3人組の正体
いつもお読みくださり誠にありがとうございます。
本日5月29日、コミック版12巻が発売となりました。
是非お読みいただけると嬉しいです!
併せてお知らせがありますので、後書きもお読みいただけると幸いです。
レビィーリアさんに話を聞く案が浮上し、翌日には会う約束を取り付けた。
要塞跡地の現地調査を終え帰ってきた絶好のタイミングだったようだ。
そんな訳でいつもの王立図書館の奥に俺とエステルで会いに来ている。
先に来て席に座っていたレビィーリアさんは普段の陽気な雰囲気がなく、ため息をついて疲れたご様子。
俺達が机を挟んだ対面に座ると、溜め込んでいたものがどっと溢れるように言葉にし始めた。
「君達さぁ……あれでよく無事に済んだね。確認しに行った騎士団、私を含めて全員驚いていたよ」
「私達もあの時は生きた心地がしませんでした」
「本当だったとわかってもらえてよかったわ」
頭を抱えるレビィーリアさんを見ると、現場がどれだけ騒ぎになったのかよくわかる。
俺達も要塞が消し飛んだの見て、あーあー、これどうすんだよ状態だったからな。
愚痴のようなものを少し聞いた後、今回の調査に対しての報酬の話になった。
「それで報酬なんだけどさ、神魔硬貨11枚でいいかな? 最低10枚以上って言ったけど、正式な依頼じゃなかったから私の権限でもそんな持ち出せなくてさ。黒い箱はまだ調査中で、結果次第でもう何枚か出せそうな感じかな」
「11枚ですか!? 罠があったとはいえ調査しただけなのに……」
「調査済みの場所であんな物が発見されたからね。もし今後騎士団で調査している時に発動していたら、君達のように無事に済んではなかったよ。だから個人的な感謝も含めて、聞きたいことがあれば何なりとお申し付けください。可能な範囲で何個か答えちゃうよ」
おいおい、ちょっと調査をしただけでも神魔硬貨11枚も貰えるのかよ!
さすが騎士団からの依頼だな……正規ルートからの依頼だったら何枚貰えたのだろうか。
でもあれだけの爆発を俺達のおかげで回避できたと思えば、騎士団からしたら助かったのかな。
それに質問に答えてくれそうで俺達に有利な流れだ。
俺が交渉するとへまをしそうなので、ここからはエステルさんに任せることにした。
「あら、それは都合がいいわね。私達お姉さんに聞きたいことがあったのよ」
「ほうほう、聞きたいことですとな。このレビィーリアさんに任せなさい! 言えることなら何でも答えてあげるよ! あっ、プライベートな話はちょっと困るかなぁ……」
「お姉さんのプライベートもちょっと興味はあるけど別のことよ。ハジノ迷宮に関して教えてほしいの。30層目にワープ地点があるの知っているかしら?」
「魔法陣のある中間地点だよね。あそこから一気に地上に帰れるのは知っているよ。それがどうかしたのかな?」
「先日私達も迷宮を探索してそこまで辿り着いのだけれど、そこにいたら突然ワープしてきた人達がいるの。あの魔法陣って帰るの専用のはずよね?」
「ええ!? 30層にワープしてきた!? まさかそんなこと……そ、それでどうなったのかな?」
レビィーリアさんは思わずといった様子でうろたえ、取り繕おうとしているが動揺を隠せていない。
おやぁ、これは一体どう受け取ればいいのだろうか。
30層にワープできることに驚いたのか、それとも謎の3人組に心当たりがあるのか。
今の反応を見たエステルは隙を見逃さずに追撃している。
「白いローブを被った3人組で少し話をして、その後私達は地上に戻ったわ。ちょうどキリも良かったし、他の人と競合しながら探索するのも嫌だったからね」
「へぇ、白いローブの3人組かぁ……。それで少し話したっていうのはどんな内容を?」
「んー、そうね。あまり人に見られたくなさそうな感じだったわね。認識阻害の魔法まで使っていたもの」
にっこりとエステルさんが笑顔で言い、レビィーリアさんも笑みを浮かべているが硬直して冷や汗をかいている。
あっ、これ絶対心当たりある反応だ。
あまりこういう隙を見せない彼女がこんな風になるとは、想像以上の何かが裏にありそうだぞ。
しばらくお互いに沈黙が続いたが、レビィーリアさんは両手を上げて降参のポーズをした。
「うん、その話を私にするってことは、大体察してるってことだね。お嬢さんの予想通り、その人達は王国騎士団だよ」
「随分と素直に教えてくれたわね。まだ確定って程ではなかったのに」
「もう殆ど核心に迫っているのに無駄に長引かせても信用失うだけだからね。ここで誤魔化し切って後からバレる可能性も高い訳だ。それなら素直に言った方がお得でしょ」
「計算高いお姉さんね。だけどそうしてもらえると助かるわ。凄く信用しちゃったかも」
「あははー、それはどうもー」
こうもあっさり認めるとは思わなかったぞ。
騎士団なんて一言も言わなかったのに、エステルの言葉の端々から言いたいことを感じ取ったのか。
隊長だけあってそういう判断力も高いのかな。
なんにせよ話が早くて助かった。俺も話を合わせておこう。
「騎士団もハジノ迷宮の調査をしているんですね。急にワープして来たんで驚きましたよ」
「一般的には知られてないけど、魔法に長けた魔導師なら30層まで一気に飛べるんだよねぇ。他の冒険者が真似しないように秘匿されているんだけど……」
「Aランクの冒険者はいないはず! なんて言ってたわよ。私達があそこにいるのは想定外だったみたい」
