ガチ探索
ディメンションルーム内での会議という名の休憩を終え、俺達は迷宮探索を再開した。
アルブスはすっかり調子を取り戻したのか、大きく伸びをして元気そうだ。
「んー、ふぅ! 全快! 迷宮内でこんなゆったり休めると思わなかったわ」
「ベッドとかが揃っていたのもあるけど、周囲に警戒せずに済むだけでも違ったね。いやぁー、これから君達の本気の探索を味わうのが楽しみだよ」
「あははは……報告は内密でお願いしますね」
ある程度説明はしておいたが、ここからは隠し事せずにいつもの俺達の探索をするつもりだ。
レビィーリアさん達としても困った状況だから、これから見たことは全て秘密にすると約束も取り付けた。
慣れてもらうためにしばらく俺達が先行して動き、アルブス達に後をついてきてもらう。
今までの経験上、俺達がやることを見た人は絶対に驚いたり困惑するからな。
41階層の探索を開始すると話に聞いていた通り、リザードマンが徘徊していたのでステータスを確認した。
――――――
リザードマン・ガードナー●種族:リザードマン
レベル:50
HP:2万5000
MP:0
攻撃力:2500
防御力:1000
敏捷:150
魔法耐性:40
固有能力 集団呼応
スキル 咆哮
――――――
レムリ山のリザードマンと見た目は似ているけど、皮膚が緑で鎧を着こみ盾を装備している。
しかも5体1組で行動し隙もなさそうだ。
リザードマンが増える程個々の力が増すらしいが、固有能力の集団呼応の効果かな。
スキルの咆哮を使われたら他の集団も来そうだし、使われる前に倒すのが無難か。
「マルティナ、さっそく頼んだぞ」
「クックック、任せたまえ! ここからは深淵なる我が力をお見せしよう!」
そう言ってマルティナが決めポーズをし、ゴーストを5体呼び出すとリザードマン目掛けて飛んでいく。
気づかれることなくゴーストが体に憑りつくと、リザードマンはガクッとその場に膝を突く。
デバフの影響なのだが何が起こったかわからずに、5体共周囲を見回して大混乱だ。
咆哮を出そうと口を大きく開いても、弱体化のせいで声量も小さく他のリザードマンに届いていない。
それに加え何もない宙に黒い巨大な骨の手が複数現れ、次々と握り潰したり鋭い指先で串刺しにする。
部分的にメメントモリを形成してるんだろうけど、あんな芸当までできたんだな。
あっという間に5体のリザードマンを倒し、それを見ていたレビィーリアさん達は驚いていた。
「うわー、本当に死霊術師なんだね。しかも死霊が憑りついた相手を弱体化しつつ、あんなスケルトンを瞬時に呼び出せるって……凄いな」
「何あの強そうなスケルトン。私の知ってる死霊術より遥かに強力じゃない。存在感薄い子だと思ってたけどやるじゃん」
「えへへ……そ、それ程でもないよ。これも僕の友達のおかげさ」
ほお、アルブス達の知る死霊術師は似たようなことはできないのか。
そもそもアンデッドを操るだけじゃなくて、デバフまでばら撒くのはGCでもURのマルティナぐらいだからな。
SSR以下の死霊術師はせいぜいアンデッドを自爆させて範囲ダメージを与えたり、毒とかの状態異常を引き起こす程度だ。
マルティナならやろうと思えばそれも出来ちまいそうだから恐ろしい。
「これなら仲間を呼ばれる前に倒せるし問題なさそうだな」
「そうね。レムリ山にいるリザードマンと大した差はなさそうだわ」
「迷宮内だと集団を相手にするのは苦戦しそうですが、マルティナさんの力があれば一網打尽にできそうですね」
そんな訳でリザードマンには特に苦戦することなく探索が始まり、地図アプリを見ながら移動していく。
今回から出し惜しみなしなので、当然遠回りせず一直線に階段を目指す。
地図アプリは1度通った場所から一定範囲しか表示されないのだが、それでもかなりの広範囲。
迷宮内の形からこっちにありそうだと勘で移動していると、壁の向こう側に階段の表示を発見した。
本来ならそこに行くにはかなり大回りが必要なのだが……。
「この壁の向こう側に次の階層に行く階段があるな。よし、壁をぶち抜くぞ」
「遠慮がなくなるといつも通りでありますね……」
「迷宮なんて遠回りしたところでいいことないからな。この手に限る」
出し惜しみしないと言ったからにはこれを使わずにはいられない。
もはや説明不要、迷宮破壊の権化であるディメンションホールだ。
ブスリと壁に棒を突き刺すと、向こう側に通じる穴が開かれる。
それをアルブスが不安げな表情で見ていた。
「また珍妙な物を……これが壁の向こう側に行けるって魔導具? 入って大丈夫?」
「そうですよ。心配でしたら私達が先に入りますけど」
「怖いのか?」
「うっ……べ、別に怖い訳じゃないし! でもあんた達から先に行きなさい!」
「ふっ」
「あっ、笑った! 鼻で笑ったな!」
スタスタと入っていくルーナの後を追い、アルブスもディメンションホールの中へ入っていった。
ルーナの奴、アルブスをからかうのをちょっと楽しんでないか?
