ザ・スマイター
スマイターを倒しその後も順調に進み、ついに40階層に到達した。
ボスがいる階層はいつも面倒な仕掛けがあったけど、今回は降りた途端にボス部屋の扉がある。
地図アプリで確認しても階段のある部屋とボス部屋しかない。
おや、迷宮なのにこんな簡単な構造になることもあるんだな。
ここまでシンプルだと逆に怪しいのだが……と思っていると、アルブスも何やら渋い顔をしていた。
「おかしい……」
「どうかしましたか?」
「あんた達もこの迷宮潜っていたならわかるでしょ。ボスのいる階層は大体広くて謎解きや仕掛けの手間がある。なのに今回は降りてすぐにボス部屋があるからおかしい」
「私はそんなに迷宮潜ったことないけど、こういうのってよくあるの?」
「レビィーリアはあんまり迷宮に行かないもんね。私の経験上今まで1度もないわ。迷宮でこういうのがある時って、大体面倒ごとが起きるのよねぇ」
やっぱりこんなすぐにボス部屋があるのはおかしいのか。
まるで俺達を奥へ進ませようと誘っている感じがする。
ちょっと進むのを躊躇してしまうぞ。
「それじゃあ探索はここまでにしますか? 何か起きたら危ないですし」
「うーん……いや、出来ればボスは倒しておきたい。どうせ何かあったらまた来ないといけない。それに私達がこの前来た時は普通だったから、今の内ならまだ異変が起きてから時間も経ってないしね。あんた達が嫌って言うなら無理強いしないけど、並の冒険者より頼りになるし協力してくれたら助かるわ。なんなら私の裁量で報酬をあげてもいいわよ」
「ヒュー、アルブスにしては太っ腹だね。1度認めるとやっぱり甘いよねー」
「うっさい! 余計なこと言うな!」
レビィーリアさんがからかうように言うと、アルブスは顔を赤くしている。
もうすっかり俺達を認めてくれたのか、協力まで頼まれるとはな。
しかも疑惑を晴らすための探索だったのに、報酬の提案までしてきたのは驚きだ。
報酬をくれると言うなら……あれしかないだろ!
「わかりました。なら協力する代わりに神魔硬貨を貰えませんか?」
「神魔硬貨? 魔族の使ってた硬貨だっけ。あれってそれなりに高いらしいけど後で売るつもり? お金ならちゃんと払うわよ」
「いえ、硬貨自体が欲しいんですよ。何ならお金を支払うので買わせてほしいぐらいです」
「そこまで!? 別にお金なんて要らないからあげるわ。枚数は迷宮探索を終えてから交渉しましょ」
「ありがとうございます!」
「あんなの欲しがるなんて変わってるわね。コレクションでもしてるの?」
「まあそんなところですよ」
アルブスは本当に不思議そうな表情で俺を見ている。
普通なら神魔硬貨はコレクションの価値しかないし、後で売ると思われても仕方ないか。
話もまとまり先に進むことになり、さっそくボス部屋の扉を開いた。
だが、ボスであるザ・スマイターの姿は見当たらない。
「あれ、中に何もいないぞ?」
「ザ・スマイターは全員部屋に入ってからじゃないと出てこないよ」
「あら、他のボスと違って最初からはいないのね。外から攻撃しようと思ったのに」
「あんた達そんなことしてたのね……。強いんだから正々堂々と戦いなさいよ。誉れはないの?」
「魔物相手に誉れなど不要だ」
俺達の物言いにアルブス達は若干引いた雰囲気をしている。
魔物相手に正々堂々なんて……勝てばよかろうなのだ!
