娯楽施設
レビィーリアさんの依頼という大仕事を終え、またいつもの日常に戻った。
報告の結果を待つ間に狩りや魔導具を納品していたが、休憩も兼ねて少し余裕あるスケジュールにしてある。
なので俺も図書館でエステルと本を読んで過ごしていたのだが……。
「この図書館も随分と様になってきたな」
「そうね」
「そうでありますなぁ」
「そうですね」
「うむ」
「そうなんだ~」
あれ? なんかエステル以外の声も聞こえるんですが。
周りを見渡せばマルティナを除いた全員が席に着き本を読んでいた。
マルティナだけは相変わらず図書館を整理していて、あっちこっち動き回っている。
「いつの間に全員集まってたんだ」
「今日の献立を考えるのに料理本のレシピを見に来たのであります」
「毎日来てるよ! 漫画いくら読んでも読み切れないんだよ!」
「小説を読みに来た」
「ルーナさんの付き添いついでに解剖図を読んでるだけですよ」
前々から図書館に来る頻度が皆増えていたが、まさかここまでとはな。
というか、付き添いのついでに解剖図読んでる人は何なんですかねぇ。
「何となくだけど、お前ら最近個人的に外出すること減ったよな」
「そうでありますか? ……そうでありますね」
「うーん、お酒を買いに行く時ぐらいでしょうか。それ以外は自宅で事足りますので」
「訓練所でお出かけしてるよ! 色々なところに行けて楽しいんだよ!」
「それは外出してるって言えるのかしら……」
あのフリージアですら外に行く機会が減って、訓練場で地形変更して探索を楽しんでいる。
ある意味全員ルーナ化しているような気もするのだが……自宅内で楽しく過ごしているならいいのだろうか。
そんな感想を抱いていると、本を整理していたマルティナが俺達に気が付いたのか会話に加わってきた。
「皆来ていたんだね! ここを利用してくれる人が増えて嬉しいよ!」
「おー、お疲れ。休みの日でも図書館を管理してるんだな」
「クックック、本を整理するのは僕の趣味だからね! 日々コレクションが増えていくのは楽しみなのさ! いつかここの本棚を全部埋め尽くしたいね!」
「お、おう。この規模の本棚を埋めるって恐ろしいぞ」
「もう王立図書館よりも多いんじゃないかしら? お兄さんの世界の本だけでも数えきれない程あるものね」
端から端まで移動するのに数分は軽くかかりそうな図書館だが、既に半分以上の本棚が埋まっている。
この短期間に一体どれだけの本を揃えたんだ……。
管理するだけでもかなり労力が必要だろうけど、マルティナは幸せそうな表情をしているからそれが楽しいんだろうな。
それにしても自宅内でこれだけ楽しんでくれているなら、もう少しハウス・エクステンションを活用するのもありか。
「図書館や訓練場だけでこんなに充実しているなら、もっと施設増やしてみるか?」
「えっ! また何か増やすの! 楽しみ!」
「あら、それは嬉しいわね。この前沢山ガチャを引いたからポイントも足りそうだもの」
「ですが次は何を増やすか悩みますね。訓練場のような実用的な物か、図書館のような娯楽も兼ねた施設にするのか」
「お風呂のような日常で使う施設もいいでありますなぁ。人が増えたら大規模なキッチンもいいでありますね」
そんな訳で次にハウス・エクステンションで追加する施設は何が良いか皆で話し合いを始めた。
あれこれ様々な意見を聞いて、どの施設にしようか検討した結果は……。
「ゲームセンターと実験室にしておくか」
「わーい! ゲームセンター! ……ゲームセンターって何?」
「簡単に言えば完全な娯楽施設だな。景品を取ったりや画面上で操作する遊びが出来ちまうんだ」
「ほほう、まだイメージがしづらいですけど面白そうですね。それはハウス・エクステンションじゃなきゃ遊べなそうな施設じゃないですか」
「実験室は嬉しいわね。これから気兼ねなく色々作れそうだわ」
ノール達から物珍しそうで楽しめそうな娯楽施設としてゲームセンター、エステルの魔導具開発の場所として実験室を増築することにした。
今回もポイントは各3000の6000必要だったので、SSRの破魔矢と破城槌、後は適当なSRを変換。
UR専用装備ガチャで大量に回したから変換アイテムには困らないな。
さっそく増築したゲームセンターに入ってみると、見慣れたクレーンゲーム機などの筐体が沢山置かれて音楽が鳴り響く空間だった。
そこそこの広さでこれが貸し切り状態と思うと凄まじいな。
「おー、マジでゲームセンターだな。最初から色々揃ってるのか」
「知識はあっても実際に見ると新鮮なものね」
「おお! 可愛いぬいぐるみが箱に入ってるのでありますよ!」
「よくわからないけど面白そう! あそぼあそぼ! マルティナちゃん行こ!」
「う、うん!」
「騒がしい場所だ」
ノール達は見慣れない場所だからかはしゃいだ様子でゲーム機へ向かって行った。
パッと見るとクレーンゲーム機の台数が多い気がするけど、シューティングや格闘ゲームの筐体もあるようだ。
エステルと一緒に筐体を見て回ると、彼女はクレーンゲーム機に興味を示している。
