要塞調査の報告
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要塞の調査を終えて数日後。
俺とエステルは図書館にてレビィーリアさんと会っていた。
「いやぁ、もう調査が終わったって聞いて驚いちゃったよ。君達と協力関係を結ぼうとした私の目に狂いはなかったね」
「あはは……そのお眼鏡にかなう調査結果だといいんですが」
「早かったからって心配しないでね。きっと報告を聞いたらお姉さんも驚いちゃうんだから」
「ほほう、それは気になりますなぁ。このレビィーリアさんはちょっとやそっとじゃ驚いたりしないよ。私を驚かせることが出来たら大したものさ」
レビィーリアさんはニヤリと笑って自信満々といったご様子。
おー、騎士団の隊長ともなればよほどのことがないと動じなそうだ。
これなら要塞の半分が消滅したって伝えても平気かな。
「結論から言うとあの要塞には魔人の残した罠がありました」
「えっ、罠? もう何度も調査してる場所だけどそんなのまだあったんだ……。魔人の罠となれば相当悪質だったと思うけど大丈夫だった?」
「ええ、私達は全員無事だったわ。けどちょっとだけ問題が起きちゃったのよねぇ」
「それならよかった。調査をお願いして怪我でもされたら申し訳なかったよ。それで問題っていうのは?」
「要塞が半分ぐらい消し飛んじゃったわ」
エステルがそう言った瞬間、レビィーリアさんは固まって何を言ってるのかわからなそうにしている。
そしてハッとなり気を取り戻したのか聞き直してきた。
「も、もう1回言ってもらっていいかな?」
「要塞が半分ぐらい消し飛んじゃったの」
「えっ、いや、あの要塞相当大きいはずなんだけど……何が起きたらそうなるの?」
「それぐらい大きな爆発が起きたってこと。流石にあれは私達でも危なかったわ」
再度要塞が消し飛んだ話を聞いたレビィーリアさんだったが、2度目でもやはり理解できていないのか呆然としている。
確かに驚いてはないけど、何言ってんだこいつらって感じがしているぞ。
「大丈夫ですか?」
「あっ、うん。なんかスケールが大き過ぎて想像できないというか、実感できないというか……吹き飛んだって言っても原型はある程度残ってるんだよね?」
「爆発した場所は跡形もなくなって更地になっていたわよ」
「いやいやいや! 一体どんな罠でどんな威力の爆発が起きたらそうなるの! あぁ……こりゃ私達も1度現地に調査へ行かないとダメだね……」
レビィーリアさんは現地の様子を想像したのか、額に手を当てて頭が痛そうにしている。
騎士団の隊長でも俺達の報告は衝撃的だったようだ。
まあ、町とも思える規模の要塞の半分が消し飛んだなんて信じられないもんな。
想定外の事態だし俺達の話を抜きにして上に報告できるのだろうか……。
なんて俺が不安に思っていると、レビィーリアさんはそれを見抜いたように口を開いた。
「君達が関与したことは契約通りちゃんと秘匿するから心配しないでいいよ。普段から私の部下が各地を見回りしているし、上手く話を合わせてもらえば何とでもなるからね」
「ちゃんとその辺りは考えていたのね。予想外の規模で問題が起きちゃったから不安だったのよ」
「私としても調査でそんな大ごとが起きると思ってなかったけどね。要塞が半分吹き飛ぶ爆発に巻き込まれてよく無事だったよ」
「事前に察知して何とか回避できたんですよ。気付くのが遅れていたら危なかったです」
実際はほぼ爆心地にいたのだが、そんなこと言えばどうやって防いだのか聞かれる。
なので範囲外に逃れたことにしようと事前に話し合って決めておいた。
女神の聖域で無事だった範囲も、帰る前にエステルに爆破してもらいちゃんと偽装済みだ。
「魔人って前からああいう罠を仕掛けていたのかしら?」
「いや、流石にその規模の罠は前代未聞だよ。そこまでの罠を起動するって一体何をしたのかな? 前にも言ったけどあの要塞はもう調べ尽くしたと言っていいぐらいには調査済みだったんだ。地下も含めて全部確認したし、魔人の痕跡もなかったはずだけど……罠について詳しく聞いてもいいかな?」
そんな訳でレビィーリアさんに要塞で見つけたことの詳細を話した。
壁に埋め込まれた神魔硬貨、意図的に破壊された痕跡、そして隠されていた黒い箱。
エステルが無力化した実物の箱も見せながら、これが大爆発を引き起こしたことも伝えた。
全てを聞き終えたレビィーリアさんは顎に片手を添えて考え込んでいる。
「神魔硬貨にこの謎の箱か……まさか要塞にそんな物が仕掛けられていたなんて。よく見つけられたね」
「冒険者をしているから勘はいいのよ。調査の証拠としてこの箱は渡した方がいいのかしら? もう機能しないように処理しておいたわ」
「そうしてもらえると助かるよ。魔人に関しての手がかりはなかなか見つからないからね」
「神魔硬貨は貰ってもいいですか? 実は集めているんです」
「あー、それは構わないよ。神魔硬貨なら結構な数が国の倉庫で保管されているしさ」
「えっ!? 神魔硬貨が保管されているんですか!」
おいおいマジかよ! まさか国の倉庫にも神魔硬貨があるのか!
