のグリモワールを取り出し抱き締め、体を動かしてウズウズとしている。仕草は可愛いのだが、やろうとしていることを考えると物騒としか思えない。
シスハはこの数を見て不安になるどころか、自分も戦えるんじゃないかと笑顔で嬉しそうだ。
この反応は女の子として良いのか? 俺のパーティで不安そうなの俺だけなの?
「問題はこれで集団の完成なのか、それとも不完全なのかだね。不完全ならノールさんの言うとおり、これからさらに増える可能性もあるね」
「これで不完全とかさすがに考えたくないかな……」
ディウスの言うことに、ミグルちゃんが嫌そうな顔をして呟いている。
引き返すのは簡単だが、もしこれで放置して戻った場合次来る時はどうなっているのか。
増援の冒険者を連れてきて戻ってきたとしても、コボルトが倍に増えていたらどうしようもない。
むしろノール達がやれそうだと言う今叩いた方がいいのか?
「それじゃあどうするんだ? 俺達だけでこいつらと戦うか?」
「……正直僕には判断できる範囲を超えちゃっているよ。できるなら大倉、あなたに決めてもらいたい。戦うのならあなた達に主な戦闘を任せるしかなさそうだからね」
彼の判断どおり、戦うなら間違いなく俺達主体になるだろう。
この敵なら俺とノールは致命的なダメージを食らうことはないはずだ。
倒すのに2、3回攻撃をしなければならないディウスでは、前衛をしても数で押し潰されてしまうだろう。
それにこの数を倒すならエステルの広範囲攻撃は必須。敵に狙われるとしたら間違いなく俺達の方になる。
「どうする?」
俺1人でも判断できる事じゃないので、彼女達の反応を見て決めることにした。
「私はこのぐらいなら倒せる自信はあるのでありますよ」
「いざとなったら逃げればいいんだし、ここである程度減らしておいてもいいんじゃないかしら?」
「私はお任せいたします~」
ノールは剣を鞘から抜いて完全にやる気だ。本当に自信があるという雰囲気が漂っている。
あれ……なんだかノールが凄いイケメンに思えてきた。こんなに凛々しかったっけ?
エステルは逃げればいいと言うがどうだろうか。もし追いかけてきたとしたら……最悪ビーコンを使って全員逃げるという手もある。
あまり知られたくはないが、その場合は彼女の魔法ということにするか。大魔法だから滅多に使えないとでも言って誤魔化そう。
シスハは戦えそうだからかルンルン気分なのか緩い声で返事をした。こいつ本当に大丈夫なのか。
彼女達はこんなにも頼もしいのに、俺が弱気になっていちゃ情けないか……ここは俺も勇気を出してやってみよう。
「よし、それじゃあ戦うか。最初はエステルに爆撃してもらって、敵の先陣がこっちにきたら俺とノールが前に出る。ディウスは戦闘が安定するまではエステル達を守ってやってくれ。シスハは回復しつつ退路の方を注意してくれたら助かる」
どうせここで逃げても再度討伐に行ってくれって言われるだろうし、倒せる可能性が高いうちにやってしまうことにした。
接触するまで可能な限り数を減らし、ノールと俺で前に出つつ殲滅する。もし途中核の魔物がいるのなら倒してしまおう。
そいつさえ倒せばこれから増えることもないし、集団も崩れるだろうしな。
シスハには退路を確保してもらい、もし数で俺達が押し潰されそうになった場合逃げられるようにしておく。ビーコンは本当に最後の手段だ。
「ふふ、久しぶりの全力だわ。私張り切っちゃうんだから」
作戦も決まったので、さっそく戦闘の始まりだ。
開戦の合図はエステルの爆撃。背丈よりも高い杖を掲げ、赤い本と黄色い本を取り出す。本は魔法の力なのか2つとも彼女の目の前に浮かぶ。
空にはいくつもの魔法陣が描かれ、人よりも大きな灼熱の火の玉が無数に現れる。小さな太陽のようだ。
彼女が掲げた杖を振り下ろすと、火の玉が次々とコボルトの集団に向かい降り注ぎ爆発していく。
着弾地点からは爆炎と土煙が同時に上がり、ハイコボルト達が空に投げ出され光の粒子になるのが見える。
微妙に生き残ったティラノスコボルトがちらほらといて、爆発で吹き飛ばされた後に立ち上がろうと両手を地面に当てて頑張っている。
そこにさらに次々と降り注ぐ火の玉。頑張っていた彼らは、爆炎に飲み込まれその姿を消した。
次に地面が盛り上がり始めて、岩石が集まり始めた。岩石が火の玉と同じような大きさになると、岩の一部が爆発しコボルトの方に向かい飛んでいく。
直線状にいたコボルト達をひき潰しながら、ある程度の地点まで進んだ後に爆音と共に破裂する。遠くの方から煙が上がっているのが見えた。
まさか火の魔法と土の魔法を組み合わせたのか? 発想がエグいだろ……。
もはやこれは戦いではなく蹂躙と呼ぶべきなのではないだろうか。
「……もう驚くのも疲れたよ」
「エステルちゃん、凄い、凄すぎるよ!」
「なんなんですかこれ……もう帰りたいです……」
その光景を目の当たりにしたディウスは、目を見開き口を開けて唖然としていた。
こんな光景など見た事がないのだろう。フロッグマンの時と同じような地獄絵図。
ディウスは両目を手で押さえてなんなのこれという反応をしている。ミグルちゃんは胸の前で両手を握りしめ、キラキラした眼差しを向けているがこれは間違った反応だ。
ガウスさんは特に反応はなく、スミカちゃんは爆発音が響くたびに体を震わせて怯えている。
着弾地点は地面が抉れ、もはや草原の面影がない。ここで戦争があったと言われても納得できるぐらいに酷い。
クレーターがあっちこっちにでき、ようやく爆発から逃れ生き残ったコボルト達が走ってくるが前方にあるクレーターに何匹も落ちていく。
それを逃さないようにそこ目掛けさらに火の玉が飛来し、中で爆発してまとめてこの世から消し去る。
穴がさらに深くなり、そこにまたコボルトが貯まり火の玉がまた飛んでいく繰り返しだ。
めちゃくちゃに撃っているように見えて、冷静に状況を見ているエステルは頼もしいようで恐ろしい。
魔法を撃つ彼女を見てみると、頬を赤く染めなんだか妖艶な雰囲気になっていた。
そんなに魔法を撃てることが嬉しいのか……。




