ピックアップガチャ
特訓を終え宿まで戻り、いつものように風呂と飯を済ませて部屋へ。
今日は既にボロボロなので早く眠りたいのだが、告知されたSSR確定33連ピックアップガチャをやる為に日付け更新まで起きていた。
このガチャも本日限りとゲリラ的なものみたいだ。頼むからもっと早く告知して!
「ぐぬぬ……33連ガチャだと……」
「あれれ? 大倉殿が喜んでいないのであります……やっぱり大倉殿どこかおかしいのでありますか? カーニバルしないのでありますか?」
「お兄さんがガチャで喜ばないだなんて……これは良くない事が起きる前触れかしら?」
前回と同じく3人でベッドに座り俺が真ん中でスマホを手に持つ。それを彼女達が両脇から覗いて見ている。
違うのはモフットもノールの膝の上に抱えられて参加しているぐらいか。彼女の膝の上が定位置のようだ。
いつもならば掛け値なしに素晴らしいと喜ぶのだが、今回のはちょっと違う。
33連ガチャ、1回の魔石要求量は150個。そして現在の魔石は934個。つまり6回しか引けない。
さらに今回はピックアップ。確率アップの対象はURシスハ・アルヴィ、URカロン、URクラウソラス、URアトラクター、の4つだ。
シスハは俺達の求める神官。狙うなら間違いなく彼女が最優先なのだが……他のも魅力的過ぎる。
カロンは前衛としてならほぼ最強と言ってもいいユニットだし、後の2つは剣と盾だ。
この2つを当てたら俺はやっとバールと鍋の蓋から卒業できる……6回で1つでも出たら大勝利だな。
「いや、ピックアップに神官もいるし嬉しいのだがね……くっそ! こんなことならもっと魔石を貯めておくべきだった!」
「えぇ……困った顔してたのそんな理由なのでありますか!?」
なんてタイミングが悪いんだ。というか33連とか予想してなかったわ!
33連にのみピックアップを付けるなんてなんと嫌らしい。SSRが確定だとしても、URの確率が上がっているとは一言も書かれていない。
この確率アップはURが出た場合に、対象が排出される確率が上がっているという意味だと思っておいた方がよさそうだ。UR自体の排出は変わらず1%程度のままだろう。GCがそうだったしな。
これが11連でもピックアップ対象が出るならよかったのに……18回できたなら精神的にも結構余裕があるが、6回となると胃が締め付けられるような気分だ。
今すぐ狩りをしたって、さすがに残りの116個を集めるのはきつ過ぎる。せめてあと数日あれば……くっ。
「挑める回数は6回か……今回は1人2回ずつにしようか」
「わーい! また回せるのでありますね!」
「ふふ、ちょっと楽しみね」
ちょうど2回ずつで全員回せるので、今回は平等に2回ずつだ。
ノールやエステルは喜んでいるのだが、俺はなんとも複雑な心境になっている。
33連の重みは、11連の比じゃない。回した瞬間に虹じゃなかった時の気持ちは言い表せない。
排出される画面を眺めている時は、まるで罰でも受けてるんじゃないのかと思える程だ。
しかしそれを乗り越え、求めていたユニットが出た時の快楽はやばい。俺なんて自分の部屋で裸になって走り回ってしまうほどに嬉しかったからな。
「回す時は祈りながら回すんだ。このガチャには1回で11連3回分の重みがある。そのことをどうかよく考えていただきたい」
「う、そう言われるとなんだか責任感が増すのであります……私は最後でいいでありますか?」
「あら、ノールにしてはなんだか弱気ね。それじゃあ私から回そうかしら」
俺の言葉を聞き、ノールが少し怖気付いたのか膝で座っていたモフットを抱き上げて腕に収める。
そんな彼女とは違い、エステルはいつもと変わりない様子で俺からスマホを受け取った。
まさに威風堂々。そんな彼女と入れ替わり、俺とノールが両脇から画面を覗き込んだ。
迷いない指先が、33連ガチャをタップする。
画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金、白。白で止まった。
【R食料、Rクロムアーマー、Rクロムガントレット、SRエクスカリバール、SR鍋の蓋、R短剣、Rカトラス、SRカースドロッド、SRカドゥケウスの紋章、SRビーコン、Rぬいぐるみ】
【R寝袋、SRハイポーション×10、R万能薬、SR賢者の石、Rトランシーバー、SRオートガードスフィア、SRバタフライグリップ、SR幸福の指輪、R煙幕、SRタイマーアプリ、Rティアラ】
【SR鍋の蓋、Rランプ、SRニケの靴、Rバール、R栄養剤、Rアイスリング、Rサンダーリング、R金塊、SR慈愛の杖、SSR女神の抱擁、SSRアダマントシールド】
