シスハ召喚
「それではいよいよ、俺達が待ちに待った神官を加える日が来た」
「ようやくなのでありますね」
「案外早かった気がするわね」
33連ガチャを終え、俺達は朝を迎えた。
あの後装備整理などはせず、もう俺が限界だったから寝てしまった。
神官を手に入れようと決意してから、こんなに早く神官が来てくれるとは思っていなかったぞ。
なんだか長いようで短いような間隔だ。
装備の配分は後でしようと思う。どうせシスハを召喚するのだし、彼女にも何か装備を渡す必要がある。
なので後でやった方が配分もしやすいだろうという考えだ。
「まあとりあえずは外へ行くとするか」
エステルの時もそうだったが、街中での召喚は目立つし他人に見られる可能性もある。
なので今回も人目が無さそうな街の外へ移動してからの召喚だ。
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さっそく街の外に移動して、スマホを取り出しアイテム欄のシスハ・アルヴィを選択する。
コストは20か。今俺が50レベルなので、コスト的には問題ないな。
シスハ・アルヴィ。GCでの評価は、必須ではないが居ればかなり有利になるという感じだった。
防御系や自動回復の支援魔法、複数同時回復など安定感はかなり増す。スキル使用時の回復量の増加も圧倒的だ。
しかしSSRの神官でも十分に回復ができるので、目立ちにくい存在だったかな。俺も持っていなかったので、正直あまりどんなキャラだったのか知らんし。
ただ掲示板でシスハちゃんは超良い子だから! と書き込みされて、現実を見るんだ……、とか言われているのを見たことがあるのがちょっと気になる。
大して気にならなかったので調べたりはしなかったのだが、調べておくべきだったか……。
「へぇ~、私が召喚される時もこんな感じだったのね」
「これから先、私のような召喚を体験する者はいないのでありますね……」
「そういえばノールはどういう風に召喚されたの?」
スマホから光が溢れ出し、それが徐々に人の形となる。
それを見ていたエステルは感心したような声をだし、ノールはあの時のことを思い出すのか哀愁漂う雰囲気だ。
エステルが当時の事を彼女から聞くと、俺をジト目で見つめてきた。
俺をそんな目で見るんじゃない! まるで俺が悪い事でもしたのかと思うじゃないか!
「初めまして、主様。私はシスハ・アルヴィと申します」
溢れ出ていた光が治まり、はっきりとした女性が目の前に現れた。
そして目を開くと碧の瞳で俺達を見て、金髪の長髪をあまり動かすことなく深々とお辞儀をし挨拶と自己紹介をされた。
見た目からはノールよりも少し大人びた印象。黒を基本とし所々に白が混じる服装。
まるで修道女を連想するようだが、ロングスカートには片側に切れ目があって太ももが露出している。下にはストッキングを履いているようで、それが見え逆になんだかエロい感じだ。
十字架のネックレスをし、その下の胸元は開けており視線が思わずいってしまう。
手にはエステルと同じように杖を持っているが、彼女の物とは違い小さい青い宝石が先端に付いたシンプルな見た目だ。
「こ、こちらこそ初めまして。わ、私は大倉平八です」
「……なんだか私達の時と反応が違うのであります」
「むぅ……なんだか妬けちゃうわ」
やばい、やばいぞ。GCの時は全く注目していなかったキャラだった。
しかし実際に実体化して目の前にいると、綺麗な女性で緊張する。
俺が緊張しているのを見て、エステルがなんだか面白くなさそうな顔をしているのが少し気になるな。
「私はノール・ファニャでありますよ。以後、よろしくお願いするのであります」
「エステルよ。今後よろしくお願いするわね」
「大倉様、ファニャさん、エステルさんですね。よろしくお願いいたします」
彼女達も挨拶を返し、シスハは笑顔で各々の名前を呼び再度お辞儀をする。
なんだ、めっちゃいい人な感じじゃないか。性格など把握していなかったが、これなら心配なさそうだ。
エステルの時があれだったからちょっと心配だったんだぞ。
「それでアルヴィさん。あなたはどの程度今の状況を認識していますか?」
まずは彼女がどれぐらい現状を把握しているかの確認だ。
俺から貰う記憶はどうやら差があるみたいだしな、確認は大事。
なので聞いてみたのだが、彼女はなんだかモジモジとして何か言いたそうに俺を見て返事をしない。
「あの……主様。厚かましいお願いだとは思うのですが、私のことはシスハと、どうぞお呼びください」
俺が言おうか迷っていたところ、ようやく彼女が恥ずかしそうに口を開いたかと思うと予想外のことを言われた。
ぬぅ……なんだろう。気を使ってアルヴィと呼んだがまずったか? というか主様とか言われると背中がムズムズする。
「そ、それじゃあシスハ……。わ、私のことも主様じゃなくて、普通に大倉でお願いします。様もできれば付けないでいただけると……」
