おうちデート
ある日のこと、目が覚めるとそこにはエステルさんがいた。
エステルはベッドに両肘をつきながら頬に手を添え、ニコニコと笑顔を浮かべ俺と目と目があう。
あれれ、おかしいぞぉ。これは夢かな?
「おーはよう」
……どうやら現実のようだ。
声をかけられて俺は勢いよくがばっと起き上がった。
「エ、エステル、どうしてここに?」
「あら、今日は暇だから一緒にお出かけしましょうよって昨日約束したじゃない」
「そうだけど起きて急に前に居たら驚くだろ」
「ふふ、なかなか起きてこないんだもの。寝顔をじっくり見ちゃったわ」
レビィーリアさんに3人組の説得を頼んでから、問題解決まで迷宮探索は休むことにした。
せっかくの機会だからしばらく全員休みで自由行動にしたが、エステルが誘ってきたから了承したのだ。
まだ朝の6時と休みにしては早い時間だけど、待ちきれずに呼びにきたってところか。
エステルには居間で待ってもらい、顔を洗ったりして準備を整えた。
「待たせたな。それで、具体的にどこへ行くか決めてなかったけどエステルは要望あるか?」
「そうね。それじゃあピクニックでもしましょうか」
「ピクニック?」
「嫌だった? お兄さんのために朝から準備したのに……」
「いやいやいや! 嫌とは言ってないぞ! 急だったから驚いただけだ!」
「ふふ、なら良いってことよね。私の方は準備できてるから、お兄さんさえ良ければ行きましょうか」
瞳を潤ませながら上目遣いで言うとか反則だろうが!
そんな仕草をしなくても断らないけど、からかわれているような……。
実際エステルは俺の反応を見て、ちろっと舌を見せて悪戯が成功したように楽しそうだ。
という訳でかごを持ったエステルの後をついていくと、玄関とは真逆の方に向かって行く。
まさかと思っていると、着いた先は案の定訓練所だった。
「ピクニックって言うから外にでも行くのかと思ったがまた訓練場か」
「また? それってどういう意味かしら?」
「いや、その! ま、前にシスハ達に誘われて訓練場でピクニックしただけでさ!」
「知ってるわ。だから暇がある今がチャンスだと思って私も誘ったんだもの」
エステルはちょっとツンとしながら不満そうにしている。
この前シスハとルーナと一緒にピクニックしたのがバレていたのか……。
それで自分も行きたいと思っていたとは、何とも可愛らしいな。
前回同様に訓練場の地形変更を使うと、緑広がりそよ風の吹く草原に変化した。
雲1つない青空に太陽が輝き、ここが室内だと忘れてしまいそうだ。
シートを広げて座ると、エステルは持っていたかごの中から何やら取り出した。
「そんなに凝った物じゃないけど、お弁当を作ってみたの」
「おっ、ありがとう。どれどれ……こ、これは!?」
かごに入っていたのは四角い弁当箱で、手で持つとまるで出来立てのようにホカホカだ。
もしかして魔法で保温的な機能でも付与されてるのだろうか。
中身は白米に梅干しが添えられ、焼いた魚の切り身に揚げ物や煮つけなど所謂幕の内弁当だった。
まさかの弁当に動揺しながらも、いただきますと言い箸で口に運ぶと見た目の期待以上の味だ。
「美味い! この世界で幕の内弁当を食べられるとは……。この味付けもエステルがしたのか?」
「そうよ。自宅図書館でお兄さんの世界の料理本を見て参考にしたの。分量も書かれていたからわかりやすかったわ」
「なるほどなぁ。前にノールから料理を教わっていたけど、もうここまで腕を上げたのか」
「色々と教えて貰ったわ。でもあの子みたいにはまだまだできそうにないわね。私は1つ1つ分量を計ったけれど、ノールは感覚でわかるのかパパっと作っちゃうんだもの。それでちゃんとできるんだから凄いわ」
「あいつは作り慣れてるし感覚も超人だしな。料理には計量も大事だし、美味く作れればエステルの方法でもいいだろ。実際にこんな美味しい物を作れているじゃないか」
「もう、そう褒められると照れちゃうわね。お兄さんのために頑張っちゃった」
いつもの軽い感じではなく、エステルは頬を赤くして本当に照れているようだ。
エステルは天才的だし学べばすぐになんでもできそうだけど、普段からノールに料理を教えてもらったりと努力している姿も見ていた。
それだけじゃなくて図書館で本も読んでいたとは……俺のために頑張ったなんて嬉しいじゃないか。
久しぶりに味わう元の世界の弁当を味わっていたが、あっという間に食べ終えてしまった。
「ふぅ、ご馳走様。ピクニックってことを忘れて食うのに夢中になっちまった。弁当を食ってここまで美味しいと思ったことは滅多にないぞ」
「お兄さんの好みに合ってよかった。そんな喜んでもらえて私も嬉しいわ」
「マジで美味かったからな。お礼と言っちゃなんだが、またピクニックする機会があったら今度は俺が弁当を用意するぞ」
