程々な探索
アルブス達騎士団の迷宮探索の見学を終え、次の32階層へ進み今度は俺達が探索を見せる番だ。
「それじゃあ見せてもらいましょうか。あんた達の実力をね!」
「アルブスの挑発になんて乗らなくていいからねー。普段通りにやってくれたらいいよ」
「あはは……期待外れにならない程度には頑張りますね」
とは言ってみたものの、どうやって探索していこうかなぁ。
普段通りにしたらボスのいない階層は一瞬で探索を終えてしまう。
アルブス達の探索時間を参考にして、可もなく不可もなくぐらいのバランスにしておくか。
そう俺は考えていたのだが、やる気に満ち溢れているお方が1人。
ルーナが深紅の槍をブンと振り回して、目を赤く輝かせていた。
「いくぞ。あいつに吠え面をかかせてやる」
「ルーナがいつになくやる気を出しているな……」
「よっぽどアルブスって子に対抗心を抱いているのね」
「対抗心などではない。あの手の輩は一度実力を見せないと面倒だ。あと単純に気に食わん」
「最後が一番の理由な気もしますけど、ルーナさんの意見も一理ありますね。今後交流をしていくなら、対等に思わせる程度の実力は示した方が無難ですよ」
絶対に気に食わないって部分が理由の過半数を占めてるだろ!
だけどアルブスの様子からして、生半可な実力じゃ認めてくれなさそうだ。
階層の探索時間だけじゃなく、魔物と戦って戦闘力も見せつけないといけないか。
それを踏まえてやり過ぎない程度の探索をしていこう。
……なんか迷宮探索よりも、別のことに頭を悩ませている気がするぞ。
「よし、じゃあ俺が誘導するから後からついてきてくれ。危険な場合を除いて俺の指示なく魔物に先制攻撃するなよ」
「えー、それじゃあつまんないんだよー」
「迷宮探索を面白がるな!」
「相変わらず緊張感の欠片もないでありますねぇ……」
「今回は僕もやることが少なくて、更に皆から忘れられそう……」
先頭は俺とノールが進むことになり、中間にエステルとルーナとフリージア、後方にマルティナとシスハを配置した。
普段はこんな風にしっかり陣形を組まないが、アルブス達の前だからな。
もしシスハがいつも通りに魔物に突撃しようものなら大混乱間違いなしだ。
流石のあいつでも空気は読めるから、今回ばかりは神官としての働きに専念してくれると言ってくれた。
今回だけじゃなくていつもそうして欲しいけどな……。
この階層も上と同じく出てくる魔物はマミーで、若干ステータスが違った。
――――――
●ロセウスマミー 種族:マミー
レベル:55
HP:1万
MP:0
攻撃力:3000
防御力:300
敏捷:220
魔法耐性:10
固有能力 魔法半減 物理吸収(小)
スキル 活性化
――――――
モニターグラスに表示している地図アプリを頼りに進んでいると、3体の赤く表示されたマミーを発見。
すぐに中間にいるエステル達に指示を飛ばす。
レビィーリアさん達はシスハ達よりも更に後方にいるから聞こえないはずだ。
なんで姿も見えてないのに、魔物の位置がわかるんだと聞かれても困るからな。
「少し進んだ先に3体マミーがいるな。エステル、ルーナ、フリージア、頼んだぞ」
「ええ」
「任せろ」
「了解なんだよ!」
進んでいくと地図アプリ通りにロセウスマミーが3体いたので、視界に入った途端にエステル達が攻撃する。
1体がエステルの光線で灰も残らず消滅し、もう1体はルーナの槍による投擲で全身がバラバラになり、最後の1体はフリージアの矢で頭が消し飛んだ。
物理的に体が消滅したせいか、スキルの活性化が発動することなく初戦闘は終了。
「うわー、30階層まで到達する時点でただ者じゃないのはわかっていたけど、3人共ロセウスマミーを1発で仕留めちゃうのかぁ」
「それだけじゃなく魔物の発見も早かったですね。俺が気づく前に勘づいていましたよ」
「レビィーリア様が取引する程の冒険者なだけありますね。特にあの魔導師の方……是非お話をしてみたいです」
「ふ、ふん、あれぐらい私でも出来るし! でも口だけじゃないのは確かなようね。というか、あいつらの武器魔導具!? 槍や矢がいつの間にか戻ってきてるじゃない!」
どうやら初戦闘の評価は悪くなさそうだけど、しっかりと観察されているな。
