次の狩場へ
「それで大倉殿! 今日はどこに行くのでありますか!」
強化されたノールが興奮気味になっている。
興奮した時の拳を握り腕を上下に振る仕草もしているし、よっぽど気分が良いのだろう。
「北の洞窟もなんだか飽きてきたし、そろそろ他の所も探すか? シスハも回復役としてパーティにいるのに悪いな」
「いえいえ、私は楽しいので大丈夫ですよ。むしろ回復の本職をしていないので申し訳ありません」
せっかく回復役として召喚したのに、回復してもらう程の戦闘を全くしていない。
その代わりに先日練習する為にワシ戦士の森に行った時、彼女もついでだからとワシ戦士長と戦わせてみたら瞬殺していた。
神官って全員こうなのかと、俺の中で微妙な疑問が生まれてきたぞ。
「他の狩場でありますか。そうなるともう少し上の狩場でありますか?」
「そうだな。魔石効率はかなり良いからまた行くかもしれないが、今後のレベル上げとかも考えて先に探すのもいいだろう」
敵の狩りやすさと経験値の入りを考えて場所を選ぶ必要がある。
でも経験値なんて表示されていないから、ステータスを確認しながらレベルが上がるの見てないと駄目だな……。
「という訳で、今日は他の狩場に行くとしよう」
「そうね。せっかくシスハもいるんだし、もう少し敵が強い場所に行ってもいいかもしれないわね」
うーむ、そう言われるとちょっと嫌になってきたな。
シスハが必要になるってことはダメージ受ける可能性があるんだもんな……俺はガウスさんみたいな変態にはなりたくないぞ。
「それなら迷宮に潜ってみるのはどうでしょうか? 今だったら10層にいたというスライムも倒せるのでは?」
「うん、勝てるとは思うよ。でもその先がどうなってるかもわからんし、すぐに帰れない迷宮で狩り目的で倒すのはちょっとな」
彼女が加わり、さらに俺も盾役をしているので10層のあのスライムも狩ることは多分できるはずだ。
しかし、その先がどうなっているかもわからない。それにビーコンが使えないあそこで狩りをしてもすぐに帰れない。
珍しいというドロップアイテムを狙うのならいいかもしれないけど、魔石や経験値のことを考えるとちょっとね。
●
結局どこに行くのか自分達で決められないので、冒険者協会で聞くことにした。
いつものようにウィッジちゃんのいる受付に行き、話を聞いてみる。
「あっ、大倉さん。本日はどのようなご用件ですか?」
「そろそろ他の狩場を探そうと思うのですが、お勧めの場所などはご存知ないでしょうか?」
「お勧めですか……」
彼女は首を傾げて目を閉じて、うーんと唸り考えている。
この世界には結局ステータスを見る物が無いみたいなので、どれぐらいがちょうどいいのかの判断がし辛そうだ。
「ちょっと遠いですが、北にあるレムリ山という場所が良いかもれません。あそこにはリザードマンと呼ばれる人型の魔物がいるんです」
ウィッジちゃんがさらに続けてその場所の説明してくれた。
レムリ山はここから2日以上移動するぐらいの距離にあるらしい。多分フロッグマンがいた池に行くよりも遠そうだな。
リザードマンはワシ戦士みたいな人型の魔物みたいだ。ファンタジーによく出てくるトカゲみたいな二足歩行の奴か?
今までの魔物と違い剣だけじゃなく、斧、槍、弓を使うタイプがいるようだ。
「遠くにあるうえに難易度も高くて冒険者達もあまり狩りにはいかないのですが、ケプールと呼ばれるリザードマンが落とすアイテムは素材として人気があるんですよ」
「素材として人気ですか……」
ケプールというのが希少種なのか? こいつも人気のある素材を落とすのか。
遠いのは別にいいとして、難易度が高いってことは何か嫌な予感がしてくるな……。
「スティンガーと同じで、並の冒険者だと返り討ちにされてしまうので滅多に出回らないんですけどね」
「そういう魔物をAランク冒険者達が狩ってきたりはしないんですか?」
「彼らの場合は特殊でして……それに大倉さんみたいにあんな大量な数狩ってくる人なんていませんよ」
言葉を濁して言う辺り、何か言えない事情でもあるのかな? 気になるが無理に聞くのは良くなさそうだ。
Aランクって未だに1人しか見たことがないけど、普段何処で何をしているんだろ。Bランクはちょくちょく協会内で見かけるが、Aは全く見かけない。
迷宮の40層目まで行けるのだから、相当やばい奴らってことはわかる。あの魔物使いのステータス見てみたかったな。
「大倉さんがスティンガーの甲殻を大量に流してくださったおかげで、冒険者達が入手する機会が増えているんです。冒険者達の装備の質が上がり、協会長も喜んでいましたよ」
ディウスに譲った後もちょくちょく甲殻を売っていたのだが、いつの間にかそんなことになっていたのか。
冒険者全体の強さが増すのなら良いこと……だよな?