全員が移動し終えると、地図アプリ通りに階段もありレビィーリアさんが何とも言えない顔をしている。
「本当に壁を抜けられるんだ。しかも次の階層に降りる階段もある……」
「あら、信じていなかったのかしら?」
「そういう訳じゃなくて、こうも簡単だと現実味がなくてね。下準備もなく魔力を使ってる様子もないからさ。それに壁に穴を開けるだけじゃなくて、閉じた後は元通りってどうなってるのか理解できないよ」
「これぐらいで驚いていたら、これからもっと驚いちゃうわよ」
「これでこれぐらい扱いかぁ」
エステルの言葉にレビィーリアさんは遠い目をしている。
壁に棒を突き刺しただけで穴を開けて、しかも引き抜いたら何事もなかったように元のままだもんな。
もしこれを悪用したら、建物内に侵入されても一切痕跡が残らないってことだ。
これほど防犯上で恐ろしい魔導具はないだろうなぁ……。
その後も速度を落とさずに次々と階層を突破し、あっと言う間に45階層に到達した。
そこで思わずと言わんばかりにアルブスが騒ぎ出す。
「いやいやいや! 流石にあんた達おかしいでしょ! この攻略速度何よ!」
「30階層を攻略してた時とは比較にならないね。魔物も最低限しか遭遇しないし、階段にもすぐ着いちゃうし。今まで私達がしていた探索がなんだったのか考えさせられちゃうよ」
「す、すみません?」
「お兄さん、そこで謝ったら余計に虚しくさせちゃうわよ」
流石に俺でも普通に探索したら大変なのはわかっているから、多少気持ちがわからなくもない。
俺達も最初に迷宮探索をした時は色々と苦労したからなぁ。
でも、ここまで楽をするのに俺達だって頑張ってきたんだ。主にガチャだけど。
一瞬緩んだ空気になったが、アルブスが咳払いをしてそれを払拭する。
「コホン、ここの中ボスには気を付けなさい。騎士団でもここを通る時は骨が折れるわ。鋭い牙に強力な毒を持ち、並の武器や魔法じゃダメージすら通らない。外にいたら大討伐級の魔物。それが――バジリスクよ」
ビシッっと指を差し真剣な表情のアルブスに思わずゴクリと喉が鳴る。
ここのボスは蛇だと教えられていたけどバジリスクだと……。
それって大体の物語で強敵扱いされる怪物じゃないか!
45階層は階段がある部屋以外に1つ広場があるだけのシンプルな構造。
そこにとぐろを巻く巨大な蛇が一体鎮座していた。
硬そうな紫色の外皮、鋭い金色の瞳、圧倒的強者の気配を漂わせている。
これは激戦の予感――。
「いけっ! 僕の友達よ!」
マルティナの声が聞こえたかと思いきや、20体近いゴーストがバジリスクに殺到した。
大量のゴーストに憑りつかれたせいか、目を見開いているが見動きもせず全身を震わせている。
「えい! もう1つおまけにえいっ!」
エステルもグリモワールを展開し、3倍強化の魔法で光線を放つ。
同時にゴースト達は離脱すると、バジリスクの全身が光に飲み込まれていく。
1発だけじゃなくておかわりの2発目も放つと、攻撃が終わった頃には全身の外皮が剥がれてボロボロの姿に。
それでもまだ動けるのか、とぐろを解き巨大な口を開いて鋭い牙を見せ俺達を威嚇している。
が、赤い閃光がバジリスクの口内を貫くと頭部が弾け飛んで巨体が倒れた。
後ろを向くとルーナが片手を前に突き出して投擲後の体勢をしている。
スキルのカズィクルを使ったのか……なんて呆気ない戦闘なんだ。
そのまま俺の方へ近づいてくると片手を差し出してきた。
「平八、血」
「あっ、うん」
無残に光の粒子になって消えていくバジリスクを眺めながら、カバンから血の入った小瓶を取り出してルーナに渡すとグビグビと飲んでいる。
ちらっとレビィーリアさんとアルブスの方を見ると、口を開いて唖然としていた。
うん、俺も似た反応をしてたと思う。ステータス見る暇すらなかったぞ。
「バ、バジリスクが一瞬で……あり得ない」
「な、何よあの一撃! あんたまだ力隠してたのね!」
「しぶとい奴は面倒だから使った」
「何その理由!? あんな前置きした私の立場がないじゃない……」
しれっと言うルーナにアルブスはやるせない雰囲気だ。
せめて勝ち誇ってくれたらまだ対抗心も湧きそうだが、そんな素振りが一切ないからな。
中ボス戦とは思えない戦闘を終え、俺達は50階層に向けて進むのだった。




