邪竜
ワープした先にいたのは、黒光りする鱗で全身覆われた巨大なドラゴン。
長い尻尾を震わせ2枚の翼を羽ばたかせ、こちらを上空から見下ろしている。
既に俺達を認識しており、全員が上を向くと同時に口を開く。
口内が発光し始めると、次の瞬間赤黒い光線が放たれた。
視界が埋まるほど範囲の広い攻撃に慌てて女神の聖域を発動させようとしたが、ルーナが前に飛び出し槍を構える。
「ふっ!」
ルーナが赤い稲光を伴いながら輝く槍を投擲すると、ドラゴンの放った光線を拮抗することなく真正面からかき消していく。
そのまま上空のドラゴンに槍が向かっていくと、当たる直前で奴は回避行動を取った。
だが、槍は追うように直角に曲がり翼を貫いて大部分を消滅させる。
翼を失ったドラゴンはコントロールを失い地面に墜落した。
「ルーナ! よくやってくれた!」
「流石ルーナさんです!」
「うむ、強化された相応の働きはしてやろう」
マジで流石ルーナだぜ!
カズィクルでブレスを押し返すどころか本体まで貫いちまった。
ボス戦に備えて武器を強化しておいて本当によかったな。
まさかドラゴンが出てきて、不意打ちのように攻撃してくると思わなかったぞ。
さて、地面に落ちた影響でまだ態勢を立て直してないし、今の内にステータスを見ておこう。
――――――
●カタストロフィ 種族:ドラゴン
レベル:100
HP:70万
MP:30万
攻撃力:2万6000
防御力:1万6000
敏捷:250
魔法耐性:200
固有能力 邪竜の威厳 邪竜の瘴気
スキル 邪竜の咆哮 獄炎の息吹 自己再生
――――――
おぅ……名前も不吉だがこいつ邪竜なのか。
100レベルだしこの迷宮のボスと思ってよさそうだ。
ステータス的にも今までと比較にならない強さだが、まだ倒せる範囲内だな。
どう戦おうか考えようとしたが、その前にカタストロフィが動き出した。
その場で咆哮を上げ始めると、あまりの声量に空気がビリビリと震える。
すぐに叫ぶのを止めたのでただの雄叫びかと思ったが、リンフィアとテペルはその場で崩れ落ちて様子がおかしい。
「あぐっ……」
「か、体が……」
「リンフィア! テペル! 何してるの!」
「あの竜の力のせいね。一定以上のレベ……実力がないと防げないのよ。あんた、扉の魔導具出してちょうだい。今の内に避難させるわ」
「あっ、はい」
ディメンションホールを取り出して、地面に突き刺して異次元空間への扉を開いた。
そこにアルブスが動けない2人を放り込んだので、ディメンションホールのドアノブを引き抜いて仕舞う。
ちょっと乱暴な気がするけど、緊急事態だから仕方がない。
それにしてもアルブスが何か言いかけた気がするが……今は気にしている場合じゃないか。
エステルに声をかけられ、改めてカタストロフィと向かい合う。
「翼を攻撃したおかげで飛べないようね。これなら簡単に倒せそうだわ」
「ああ、でも自己再生持ちだから早めに倒さないとな。レビィーリアさん、アルブスさん、俺達で攻撃しに行くので後衛の防御を任せていいですか?」
「わかった。私じゃドラゴンの相手なんてできないから助かるよ」
「悔しいけどあんた達に任せた方がよさそうね。後衛は任せてあいつをぶちのめしなさいよ!」
そんな訳でアルブスとレビィーリアさんに後衛組の護衛は任せ、俺とノールとルーナとマルティナで前衛をすることになった。
ノールとルーナが主に前に出て、俺とマルティナは少し離れた場所で機会をうかがう。
俺はインビジブルマントで姿を隠し、マルティナはガイストクライトで認識阻害している。
カタストロフィは飛ぶのを諦め、四足歩行で駆け回り暴れている。
ノール達目掛けて突進しながら腕を振り、尻尾も振り回してブレスまで吐き、更には体の周囲に黒いオーラの旋風まで纏ってまるで災害だ。
だが、ノール達はそれを危なげなく回避し、すれ違い様に攻撃を加えている。
それでも鱗の防御力が高いせいかあまりダメージはないようで、お互いに決め手がない状態だ。
この状況を打破するには……マルティナのデバフをお見舞いするしかない。
当の本人は息を潜めながらも、ドラゴンを見て顔をニヤケさせていた。
「ま、まさか僕がドラゴンと戦う日が来るなんて……クックック、まるで伝説の英雄じゃないか!」
