退路なし
さっきまで扉があった場所に近づいて確認してみると、やはり完全に迷宮の壁になっていた。
見た目だけ変化したとか、壁の奥に扉が隠されたとかじゃない。
地図アプリ上で確認してみると、扉だけじゃなくて降りてきた階段がある部屋もなくなっている。
アルブスが壁に手を当てているがダメそうに首を振った。
「……完全に消えているわね。どうなっているの」
「今までで同じことは起きなかったの?」
「あったら帰ってこれないでしょ」
「それもそっか。こりゃ参りましたなぁ」
アルブスもレビィーリアさんもお手上げといったご様子だ。
まさか迷宮に閉じ込められるとは……。
まあ、普通に帰れないだけでガチャアイテムを使えば帰れる可能性はある。
だけど先に他の方法がないか確認だけしておこう。
「この先に中間地点みたいな地上に戻れる場所はないんですか?」
「ないわ。いつも探索を終えたら中間地点まで引き返していたからね」
「それじゃあ30層まで一気に移動できても、あんまり長時間探索できなさそうね」
「そうなんだよねぇ。だから騎士団も50階層の探索が進まなかったんだ。帰る分も考えないといけないからさ」
「つまり戻る方法はないってことですよね」
「私達に手段はないわ。現状だと迷宮に閉じ込められたってこと。出来ることは先に進むだけね」
「なるほど。このメンバーで50階層までいけそうですか?」
「可能性が全くないとは言えないけど……難しいと思うわ。前に50階層に行けた時は騎士団も精鋭だったし、私より強いのも複数いたからね。あんた達の底力次第ってところ」
「えっ、アルブスちゃんより強い人いたの!? 龍人なのに!」
「色々理由があんのよ! というか、あんた達も大差ないでしょ! 吸血鬼とエルフの2人を除いても人間とは思えない強さよ!」
なんだと!? アルブスよりも強い人がいるのかよ!
龍人よりも強い存在がこの世界にいるとは……。
ノール達なら良い勝負ができるのは間違いないけど、それはGCのURユニットだからだしなぁ。
アルブスもまだ確定じゃないがGCとの関係性も匂うし、この国自体もまだまだ謎が多そうだ。
っと、考えが逸れてきたけどまずは迷宮の件を考えないとな。
「現状帰れそうにないならいくつか試してもいいですか?」
「もしかして何か魔導具でもあるのかな? 君達不思議な道具を持っているよね」
「はい、そんなところです。それじゃあ試しますね」
このまま探索を続けるとなれば、見せたくないガチャアイテムも使わないといけないからな。
もしものために備えて迷宮から脱出できないか今の内試しておこう。
スマホを取り出してまずはビーコンを試してみたが、通信が遮断されているのか転移先が表示されない。
次に扉があった場所にディメンションホールを突き刺したけど、壁の中に入るだけでどの方向に向けても一向に穴が開かなかった。
脱出装置も試してみたが、ここでは使用できませんと表示される。
「マジか……ディメンションホールもビーコンもダメだな。扉だけじゃなく上に行く階段自体部屋ごと消えてやがる。上方向にやっても穴が開かねぇ」
「それじゃあ何かに阻害されているのかしら。向こう側まで到達していないのかもね」
「上との繋がり自体遮断してあるのでしょうか。どうしても奥に進ませたいんですかね」
「もうやだ、おうちにかえりたい……」
「ルーナちゃん! しっかりするんだよ!」
「あのヴァラドさんが絶望している! 迷宮、なんて恐ろしい場所なんだ!」
「絶望している理由が帰って休みたいだけでありますよね……」
「ルーナさんを泣かせるとは許せない迷宮です! さっさと破壊してしまいましょう!」
ルーナは帰れないと聞いて目に涙を浮かべその場に崩れた。
元々はすぐに帰れる予定だったからなぁ。
このままだとモチベにも関わってきそうだし、先に進むにしても方針を決めないといけない。
よし、そうなると……。
「一旦休憩にしませんか? これから50階層に向けて改めて話し合いましょう」
「うーん、そうだね。40階層のボスだけでも予定外だったのに、50階層を目指すとなれば尚更か。お互いまだ隠し事も多いだろうけど、そう言ってる場合でもなさそうだ。でも階段を降りたすぐ近くとはいえ、魔物を警戒しないといけないから気は休まらないね」
「それなら心配ありませんよ。良い物があるんです」
そう言ってさっそく41階層に降りて、階段のすぐ横にディメンションルームを突き刺した。
問題なく使えるようで、ドアノブを捻ると壁が扉のように開き異空間へ繋がる。
それを見たルーナは目を光らせて駆け出し、設置されていたベッドに飛び込んだ。
これでモチベも回復してくれるはず。
ディメンションルームを見たアルブス達は理解できていないのか、目を丸くして唖然としていた。
「はっ!? ちょ、何よこれ! なんで迷宮の壁の中に部屋があるの!」
「えぇ……どうなってるの? これは予想外過ぎるかなぁ」
「それに何かいて……フォルトゥーナラビット!? いや、柄の色が違うな? 希少種か?」