「うわ、そんな余計なこと口走ったの……あー、大体誰かわかったよ」
レビィーリアさんはこめかみを手で押さえて困った素振りをしている。
今の話だけで騎士団の誰なのか察したようだ。
「それで不意の遭遇でお互い不都合なことがあって、それで後からちょっと揉めるかもって心配になったの。だからお姉さんに仲介してもらえないかお願いしたいのよ」
「あはははー、笑いたくなるぐらい厄介事な予感しかしないよ。いいよ、直球でかもん」
「私達の仲間が魔人かって疑われて、こっちの子も相手が魔人だって疑っちゃったのよ。一応疑いは晴れたけど後のことが気になってね。それに私達のことを報告されたら、Bランク冒険者なのに注目されて困っちゃうわ」
「い、一体どういう状況でお互いに魔人だって疑うことになるのさ。私が会った君達の仲間の中にそんな人いなかったけど……まさか他にも仲間がいるの!?」
バッと席から立ち上がりレビィーリアさんは叫んだ。
前にノール達のことを紹介したが、フリージアやルーナは会わせてなかったからな。
あの2人はできるだけ存在を知られなくなかったが、今回はそうも言ってられない。
どうせアルブス達に後で聞くだろうから、比較的平気そうなフリージアの話だけしておこう。
「はい、紹介してないメンバーがいるんですよ。1人はエルフです」
「え、エルフ!? まさかあのエルフが仲間って……君達はまだまだ謎が多いみたいだね」
「お互い手の内は全部明かしていないでしょ? ちなみに私達が疑った騎士団の人は、白髪で赤目の小さな女の子よ」
「うわぁ、やっぱりあの子か。騒ぎを起こすのなんてあの子しかいないと思っていたよ……」
「そんなに問題を起こす人なんですか?」
「騎士団の中じゃ問題児の方かな……。というか、君達普通に認識阻害の魔法を見破ってるんだね。外で極秘に活動する際は絶対使うことになっているんだけどなぁ」
どうやら頭を悩ませていた相手はアルブスだったようだ。
GCじゃそんな問題起こすキャラじゃなかったはずなんだが……特徴が似てるだけで別人説もありえなくもない。
認識阻害の魔法も騎士団が活動する際はデフォで使うようになっているのか。
騎士団のことは知らないけど、人知れずに色々活動していそうだな。
ある程度話がわかってきたところで、エステルがパンと手を鳴らしてまとめ始めた。
「そんな訳であの子も人間じゃないのよね。こっちもエルフがいるって教えたんだから、答えてくれてもいいでしょ?」
「うっ、それは……人間じゃないって認めるだけでいいかな? どんな存在かまでは騎士団でも最重要機密だからさ。私の口からは答えられない。君達も知らない方が身のためになるよ」
「ふぅん、まあいいわ。それで私達のことが広まらないよう、あの3人を説得して貰えるかしら」
「ぐぐぐ……わかった。まだ迷宮の調査から帰って来てなかったから、私の方で抑えるよ。はぁ、あの子を説得するの骨が折れそうだ……。私の管理下の冒険者ってことにすれば何とかなるかなぁ」
レビィーリアさんは冷や汗をかきながら、これ以上は勘弁してくれと言わんばかりの表情をしている。
アルブスの話はそれだけデリケートな話題のようだな。
やはり龍人なのは王国でもトップシークレットらしい。
更に情報を引き出すなら名前や種族は既に知っていると揺さぶれるだろうけど、やり過ぎたら逆に警戒されちまいそうだからな。
この件はじっくりと詰めていくとして、今は俺達の話が広まらないようにしてもらうのが優先だ。
幸いあの3人はまだ迷宮から帰って来てないみたいだから、大事にならずに済みそうだぞ。
それにしても、騎士団が普段からハジノ迷宮に潜っているなら、世間で知られている階層よりも潜っているんじゃないか。
「騎士団はどれぐらいまでハジノ迷宮に潜れているんですか?」
「あー、君達なら教えてもいいかな。50層目まで到達しているよ」
「冒険者協会の記録よりも潜れているのね。でも50層目で止まっているなんて、そこに何かあるのかしら?」
「とんでもなく広い迷路があるんだよね。騎士団で何度も遠征してるんだけど、未だに突破できていないのさ」
「それじゃあ今回の3人組も50層目まで遠征しているんですか?」
「いや、流石に3人じゃ厳しいから訓練を兼ねた調査だね」
ほほう、騎士団ですら突破できない迷路か。
恐らく俺の想像を超える広さなんだろうけど、3D地図アプリやディメンションホールを使えば突破できそうだな。
「それにドロップアイテム狙いもあるかな。30層目を超えると下層よりも更に珍しい物が落ちるからね」
「そういえばあの迷宮は変わったドロップアイテムが落ちるのよね。30層からは騎士団でも珍しい物が落ちるのかしら?」
「魔法の力が宿った装備や、使い方がよくわからない魔導具が落ちたりするね。異変が起きていないかの確認もしつつ、ドロップアイテムを狙って狩りをするのさ。Aランク冒険者がいない時に行くんだけど……まさかそのタイミングで君達も行くとは思わなかったよ」
ハジノ迷宮の魔物は素材以外にも、パジャマやらブーツやら変わったドロップアイテムも落とす。
今回の俺達の探索でもちょくちょく落ちて、フリージア達が喜々として回収していた。
騎士団が狙う程のドロップアイテムか……気になるぞ。
とりあえず今後は騎士団と被らないよう、改めてハジノ迷宮を探索するとしよう。