「おま、随分余裕あるな! そんなこと言ってる暇があるならデバフかけてくれ!」
「わかっているさ! でもあのドラゴンは負の力に耐性があるみたいだから、僕が直接攻撃しないとデバフを付加できないんだ」
邪竜だけあってゴーストとかを使ってデバフをかけられないのか。
マルティナは犬型のアンデッドに乗ると、ドラゴンに向けて駆け出していく。
ノールとルーナに近接で攻撃されながら、エステルとフリージアによる遠距離攻撃されているカタストロフィはまるで気づく様子がない。
やはり専用UR装備のガイストクライトの認識阻害は凄いな。
味方は認識できるようコントロールできるのも羨ましいぞ。
マルティナが接近しルーナの攻撃で大穴の空いた翼目掛けて鎌を振ると、鱗のない部分を切り裂いた。
すると途端に目に見えて動きが鈍くなり、大幅に弱体化されていく。
ボスでさえ弱くするあいつのデバフは本当に凄まじいな。
弱体化された後、ノール達の攻撃の効きも更によくなりカタストロフィはどんどん抑え込まれていく。
動きが鈍いせいで攻撃はまるで当てられず、ブレスを吐いてもエステルの光線に相殺どころかかき消されて大ダメージを受けている。
その間に俺はそろりそろりと近づき、カタストロフィの攻撃が届かない場所で機会をうかがっていた。
このまま何も活躍できずに終わる訳にはいかん!
せめてデカい一撃をお見舞いしてやらなければ!
既にエクスカリバールを2回振っておいて【3度の願い】のセッティングをした。
これで次の攻撃は6倍になるから、黄金の輝きの2倍と合わせたら俺でもかなりのダメージを与えられる。
本当ならノール達のように普通に戦いたいが、俺なんかが行ってもすぐにあの尻尾を叩きつけられて終わりだ。
そして少し待っていると、ついにその時が訪れる。
ルーナのクールタイムが終わり、またカズィクルが炸裂した。
今度は胴体を大きく貫き、更に尻尾の付け根も貫通させてちぎれ飛ぶ。
マルティナのデバフも加わっていたから、最初の一撃よりも大ダメージだ。
あまりの攻撃にカタストロフィは地面に倒れてジタバタと暴れている。
それを見て俺は一気に駆け出して、黄金に光るエクスカリバールを振り被った。
「おおぉぉ……食らいやがれぇぇ!」
3振り目のエクスカリバールに加え、黄金の輝きが合わさった一撃をルーナのカズィクルで開いた胴体の穴に叩き込む。
鱗もなくマルティナのデバフも食らったせいか、防御力は微塵もなく深々と突き刺さり内側から体が吹き飛んだ。
カタストロフィは断末魔のような叫び声を上げると、体が光の粒子になって崩れて消えていき、複数の巨大な鱗と黒く丸い宝石だけが残った。
「……終わりか?」
「そう、みたいでありますね」
「僕の見たところ何も感知しないね。ドラゴンがこんなあっさり倒せるなんて……」
「これで終わりですか? 何とも味気ないボスでしたね」
「強くはあったけどね。探索が大変だった分、ボスは控えめだったのかしら」
「強そうなのは見た目だけだったんだよー」
「あんた達がおかしいだけでしょ……。あんなドラゴン私達でも相手するのは難しいわよ」
「ドラゴンが出てくるだけでも普通は絶望的だからね……」
うーん……50階層も潜った末のボスがこれか。
十分強くはあったけど、今までの迷宮のボスと比べるとちょっと物足りない気もしてくる。
でも、アルブス達が言うように普通に考えたら、ドラゴンが出てくるだけでもやばいよな。
何とも言えない気持ちになっていると、スマホに通知が届いた。
【プレイヤーレベルが100に達しました。スキル:称号変更→スキル:二重称号に変化しました。称号:君主を獲得】
な、なん……だと!?
カタストロフィを倒してちょうど100レベに到達したのか。
スキルも変わって新しい称号まで貰えるとは……今すぐ確認したいところ。
しかし、その前にアルブスが興奮した様子で声をかけてきた。
「ね、ねえ! その結晶って!」
「これですか? あのドラゴンのドロップアイテムですよ」
「それ私に譲ってもらえない! 代わりに報酬は何でも渡すから!」
「ちょ、ちょっとアルブス落ち着いて!」
食い気味なアルブスをレビィーリアさんが抑えている。
そんな必死になるほどカタストロフィから落ちた黒い宝石を欲しがるとは……何か使い道があるのか?
