レムリ山
「ここが狩場か」
「なんだか殺風景な場所ね」
目の前に広がるのは、木が生い茂る緑の山ではなく岩肌が露出した山だった。
巨大な岩石なども所々に転がっており、登っている最中に転がってきたら洒落にならなそうだ。
そんな場所をゴツゴツした硬そうな青い皮膚の魔物が歩いている。
「あれがここの魔物でありますか。今までのと違って、なんだか迫力のある顔でありますな」
「確かに人型サイズにしては頑丈そうですね。殴ったら良い手応えかもしれません」
想像したとおりのトカゲのような顔。肌はとても硬そうで、棘のように尖っている部分もある。
ワシ戦士達のようにうじゃうじゃと徘徊している訳ではなく、岩山に剣を持ったリザードマンが数体歩いている程度だ。
いる場所が離れすぎていて、このままだと範囲狩りには向いてなさそうだな。とりあえずステータスだけでも確認しておこう。
――――――
●種族:リザードマン
レベル:50
HP:1万8000
MP:0
攻撃力:600
防御力:800
敏捷:150
魔法耐性:40
固有能力 無し
スキル 咆哮
――――――
レベルが随分と高いようだ。俺達が今平均して50レベル程だから、レベルを上げるのならそこそこ良い相手か。
ステータスを見た感じワシ戦士より若干強いって程度だな。
「うーん……これはいつものパターンで狩りをすれば平気か? エステル、魔法で――」
「待つのであります」
「どうかしたか?」
さっそくエステルに魔法で攻撃してもらおうと思ったのだが、その前にノールが待ったをかける。
「ここまで数が少ないのはおかしいのであります。岩山で視認しづらいでありますし、隠れた部分から追加で出てくるかもしれないのでありますよ」
「そうね、今までの狩場と比べるとちょっと不自然ね。魔法を不用意に撃つのも止めた方がいいかしら」
確かに言われてみると、狩場なのに数体しかいないのはおかしいな。
大岩や地形がデコボコしている死角になっている部分もある。
もしかしたらそういう場所にまだ潜んでいるかもしれない。
「試しに孤立している奴を釣って倒すか。この魔物ならノールが攻撃役で大丈夫か?」
「シスハも戦えるでありますし、大倉殿が2人を守りながら足りない部分はシスハに任せれば大丈夫だと思うのでありますよ」
今回はノールを攻撃役として一番前に出し、俺が中間、そしてエステル達が一番後ろだ。
ノールがやばくなったら俺の所まで来てもらい、エステル達に魔物が向かいそうになったら俺が防ぐ。
シスハがいるので大丈夫だとは思うが、念の為に守るのを優先だ。1体程度だったらノール1人で余裕だろうけどな。
「ノールさん、頑張ってくださいね」
「それじゃあいくわよ、えいっ!」
シスハとエステルにそれぞれ支援魔法をかけてもらい、その後魔法による攻撃を他のリザードマンから離れている個体にしてもらった。
魔物に火の玉が着弾し少しよろけると、俺達の存在に気が付きこっちを見ながら雄叫びを上げた。
するとそのリザードマンの周辺に岩影から、次々と何かが飛び出てくる。
「な、なんだ!?」
「やっぱり一気に出てきたでありますな。私が前に出て敵を受け持つので、エステルは支援をお願いするのであります」
「えぇ、任せて」
出てきたのは同じリザードマンで、最初にいたのを含めて8体のリザードマンがこっちに向かって走ってくる。
剣、斧、槍、弓とそれぞれ違う武器を持ち、まるでパーティのようだ。
それを迎撃する為にノールが走り出して向かっていく。
リザードマンがこっちに向かってくる途中、2体がその集団から抜け出して弓を構え矢を放つ。
飛んできた矢を彼女は剣で弾き、走る勢いを落とさないまま集団と接触した。
最初に交差した剣を持つリザードマンが彼女に斬りかかるが回避され、お返しにと腕を斬り飛ばされる。
次に斧を持ったリザードマンがノールの背後で斧を振り上げたのだが、振り下ろす前に振り向き様に斧ごと両腕を切断された。
そのリザードマンの腹の部分から今度は槍が飛び出す。
役に立たないと判断されたのか、背中から槍を持ったリザードマンが突き刺したみたいだ。
そんな予想外の攻撃も、彼女は盾で弾いて腹を貫かれた個体とまとめて蹴り飛ばす。
その辺りでエステルから魔法による支援攻撃が飛ばされ、ノールに攻撃された3体は動けずに火の玉に飲み込まれた。
「シスハも凄いけど、ノールってやっぱり凄いな……」
「生粋の近接職ですからね。はぁ、素敵ですねノールさん……1度心ゆくまで語り合いたいです」
あんな複数からの攻撃、俺じゃ対処できないな。
接触してすぐにリザードマンが彼女を囲むようにして混戦状態になっていたが、まるで分かっていたかのように攻撃を回避していた。
それにあの槍の攻撃完全に死角だったはずなのに、防げるなんて見てから反応したのか?