「それじゃあ事前に倒し方を説明しておくわ。あいつは5回倒せば消滅するから、気合で5回倒せばいいの!」
「なるほど! わかりやすいであります!」
「わかりやすいんだよ!」
うん、確かにわかりやすいけど何故か脳筋の気配がするのですが……。
だけど5回倒せばいいってわかってるのは助かるな。
「攻撃方法は変わっていたりしますか?」
「大体は一緒だけど、目から光線を撃ってくるわ。結構威力が高いから後衛組は注意しなさい。前衛は気合で避けなさい!」
「……俺は前衛止めておくか。光線なんて避けれる気がしないぞ」
「私も前衛に出ないからいいと思うよ。ボスクラスになると流石に厳しいから、いつも支援に徹してるよ」
目からビーム撃ってくるって恐ろしいぞ。
レビィーリアさんですら支援に徹するってことは、俺じゃ近接戦闘なんて絶対無理だな。
大人しくエステル達を守るとしよう。
部屋の中に入ると中央に光の粒子が集まり形になっていく。
形成が終わり姿を現したのは、スマイターと全く見た目の変わらない魔物だ。
あれがザ・スマイターなのか? ステータスを見てみよう。
――――――
●ザ・スマイター 種族:?
レベル:70
HP:15万
MP:10万
攻撃力:6000
防御力:5000
敏捷:180
魔法耐性:50
固有能力 完全なる肉体
スキル 昇華 黄金の流星 聖なるビーム
――――――
本当にあれがザ・スマイターなのか。
見た目は変わらないけどステータスがだいぶ違う。
固有能力とスキルも変化しているぞ。
「マルティナ、弱点はどこだ?」
「……ない、あいつに弱点はないよ」
「どうしてでありますか!」
「あれはもうマミーなんかじゃない! よくわからない何かだ!」
マジか、スマイターと同じように体を崩壊させれば一瞬で倒せたのに!
種族も?になっているし、マミーを超越した何かになっているのか。
「ならエステルの魔法で体を消滅させるか。頼んだぞ!」
「任せて。えーいっ!」
魔法をすぐ撃てるように待機していたエステルが、グリモワールの3倍化を使った光線を放つ。
出現したばかりのザ・スマイターは反応したが、避けれずに全身が光に飲み込まれた。
しばらく照射し続けて光線が収まると、ザ・スマイターは全身からプスプスと煙を上げて倒れている。
だが、体は全く消滅しておらず綺麗なままだ。
「なん、だと!? 体が消滅していないぞ!」
「死んではいますけど、あれだけの魔法を受けて肉体を保つとは耐久性が違いますね」
「魂の器として完成しているよ。完全に倒し切らないとダメみたいだね」
「なら正面から殴り倒すしかないわね! 行くわよあんた達!」
「お前が仕切るな」
「待つのでありますよー!」
「ま、待って!」
アルブスとルーナが先行し、遅れてノールとマルティナが倒れているザ・スマイターに向かって行く。
ザ・スマイターも発光すると復活して、飛び跳ねて体を起こした。
一応ステータスを確認しておこう。
――――――
●ザ・スマイター 種族:?
レベル:75
HP:20万
MP:10万
攻撃力:6500
防御力:5500
敏捷:190
魔法耐性:55
固有能力 完全なる肉体
スキル 昇華 黄金の流星 聖なるビーム
――――――
やはり昇華で復活するとステータスも上がるんだな。
復活したザ・スマイターは向かってくるアルブス達に気が付くと、体が黄金のオーラに包まれた。
あれはスキルの黄金の流星か!
物凄い速さでアルブスへ向かって行くが、彼女は避ける素振りもせずその場に止まって斧を振り被った。
「どりゃあああああぁぁぁぁ!」
ちょうどいいタイミングで掛け声を共に斧を振り、真正面からザ・スマイターを横殴りした。
殴られたザ・スマイターは涙目になりながら飛ばされ、ルーナの方へ向かって行く。
それを彼女も槍を振り被ると、柄の部分で思いっきり殴り体がくの字に曲がりながらまた飛んでいく。
アルブスはルーナのすぐ近くにくると、愉快そうに笑っている。
「へへっ、ナイス反応」
「こっちへ飛ばすな」
「連携よ連携。あんたなら出来るって信じてたのよ」
「嘘つけ」
素っ気ない反応のルーナに、アルブスはやれやれと首を振っている。
だが、その後も即興とは思えない連携をしつつ、ノールとマルティナも攻撃に加わり、更にエステル達も後方から援護攻撃をしあっという間にスマイターは倒れた。
「おっ、もう2回目を倒したのか。これなら楽勝だな」
「もうアルブスに付いていけるなんて、やっぱりあの3人凄いね。訓練を積んだ騎士団でも、連携できるのは一握りしかいないのにさ」
「私達からしたらノール達に付いていけるあの子も凄いと思うわ。流石龍人ね」
俺達は離れているから脅威は少ないが、近接戦をしているノール達はかなりの速さだ。
スマイターは黄金の流星だけじゃなく、かなりの頻度で目からビームを撃ってくる。
こっちにも流れ弾のように飛んでくるけど、何とか俺が防げるから平気だ。
それから3回目、4回目と危なげなく倒し、ついに最後の5回目となった。
――――――
●ザ・スマイター 種族:?