しかも国が管理していて結構な数って言ったら、相当な量があるに違いない!
俺の興奮した様子に若干気圧されたのか、引き気味にレビィーリアさんは話を続けた。
「う、うん。戦後に魔人の拠点から接収したそうだよ。でも金貨とかじゃないから特に使い道もなくて、そのまま倉庫に仕舞われているんだ。詳しくは知らないけど1000枚以上はあるんじゃないかな?」
「せせせ、1000枚!? 1000枚って神魔硬貨が1000枚ってことぉ!?」
「お兄さん落ち着いて。ならその倉庫の物を報酬として貰えないかしら? 事実確認が終わってから成果に応じた枚数を決めてもらっていいわ」
「それは構わないけど本当にいいのかな? 骨董品としてマニアに需要があるからお金に換えることもできるけどさ」
「私達からしたらこれ以上にないほうしゅ――むぐっ!?」
歓喜の声を上げようとしたがエステルに手で口を塞がれる。
そして目でちょっと黙ってと言っている気がしたので、俺は大人しく黙り込んで後の話はエステルに任せた。
「ええ、神魔硬貨は色々と興味深いしちょっとしたコレクションをしているからね。今回の件とも多少関わりがありそうだけど良いのかしら?」
「うーん、一応調べてもらうつもりだけど、今更神魔硬貨について新しい発見はないと思うよ。もう数百年前から王国内でも収集家の間で流通していたし、ただの硬貨でしかないからさ。特別な力が秘められているなら既に見つかっているはずだよ」
「……そうね。とにかく報酬は神魔硬貨でお願いするわ」
「りょーかい! とりあえずこれから要塞の現地調査の準備をするから、次会う時に結果を伝えて報酬も渡すよ。倉庫から物を持ち出すのにも申請が必要だからね。現場を見ないと何とも言えないけど、最低でも10枚以上渡すのは保証するよ」
「あら、1枚1000万Gぐらいの価値があるのにそんな貰っていいのかしら」
「ただでさえ遠くまで行く調査依頼だったからね。それに加えて起きた事態も尋常じゃないし、これぐらいは渡さないと。おかげで騎士団に被害も出ず重要な証拠も確保できたからさ」
そんな感じで話もまとまり、黒い箱をレビィーリアさんに引き渡して図書館を後にした。
これで最初の調査依頼は完了し、後は騎士団による現場の確認後に報酬を貰える約束だ。
図書館からある程度離れてから、俺はあまりの成果に喜びの声を上げた。
「うほほ! まさか調査の報酬として神魔硬貨が貰えるとはな! しかも1000枚以上あるとか言ってたぞ!」
「想定外の収穫だわ。でも交渉で露骨に喜ぶのはよくないわよ。足元見られちゃうからね」
「すまんすまん。だからあの時止めてくれたのか。嬉しくってつい抑えきれなくなっちまった」
「1000枚以上あるって聞いたら興奮するのも仕方がないわ。これからも依頼を受けて少しずつ貰うとしましょう」
そうだよな、目の前であからさまに喜んだら渡す枚数を渋られるかもしれない。
レビィーリアさんがそんな駆け引きをしてくるかわからないけど、あまり態度に出すもんじゃなかったか。
でも神魔硬貨が貰えるとなれば体が勝手に動いちゃうんだ。
予想外の報酬にウキウキとしながらも、今回の調査は成功だったと俺達は帰宅するのだった。




