再来のロード
アウルムスライムを倒した俺達は11層へ歩を進めた。
ハジノ迷宮に来た経験のないシスハ達は先ほどまで警戒していたが、今は拍子抜けといった様子だ。
「ノールさん達が攻略を諦めた程なのでどんな凄い迷宮なのかと思っていましたが、今まで攻略した迷宮の方が難しい気がしますね」
「そりゃ今と比べたら何もかも不足していたからな。無理矢理挑めばもっと進めただろうが、やる理由がなかったしさ」
「そうね。軽い気持ちで挑戦してみたら思ってたより厳しそうだったもの。それにAランク冒険者ですらまだクリアできてないんだから、あまり侮らない方がいいわよ」
冒険者協会の記録では、Aランク冒険者パーティーが40層まで到達したのが最高記録のようだ。
もう何十年もその記録は更新されず、それ以降も我こそはと挑戦した冒険者達は誰も塗り替えられなかったらしい。
現在のAランク冒険者パーティーはどこも挑戦する気もなく、攻略は事実上不可能だと暗黙の了解になっている。
つまり40層まで到達すれば、俺達はAランク冒険者と同等かそれ以上の実力があると思って良さそうだ。
……まあ、ガチャアイテムでズルし放題だから難易度がまるで違うと思うけどさ。
「それでここから先はどんな感じなのでありますかね?」
「冒険者協会で一応情報を仕入れたけど、11層目からはコボルト系が出るらしい」
「コボルト系ですか。戦うのは大討伐以来ですね。あの時は思う存分討伐できて最高のイベントでした」
「ふむ、私が召喚される前の話か。いない頃の話は気になる」
「うふふ、それならいくらでもお話しいたしますよ! まあ、私が召喚されてルーナさんも召喚されるまで、そこまで間は空いていませんけどね」
コボルトと言えば俺達の中じゃ大討伐で戦ったのが印象深い。
あのおびただしいコボルトの集団を見た時は、本当に倒せるのかと不安になったもんだ。
もしあの時にシスハがいなかったら、大討伐の対処をするか悩んだろうな。
そんなことを思い返しつつさっそく11層目を進んでいく。
事前の情報通り犬顔をした魔物のコボルトが徘徊しており、剣と盾を持って武装している。
こっちに気が付くと叫んで仲間を呼びながら襲いかかってきた。
だが、全く相手にならずあっという間に俺達が蹴散らし、生き残りは奥へ逃げ帰るが無慈悲にフリージアが射抜いている。
「コボルトってあんまり強くないんだね。さっきのスライムの方が強そうなんだよ~」
「あれはボスでありますからねぇ。でもあのスライムからただのコボルトだと拍子抜けするのでありますよ」
「5層刻みで中ボス、ボスの繰り返しみたいだぞ。ボス系は倒すと10日は湧かないらしい」
「へぇ、それなら冒険者同士で連携してボスを倒せば、その先の層で低ランクの冒険者も狩りができそうじゃないか。定期的に大人数で集まって狩りに来ていそうだね」
「あー、そういえば情報を聞いた時に、次の集団狩りの予定は半月後ですとか言われたな。ここはドロップアイテムも良いみたいだし、浅い層は冒険者から人気だそうだ」
「それでも外の魔物に比べたら少々手強そうですけどね。」
ボス系以外は比較的弱いとはいえ、迷宮だけあって普通の冒険者が相手をするならそれなりに手こずりそうだ。
11層はコボルトウォーリアーで、恐らく戦士系のコボルトって感じだろう。
――――――
●コボルトウォーリアー 種族:コボルト
レベル:45
HP:2万3000
MP:0
攻撃力:600
防御力:500
敏捷:50
魔法耐性:0
固有能力 無し
スキル 鋭利な斬撃 シールドバッシュ
――――――
今はそんなに強く思えないけど、ミノタウロス級だと思うと侮れない魔物だと思う。
それから下の層へ降りていき、コボルトファイターやアーチャーやら色んな種類と戦ったが特に苦戦することなく15層へ到達。
