骨の聖騎士
25層でスケルトンタイラントを倒し、そのままの勢いで30層に到達。
降りた先は長い一直線の通路で、床がなく底の見えない大穴が続いていた。
「な、なんだこりゃ!? マジで床がないじゃねーか!」
「底が見えないぐらい深いわね。まるでアンゴリ迷宮にあった奈落みたいだわ」
「落ちたらどうなるのでありますかね……。下の階層に行くのでありましょうか?」
「それならショートカットできそうですが、そんな甘くはないでしょうね。異次元空間になっていそうですよ」
試しに穴へ物を投げ込んでみたが、しばらく待っても音が返ってこない。
落ちたら間違いなくアウトだろうな……。
数百メートルはありそうな穴の通路の向こう側に扉があり、ここを越えないとボス部屋に辿り着けない。
事前に知ってはいたけど、実際に目の当たりにすると足がすくんでくるぞ。
フリージアまで穴を覗き込んで不安そうな様子だ。
「これどうやって進むの? どこにも足場がないんだよ!」
「透明な床がランダムに配置されているみたいだ。棒で突いたりして確認しながら慎重に進むらしい」
「ランダムな透明な床って……確認しながらだと進むのが大変じゃないか」
「平八のことだ。対策があるのだろう?」
「まあいくつか考えはある。だけど俺の予想通りなら……」
そう言いながらスマホで3D地図アプリを確認する。
穴の部分を見てみると、俺達の目には見えない足場が存在するのが確認できた。
それをモニターグラスに反映させてみると、眼鏡を通して足場の位置が光ってどこにあるのか丸わかりだ。
穴の一部に足場があって、くねくねと左右に曲がっていたり、途中で途切れて軽くジャンプしないと向こう側に行けなかったりとかなり嫌らしい。
「おっ、やっぱり地図アプリに足場が表示されているな。モニターグラス越しでも位置も見えるぞ」
「地図アプリってそういう使い方もできるのね。透明と言ってもその場に存在するのなら表示されるってことかしら」
「どういう理屈で透明な床があるのかわかりませんが、理不尽な仕掛けには相応のガチャアイテムで対抗するに限りますね」
数百メートルも見えない床を探しながら進むなんて苦行でしかないからな。
他にもエステルの魔法やセンチターブラを這わせて探すのも考えていたが、俺がモニターグラスで見ながら誘導すれば簡単に突破できそうだ。
念のため全員の体を縄で繋いでからゆっくりと進んでいく。
透明な足場は2人分程度の幅なので、よっぽどのことがなきゃ落ちることもない。
途切れている部分になったらセンチターブラを出して足場を作り渡っていく。
そんなこんなで危なげなく30分程度で扉の前にご到着。
「ふぅ、単純に長いだけで特に苦労のない仕掛けだったな」
「床が見えないからちょっと怖かったでありますけどね……」
「あわわわ……や、やっと終わったんだよ……」
「い、生きた心地がしなかった……」
「落ちないとわかっていても、足場が見えないと不安になるものね」
フリージアとマルティナが青い顔をして抱き合っていた。
マルティナはわからなくもないが、フリージアも怖い物知らずに思えて案外怖がるんだな。
騒がれたらどうしようと思っていたけど、おかげで大人しかったから助かったぞ。
30層のボスは聖騎士と言われているが果たして……。
繋いでいた縄を解き、ボス部屋の扉を少し開き中のボスを確認した。
そこには銀色の甲冑を身に纏い、大剣を足元に突き刺し柄に両手を置きじっとしている騎士の姿。
大きさはマルティナのメメントモリと同じぐらいで、俺よりも遥かにデカい。
フルフェイスヘルムをしていて正体がわからないが、あれもアンデッドなのだろうか。
ステータスを見てみよう。
――――――
●スケルトンパラディン 種族:スケルトン
レベル:80
HP:35万
MP:5万
攻撃力:7500
防御力:5000
敏捷:200
魔法耐性:80
固有能力 聖戦士
スキル スーパーアーマー ホーリーストライク 不屈の意志 超再生
――――――
「……スケルトン、だと?」
「スケルトンなのでありますか?」
「堂々としているし鎧も聖騎士みたいね。今までのアンデッドと全然違うじゃない」
「カッコいいんだよ! ね、マルティナちゃん! ……あれ?」
フリージアに話を振られたマルティナは、目を見開いて驚愕し固まっていた。
おや、こいつがあんな騎士っぽいスケルトン見たら大喜びしそうだが妙だな。
そう思っているとワンテンポ遅れながらマルティナは驚きの声を上げだした。
「な、なんだあれ! アンデッドが聖の力を内包してる! どうしてあれで体が崩壊しないんだ!」
「それどころか負の力と混ざり合って昇華されていますね。あれじゃ私の力も通じなさそうですよ」
「ふむ、あんなのは見たことがない」
マルティナだけじゃなくて、シスハとルーナも興味深そうにしていた。
聖の力を内包しているってどういうことだ?