というかそう聞いてしまうと、今回のリザードマンもまさかそれ狙いじゃ……。
「ですので、今回も期待していますね」
「あはは……頑張ってみます」
ニッコリと笑顔で彼女に言われ、俺は引きつった笑顔でそれに答えた。
●
場所を教えてもらい、レムリ山を目指し移動を始めた。
しかし、そこでちょっとした問題が……。
「どうしてこうなった」
「ふふ、いいじゃない」
カーペットに乗り移動をしているのだが、胡坐をしながら座っている俺の前にちょこんとエステルが座っている。
その位置にいられるのは、男として非常にあれなのだが……。
「むぅ、エステルずるいのでありますよ」
「エステルさん丁度収まっていますね」
後ろにはノールとシスハが座っている。ノールがなんだか恨めしそうな声を出しているが仕方ない。
4人で乗るには、このカーペットでは限界だった。そして1人宿に置いて後からビーコンで迎えに行くという考えも出た。
だが、話し合いの末になんかこうなっている。
俺じゃなくてノールの上に座ってくれと言ったのだが、どうしてもここが良いと言われて折れちゃったよ……。
なんだか良い匂いがするし、当たる部分が柔らかく感じる。これはノールが抱き枕として寝る時抱くのも仕方ない。
「それにしても、このカーペット速いですね」
「ああ、結構な速度が出てる。落ちないように注意するんだぞ?」
そこそこの速度で移動しているのだが、ちらっと見てみるとシスハが興味津々に身を乗り出して周りを眺めている。
落ちた時が怖いので止めてほしい。本当に怖い物知らずなんだな。
「はい、ご忠告ありがとうございます。それに落ちたとしても、すぐに治せるので心配ありませんよ」
「それは心配無いと言えるのでありますかね……」
シスハは笑顔で心配ないと言うが、彼女の隣に座るノールがそれを聞いて若干引いている。
治せるのだろうけど、落ちたら痛いだろう……。引き気味なノールの反応に、何かおかしなことでも言いました?
という感じで首を傾げている辺り、一体どんな思考をしているのか恐ろしくなってくる。
そんなやり取りをしながら数時間ほど移動した所で、一旦カーペットを停止させた。
「さて、とりあえずここに1つ置くか」
スマホからビーコンを取り出し、目立ちにくい茂みの中に隠して置く。
「大倉殿? こんな所にビーコン置いて、どうするつもりなのでありますか?」
「ここって街からかなり離れているわよね?」
その俺の行動を見て彼女達は不思議そうにしている。
ここは街から離れている為、ビーコンを置く必要性がまるで無い場所だ。
「あぁ、今から行く所はかなり離れているからな。もしビーコンが街まで届かなかった場合の保険だよ。どれぐらいの距離まで届くのかの実験にもなるしな」
これから行くレムリ山はかなり遠い。もしも王都付近に置いたビーコンに電波が届かなかった場合帰りがめんどくさい。
なのでちょくちょくビーコンを配置して経由できる準備をしておこうと思う。
「そんなことまで考えるなんて……さすがですね大倉さん」
「そうでありますな。大倉殿がガチャのこと以外でちゃんと考えるなんて意外――っむぁ!? なりするでありまふか!?」
「ガチャのことしか考えてなくて悪かったな!」
シスハに同意するように頷いていたノールだが、余計な一言を加えていたので頬を引っ張る。
久しぶりだったので、念入りに揉み解しておいた。
 