入った途端に広間があり、そこには無数のコボルト達が綺麗に整列していた。
そして中央には数体のコボルトが椅子のある神輿を担ぎ、その上に筋肉ムキムキマッチョのコボルトが座っている。
裸のまま赤いマントを付け、頭には金の冠を被ったそれは……コボルトロードだ。
「見覚えのあるコボルトがいるでありますね……」
「あら、大討伐の時のボスじゃない。椅子に乗って相変わらず派手だわ」
「中ボス扱いとは流石迷宮ですね。周りに今までのコボルト達も沢山いますよ」
「あははは! あのコボルト面白いんだよ! ポーズ決めてる!」
「マントも羽織って王冠まで被ってる……ちょっとカッコいいかも」
「変な魔物だ」
コボルトロードは俺達に気が付くと見せつけるようにサイドチェストをして、それを周りのコボルト達が武器で地面を叩いて盛り上げている。
フリージアは笑い、マルティナは目を輝かせ、ルーナはジト目で呆れていた。
相変わらずふざけた姿をしているコボルトだな……。
――――――
●コボルトロード 種族:コボルト
レベル:60
HP:15万
MP:0
攻撃力:2500
防御力:1500
敏捷:250
魔法耐性:50
固有能力 覇道
スキル 王の裁き 眷属召喚
――――――
大討伐のボスになるぐらいだから結構強いけど、こいつですら中ボス扱いなのか……。
周りにいるコボルトも大討伐の時と違って、11層から14層にいたコボルトで前より強い集団になっていそうだ。
外より狭い迷宮内で数は少ないが、それでも50体以上はいるから十分な数が揃っている。
どう殲滅しようか考えようとしたけど、その前にコボルトロードが動きを見せた。
近くにいた配下から黄金の槍を受け取ると、片手で顔の横に構えてぶん投げてくる。
「まずい! スキルの投擲が来るぞ!」
「任せろ」
投擲され光を纏いながら飛んでくる槍を、ルーナが前に飛び出して空中でキャッチした。
その勢いのままクルっと宙で回転し、返すと言わんばかりにコボルトロード目掛けて投擲。
投げ終わり片手を前に出した体勢だったロードは口をあんぐりと開けて驚いた顔をし、顔面に自分の槍が突き刺さって椅子から転げ落ちた。
ルーナは着地すると手をぱんぱんと叩いてフンっと鼻を鳴らした。
「腑抜けた投擲だ。槍はこう投げる物だ」
「流石ルーナさんです! ルーナさん相手に槍の投擲など甘過ぎますよ!」
「まさかあれを投げ返すとは……。俺、前に食らった時は空中に跳ね飛ばされたんだぞ……」
「あの時にルーナがいたら一瞬で片付いていそうでありますね」
「そうね。混乱してるみたいだし今の内に追撃しちゃいましょう。えいっ」
コボルトロードが地面に落ちて慌てふためくコボルトの集団に向かい、エステルがすかさず光線を放った。
成す術なく光に飲み込まれたコボルト達はその一撃で全滅し、攻撃が収まると跡形もなく消え去っている。
大討伐時もエステルが魔法で蹴散らしたけど、あの頃と比較にならないほど強くなったから相手にもなってないぞ……。
ロードですら耐え切れずに瞬殺とか滅びの光怖すぎるんですが。
「わー! 見て見て! 王冠と金の槍が落ちてるんだよ!」
「マントもある! こんな良い物が落ちるって迷宮はやっぱり凄い! こ、これ僕が貰っていいかな?」
「お、おう……。前はあんなに苦戦したのに、緊張感の欠片も残ってないな」
「楽に倒せていいんじゃない。それだけ私達が強くなっている証拠よ」
「この調子じゃかなり下まで潜らないと、レベル上げになりそうな魔物が出てこなそうですね。目的を達成する前に攻略しちゃうんじゃないですか?」
「全く、面倒だ。無駄手間は嫌だ」
俺達の目的は迷宮攻略じゃなくて、あくまでレベル100を目指したレベル上げだからな。
15層でこのレベルだと一体どこまで潜らないといけないのか……。
とりあえず次のボスがいる20層を目指してこのまま突き進もう。