パラディンと言えば聖騎士、つまり神官的な力もあるってことか。
スケルトンなのにそんな力を持っている事に驚きだが……まあ、何とかなるだろう。
「よし、とりあえずいつものパターンでいくか。エステル、頼んだぞ」
「ええ、任せて」
今回も扉を開いて中に入らず、エステルに外から攻撃してもらうことにした。
エステルはグリモワールを開いて魔法陣を展開し光の球体を生成すると、杖を振り下ろしていつもの光線を放つ。
そのままスケルトンパラディンに直撃……するかと思ったが、光線が放たれた瞬間に視界から消えた。
すぐにガシャンガシャンと金属の擦り合う音が聞こえ、パラディンが物凄い速さでこちらに迫っている。
「避けた!? やべっ、こっちに来るぞ!」
「中へ入るのであります! エステル達に近づけさせないでありますよ!」
ノールがパラディンに向かって駆け出し、その後をルーナも追って戦闘が始まった。
巨体と巨剣から繰り出される攻撃をノールが盾で弾き、その隙にルーナが槍で攻撃している。
攻撃を受けてもパラディンは怯むことなく攻撃を続け、鎧の一部が破損して中の骨が見えても即座に塞がっていく。
あの鎧も体の一部判定で再生しているのだろうか。
時折剣先が光って突きを繰り出すとビームが放たれるが、ノール達は難なく回避して戦闘を続けている。
凄まじい速さの攻防で俺が混ざったらボコられまくりそうなので、盾役としてエステル達の傍にいることにした。
「つ、強いな……。マルティナ、あいつにデバフはできないのか?」
「……ダメだ、全然効果が出ないや。あのアンデッド自体負の力の塊だし、聖の力もあるから打ち消されちゃう」
「くっ、私の浄化の力も効きませんね。体を聖なる力で覆っていてガードされています」
「負の力と聖の力の良いとこ取りをしているのね。更にアンデッドの耐久力もあるみたいだから厄介な魔物だわ」
マルティナがゴーストを飛ばしてデバフを試み、シスハも隙を見て浄化の光線を打ち出しているが効いている様子がまるでない。
この2人の力がまるで通じないとは……アンデッドの耐久力があって神官の力も効かないとか反則だろ!
これじゃ普通に戦うしかないじゃないか! ……うん? そうか、普通に戦えばいいだけだ。
ノールとルーナが近接戦闘でスケルトンパラディンと拮抗する中、隙を突いてフリージアの弓とエステルの魔法攻撃を加える。
更にマルティナのメメントモリも盾役として加わってもらい、主に攻撃を受けるノールにはシスハの回復で援護。
そんな堅実な戦闘を続けて、ついにスケルトンパラディンは膝をついて光の粒子となり消滅していく。
うん、楽に倒すことばかり考えていたけど、今の俺達なら地道に戦えば大抵の相手は危なげなく倒せるんだった。
「焦りはしたけど普通に倒せたな。やはり戦いは数だ」
「1対1だったら苦戦しそうでありましたが、皆で戦えばそうでもないでありますね。というか、真っ当に戦ったの久しぶりな気がするのでありますが……」
「うむ、大体卑怯な手段か私のスキルやエステルの魔法で瞬殺していた。まともな強敵だった」
「アンデッド相手に私の力が通じなかったのは悔しいですね。こうなったら更に鍛え上げるしか……」
「聖騎士のスケルトンがいるなんて興味深い! 僕もいつか友達をパラディンにしてあげたいなぁ」
ここまでボスでも瞬殺してこれたけど、30層にもなるとやはり一味違ってくるんだな。
神官の力が通じないアンデッドがいるのがわかったのは大きな発見だ。
マルティナが何やら物騒なことを考えているが……学びを得たということでいいだろう。




