君主平八
いつもお読みくださりありがとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
休日中のある日のこと、俺はマルティナに用があり図書館にやってきていた。
案の定彼女は趣味である本の整理をゴースト共に楽しそうにしている。
「マルティナ、訓練しようぜ」
「えっ、訓練?」
「ああ、新しい称号が手に入っただろ? だから慣らそうと思ってさ」
称号である君主にスキルの二重称号を手に入れて俺は大幅に強化された。
今ならマルティナと戦っても勝てるのではないだろうか。
そう思い勝負を挑もうとしたのだが、シュバッと乱入者が現れた。
「はいはーい! なら私とやるんだよ!」
「げっ、フリージア!? どうしてここに!」
「マンガを読んでたんだよー。それより訓練しよ!」
フリージアが目を輝かせて俺に迫ってくる。
うげげ、こいつとは戦いたくないんだよなぁ……。
前やった時は逃げ撃ちされ一方的にやられたし、森とかで戦うと暗殺されるしで散々な目に遭った。
なので遠慮したいところなのだが、マルティナが余計なことを言い出す。
「いいんじゃないかな? フリージアさんも強化されたばかりで力を試したいと思うよ。僕とばかり訓練しないでたまには別の相手ともやるべきさ」
「それはそうなんだが……フリージアが相手じゃ俺は一方的にやられちまうぞ」
未強化の状態でもボコられたのに、1凸して強化されたから更に勝ち目がない。
……うん、やはりここは逃げるしかないな。
俺は勝ち目のない勝負はしない主義だ。
そんな訳で断ろうとしたのだが、またシュバッと乱入者が現れた。
「うふふ、話は聞かせていただきました。ならば私も参戦いたしましょう」
「シスハ!? どうしてお前までここに……」
「訓練の話をしたら嫌でも耳に入ってきますよ。なんて、フリージアさんの騒ぐ声が聞こえてきただけですけど」
「わーい! シスハちゃんも一緒に訓練なんだよ!」
「うぐ……ア、アルヴィさんも一緒に訓練……」
「何か問題でも?」
「ありません! 一緒に訓練いたしましょう!」
シスハに笑顔を向けられてマルティナがピシッと背筋を正している。
完全に脅されてるじゃないか……。
仕方ない、こいつまで来ちまったらもう断れそうもないな。
ここで逃げたらしばらくネタにされて煽られちまう。
「訓練するのはいいけどこの4人でどうするんだ? それぞれ1対1でやるか?」
「それも悪くはありませんが、せっかく集まりましたからねぇ。どうせなら2対2にいたしましょう」
「面白そうだね! チーム分けなんだよ!」
「この4人でチーム分け……ファニャさんやエステルさんがいないのは珍しいね」
確かにこの組み合わせで戦うのは珍しいか。
珍しいと言うか、戦うにしてもバランスが悪い気がするんだが。
そんな疑問も抱きつつ俺達は訓練場に移動した。
話し合った結果、俺とシスハ、マルティナとフリージアで別れて戦うことに。
俺とマルティナが前衛として戦い、あとの2人は後衛と役割を分ける。
後衛への攻撃は禁止で先に前衛が倒された方が負けのルールだ。
「大倉さん、気合を入れてくださいね! やるからには勝ちますよ!」
「勝つさ! と言いたいが、相手はマルティナとフリージアだからなぁ」
「私の回復魔法があるので心配しないでください。大倉さんの心さえ折れなければ回復し続けますからね!」
「要するにフルボッコにされながら耐えて反撃しろってことかよ……」
俺はシスハに回復されて、マルティナはフリージアから援護攻撃をしてもらえる構図だな。
今回はマルティナも制限なしでデバフとアンデッドを有りにしたが、シスハがいるから実質制限されてるようなものだ。
デバフは支援魔法で打ち消せるし、アンデッドを出してもすぐに浄化の光が飛んでくるだろう。
なので俺でもマルティナとは勝負になるはずだが、問題は強化されたフリージアがどれだけ強くなっているか……。
称号は【君主】と【脳筋な団長】を選び近接攻撃型。
更に【君主】で攻撃力と守備力が指定したルーナの30%上乗せされている。
この圧倒的パワーがあればマルティナ相手でもごり押しできるはずだ!