「もう次の約束をしてくれるの? それじゃあお言葉に甘えちゃおうかしら」
こんな美味しい弁当を作ってくれたんだし、次は俺がお返しをしないとな。
できれば自分で作りたいところだが……料理本読んで練習しておこう。
「にしても、本当にこの訓練所は室内って感じがしないな。実際に外でピクニックしようにも、気軽に街の外なんか出られないからありがたいことだけどさ」
「地図アプリで事前に察知できるけど、人に見られる訳にもいかないし魔物もいるものね。常に警戒してたら気も休まらないだろうし、訓練所を使うのはいいアイディアだわ」
「シスハがルーナのために考えたみたいだけどな。これでも一応自宅内だから出歩かずに済むってことか」
「ふふ、じゃあ私とお兄さんはおうちデートをしているってことね」
「お、おう……」
そうはっきりデートなんて言われると照れ臭いのだが。
俺は誤魔化すように別の話題を振ることにした。
「そうだ、せっかくなら映画鑑賞でもするか。魔導自動車内で良ければの話だけど」
「狩りの最中にフリージアが見ているってやつよね。面白そうだったから見てみたいわ」
「よし、それじゃあ見るとするか」
最近は魔導自動車で長距離移動もそんなしてないし、エステルは映画を見る機会もなかったからな。
さっそく魔導自動車を出して中に乗り込み、車内をシアターモードに切り替えた。
車内が暗くなり前の座席が消え、フロントガラスの前に大きなスクリーンが設置されている。
スピーカーもあっちこっちに追加され、もう車の中とは思えない雰囲気をだ。
狩り以外でもフリージアがマルティナと映画鑑賞をしたいと言うから追加しておいた。
「何か見たい映画のリクエストはあるか。作品追加はランダムだから要望通りの物があるかわからんが、数は多いから色々とあるぞ」
「まだ映画を見たことがないから要望と言われても困っちゃうわ」
「それもそうか。ジャンルとしては派手な戦闘のあるアクション系、謎解きとかの冒険系、恋愛系、ホラー系、とかだな。エステルなら……恋愛系がいいか?」
「あら、ホラー以外ならいいわよ。恋愛小説も読むけれど、それ以外のジャンルも同じぐらい好きだもの。でもホラーは止めてほしいわね」
「エステルにも怖い物があるのか……」
「それはどういう意味かしら?」
「あっ……べ、別に他意はないぞ他意は!」
「ふふ、冗談よ。でも怖いのがちょっと苦手なのは本当なの。初めて見る映画がそういうなのはちょっとね」
エステルは眉をひそめていて冗談を言っている素振りはない。
ホラー系を怖がるのは意外な気がするけど、普段の探索でも暗い場所に行く時は不安そうにしてたりするもんなぁ。
要望を参考にしつつ、取得済みの作品内から面白そうな物を選んでみた。
主人公が事故で過去に戻り、帰る方法を探しつつ未来が変わらないように奮闘するSF系。
俺は既に見たことがあって内容を知っているから、面白いのは折り紙付きだ。
映画が始まり静かに画面を眺めていると、隣に座ったエステルが俺にぴったりと身を寄せてくる。
「く、くっつき過ぎじゃあないか?」
「いいじゃない。せっかく2人っきりでいるんだもの。ダメ?」
「うっ……べ、別に構わないけど……」
「やった。それじゃあもっとくっついちゃおうかしら」
俺の片腕に自分の腕を回して、エステルがぎゅーっと抱き着いてきた。
暗く狭い場所でそんなことされちゃあドキッとするじゃないか!
少しドキドキとしつつも、時々内容に関して話しながら映画を見続けた。
最初の方は軽い感じで見ていたエステルも、夢中になりだしたのか画面から目が離せなくなっていた。
主人公のピンチの時はハラハラとした表情をし、危機を脱すると安堵したかのように一息ついたりと新鮮な反応だ。
俺は映画よりもエステルが一喜一憂している姿を見る方が楽しい。
それから大体2時間ほどで映画が終わりエンドロールが流れている。
「いやぁ、俺は久しぶりに見たけどやっぱり面白いな。エステルはどうだった?」
「……映画って凄いわね。内容もだけど、これが全部人の手で作られているとは思えないわ。お兄さんの世界に魔法はないのよね?」
「ああ、その代わり科学が発展してるからな。映像に後から手を加えたりもできるぞ」
「ちょっと感動しちゃったかも。映像だけじゃなくて音も凄かったし、見ているだけでハラハラしたもの。フリージアが夢中になるのもよくわかるわ」
エステルは珍しく目を輝かせて興奮気味だ。
こうやってはしゃぐ姿を見れたし、映画を見ようって提案してよかったな。
その後も軽いドライブをしたり、ゲーセンに行ったりしてエステルと自宅で1日を過ごした。
おうちデートと言われて少し意識しそうになったが、こういう休日もいいものだな。