「……思った以上にこれドキリとするわね」
「あわわ……なんだか怖くなってきたのであります」
「これでURが来なかったら泣きたくなる」
さっきまでの堂々とした雰囲気が消え、彼女は少しながら硬い表情へと変わった。
隣で見ていたノールはそれを見てさっきよりも強くモフットを抱きしめているのか、真ん丸だった兎が少し潰れて変形している。
そうして2回目。彼女は若干ながら震える指先で画面を押す。
画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金、白。白で止まった。
【SRショルダーバッグ、Rロングソード、SRカオスリング、R食料、Rホットリング、SR祝福の首飾り、Rスパタ、SR金のメイス、Rポーション×10、Rメタルウィップ、R鋼の鎌】
【R万能薬、SR賢者の石、SRエクスカリバール、Rロングコート、SRコロナリング、SR獅子の心、SR水筒、SRハイポーション×10、Rサンダーリング、Rボーガン、R鋼の剣】
【SR癒しの宝玉、Rグローブ、SRエクリプスソード、Rクロー、R閃光玉、SR鍋の蓋、R薙刀、SRビーコン、SSRアダマントサバトン、R薄い本、SSRグリモワール『アケーディア』】
「あっ……お兄さん、ごめんなさい……」
「いや、気にしなくてもいい。勇気ある一番手を担ったことに敬意を表する」
「……むぅ? なんだか大倉殿の様子がおかしい気が……」
エステルは申し訳なさそうにしながら俺にスマホを手渡して、位置を交換した。
やはりそう簡単に出てきてはくれないようだ。今ので11連6回分のガチャを消費したのかと思うと体が震えてくる。
これが武者震いという物か。ふふっ、面白い。
この俺のガチャを引くからには、必ずやURを手中に収めてやろう。
「それではいざ参る」
俺の指先が、キーボードのエンターキーをタンッ! と押すように33連ガチャを叩いた。
画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金、白。白で止まった。
【Rショートスピア、SRウエストポーチ、R籠手、SRゴールドシューズ、Rクロー、SR芭蕉扇、Rハタキ、SRカドゥケウスの紋章、R鉄の剣、SRプロミネンスロッド、R万能薬】
【R鋼の斧、SR命の宝玉、Rぬいぐるみ、Rハードカバー、R興奮剤、SRバタフライグリップ、R鉄槍、Rホットリング、SR守護の指輪、SRニケの靴、Rキャンプセット】
【R食料、Rマジックポーション×10、SRマジックキャンセラー、Rウィンドリング、Rバール、Rボーンリング、SRエクスカリバール、Rマジックペーパー、SSRアダマントヘルム、R金塊、Rコンロ】
「ヒェ――ま、ま、まだ焦るような回数じゃない。落ち着け、落ち着くんだぞ! いいか!?」
「お兄さん大丈夫? 冷や汗が凄いわよ?」
「大倉殿がまず落ち着くべきだと思うのでありますが……」
「だ、大丈夫だ、問題ない」
白い輝きの宝箱が表示された瞬間、わずかだが呼吸が止まったかのように全身が硬直した。
なんということだ……残り3回。ノール合わせての3回でURを引かなくてはならない。
もう半分は消費した、このわずか短時間で。
だが逆に考えるとまだ半分もある。いける、これだけあればURなんて引けてしまう。むしろこの俺が手ずから引いてやろう。
呼吸を整え、落ち着いた動作で俺は33連ガチャをタップした。
画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金、白、虹。虹で止まった。
「ふっ、やはり俺ほどの人間にもなると、URの方から自ずと近寄ってきてしまうのだな」
「その尊大な態度はなんなのでありますか……」
ふふふ、またしてもURを引いてしまった。やはり俺はガチャ運に関してはかなりの強運のようだ。
しかも今回はピックアップ中。前回のようにダブるなんて確率の壁を超えてくることはまずありえない。
【R食料、SRゴージャスシューズ、Rキャンプセット、SRウエストポーチ、Rぬいぐるみ、SRマジックブレード、R鋼の靴、SR命の宝玉、SR鍋の蓋、Rナイフ、R寝袋】
【Rポーション×10、SR通話アプリ、Rホットリング、SRニケの靴、Rジャンクリング、SRマジックキャンセラー、SRエクスカリバール、SSRアダマントアーマー、Rアイスロッド、SRプラチナプレート、R精力剤】