ノールとエステルと違い、大人な雰囲気の彼女と話そうとするとスムーズに話せないな。
くっそ! なんだか凄く恥ずかしい。
「はい、それじゃあ……大倉さん、そんなに緊張なさらないでください。普段どおりの話し方で接してくださると嬉しいです。私が大倉さんからいただいた記憶で、無理なさっているのは存じておりますので」
む……そういうことも記憶として事前に知っているのか。つまりこれは遠まわしに気持ち悪いと思われたのだろうか。
なんだか直球に言われるよりも悲しい。
「ん……んんっ。そ、それじゃあ普段どおりにするぞ。それでシスハ、どの程度今の俺達の状況を把握しているんだ?」
「はい、そうですね……。まず冒険者をやっていること。そして最近は迷宮という場所の10層目で躓いたということ。そして戦力を求めて私を召喚したこと、ですね」
どうやら大体のことは把握しているようだな。これなら特に説明することもなさそう。
「という訳なので、シスハにも冒険者としての登録をしてもらおうと思うんだが、何か意見はあるか?」
「いえ、特に異論はございません」
シスハもこれからパーティに加わってもらうので、当然冒険者協会で登録をしなくてはいけない。
彼女も特に嫌がる素振りをせずに了承してくれた。
「……むぅ」
「どうかしたのでありますかエステル?」
「いえ、なんでもないわ……なんだか清楚過ぎて怪しいわね」
とりあえず話も終わったので冒険者協会に行こうと移動したのだが、その途中エステルとノールの会話が聞こえた。
エステルは最後の方シスハに聞こえないよう小声で呟いていたが……そんなに怪しいだろうか?
俺にはとても素直で良い人にしか見えないぞ。
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「すいません~」
「あっ、大倉さん。今日はどのような御用でしょうか?」
「えっと、今日からパーティに加わってもらう方を連れてきたので、冒険者として登録していただこうかと思いまして」
冒険者協会に到着し、さっそくウィッジちゃんのいる受付へ。
そして後ろにいたシスハを紹介した。
「初めまして、シスハ・アルヴィと申します」
「あっ、こ、こちらこそ初めまして! お、大倉さん! ま、まさか彼女、神官ですか!?」
「えっ、あっ、はい。そうですよ」
彼女が前に出てお辞儀をして挨拶をする。
ウィッジちゃんが挨拶を返し、驚いたように俺に聞いてきた。
魔導師とは思えない服装だが、よく一目で神官だってわかったな。
「魔導師に加えてさらに神官まで連れてくるなんて……。見習いの方でもなさそうですし、一体どこからこんな人連れてきたんですか?」
「えーと、それは……ちょっとした知り合いですよ、ははは……」
確かにこの世界で冒険者となる魔導師と神官は少ないんだったか。
ガチャから連れてきたなど言えないし、俺は笑いながら誤魔化すことにした。
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「さて、とうとう4人になってしまった訳なのだが。宿どうしようか」
登録を終え、とりあえず宿へ一旦戻ることにした。
登録したばかりなので、シスハのランクは勿論Gランクだ。すぐFまで上げるのは確定だとして、いつかは同じランクにまで上げてやらないとな。
今後仲間を増やすたびに、こうやってランク上げをしなければならないと思うと仕方ないとはいえちょっと面倒……。
俺達がAランクになった暁には、仲間にしたらすぐにランクAとかできないかな……そんな都合の良い話は無さそうだけどね。
まあそれはいいとしてまず宿だ。
今までは3人だったのでなんとかなったが、ついに4人。そろそろ同じ部屋で泊まるのには限界なんじゃないかと思う。
「今までどおり皆で同じ部屋でいいんじゃないでありますか?」
「そうね、確かあの宿には4人でも平気な部屋があったはずよ」
モフットの為に変えた宿。あそこには大ベッドが2つ並んだ4人部屋も存在している。
そこに泊まるとなると、ついに俺が彼女達の誰かと共に寝なくてはいけなくなってしまう。
「おいおい、さすがにもう無理だろ……。俺と同じベッドで寝ることになるかもしれないんだぞ? シスハだって嫌だろ?」
「いえ、むしろ同じ部屋でいいのです! ……はっ!? し、失礼しました……私は同じ部屋で構いませんよ」
俺が彼女にそう聞いてみると、いきなり興奮したかのようにグッと近づいて大声を出した。そしてすぐにしまった! と言いたそうな表情をして大人しくなる。
そして何事もなかったかのように微笑みながら俺に返事をした。
いやぁ……それはちょっと無理があるんじゃないかと。なんだか彼女も何かあるんじゃないかと不安になってきたぞ……。
ガチャで寝袋もあるし、最悪俺が1人床で寝ようかな。