シスハをその場に残して中央へ行くと、マルティナが決めポーズをして待っていた。
「クックック、称号が増えたとて僕の敵じゃないね。汝の魂、我が死の鎌で収穫させてもらうよ!」
「ケッケッケ、脳筋君主となった今の俺に隙はない。今宵のエクスカリバールは血に飢えている!」
「あー! 僕の真似しないでよ! 絶対許さないぞ!」
マルティナは大鎌をブンブンと振り回して怒っている。
ふっ、この程度で心を乱すとは。
戦いにおいて精神攻撃は基本だぞ。
マルティナのゴーストによりパネルが操作され、空中に試合開始の合図が表示される。
キレていたマルティナはその場でクルッと体を回転させ大鎌で薙ぎ払いをしてきた。
それに合わせて俺がエクスカリバールを鎌の刃にぶつけると、ギャインと鋭い音が鳴り響く。
「うわっ!?」
声を上げながらマルティナは大鎌ごと体が跳ね上がって宙に浮く。
俺が更に追撃を加えようと武器を振ったが、彼女は反動を利用してクルッと宙で回って離れた地面に着地した。
しかし目を見開いて驚いた表情で明らかに動揺している。
まさか大鎌の振りに合わせて、エクスカリバールをぶつけてくるとは思わなかっただろ。
【脳筋な団長】を装着しているおかげか、普段よりも武器が手に馴染んでいる。
以前ならこんな芸当は出来なかったが、称号のおかげで近接武器の扱いも上手くなるようだ。
それに怒らせて攻撃を誘ったのが上手くいった。
称号での強化に加えて、【3度の願い】の1振り目で2倍の威力の攻撃だ。
いくらマルティナといえ打ち合ったら俺の方が大幅に上回る。
出来た隙を突いて一撃食らわせようと思ったのだが、咄嗟に立て直してきたのは流石だな。
流れは完全に俺に向いているから、先にこっちから仕掛けることにした。
駆け出してエクスカリバールを振ると、マルティナはギョッとしながらその場から大きく飛び退く。
それから何度も攻撃をし続けたが、反撃してくる様子はなく逃げ回る一方だ。
「そらそらどうした! 逃げてばかりじゃ勝てないぜ!」
「こ、こんなはずじゃ――あっ」
よっぽど焦ったのかマルティナは足がもつれて尻もちをついた。
チャンス、エクスカリバールもちょうど3振り目の6倍だ。
これを食らわせれば一発でお陀仏よ!
そう武器を振り下ろそうとした瞬間、俺の目前に緑に輝く矢が迫っていた。
「なっ――ひでぶっ!?」
ガツンと頭が吹っ飛びそうな衝撃を受け宙を舞い、数回地面をバウンドした後ズサーと地面を滑る。
マ、マルティナを仕留めるのに夢中でフリージアの存在を忘れてたぞ……俺じゃなけりゃ即死してたね。
立ち上がるとすぐ後ろにシスハがいて回復魔法をかけてくれた。
「いってぇ……矢でここまで吹き飛ばされるなんて反則だろ……」
「あらら、随分派手に飛ばされましたね。ですが即死しなかったのはやるじゃないですか。ほら、回復するので早くマルティナさんを仕留めてきてください」
「やられたばかりなのにお前鬼か! 畜生! こうなったら絶対倒すまで諦めないぞ!」
シスハの支援魔法を受け、俺は猛ダッシュしてマルティナに向かう。
それからマルティナがメメントモリを呼び出し迎撃してきたので、ごり押しで粉砕したがまたもやフリージアの矢に阻まれた。
だんだんと2人の息も合い始め、マルティナが避けた途端に矢が飛んできたり、俺が鎌を避けるのを妨害するように矢が飛んでくる。
何とか矢を防いだとしても、隙を突くようにマルティナによる鎌の薙ぎ払いやメメントモリの腕での刺突。
そして1分毎にフリージアのカノネスサギッタが飛来し、シスハの元へ俺はぶち転がされる。
その結果……精神の限界を迎えて俺はぶっ倒れた。
「あが、あがががが……」
「だ、大丈夫かい? 白目をむいてる……」
「平八ぴくぴくしてるんだよー。私はまだまだやれるよ!」
「いくら回復できるとはいえ、ダメージの限界が来たようですね。やはりこの組み合わせは無理がありましたか」
馬鹿な、君主となったこの平八がやられるとは……いや、全部フリージアがいるせいだ!
マルティナとサシでやれば勝て……デバフやアンデッドを使われたら無理ゲーか。
その後も組み合わせを変えて何度か戦って今日の訓練は終わった。
ちっ、こんなに強化されてもまだ俺はノール達に勝てそうにないな……。




