騎士団の実力
中間地点に無事ワープでき、さっそく40階層を目指して進むことにした。
「さて、とりあえず40階層までを目標に探索しよう。ボスは……到達してから考えようか」
「事前にどの階層まで行くか伝えてもらってはいましたけど、ボス戦には挑まないんですか?」
「40階層のボスは今までとは格が違うからね。それに表で公表されている記録だと、Aランク冒険者でもボスまでは辿り着いていないでしょ。中ボスすら突破できていないんだったっけ?」
レビィーリアさんが言う通り、冒険者協会の情報では40階層のボスに関して情報がなかった。
冒険者達は35階層で進むのを断念したようで、中ボスで壊滅的な被害を受けたらしい。
詳細は不明だが、白い二足歩行の魔物で再生力も凄いようだ。
何となく覚えがあるような気もするが……まさかな。
俺と同じ疑問を抱いたのか、エステルがレビィーリアさんに質問していた。
「お姉さん達は50階層まで探索しているってことは、40階層のボスも倒せるのよね。冒険者協会じゃ情報がなかったのだけれど、どんなボスなのかしら?」
「君達が知っているかわからないけど、ザ・スマイターと呼ばれる怪物だよ。35階層の中ボスはその下位種のスマイターだね」
「げっ、スマイターですか!?」
「その反応、あんた達スマイターを知っているのね。この迷宮以外で遭遇でもしたの?」
「そ、そんなところです」
おいおい、中ボスにスマイターだと!?
あいつはアンゴリ迷宮のボスで、当時の俺達じゃ真っ向勝負で倒せなかった魔物だ。
40階層のザ・スマイターは名前からしてその上位互換……そりゃAランク冒険者でも突破できない訳だ。
王国騎士団はあれを倒せるって、とんでもない実力なんだな。
ノール達も若干のトラウマを抱えているのか萎縮した雰囲気をしていると、アンブスが得意げに話をつづけた。
「あんた達に自信あったとしても、ザ・スマイターは想像以上の強敵なの。私達だって騎士団の隊長クラスを半数は揃えないと危険なんだから。この前だって40階層で狩りだけして引き返したからね」
「でも私達のことを強いと認めているわよね。それならこのメンバーで挑んでもいいんじゃない?」
「ふん、強いのは認めるけどそれだけじゃダメダメよ。臨時で組んだパーティーなんかで強敵の相手なんかしたくないわ。ま、私の想像以上の実力を見せてくれたら考えてあげなくもないけど」
「なら今の内に考えておけ。腰が抜けても知らないぞ」
「ほんっと生意気な奴ね! そこまで言うならスマイターをあんた達だけで戦わせるわよ!」
ルーナの挑発にアンブスは地団駄を踏んでいる。
攻撃的な相手に対してはルーナも同じように煽り返すからなぁ。
だが俺達の成長を実感するために、スマイターにリベンジ戦をしてみたいぞ。
今度こそ真っ当に戦ってあいつを倒したい!
まずはお互いの実力を見せるため、1階層ずつ交代で攻略することとなった。
先にアルブス達が戦いを見せると言い、俺達は何もせずに後ろをついていく。
「これで騎士団の実力が見られる訳か。しかも隊長クラスが2人もいるとか期待できそうだな」
「他の方々が戦う姿を見るのは珍しいですからね。どんな風に戦うのか楽しみですよ」
「そうね。魔導師のお姉さんはどんな魔法を使うのかしら」
「ステータスを見なくても、雰囲気で4人共強者なのがヒシヒシと伝わってくるのでありますよ。同じ騎士として私気になるのであります!」
「クックック! 騎士の戦いを間近で見学するチャンス! 勉強になりそうだ!」
「ワクワクするね! アルブスちゃんも頼もしいんだよ!」
「楽でいい。40階層まで任せよう」
話を聞く限りじゃ王国騎士団はAランク冒険者よりも強そうだからな。
他の隊長格もアルブス級のステータスだったら恐ろしい集団だが……流石に龍人級はそんないないはず。
同じ隊長であるレビィーリアさんの強さを見れば、どんなものかわかるかもしれない。
変な行動して怪しまれても困るし、後で許可が貰えたらステータスを見せてもらおうかな。
ちなみにリンフィアは魔導師、テペルは弓使いだそうだ。
アルブス達から少し離れて進んでいると、この階層の魔物と初遭遇した。
全身が包帯でグルグル巻きにされた人型の魔物、以前アンゴリ遺跡で遭遇したマミーだ。
――――――
●ルベルマミー 種族:マミー
レベル:55
HP:1万
MP:0
攻撃力:2400
防御力:500
敏捷:200
魔法耐性:30
固有能力 物理半減 魔法吸収(小)
スキル 活性化
――――――
