ノールが2人……?
「えへへ~、良いでありますな~」
「そうでありますな~」
ベッドに座りながらノールがぬいぐるみを抱え呟き、その横にはもう1人ノールがいる。
相変わらず可愛く見えないぬいぐるみを見ながら、2人で別世界に入っているようだ。
「さすがは私なのでありますよ。この気持ちを理解できるのは、やっぱり私だけなのでありますね」
「お前ら、随分と仲がいいな」
お互いにイエイ! と親指を立ててドヤって雰囲気だ。
なんだか妙にイラっとしてくるぞ。
「それは勿論、自分自身でありますからな」
「そうなのでありますよ。むしろ仲が悪い方が不自然だと思うであります」
うんうんと2人共腕を組んで頷いている。
やはり本人同士だからか、やることが全て見事にシンクロしていた。
「ほら、モフット。こっちにおいでなのでありますよ」
「あっ、ズルイのであります! 私の方に来てほしいのであります!」
そんな彼女達が、ちょっと離れた所にいたモフットを今度は標的にした。
おいでおいでと手招きをしているが、モフットは困惑したように首を左右に振りノール達を見比べている。
全く同じだからどっちに行けばいいのかわからないのだろう。
「むぅ……どうやらモフットにどちらが相応しいのか、白黒はっきりする必要があるでありますな」
「受けて立つのでありますよ。さあ、表へ出るのであります」
「おい、ちょっと待て、おい!」
いつまでも来ないモフット。その様子を見て、彼女達はお互いに顔を見合わせる。
そしてぱぱっと鎧を装備し、剣と盾を持つと外へ向かう。
その後ろを私の為に争わないでー、と今にも言いそうなモフットがピョンピョンと跳ねて追う。
少しして何かが砕け散る破砕音が外から聞えてきた。
色々な人の悲鳴も聞え始め、戦いがヒートアップしているのか爆弾でも爆発したのかと思うほどの音までする。
やだぁ……これもうお外出れないよ……。
●
とここまで全部俺の想像。
「うわぁ……」
彼女をもう1人召喚したことを想像しただけでもちょっとな……思わず声が出てしまった。
ノール1人でもたまにやらかすのに、2人になったら倍……いや、相乗効果でさらにやらかし具合が酷くなるかもしれない。
「大倉殿、一体どんな想像をしたのか、ちょっと言ってみるのでありますよ」
「あっ、いや、なんにも考えてないよ? ホントだよ?」
口調も明るく、口元だけ見ると微笑んでいるように見えるが何か纏う雰囲気が怪しい。
俺の反応を見て何を想像しているのか勘付きやがったのか?
「でもノールが2人になるのなら、戦力的に大幅な増強になるわね」
「そうですね。ノールさんが2人いるのなら心強いです」
他の近接ユニットに比べたら、ノールが2人になるのはかなりの増強だ。
いるだけでパーティ全員の攻撃と防御が60%も上昇するとか、心強いとかいうレベルじゃないな。
「ノール、お前はどう思う? もう1人自分が居ても気にならないか?」
戦力的に考えたら、ここで2人目を召喚するというのが最上の選択だろう。
しかし、もう1人自分が増えるということに本人がどう思っているのか。
そこをハッキリさせておかないと後で確実にめんどくさい事になる。
「私は……私は大倉殿の好きなようにしてほしいのであります」
自分で決めようか迷っているのか、口を開いてから少し間があった。
そして緊張した雰囲気で続く言葉が出てきたのだが、俺に決めてほしいと言う。
好きなようにしてほしいと言われても。うーん、そうだな……。
「俺にとってのノールはお前だけだと思っているから……正直出したくない」
この世界に来て1番最初に召喚したのはノールだ。もうかなりの期間一緒に過ごし、彼女を見てきた。
そんな彼女をもう1人召喚したとしても、どう接したらいいかもわからない。
最初にいた方のノールと、後から召喚した方とで平等な接し方ができるほど器用な人間じゃないと自覚している。
2人になれば迷宮攻略も楽にはなるだろうけど、そこまでするなら遅れても構わない。
それにもう1人出すということに、なんとも言えない嫌な気持ちになってくる。
まあ色々と考えているが、要するに出す気はない。
「お、大倉殿。そ、それは……」
「あら、なんだか告白しているみたいね」
「ふふふ、良い関係なんですねお2人は」
ノールが俺の言葉を聞いてあたふたとし、エステルとシスハは俺達を見守るような生暖かい視線を送ってきた。
告白だと……?