後衛を守ってもらっていたとはいえ、討伐したのは俺達だから所有権としてはこっちに分がある。
だが、ここでケチって関係を悪くするのも嫌だしなぁ。
何でも渡すって言ってるしここは取引をしておくか。
エステルにちらって目配せをすると、コクリと頷いてくれたので渡すことにした。
「これはお渡しするので、今回の報酬に上乗せってことでどうですか? できるだけ神魔硬貨の枚数を増やしてもらえるだけでいいですよ」
「わかったわ! 王に直訴して可能なだけ増やしてもらう!」
「だ、だから落ち着いて……はあ、仕方ないか。大倉君が望む程の量になるかわからないけど、私もできるだけ頼んでみるよ」
どうして欲しがっているかわからないが、これで神魔硬貨が更に多く貰えるはず!
貰えないにしても騎士団に恩を売れるなら悪くない。
無事にボスも倒し帰りの魔方陣が出てきたので、その上に乗ると視界が一瞬で変わって元の部屋に戻ってきた。
すると、行きにはなかったいつもの台座が設置されている。
「あっ、魔法陣のあった部屋に台座が出てきたな。マジでこれで終わりなのか」
「ようやく因縁の迷宮を攻略できたでありますよ」
「そうね。今になってようやく攻略できるぐらいには難しい迷宮だったわ」
台座が出てきたってことは、これで本当に迷宮攻略と思ってよさそうだ。
さっそく台座にスマホをかざすと画面にいくつか通知が表示される。
【迷宮攻略報酬:魔石500個、称号:魔石コレクターを獲得、URユニット強化権、SSRコストダウン×3、オウの迷宮の鍵(第5層)】
【ハジノ迷宮第二区画へのワープ登録をしました。今後全階層のワープが使用可能になります】
うおおおお! 報酬めちゃくちゃ豪華じゃないか!
魔石だけでも結構な数なのに、称号の追加にユニット強化権まで!?
だけどオウの迷宮の鍵とは一体……。
表示されてすぐにまた視界が変わり、今度はハジノ迷宮の入り口前へと移動していた。
目の前にはハジノ迷宮の入り口があって、どうやらまだ迷宮は健在のようだ。
「あれ、外に飛ばされたけど迷宮は消えてないのか。50階層までワープで行けるようにもなったぞ」
「まだ完全に探索し終えた訳じゃないものね。50階層は広かったし、他に探索する場所がまだ残っていたもの」
「とりあえず無事に帰れてよかったのでありますよ」
「そういえば今回も何か報酬を貰えたんですよね? 良い物ありましたか?」
「ああ! 最高だったぞ! あっ、でもわからない物もあったな。オウの迷宮の鍵ってやつなんだけどさ」
「オウの迷宮!?」
俺達の会話が耳に入ったのかアルブスが大声を上げていた。
オウの迷宮って部分に反応したみたいだが……。
「アルブスさん、オウの迷宮をご存じなんですか?」
「あっ……し、知らないわね……」
「隠すのが下手な奴だ。知ってるだろ」
「知らない! 知らないって言ったら知らないんだから!」
「はぁ……アルブス、それは無理があるって」
ルーナにジト目で見つめられながら、高速で首を左右に振るアルブスにレビィーリアさんが呆れていた。
誤魔化せないと悟ったのか、レビィーリアさんは俺に話を振ってくる。
「その魔導具で報酬が貰えたのかな?」
「はい、色々貰えましたけどオウの迷宮の鍵って物が含まれていたんです」
「へぇ、そんなことも出来るなんてその魔導具本当に不思議だね。私達の持つ階層転移機には、50階層へのワープ機能しか追加されなかったよ」
階層転移機って、騎士団が使うハジノ迷宮のワープ装置だよな。
あれだと俺のスマホと同じように報酬は貰えないのか。
やはりあの台座はこのスマホ専用と思ってよさそうだな。
それはそうと、気になるのはオウの迷宮の話だ。
改めてエステルがレビィーリアさんを問い詰めた。
「それで、お姉さんはオウの迷宮を知っているのかしら?」
「うん、知ってるよ。けど許可を貰わないとどこか教えられないんだよ」
「ふーん、そう。正直に知ってるって教えてくれたのはよかったわ」
「ごめんね。ちゃんと許可が貰えたらどこか伝えるよ」
どうやら騎士団はオウの迷宮の存在を知っているのか。
許可がないと教えられない迷宮とは一体……。
何とも言えない謎を残したまま、こうして俺達のハジノ迷宮攻略は一応終わるのだった。