「上の階層はスケルトンだったから、次は肉付きってか?」
「スマイターといい、アンゴリ迷宮を思い出すでありますよ」
「パッと見は普通のマミーですけど、活性化があるということは1度倒したら強化されて起き上がる奴ですかね」
「また起き上がる前に燃やさないとダメそうね」
アンゴリ遺跡でも活性化スキルを持ったマミーは、1度倒しても復活してきやがったからな。
しかも俺達が戦ったのより更にこいつは強そうだし、なかなか進むのは面倒そうだ。
魔物が出てきたことでアルブス達が止まったので、俺達も進むのを止めて戦いを見守る。
「リンフィアとテペルはいつも通り! レビィーリアは……いい感じでよろしく!」
「雑!? 私への指示雑過ぎない!?」
「あんたは隊長なんだからそれぐらい自己判断できるでしょ」
「はいはい……全く、これだからアルブスとの共闘は困るんだよね」
そんなやり取りをしつつ、アルブスは自分の身長よりもデカい片刃の斧、リンフィアは杖、テペルは弓、そしてレビィーリアさんは双剣を構えた。
魔導師であるリンフィアさんと神官戦士であるレビィーリアさんは、全員にそれぞれ支援魔法をかけている。
そしてテペルが牽制で矢を放つと、ルベルマミーの体に突き刺さって大きく仰け反った。
その隙に一瞬でアルブスが距離を詰めると、斧のフルスイングでマミーの体がバラバラに砕け散る。
えぇ……斬るんじゃなくてぶっ叩かれて体が粉砕しやがった。
どんな馬鹿力してやがるんだよ。
バラバラになったマミーは蘇る様子もなく、光の粒子になって消滅した。
「おいおい、マミーが砕け散ったぞ……。物理半減のはずだよな?」
「固有能力の上限を超えた威力なのか、何かしらの能力で無効化しているのかも。支援魔法の影響もありそうね」
「あんな小さい体で先頭に立って敵を蹴散らすなんて……カッコいい! カッコよすぎるよ!」
アルブスの豪快な戦い方を見てマルティナが興奮している。
その後も次々とルベルマミーが出てきたが、同じように一瞬でアルブスが倒してしまい緊張感がまるでない。
これが他の人が俺達の探索を見る感覚なのだろうか……。
全く問題なく進んでいると俺は思っていたが、アルブスはブンブンと斧を振り回して何やら首を傾げていた。
「……うーん?」
「いつも以上に張り切っちゃって……って、そんな顔をしてどうかした?」
「あんた変な支援魔法でも覚えた? 妙に力が漲ってるんだけど」
「俺もいつもより矢の威力が上がった気がしますね」
「えっ、マミー相手だから聖力の付加と防御力が増す支援魔法はかけたよ。リンフィアはどう?」
「私もいつも通り身体能力向上の支援魔法をしただけですね」
いつもと何かが違うと4人共訝しげなご様子。
話を聞いている感じだと、普段より強くなっているなら別にいい気もするのだが。
……うん? 強くなっている?
あっ、それって俺達が原因じゃないか。
「すみません、私達の能力のせいかもしれません」
「あんた達の能力? 何よそれ、支援魔法じゃないの?」
「近くにいるだけで仲間の攻撃力と防御力が増すんですよ。一緒に戦わなきゃ影響ないと思っていたんですが……」
「何そのとんでも能力!? そんなのあるなら先に言いなさいよ!」
いけないいけない、普段他の人達とパーティーを組まないからすっかり能力を忘れていたぞ。
俺とノールがいるだけで攻撃力と防御力が65%上昇するんだった。
そりゃいきなり何の理由もなしに力が強くなったら不信感も覚えるか。
ちょっとしたトラブルもありながらその後も特に危険なく進み、1時間もかからずに次の階層に降りる階段へ辿り着いた。
さすが王国騎士団、戦闘時間は殆どなくほぼ探索の時間しかかかっていない。
ハジノ迷宮は一定時間経つと階段の位置が変わるらしいから、地図アプリがあったら俺達と遜色ない速さで攻略できそうだな。
「ま、私達にかかればざっとこんなところね! これぐらいはやってもらわなきゃ、中ボスのスマイターすら倒せないわ。あんな態度をするぐらいだから、あんたはもっと早く攻略する自信があるのよね」
「……平八、全力でいくぞ」
「えっ……あっ、はい」
「ルーナが珍しくやる気を出しているのでありますよ……」
「うふふ、張り合うルーナさんもかわいらしいですねぇ」
ふふんと鼻を鳴らして得意げなアルブスに対し、ルーナは目を赤くして訴えかけてきた。
ルーナがやる気になってくれるのは助かるけど……あまり実力を見せすぎてもよくないよなぁ。
よし、俺達は程々の早さで次の階層を探索するとしよう。