「えっ……あっ、ち、違うぞ!? ただ、同じ人が2人も居たらなんか嫌だろ?」
「んー、まあ確かにちょっとね。私がもう1人出てきたら、良い気分はしないでしょうし」
「自分がもう1人ですか……それはそれで楽しそうですね。でもノールさんにはオンリーワンでいてほしいです」
慌てて言い直すと、エステルは確かにと頷いてくれた。
しかしシスハはまた何かよくわからないことを言っている……こいつは絶対2人にしてはいけない。
一体どう楽しむつもりなのか聞いてみたいところだが、ろくな答えが返ってこない気がする。
どうせお互いに回復しあいながら延々と魔物と戦えるとかそんな辺りだろう。なんかもう修羅道の住人なんじゃないかと思ってしまうぞ。
「でも、もしも出すことになった時の為に出せるのかだけは確認してみたら?」
「そうだな。確認ボタンさえ押さなければ召喚はされないし」
アイテム欄から選択して、その後の出すかどうかの確認ボタンを押さなければ召喚されることはない。
このままアイテム欄に放置するのも、かわいそうな気がするな……。
とりあえずどうなるかは確認しておこうと、アイテム欄にあるノール・ファニャを選択肢タップした。
【ノール・ファニャは既に召喚されている為、召喚することはできません。ノール・ファニャを強化いたしますか?】
「あれ、出せないみたいだ」
「全く……それなら最初からそう言ってほしいのでありますよ。無駄な心配しちゃったのであります」
どうやら重複して召喚することはできないらしい。さっきのやりとりはなんだったんだ……さっさと試してみりゃよかったよ。
それを聞いてノールはふぅーと息を吐き出し、緊張が解けたのかうなだれている。
「あら、実は心配だったのね」
「良かったですね。大倉さんに元々その気がないのもわかりましたし」
「うぅ……なんだか恥ずかしいのでありますよ」
そうだよな。俺に決めてほしいとか言ってはいたけど、実際もう1人自分が出てくるなんて嫌だろう。
表情が見えないからよくわからないが、嫌という雰囲気を出さなかった彼女はさすがだな。
今は恥ずかしいと言ってモフットを抱いてそっぽを向いている。
「出せない代わりに強化することはできるみたいだ。ノール、どうする?」
「なんか嫌な感じではありますが、そのままにするのもあれなのでお願いするのであります」
もしも……もしも彼女がいなくなった場合に、再度召喚できるという可能性もある。
その時の為に残しておくということもできるが、そんなこと考えるなら少しでもその可能性を減らす為に強化してしまった方が俺はいい。
本人からしたらどうも嫌な感じなのだろうが、許可が出たのでさっそく強化をする確認ボタンをタップした。
スマホから光が溢れ出し、それが全身に纏わり付いて徐々に彼女の体に吸収されていく。
「どうだ? 何かおかしな所はあるか?」
「……んっ! な、なんでありましょうか……何かが染み込んでくるのでありますよ。なんとも言えない高揚感なのであります!」
光を全て吸収し終え、ノールはなんだか興奮したように自分の両腕を交差させて自分を抱き締め震えている。
心なしか声に色気が含まれているような……。
ま、まあいいや。外見に変化はないし、彼女自身も変な所はないと言っている。
変わっているとしたらステータス辺りだろうし、スマホで確認しておこう。
――――――
●【戦乙女】ノール・ファニャ
レベル 51
HP 6120
MP 1560
攻撃力 1500
防御力 795
敏捷 169
魔法耐性 40
コスト 13
固有能力
【戦乙女の加護】
出撃時、全ユニットの攻撃力、防御力が50%加算される。
スキル
【白銀のアウラ】
10分間全ステータスを3倍にする。 再使用時間:半日
――――――
なんだこれ……なんかどの数値も異常に増えているんだが。
それに称号が名前の横に付いているぞ。えーと乙女……えっ? 乙女って……まあいいや。
固有能力とスキルまで変わっていやがる。コストも減っているし、URの装備よりも遥かに戦力向上しているな。
「大倉殿! 今から狩り行くのでありますよ! 体がうずうずして仕方ないのであります! ほら、早く早くなのでありますよ!」
「ちょ、おい、引っ張るなよ! エステル、助けて……」
「ふふ、いいじゃないお兄さん」
「そうですよ大倉さん。さあ、今日はどこに行きましょうか」
強化されたことにより調子が良いのか、いつも以上に彼女はハイテンションになった。
俺の手を握り、引っ張って早くどこかへ行こうと言う。
ふぅ、少しは落ち着いてほしいものだ。
●ノール・ファニャ
レベル 51
HP3060
MP 780
攻撃力 1000
防御力 595
敏捷 119
魔法耐性 30
コスト 15
固有能力
【戦姫の加護】
出撃時、全ユニットの攻撃力、防御力が30%加算される。
スキル
【鼓舞】
1分間全ステータスが2倍に上昇する。再使用時間:1日
↓
●【戦乙女】ノール・ファニャ
レベル 51
HP 6120
MP 1560
攻撃力 1500
防御力 795
敏捷 169
魔法耐性 40
コスト 13
固有能力
【戦乙女の加護】
出撃時、全ユニットの攻撃力、防御力が50%加算される。
スキル
【白銀のアウラ】
10分間全ステータスを3倍にする。 再使用時間:半日