レベル:90
HP:35万
MP:15万
攻撃力:8000
防御力:7000
敏捷:220
魔法耐性:70
固有能力 完全なる肉体
スキル 昇華 黄金の流星 聖なるビーム
――――――
「これで最後か。ノール達でも少してこずっているな」
「あれは私でも付いていけそうにありませんね。回復は間に合っているので問題ないと思います」
「本職の神官様は回復力も桁違いだね。私が補助する必要もなさそうだよ」
「うふふ、回復力には自信がありますよ。私は神官ですからね」
最終形態となったザ・スマイターのステータスは尋常じゃなく、攻撃力もかなり高い。
復活すると即座に黄金の流星を発動し高速移動を始め、ノール達に体当たりや蹴りをして物理的にも攻撃している。
主にヘイトはノールとルーナが受け持ち、アルブスとマルティナが隙を見て攻撃を加えていた。
そんな攻防の中、マルティナがザ・スマイターの背後から体に鎌を突き刺すと抜けないのか動きが一瞬止まる。
「あっ、マルティナちゃんが!」
思わずフリージアが声を上げたが、動きを止めたマルティナをザ・スマイターが光る目を向けている。
あのままだと聖なるビームを食らっちまう!
だけど、マルティナには危なくなったらアンデッドを呼んでもいいって言ってあるから平気のはずだ。
ザ・スマイターの目からビームが放たれるかと思った瞬間、突然大声が響き渡った。
『オオオオォォォォ!』
声の元はアルブスで、この場にいる全員の動きが止まった。
特にザ・スマイターはビームの発射が止まり、全身が石になったように動きを止めている。
「な、なんだ今のは……」
「アルブスの威圧だね。あれを使うと魔物がしばらく動けなくなるんだ」
「奥の手ってやつ? ボスの動きすら止めるって凄い能力ね」
あれが騎士龍の威圧ってスキルなのか?
俺達も声の大きさに一瞬動きが止まったけど、ザ・スマイターはそれ以上に硬直しているぞ。
マルティナも鎌が抜けたのかその場から離れて、それから全員で動かないザ・スマイターをたこ殴りに。
そのままザ・スマイターは倒れて、涙を流しながら消滅していった。
ちょっと危ない場面もあったが無事に倒せたな。
そう安心していると、アルブスがマルティナに声をかけていた。
「ったく、あんた危なっかしいわね! あんたあんまり近接戦得意じゃないんでしょ?」
「ご、ごめんなさい……」
「いいわよ別に。何かしようとしてたの邪魔したみたいだしね。まっ、一気に倒せたんだから結果オーライでしょ」
「アルブスさん……カッコいい」
何故かマルティナがアルブスに尊敬の眼差しを向けている。
騎士な上に龍人でもあるからな……マルティナが憧れそうな要素も多いし、助けられたらああいう反応をするのも無理はないか。
アルブスもアンデッドを出すかはわかってなかっただろうけど、防ごうとしていたのは気が付いてるんだな。
とりあえずボス戦を終えたが特に変わりがなく、アルブスとレビィーリアさんが話し合っている。
「ボスを倒しても何もないわね。どうする? 下まで降りる?」
「うーん、配置が変だったのは偶然なのかそれとも……」
「レビィーリア様! へ、部屋の扉が!」
慌てた様子のリンフィアが見ている視線の先を追うと、さっきまであったはずの入ってきた扉が消えて壁になっていた。
い、いつの間に扉が消えて……一体何が起きているんだ?