「これを操作して中の景品を取ればいいのかしら? 結構簡単そうじゃない」
「そう思うだろう? これが結構難しいんだよなぁ」
「あら、そう言われると気になるわね。さっそくやってみて……これどうやってやるの?」
ゲーセンのゲーム機で遊ぶとなれば、普通は硬貨を入れて1プレイといったところだが……。
見たところ硬貨を入れる投入口がなく、プレイと書かれたボタンがあるだけだ。
ノール達も気が付いたのか駆け寄ってきて同じことを言い出した。
「平八! 遊びたいけどやり方わからないんだよ!」
「ポイントを入れてくださいって言われるのでありますよ!」
「うーん、普通なら金を入れるだけでいいんだが……また魔物の素材をポイントに変換するんじゃないか?」
「図書館や訓練場のようにどこかに操作するパネルがあるんじゃないでしょうか」
筐体には1プレイ100ポイントと書かれているから、魔物の素材を変換する線が濃厚だろう。
入口付近にあったカウンターを調べると、図書館と同じモニターがあった。
操作するとこれで新しい筐体やポイントが追加できるみたいだが……そこで問題が発生。
ポイントを追加するには魔物の素材ではなく魔石が必要なのだ。
「うげっ!? 魔石1個で1000ポイントチャージだと!?」
「図書館と違ってここは魔石が必要なのね。それだと気楽に遊べなさそうだわ」
「1回100ポイントなので10回分ですか。1回でどれだけ遊べるのか次第ですね」
魔石1個で100ポイントじゃないのは救いだけど、それでもゲームをプレイするだけで魔石が必要なのか……。
10プレイできるとしても好き放題遊んだらかなりの数消費しちまいそうだぞ。
しかしもう増築しちまったからには仕方がないし、多少の魔石を使うのは受け入れよう。
そう覚悟の準備をしていると、マルティナが声をかけてきた。
「あのー、ちょっといいかな?」
「どうかしたのか」
「説明文や景品を見ていたんだけど、結構豪華みたいだよ。ほら、あそこの台なんてプレミアムチケットが景品だってさ」
「えっ!? プレチケが景品だと!?」
マルティナが指差したクレーンゲーム機を見ると、商品に【1等:プレミアムチケット】と書かれていた。
な、ななななんだと!? 景品に何でこんなものが!
「本当ですね。よくよく見れば他にもガチャ産の装備が景品になっているようですよ」
「コストダウンや守護の指輪とかもあるわね。ガチャ産装備が景品になっているから魔石でポイント購入なのかしら」
「あのぬいぐるみもただのぬいぐるみじゃないのでありますよ! ここだけのレア物かもしれないのであります!」
他の筐体の景品も確認してみると、コストダウンやスキルアップなどもラインナップされていた。
それだけじゃなくて、守護の指輪などのガチャから出る装備も景品に並んでいる。
おいおい、こりゃあとんでもないゲームセンターなんじゃあないか?
ポイントの追加の仕方もわかり、さっそく魔石を5個使い5000ポイント交換。
ノール達が喜々としてプレイし始めたので、俺とエステルは他の筐体も見ることにした。
「あっちの対戦ゲームとかも何か景品があるのか?」
「カウンターに説明があるわね。遊ぶとポイントが貯まって景品と交換できるみたいよ」
「ほー、ただ遊べるだけじゃなくて何か貰えるとか上手くできてるもんだな」
格闘ゲームやらいわゆるテレビゲーム系はやること自体に価値があるものだが、加えてポイントまで貰えるとは太っ腹じゃないか。
これなら魔石を使うのにも抵抗がなくなるけど、ハマり過ぎてしまいそうなのがちょっと怖いぞ。
少ししてノール達の所に戻ると、クレーンゲーム機でぬいぐるみを取るのに苦戦していた。
抱き着けるぐらいビックサイズのぬいぐるみだ。
「むむむ! 取れないのでありますよぉ! 難しいのであります!」
「でも近づいてきてるよ! あとちょっとなんだよ!」
「クレーンの爪が開いて下りる位置を考えた方がいいんじゃないかな? 下手に動かすと取れなくなりそうだよ」
「片方の爪で引っかけろ。それか押し込め」
「初期位置に戻せたりしないんですかね。粘るよりその方が取りやすい気も……。それにしてもこのクレーンの爪見かけよりも掴む力弱くないですか?」
ノールがクレーンを操作しつつ、フリージアが横から確認してちょうど真上の位置に来たら合図して協力している。
ぬいぐるみを掴んで少し持ち上がったが、爪が抜けてスルリと落ちると全員で声を上げて残念そうだ。
新鮮なのもあるんだけろうけど、なんか微笑ましい光景だな。
「ふふ、ノール達楽しそうにしているじゃない」
「うーん、景品のことばかり考えていたけど、ああやって楽しんでくれているならいいか」
「そうね。私達も一緒にどうやって取るか考えましょうよ」
魔石を使うことに躊躇したが、ノール達が楽しんでいる光景を見ていると増築して良かったと思えるな。
なお、その後ぬいぐるみを取るのに5000ポイント全て消費することになり、その時の達成感は何とも言えなかった。