【Rハサミ、SRスカルリング、R金塊、R栄養剤、R鉄槍、SR慈愛の宝玉、R万能薬、SRハイポーション×10、Rクロー、SSRニーベルングの指輪『ワルキューレ』、UR賢者の杖】
「あっ――」
俺の視界は暗転した。そのまま逆らうことなく後ろへ体は倒れ込む。
「ちょ!? お、大倉殿!? え、エステル! 大倉殿が息してないのでありますよ!?」
「またダブるなんて……お兄さんに刺激が強すぎたのかしら? ほら、起きてお兄さん」
周りで騒ぐ声が聞える。しかし頭にその内容は入ってこない。
なんだ、俺は一体どうしたんだ。
少しして何かが触る感触が肌を撫でた。そして俺の中に何かが流れ込む。
「あばばば――はっ!? お、俺は一体何を……」
「ガチャ回しただけで呼吸が停止するなんて……」
「お兄さん、あなた疲れているのよ」
あれ? 俺は一体何をしていたんだ。
確かガチャを回したはずなのだが……あっ、そうだ。
なんでUR出たのにまたダブりなんだよ!? ピックアップは? ねぇ? 教えてくれ、誰か。
ガチャに敗北した俺は、ノールにスマホを手渡して、位置を交代した。
彼女は抱いていたモフットを膝に降ろす。そして、兎にも見えるようにスマホを低めに持つ。
モフットは目の前のスマホをクンクンと匂いを嗅いでいる。
「そ、それじゃあ次は私が……お、お2人共、そんなに見られると緊張するのでありますが……」
「ノール頑張って、あなたに全ての期待がかかっているのよ」
「俺、お前のこと信じているからな。お前は最初からできる奴だって信じていたから」
「ちょ、こういう時だけなんでそんな信頼感を私に伝えるでありますか!? うぅ……それじゃあいくのであります」
画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金、白。白で止まった。
【Rキャンプセット、R鉄の鎧、R食料、Rブーツ、SR鍋の蓋、Rぬいぐるみ、SRニケの靴、Rランプ、R煙玉、SRビーコン、SR爆裂券】
【Rアイスロッド、Rトランシーバー、R閃光玉、SR慈愛の指輪、SRマジックブレード、R栄養剤、Rサンダーロッド、Rポーション×10、SRトマホーク、SRスカルリング、R消臭剤】
【R望遠鏡、Rコンロ、SRエクスカリバール、SR守護の指輪、Rホットリング、Rマジックダイナマイト、Rブーツ、R万能薬、Rガントレット、SSRアダマントガントレット、SSRニーベルングの指輪『ジークフリート』】
「あう……」
「チッ……あっ、すまん。気にするな、次があるさ」
いかんいかん、思わず舌打ちしちまった。
ノールの強運を以てしても駄目なのか? マジで今回なんの成果も得られないなんてなっちゃうのこれ?
せっかくのチャンスを、掴むことができないのか……。
「な、し、舌打ちしたでありますよね今!? むぅ……大倉殿、モフットに引かせてもいいでありますか?」
「む? まあやらせたいのなら構わんけど」
「えへへ、それじゃあ。モフット、ここを押すのでありますよ」
俺の舌打ちに反応した後、なにやら考え出した。そしてモフットに引かせたいと言う。
うーん、彼女が回させたいと言うならいいけど大丈夫か?
ノールがモフットの前にスマホを移動させ、33連ガチャのボタン部分を指差した。
すると、理解しているのかその部分にポンと自分の前足を乗せる。
賢いとは聞いていたが、マジでちゃんと言うことを理解してるのかこいつ……。
画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金、白、虹。虹で止まった。
【R大剣、SRスパイクシールド、R食料、SR厚い本、SR千里眼、R増強剤、R閃光玉、SRオートガードスフィア、Rショルダーパッド、Rアイスリング、Rぬいぐるみ】
【R催涙玉、SR修羅の拳、R寝袋、SR天使の衣、R手裏剣、SRフランシスカ、Rマジックポーション×10、Rランプ、Rトランシーバー、SR写真アプリ、Rサンダーリング】
【Rチャクラム、SRエクリプスソード、R短刀、SRツインサーベル、SRエクスカリバール、R消臭剤、SR鍋の蓋、Rクロムアーマー、R栄養剤、SSRディフェンスブレスレット、URシスハ・アルヴィ】
「うえっ!? URが出ただと!?」
「幸運の使者って呼ばれているだけはあるのね」
「むふふ、モフット、良い子なのでありますよ~」
モフットが誇らしげにむっふんと鼻息を出し、ノールは嬉しそうに頭を撫でている。
ま、マジか……俺も嬉しいのだが、兎にすらガチャ運で負けたというのか……。