アルブスも動揺しているようだが、ちゃっかりルーナとフリージアの槍と矢が自動回収されているのに気付いてやがる。
これでも十分実力は伝わるだろうし、この戦法で進んでいくとしよう。
その後も特に問題なく、俺が先に地図アプリで魔物を見つけ、エステル達の遠距離攻撃で殲滅してもらう。
途中で地図アプリ上に次の階層に入口を見つけたがスルーし、迂回ルートに進んでわざと魔物が居る方へ行き時間を潰していく。
すると、隣を歩いていたノールが小声で話をかけてきた。
「……大倉殿、もしかして次の階層の入り口をもう発見してるでありますか?」
「ん? よくわかったな。ちょっと遠回りしておこうと思ってさ」
「いつもみたいに直接向かわないなんて、大倉殿らしくないでありますね」
「普段通りだと早すぎるからな。それにこのままじゃルーナも暴れ足りないだろ」
「ルーナとは思えないぐらい張り切っているでありますなぁ……」
今もロセウスマミーの集団と遭遇したが、ルーナが突っ込んで複数体のマミーを槍でバラバラにしていた。
槍に魔力を纏わせているのか、突いたと同時にマミーの体から透明な赤い突起物が複数飛び出して、名状し難い肉片が出来上がっている。
あんな攻撃をしているの見たことないんですが……そこまで気合入ってやがるのか。
それだけアルブスに舐められるのが嫌なんだろうなぁ。
そんな余分な戦闘を挟みつつも、そろそろいい頃合いなので次の階層の入口へ移動した。
本当は20分ぐらいで見つけていたけど、これで大体レビィーリアさん達と同じぐらいのはずだ。
今偶然発見したのを装いながらアルブス達に入口の発見を伝えてる。
「あっ、次の階層に到着しましたね。これで私達の番は終わりでいいですか?」
「嘘でしょ!? こんな早くこの階層を突破するなんて……」
「ちっ、何をそんな驚いている。お前らと大差ないだろ」
「ぐ、ぐぬぬぬ……だから驚いてるんでしょ……」
腕を組んでルーナは不満そうにしているが、アルブスもまた歯を食いしばって悔しそうにしている。
多分ルーナは俺がわざと遠回りしたのに気が付いているんだろうな。
でも同じぐらいの探索時間だったのに、アルブスはそこまで悔しがっているのが不思議だ。
そう思っているとレビィーリアさんも話に加わってきた。
「いやぁ、やっぱり探索に長けている冒険者なだけあるね。これが初めての30階層以降の探索なんだよね?」
「はい、特に罠もなく魔物も強くはなかったので危なげなく探索できました」
「ここを危なげなく探索している時点で凄いんだけどね。君達、もしかして離れた場所にいる魔物の位置わかるの?」
「えっ……あー、実は私が探知系の能力があるんですよ。そこまで広範囲じゃないですけど、離れた位置にいる魔物は把握できます」
おいおい、俺が指示していたとはいえ魔物の位置がわかるのに気が付いたのか!?
具体的にどういう指示をしていたかは聞こえてなかっただろうし、動きだけ見てバレたってことかよ。
魔物がいるって伝えた途端にルーナ達が戦闘態勢に入っていたから、その辺りで勘づいたのか?
「やっぱりそうだよね。完璧に交戦する魔物の数を制御しているように見えたからさ。1つの集団と戦っている時に、他の魔物が近くにいても後から加わってくることが一切なかったから驚いたよ。魔物と戦うタイミングが完璧だったよね」
「それはお姉さん達も同じようなものじゃない? 魔物が後から来なかったのも、すぐに倒していたから戦闘が長引かなかっただけだもの。それだけなのにお兄さんの能力に勘づくなんて凄いわね」
「まあ、私達が視認する前に魔物がいる方向を指示していたらわかるよ。探索も戦闘力も申し分ないし、ここから下の階層に行くのも問題なさそうだね。アルブス、少しは彼らを認めてくれた?」
「ふ、ふん、認めてあげなくもないわ。でもこの程度の魔物じゃ実力を測り切れなかったようだし、まだ完全には認められない! 次は35階層のスマイターを倒してもらうわよ!」
「望むところだ。奴には因縁がある。今度こそ倒し切ってやろう」
アルブスは多少俺達のことを認めつつあるようだが、まだ疑っているようだ。
確かに1撃で倒せる魔物との戦闘だけじゃ、認められないって言い分もわからなくもないが……。
ルーナもやる気みたいだし、中ボスであるスマイターへのリベンジ戦も兼ねて次こそ認めてもらおうか。