「あ、あの浮いている人形は何でしょうか? あれも何かの魔導具なのですか?」
ディメンションルーム内にはモフットとミニサレナもいて、入ってきた俺達を迎えてくれた。
念のために連れて来ていたけど、アルブス達に見せることになるとはな。
事前に人数分のベッドも用意しておいたから各自に割り振った。当然ルーナは既に寝ている。
アルブスはベッドに横になると、騎士とは思えない程ぐったりだ。
「はぁ……これが迷宮の中って冗談でしょ。こんなのズル、ズルよ」
「ズルいと言われましても……」
「こんな魔導具まであるなんて、君達何者なのかな? 王族でさえこんな物持っていないよ。これはお嬢さんが作ったのかな? それとも迷宮のドロップ品?」
「迷宮のドロップ品みたいなものかしら。お姉さん達も迷宮で色々手に入れてるの?」
「そんなところかな。私達の装備は迷宮からのドロップ品や素材から作られているよ」
ほう、ディメンションルーム級のアイテムでさえ存在しないレベルなのか。
やっぱりSSRでもこの世界じゃ相当希少な物なんだろうな。
今まで出来るだけ隠してきて正解だったか。
50階層まで行くとなれば出し惜しみしている場合じゃないから、レビィーリアさん達の反応を見て今後の参考にしよう。
その他にも大事な確認をしないとな。
「レビィーリアさん達は食料を用意してありますか?」
「一応収納魔導具の中に4人で3ヶ月分ぐらいはあるかな。ちょっと多めに持ってきておいてよかったよ」
「それなら平気そうですね。足りなくなったら言ってください。数年分はストックがありますから」
「数年分の備蓄!? こ、この空間もだけど、君達に常識は通用しないみたいだね……」
緊急時に出来るだけ籠城できるよう、ガチャの四次元ゴミ箱に大量の物資を込めて置いてある。
名前はゴミ箱だけど普通に収納箱として機能するから便利だ。
レビィーリアさん達も小さなカバンを持っているけど、あれが収納魔導具なのか? 俺のマジックバッグと似た物かね。
簡易なキッチンも設置してあるし、最悪ガチャ産の食料もあるから飯の心配はしなくてよさそうだな。
……さて、作戦を練る前に雑談と言う名の情報収集しておくか。
各々がリラックスしている中、俺はさり気ない感じを装いベッドに横たわるアルブスに声をかけた。
「アルブスさん以外にも騎士団に龍人っているんですか?」
「探りでも入れる気?」
「い、いえ、そういう訳では……ただ……」
「ただ? 何よ、言ってみなさい」
アルブスはだらけた体勢ながらも鋭い目つきで俺を睨んできた。
うっ、龍人だからか迫力があって怖いな。
上手く誤魔化さなければ……そうだ、あの手があった!
「前にも龍人に会ったのでお知り合いかなー、なんて思ったり……」
「えっ、私以外の龍人と会ったことがあるの?」
「はい、その時にこれを貰ったんですよ。何か知っていますか?」
よし、話題も不自然じゃないし話に食いついてきたぞ!
ここで更に物的証拠を出せば更に信用してもらえるはずだ。
さっそくマジックバッグから手のひらサイズの牙を取り出した。
これは前にカロンちゃんから貰った物だ。
同じ龍人なら何か感じる物がありそうだが……。
「ひぃ――」
カロンちゃんの牙を取り出した瞬間、アルブスは声にならない悲鳴をあげて後ろに飛び跳ね壁に激突した。
ズルズルとベッドの上に落ちると枕を抱き寄せ、青い顔をして震えている。
えっ、何この反応。完全に怯えているんですが。
あまりの様子にレビィーリアさんやノール達も驚いているぞ。
「ちょ、ちょっと! どうしたのアルブス!」
「うぅ……」
レビィーリアさんが声をかけても返事をせず、掛け布団の中に潜り込んでうずくまってしまった。
ここまで怖がるとは……多分カロンちゃんの牙が原因だよな。
このままじゃらちが明かないので牙をマジックバッグに収納した。
「仕舞ったんで大丈夫ですよ!」
「……本当?」
「はい、もう持っていませんよ」
もぞもぞと動いて掛け布団の中からアルブスがちらっと顔を覗かせる。
今にも泣きそうな目をしているが、牙の気配が消えたのがわかったからか出てきた。
それでもまだ恐怖が抜けきっていないのか、ブルブルと体が震えている。
俺は何も感じないけど、同じ龍人だと牙だけでここまで怖がるのかよ。
「一体どんな龍人と知り合いなの? 牙でその気配って……こわい」
「正体はわかりませんけど、凄く強かったですね。牙だけでもわかるものなんですか?」
「わかんない、こんなの初めて。今まで他の龍人と会ったことないもん……」
「アルブスがここまで怯えるなんて、君の出した牙はそれほどの物なんだね。そんな龍人が他にいたのは驚きだよ」
今までの強気な態度が嘘のように消え、アルブスは少女のような言動をしている。
この状態だとGCの雰囲気に近い気がするけど、これが素なのだろうか。
とりあえず予想外の反応だったが、これで何かしらの話は聞けるはずだ。