その様子を見ていたシスハがなんだかうっとりとして呟いている。
語り合いたいって言葉なのか肉体でなのか……。目をつけられてしまったみたいだが、頑張ってくれノール。
「ふぅ、1体1体はそう強くはないでありますな。大倉殿にはまだ早いかもしれないのでありますけど」
「そもそもあれ、前衛が1人で戦う魔物じゃないだろ……」
他の個体も次々と倒し、残った弓を使うリザードマンも倒した。
弓を使うのは前衛の個体が全滅してしまったら、もう逃げるだけだったので楽だったな。
ほぼノールが倒してしまったので、俺とシスハは何もしていない。
せいぜい飛んできた矢を弾いてエステルを守ったぐらいだ。
落としたドロップアイテムは、リザードマンの皮とそれぞれが持っていた武器だった。
「1グループに近接が6体、弓が2体って感じなのかしらね?」
「見回りしているリザードマンには不用意に攻撃しない方がいいかもしれないですね」
それから複数体戦ったのだが、どうやら最初にいる1体だけのリザードマンは見回り役のようだ。
あのリザードマンを攻撃すると、スキルの咆哮を使い近くで待機している仲間を呼び出すらしい。
どの集団も近接攻撃をしてくるのは6体、遠距離から矢を飛ばしてくるのが2体だ。
「うーん、魔石集めはここじゃあまり向かないか……」
「ガチャ次第でホントやる気が変わるのね。そんなあからさまにやる気なくしちゃ駄目じゃない」
やはり瞬殺できる北の洞窟に比べると、こっちは少々厄介だな。
希少種を湧かせる為の狩り効率があまりよろしくない。
その代わりに魔物のレベルは高いので、経験値的にはいいのかもしれないが……ちょっとやる気がなくなってしまう。
とりあえず希少種だけでも狩っておくかと岩山を眺めていると、ひょこっと黒い色をしたリザードマンが飛び出してきた。
「ん? なんか出てきたぞ……ゲッ!?」
「これはちょっと不味いかもしれませんね」
あれが希少種かと見ていたのだが、1体だけじゃなくて次々と出てきて全部で8体の黒いリザードマンが出てきた。
今までと違い1体じゃなく、まさかの8体同時だと……ステータスを見なくちゃ。
――――――
●ケプール 種族:リザードマン
レベル:60
HP:5万5000
MP:0
攻撃力:1800
防御力:2000
敏捷:240
魔法耐性:60
固有能力 統制
スキル 咆哮
――――――
うげぇ……固有能力とスキル両方持ちかよ。
それにこれを8体同時に相手にするのは危険か?
「大倉殿、スキルを使ってみてもいいでありますか?」
「えっ……」
負けはしないだろうけど、ちょっと骨が折れそうだしどうしようかな……と考えていたらノールがスキルを使ってみたいと言い出した。
新しくなったスキルを使ってみたいのか、ちょっとワクワクしている雰囲気がする。
うーむ、このまま戦うとかなり厳しそうだし彼女のスキルがどうなったかもみてみたいな。
「いいけど倒し終わったらすぐに帰ってこい。また倒れたりしたらやばいからな」
「了解なのでありますよ!」
効果が切れる前に戻ってくることを条件に、ノールがスキルを使うことを許可した。
嬉しそうな声を出し、さっそくスキルを使ったのか銀色の光が彼女を包み込む。
そして動き出すと、一瞬でケプールとの間合いを詰めて剣を振るっていた。
あまりの速さに、俺とエステルとシスハが思わず、えっ? って声が出るほどだ。
彼女が接近したことに気が付くことなく、攻撃された最初のケプールはこの世から消えた。
その攻撃の余波で、剣を振った延長線上にいたリザードマンの体が粉々に吹き飛んでいる。
どうやら剣先から衝撃波でも出ているのか、岩山の一部が今の攻撃で崩壊した。
「うっわぁ……マジか」
「スキルを使うところ初めてみたけど……凄いわね」
「強化されたっていうのもありますが、ここまで圧倒的になるんですね」
さすがに仲間を倒されたことで気がついたのか、残りのケプールが彼女に襲いかかろうと動き出した。
しかし動いたところで、今ノールを相手にするのにはあまりにも差がある。
ケプールが動き出す前に、次々と手足や頭を斬り飛ばされていく。もう希少種と普通のリザードマンに大差がないと思える程だ。
攻撃の余波で次々と周囲にも被害が出始め、他のリザードマンが次々と湧き出し彼女に向かい突撃を始める。
もう最初の標的だったケプールも全員いなくなり、他のリザードマン達もノールが剣を一振りするだけで数体が肉片すら残さずに消し飛ぶ。
「ふふふ、今の私は絶好調なのでありますよ! 誰にも負ける気がしないのであります!」
●
「うごご……痛い、痛いなのでありますよ……」
「やっぱりこうなったか」
ノールは効果時間が切れる前にちゃんと戻ってきた。
そして時間切れになると、いきなりその場で倒れてしまった。
とりあえずシスハに回復魔法をかけてもらい、口が動く程度にまでは回復したのだが全く動けないみたいだ。
仕方ないので今は俺がおんぶをして運んでいる。
「シスハの回復魔法でも完全に回復しないのね」
「お役に立てず申し訳ありません……」
最初は喋ることすらもできない状態だったのだが、回復魔法のおかげで筋肉痛程度にまで治まった。
スキルが進化したことにより、どうやら反動すらも進化したようだな……相変わらず使いどころが難しいかもしれない。




